十一話「神性魔道具」
プリ―タスは、鏡のような絵と、縄のような絵を指さして、その正体を言う。
「これは神々が作り出した魔道具。込められた魔力には、神々、またはそれに近い者だけが持っている魔力が用いられているの。だから、普通の人間が作る魔道具とは段違いの性能をしてる。例えばこの鏡は、完全に物体を模倣する物。そして、この縄が、今回の目的の、異常を無力化する魔道具。これを作るよ」
そう言って、プリ―タスは、その魔道具が載った本の全てのページを見続ける。そうしてしばらくすると、その本をプリ―タスは消し去った。
「えっ、いいんですか?」
「大丈夫。もう全部覚えたから。忘れることは決してない」
そう言ってプリ―タスは頭をトントンと指で押さえた。そのあと、へにゃりと笑って、こんなことも付け足す。
「ま、これは、ノティーツィアの"模倣"だけどね」
それからプリ―タスはいくらか本を読み切ってはその本を燃やし、読んでは燃やしを繰り返した。どうしてそんなことをするのかとライラが聞くと、後の時代には伝えてはいけない危険な知識らしい。この知識は地上にあってはならないとのことだった。
「一応私の記憶に残しておくけどね……ほんとはいらないんだけど、今回みたいなことになったら助けられないからね……やっぱり助けられるなら助けてあげたいから」
そう言いながらプリ―タスはサラとライラを手招きして、先にその場所から出させた。その後、念のためにその部屋も燃やす。この地下室には防御結界が張っているので、周りの家に火が広がることはない。
「さよならね……」
そんな風にプリ―タスは呟き、その場所を後にする。この場所にいたあの弱気で力の弱かった悪魔はもういなくなってしまった。エメラルドの氏を持った彼女との出会いは、初めて仲間になった悪魔、サングウィスとアエ―クォロの二人と旅をしていた時だった。
この町ができる前は、もっと大きな都市があった。そこに人間に溶け込むように住んでいた彼女は、プリ―タス、サングウィス、アエ―クォロの三人に人間社会を教えてくれた。その時に氏も初めて知ったのだ。
「クラティーオ……」
思い出の場所は炎によって灰となっていく。だが、思い出の場所が少なくなればなるほど、思い出の記憶はキラキラと輝いていくものだ。その記憶を胸に、プリ―タスは新たな世代へと力を貸すのだ。
「さて……もうちょっと頑張りましょう……」
「プリ―タスさ~ん!早く行きましょう!」
「は~い!今行くわ!」
そう言って、プリ―タスは地下から出ていった。
* * *
それから家に帰った三人。サラとライラを置いて、プリ―タスはとある場所から縄と、いくつかの宝石のようなものを持ってきた。それは魔液晶だ。
「私の魔液晶。もう2000年前の物かしらね?どう?あなたたちは初めて見たかしら?」
「「はい」」
そう言って二人はまじまじとその魔液晶を見る。サラは魔法関係の物に、ライラは古代の物に興味があり、その二つを備え合わせた魔液晶は、二人の好奇心を刺激した。
「触ってみてもいいですか?」
「出来れば一つ貰いたいです……いいですか?」
「わかったわかった。あとで上げるわ」
そう言ってプリ―タスは苦笑して、縄と魔液晶をテーブルの上に置く。それから、一枚の紙に青い絵の具で魔方陣を描く。その青い絵の具はラピスラズリで魔力が込められやすくなっている。
「その魔液晶にサラちゃんの光属性と闇属性の魔力を流し込んでほしいの」
「闇属性……あっ、私、混血だから……だけどまだ使ったことが……」
「大丈夫よ。あなたはシャロンちゃんの娘。人間の中でも最高峰の魔力操作、魔力量、魔力の質の持ち主。大丈夫!できるわ!」
「わ、わかりました。やってみます」
そう言って、サラは魔液晶に光属性と闇属性の魔力を流し込んだ。反発しあう二つの魔力を同時に混ぜるのはだいぶ難しく、集中力もいる。
「っ……!くっ……!」
そうして何とかして二つの属性を持った魔力を一つの魔液晶に込めることができた。無駄にした魔力も多かったので、どっと疲れがサラに押し寄せてくる。
「ちょ、ちょっと休んでいいですか……」
「ええ、ありがとう。次はライラちゃんに手伝ってもらおうかしら。えっと……どんなものでもいいから、魔力を通常より多く含んだ植物を探してきてくれない?」
「ええ、お安い御用です!」
そう言ってライラはプリ―タスの家を出ていく。
「ふぅ……次の工程はサラちゃんの回復と、ライラちゃんの帰宅を待つ必要があるから、少し待ってましょうか」
