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鍵はあなたが持ってる  作者: ミカンかぜ
第七章【知っていく者たち編】
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六話「銀の騎士」

 森を抜けたサラは、しょんぼりとした様子で町へと戻ってきた。サラとアネモネは、離れればくっつき、くっついては離れての連続だ。この一年はそんなことが何回かあった。が、今回の別れはもう……


「っ……こんなにうじうじしてても何もない……アネモネの育ての親の元に行ってみよう……」


 そうしてサラは足を動かす。馬車を使えば顔を見られる心配も少なくなるのだが、いかんせんお金が必要になる。昼に買った食べ物はサラが収納の魔法で持っているので、いくらかは生きながらえることができる。


「歩こう……」


 そう言って闇夜へとサラは融けていくように歩いていく。目標の町まで、一直線に。


* * *


 それから一週間が経ち、サラは身体強化魔法を使いながら、目標の町へと向かっていた。目標の町まではあと町一つ分という場所まで来たところで、サラは町にある宿屋に泊まっていた。お金は盗賊に襲われていた商人を助けたことで少しの食料と一緒に恵んでもらい、今は宿屋に泊まっている。


「……」


 サラの精神はアネモネによって支えられていたものの、そのアネモネがいなくなってからは目に見えて元気がなくなっていた。殺しはまだしていないが、盗みは何回かもうすでにした。どうせ悪魔に協力したのなら死罪なのだから、同じだろうという結論にたどり着き、盗みを働いたのだ。


「はぁ……もうちょっと休も……」


 そうつぶやいてサラはベットに倒れこむ。ベットに沈み込むその身体は、かなり疲れをため込んでいたのか、すぐに眠気が襲って来た。

 そのまま眠気に抗うことなく、サラは眠りにつく。スヤスヤと寝息を立てて眠るのは約十日ぶりだ。これまでは一人で野宿をしていたので、ろくに眠ることもできず、眠れて三時間。最悪の場合三日間徹夜だ。


 そうしてサラがそろそろ夢の世界に落ちて行こうとしたとき、何やら外が騒がしくなってくる。それに段々とイライラしてきたサラは、イライラしたまま外をこっそり見てみる。すると、サラの泊っている宿の外には大量の騎士たちが集まっていた。


「……」


 それを見たサラは、苛立ちと、安堵を覚える。それは、眠ることのできなかった苛立ちと、ここでつかまれば楽になれるという安堵からだった。


「サラ・ガーネット!お前がいるのはわかっている!速やかに出てこい!」


 そんなことを言うのは銀髪の女性だ。見るからに他の騎士たちとは違うところを見ると、かなり上の人間なのだろう。そう思っていると、他の騎士たちの口から「団長」という単語が出てきていた。あの銀髪の女性こそが、この国最高の騎士、リヴィア・シェルフィ。人呼んで銀の騎士と呼ばれている女性だろう。


「……どうしよう」


 やはり、楽になりたいと思っていても、アネモネとの会話がサラをまだ諦めさせていない。しばらく考えて出したサラの結論はこうだ。


(こんなことで迷ってるなら、アネモネの方を選ぼう……)


 そんなことを決心し、まだ重たい体を起こしてサラは見つからないように宿を脱出することを試みる。が、全方位を騎士たちに囲まれていて、穏便に済ませることは難しそうだ。


「"ライトニング・ランス=狂雨"」


 サラがそう詠唱すると、サラを中心にして辺りに雷の槍が降る。騎士たちは鎧を付けているので、金属である鎧に勝手に雷が落ちるようになっているので、騎士相手には雷属性の魔法が楽ではある。


「……でも、大体は防御結界を張ってる……まぁ、あんまり意味ないけど」


 そうして発動している魔法に更に魔力を込める。すると、ほとんどの防御結界は壊れ、サラの魔法が直撃する。


「甘いよ」


 今のうちにサラはフードを深くかぶり、幻覚の魔法を使って外に出る。勘のいい者なら幻覚の魔法を見破るが、銀の騎士の前に出ない限り大丈夫だろうと思い、サラは銀の騎士の死角になっているところから脱出した。そのまま身体強化魔法を使ってその場から離れる。早く目的の町へと行かなければ、追いつかれるのも時間の問題だ。


「あっ……」


 そんな時、サラは躓いてこけてしまう。今までろくに寝ていなかった弊害と、食事をちゃんととっていなかった弊害がここで出てしまった。もちろんサラの小さな悲鳴を手練れの騎士たちが聞き逃すはずもなく、いち早く気が付いてサラの方へと向かってくる。ここで走って逃げれば足跡などで場所を特定されてしまうだろう。


「……」


「おい、ここにいたぞ!探せ!幻覚の魔法で姿を隠してる!」

「誰か団長に知らせろ!」


(まずい……銀の騎士が……)


 サラがそう考えた時にはもう銀の騎士はサラの位置を認識していた。向こうからはサラの姿がよく見えていないのに、なぜか目がずっと合う。ゆっくりとサラは後ずさりながら、逃走のチャンスを虎視眈々と狙っている。しかし、もう周りは騎士に囲まれていて、逃げ場がない。


「"アイス・ランド"」


 サラは逃げる時間を稼ぐために、辺り一面と、近くにいる騎士たちの足を凍らせて逃げようとするが、この国最高の騎士という名は伊達じゃない。一瞬で氷の束縛を抜け出し、サラに切りかかってくる。その剣はサラの防御結界で防がれたが、素の力で、サラが魔力をそこそこ込めた防御結界にひびがを入れた。


(力強すぎ!)


