九話「救う方法」
サラは何か、すすり泣くような音で目が覚めた。ボーっとする頭を少しずつ動かしながら、この声はライラが泣いているのだと気が付く。そして、プリ―タスの絵本を読み聞かせるような口調から、何かの話でライラが泣いているのだと予想した。それでも、予測なので、真実が何か気になり、部屋から顔を出した。
「あ、サラちゃん、起きたのね。ちょうどよかった、あなたにお話しておきたいことがあって……」
「それよりライラさんは……」
「ライラちゃんは…私の昔話を聞いてたらこんなになっちゃった。ちょっと落ち着かせてる途中なの」
「そ、そうなんですか……」
「そうそう。ま、そんなことよりここ座って」
そんなことを言って、プリ―タスはサラが座れるように椅子を引いた。その椅子へとサラが座ると、プリ―タスはサラと対面になるように座る。
「さて、これから話すことは、アネモネのこと」
「は、はい……」
「アネモネは今、意識が封印されている状態にあるの。あなたも試したと思うけれど、自分の能力でも解除できないほどに……」
「はい……」
「そこで、どうしようか考えたのだけれど……一度、異常を無力化するしかないの……そこであなたの力を……というか、光属性魔法が必要なの」
「わかりました!手伝います!」
「ええ、ありがとう。それとサラちゃん、"銀の騎士"につかまった時の縄。覚えてる?」
「ああ、あの異常が使えなくなった物ですよね」
「ええ。元々、異常を抑える術はあったの。だけど、それは人間の知識ではない。神々が天地大戦の時に完成させたもの。それをノティーツィアが盗んで、私たちはそれに対抗策を作り出した」
「その知識が最近になって人間に伝わった……」
「そうなのだけれど……」
「?」
そう言ってプリ―タスは言いづらそうに口を開いては閉じてを繰り返す。何やら不穏な雰囲気だ。
「神々はそれ以降、人間界とのつながりを断ってるの。そんな契約を交わした。そして、私たち、宝石の悪魔たちもその知識を誰かに見せびらかしたりしていない……悪魔たちはその知識を話そうとすると口が勝手にふさがれるようになっている……はずなのに……」
「こうして、話している……」
「そう。これが表しているのは、この"契約"は破られたのでしょうね……」
「いったい誰が……」
「分からない……それでも、悪魔はこの知識を絶対にしゃべることはできない。だから、神々に問題がある」
「それって……」
「神々が、または一体の神が、何か良くないことをしそうな気がするの」
そう言って、プリ―タスは「ふぅ」と息を吐く。その後に、プリ―タスは続ける。
「ひとまず、あの縄と、光属性魔法があの子を救うために必要不可欠なもの」
「わかりました」
「そこでなんだけど……私と町をお散歩しましょう」
「え?」
* * *
そうして言われるがままにプリ―タスに外に連れてこられたサラ。ちなみにライラも幻覚の魔法で姿を隠して一緒に来ている。追いかけられた時にすぐに逃げるためだ。
「プ、プリ―タスさん、私……」
「大丈夫よ。もっとフード被って。それから私の手を握って。ライラちゃんは私の肩にでも乗ってていいわよ」
プリ―タスとサラはそんな風にひそひそと話す。そうしてサラがプリ―タスの手を握ると、ずんずんとプリ―タスは町中を進んでいく。寝て疲れが取れたサラは、段々と周りの視線が気になり始める。
「あ、あの……プリ―タス、さん……」
「震えないで。背筋を伸ばして」
「……」
そう言われ、サラは言われたとおりにする。しかし、まだ周りの視線が気になる。別にばれているわけではないのに、こんなに不安になってしまう。今すぐにでも泣き出してしまいたい。
すると、プリ―タスは急に路地裏へと入っていく。少し奥へと入っていった瞬間、プリ―タスに抱きしめられた。プリ―タスはサラよりも見た目は幼く感じるが、中身は何万歳も年上で、誰よりも人の慰め方を知っているのだ。
「ごめんなさいね。サラちゃんを苦しめるつもりは全くないの。だけど、もう少し我慢してちょうだい」
「は、はい……」
そんな言葉を口からこぼすが、同時に涙もこぼれてくる。ライラもサラを慰めてくれる。今の状況はすごく苦しい。それでも、アネモネを救えるのならば、この苦しみを乗り越えなければ……
「サラさん」
「っ?!」
その瞬間、プリ―タスでも、ライラでもない声がサラの耳に届いた。しかし、聞いたことのある声だ。
「サラさん、ここで何してるんですか……?」
サラは声の主を確認してみる。そこには、学園にいた時にアネモネがよく絡んでいた人間、シャーロット・フェリーチェが立っていた。
「シャ、シャーロット、さん……」
「ちょっ、名前を呼んだら……」
「ああ、やっぱり、サラさんだったんですね」
その瞬間、サラの背筋が凍った。そこにいたのは、学園にいた時の気弱なシャーロットではなく。ドロドロに濁った瞳をした、とても人間とは思えないような瞳をしたシャーロットだった。
「サラさん、私、あなたを助けに来ましたよ」
「た、助け、に?」
「ええ、だって、その忌々しい悪魔が、サラさんをこんな状況に貶めているんでしょう?」
「え、あ……その……」
「いいから、サラさん。そこ、どいて」
そう言われるが、サラは体が全く動かない。まるで足が氷漬けになってしまったようだ。
そんな時、プリ―タスはサラに小さな声でこんなことを言ってきた。
「私の後ろに走って。ライラちゃん、この子が逃げるのを手伝ってくれるかしら?」
「わかってます。サラさん、大丈夫ですか?」
「え、は、はい……」
「いい子ね。それじゃあ、走って」
プリ―タスはそう言って、サラの背中を押した。その瞬間、氷が溶けたように動けるようになる。そうして、シャーロットの目が届かないような場所まで走っていった。
「さて、シャーロットちゃん。よね?」
「私の名前を気安く呼ばないで」
「……あなた、どうしてサラちゃんを助ける。なんて言ったのかしら?」
「それは、あなたが忌々しい悪魔だか……」
「それだけじゃないはずよ」
「……黙れ」
「真名、シャーロット・フェリーチェ。……ほんと、クロエにそっくり」
「黙れ!」
シャーロットが出すこともないような声をその口から吠えるように出した。
「"姉さんを殺した"お前は、絶対に許せない!」
その瞬間、水でできた槍がプリ―タスに飛来する。しかし、それらは全て見えない壁に阻まれた。それを見たシャーロットは、何度も何度も攻撃を仕掛ける。
「なんで!なんでなんで!」
「シャーロット・フェリーチェ。クロエから伝言があるの」
「黙れ黙れ!黙れ!!」
「『気弱だけど、感情的な妹を頼んだよ』ってね」
「そんなこと、姉さんがお前みたいな忌々しい悪魔に言うわけがない!」
「あの日、あなたは眠ってたのよね……だったら、少し教えてあげましょう。まぁ、ただの年寄りの戯言とでも思ってくれてもいいわよ」
そう言って、プリ―タスはぽつりぽつりと話し始める。プリ―タスにとって、シャーロットの姉、クロエが一体どんな人物だったのかを、話し始める。