プリ―タスはそう言って、棚からお茶菓子を取り出し始めた。そうして三人分のお皿と、二人分のコップと、親指くらいの小さなコップを用意した。
「帰ってきたらお茶を淹れてあげましょう」
そうして二人はライラの帰りを待つ。そんな時とあることを疑問に思った。
(そう言えば、今は長期休みじゃないのに、なんでシャーロットさんはいたんだろう……)
そう思っていると、プリ―タスはまるでサラの心を読んだように独り言をしゃべった。
「なるほど……ラヒューエル学園は今閉鎖されてるのね……」
「えっ?!」
「あら?口に出てたかしら?」
「は、はい……それよりもどうして……」
「十中八九、ソノスとサームノムが学園を襲ったからでしょうね……はぁ、今度会ったらお説教確定ね」
「あ、あはは……」
サラはソノスの強さを思い出しながら、そんなソノスに説教するプリ―タスはもっと強いことを予想して、少し身震いをする。
「そ、そういえば、シャーロットさんを知ってるんですか?」
「……ええ、と言っても、直接繋がりがあったのはお姉さんの方だけどね」
「お姉さんって言うのは……」
サラがそう言うと、プリ―タスはにこりと笑って、「その話はまた今度してあげる」と言って、話を逸らす。その時のプリ―タスは、なんだかとっても弱々しく見えたのだ。
「あの……」
「なに?」
「私、あなたよりもずっとずっと年下ですけど……何も知らない若者ですけど……悩みを聞くくらいならできますので……いつでも言ってください」
「……そう、ありがとう。それなら、ちょっとだけ聞いてほしいの」
「はい、いいですよ」
「それじゃあ……"サングウィス・ルビー"、"アエ―クォロ・サファイア"、"クラティーオ・エメラルド"。この名前を覚えておいて」
「宝石の氏……ということは……」
「そう。戦友で、私の一番の親友たち。神々に抗うと決めた時にすでに私と一緒に戦ってくれていた悪魔たちの真名。もう、その真名は契約するときにも使えない、悪魔としては何の意味も持たなくなってしまったけれど……」
そうして一拍置き、プリ―タスは続ける。
「この三人の名前だけは誰かに覚えてほしかったの。三人が居なければ、私はずっとこの世界でさまよい続けるだけの亡霊だった。三人が、私にこの色鮮やかな世界を見せてくれたの」
感謝しかない。と言って、プリ―タスはギュッと自分の右手を握った。三人にいつもプリ―タスは手を引かれてきた。この世界に"生まれ堕ちた時"から、彼らに助けられてきた。そんな彼らにはずっと幸せになってほしいと願っていたプリ―タスだが、それもついぞ叶わなかった。
「サングウィス……特に彼には生きてほしかった」
「どうしてですか?」
「それは……」
「私に同情してるの?」
プリ―タスが何かを言いかけようとすると、サラやプリ―タス以外の声が聞こえてきた。そちらの方へと向くと、エタ―ルミナスがアネモネを抱えて立っていた。その横にはアイオライトのような目の悪魔が立っている。
「エタ―ル……それにサームノムも……」
「プリ―タス、私の質問に答えて。私に同情してるの?」
「それは……」
「そんな同情要らないわ。私たちはあなたについて行った時から自分の幸せがいつか壊れることを覚悟してついて行ったの。だから、別に同情してほしくなんて……」
エタ―ルミナスがそんなことを言っていると、アイオライトのような瞳をした悪魔が口をはさむ。
「貴様、そんなことを言いながら昨日何をしていた?」
「……別に何もしてないわ」
エタ―ルミナスがそう言うと、サームノムは、吐き捨てるようにこんなことを言う。
「ただのルビーは、ずっとただの宝石のままだ」
「っ……!」
「エタ―ル……サームノム、そんなことを言わないで上げて」
プリ―タスの一言で、一気にその場に静寂が訪れる。当時のことを何も知らない若者であるサラには、その状況をどうにかすることはできない。ただ、見守ることしかできないのだ。
サングウィス・ルビー
アエ―クォロ・サファイア
クラティーオ・エメラルド
この三人はプリ―タスとともに神々に抗った悪魔です。
陸で戦えば
プリ―タス→サングウィス→アエ―クォロ→クラティーオ
海で戦えば
プリ―タス→アエ―クォロ→サングウィス→クラティーオ
サポート的に見れば
プリ―タス→クラティーオ→アエ―クォロ→サングウィス
の順番です。プリ―タスのアノマリアはかなり強めですが、天地大戦の終戦契約の時にプリ―タスがアノマリアを使う時には制限がいくらかかけられました。その契約は創生神と交わしたので、かなり強力な契約です。