 正面から戦っていては絶対に負ける。と判断したサラは、異常(アノマリア)を使って銀の騎士を拘束する。そうでもしないと、逃げられそうにない。しかし、異常(アノマリア)の元であるアネモネが意識不明で、生きているとも死んでいるとも言えない状態なので、いつもより(ロック)の効力が弱くなっている。


「ふっ!」


「っ?!」


「お前たち!早く捕まえろ!」


(人間なのに馬鹿力すぎない?!)


 銀の騎士は鎖を引きちぎり、部下たちに指示を出す。そうしてすぐにサラを捕まえようとしてきた。


「が、ガスト=ウィンド!」


 とっさにサラは魔法を放つ。その魔法で何人かの騎士は吹っ飛んだが、範囲が狭く、まだ何人も残っている。


「ガスト・ウィンド!エレクトリック・ウォール!」


 質で無理なら数で攻めるしかない。そう思ったサラは、いくつもの魔法を同時に放つ。まだそんなことをしたことはなかったが、意外と簡単にできた。


「そんなものに私は引っかからん」


「な、なんで?!」


 魔法はリヴィアに当たっているはずなのに、どういう原理か、全く魔法が効いている気配がない。


「うぐっ!」


「取り押さえた!縄!」


 そうしてサラはリヴィアにいとも簡単に取り押さえられ、縄で縛られる。その縄は特別製らしく、魔法を使おうとしても使えない。異常(アノマリア)を使おうとしても、なぜか使えなかった。

 その理由はリヴィアが教えてくれる。


「最近、異常(アノマリア)に有効な方法が見つかってな。少し高かったが、ほどくことは無理だろう?」


「……確かに」


 魔法も異常(アノマリア)も使えなければサラはただの少女だ。

 そのままサラは口を固く閉ざす。これ以上何も言うことはない。アネモネの現状も話すわけがない。


「お前たち!またいつもの場所に戻れ!こいつは私が連れて行く。お前たち二人は私と一緒についてこい」


 そう言って部下の騎士二人を連れて、銀の騎士であるリヴィアはサラを牢屋へと連行していく。被っていたフードは取られ、民衆の前にサラの顔があらわになり、大人たちの畏怖の視線にさらされた。

 すると、周りの子供達からサラに向かって石が投げられる。


「あ、悪魔と契約した悪者め!」


 そんな風に言っていた子供たちを見て、サラは少し悪戯をしてやろうという気持ちに駆られる。


「リヴィアさん」


「口を開くな」


「ちょっと子供たちに言いたいことがあるんですけど……」


「黙れ」


「ねぇ、そこの君たち?」


「黙れと言っているだろう!」


 しかし、そんな忠告も聞かずに、サラは子供たちに話しかける。


「人間よりも優しい悪魔はいるんだよ」


 そう言ってにこりと笑った。その笑みは子供達には薄気味悪いように見えたらしく、子供たちはびくりと体を震わせて、逃げていく。


「ふふっ……可笑しい」


「早く黙れ」


「は~い」


 精神的にかなりきつくなってきていたサラは、威圧的なリヴィアの態度すらどうでもよく感じているのだ。しかし、普通のメンタルならば、リヴィアの威圧的な態度に気圧されてすぐに黙っていただろう。なぜなら、付いてきているリヴィアの部下たちが小さく震えているのだから……


(アネモネの情報を吐かされて、何も吐かなかったらすぐに処刑かな?)


 そんなことを考えながらサラは進んでいく。そんな時、サラの体がふわりと浮いた。それをすぐに察知したリヴィアは、サラに巻き付いている縄をつかんで逃がすまいとしている。


「民衆の皆様はご自宅へお帰りください!まだこの辺りに悪魔が潜んでいるかもしれません!」


 その言葉を聞き、集まっていた住民たちはそそくさと自分たちの家へと帰っていく。その瞬間、北風のような冷たい風が吹いた。サラが使う風とは違い、何の想いも乗っていないただ相手を殲滅するためだけの風だ。そうして、膨大な魔力をまとっている風の矢がリヴィアの元へと飛来する。


「お前、他の者に連絡を!それとお前はそこの罪人を見張れ!その間にこの魔法を使っている者の相手は私が受け持つ!」


「承知しました!」


 そう言って一人の騎士が走り去っていこうとすると、硬い鎧を貫通し、その騎士の肩を貫いた。


「ぐあぁああああ!!!」


 それだけでは飽き足らず、風の魔法は肩に当たった瞬間、凍り付く。回復魔法を阻止するためだ。


「くっ……どこにいるんだ……幻覚の魔法?いや、違うな……対象は……空か!」


 そうしてリヴィアは上を見上げる。すると、何かが降りてきている。徐々にその姿が見えてくる。サラはその人物の姿を見て目を丸くした。そこにいたのは、自分と似た顔の女性。サラの母親であるシャロン・ガーネットがそこにいたのだった。

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