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鍵はあなたが持ってる  作者: ミカンかぜ
第七章【知っていく者たち編】
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四話「特別の中の一つ」

 夜を明かしたサラとアネモネの二人は、山から一度人里へと降りる。ひとまず目標はサラのための食料だ。それからできれば身を守るためのナイフ一つでも持っておきたい。


「サラ、お金持ってる?」


「ない……モネは?」


「一応あるけど……これじゃあ買えて二日分くらい……冒険者として身分を登録してるけど、もう剥奪されてるだろうし……裏ルートで売るにしても危ない橋を渡らないと……とりあえず買える分は買おう」


「そうだね」


 そうして二人はいくつか食料を買いためる。貯金は無くなったので護身用のナイフは諦め、二人はまた山へと向かおうとしたその時、サラは向かい側から走ってくる少年とぶつかってしまった。


「きゃっ!」


「ごめんなさい!」


 そんな風に少年は去っていく。しかし、二人がぶつかった際に少年はハンカチのようなものを落としていったようで、サラがそのハンカチを拾い上げ、少年に声をかけようとしたときにはもう、少年の姿は見えなくなっていた。


「サラ、もうそのハンカチはほっときましょう。今は……って、ちょっと!」


「ごめんモネ、ちょっと探してくる」


 ひそひそとそんな風にサラが言い、少年が走り去っていった方にサラも向かっていく。

 少年が走り去っていった方向は、サラたちが降りてきた山とは違う、もう一つの山の方だ。そうしてまっすぐ走っていると、その町をでてしまう。さすがにこんな場所には来ていないだろうと思い、サラが町の方へと戻ろうとすると、少年の姿を見つけた。


「あ、あの子……」


 なぜかサラはとっさに隠れてしまう。少年はキョロキョロとあたりを見渡し、誰もいないことを確認すると、森の中に飛び込んでいった。そして、サラはその少年について行く。走って少年に早く追いつけばいいのだが、なぜかサラは付いて行ってしまう。この先に何かがあると、サラの勘が言っていた。


* * *


 少年は森の中をスイスイと進んでいく。まるで、何回もこの森を着たことがあるかのように……

 そうしてサラは少年を尾行し続けていると、やがて開けた場所に出る。サラとアネモネが出会ったあの場所をほうふつとさせる場所だ。


「あの子と、誰かいる……」


 少年とは別に、女性がその場所に座っていた。その女性は緑色の長い髪を持ち、翡翠のように綺麗な瞳のはかなげな人間の女性だ。そう、頭にある角さえなければ……


(悪魔?あの少年と仲良さげだけど……もしかしてあの子も契約者なのかな?)


 そうサラが思っていると、そこにいた女性がこちら側を見た。目が合い、完全に気付かれたと思っていると、女性は特に何か言う様子もない。そう思いながら二人を観察していると、少年は何かを探すように自分の服を触る。それから、少年の探している物がなかったのか、焦ったように女性に何かを言い始めた。その時、女性が口を開く。決して大きな声ではないのに、その声はサラにもはっきりと聞こえた。


「そこの女の子が知ってるんじゃないかしら?」


「?!」


「え?だ、誰かいるの!?」


 少年がそう声を上げると、サラは姿を現せざる負えない。


「ひ、人!?ルミ、逃げよう!」


 そう言って少年はルミと呼ばれた悪魔の女性を連れて逃げようとする。しかし、ルミと呼ばれた悪魔の女性はそれを引き留めた。


「その子、人の子だと言っても、悪魔と仲良くしてるわ。その証拠に……ほら来た」


 その時、サラの横にアネモネが着地をする。


「ちょっとサラ、別に置いておけばいいのに……」


 アネモネがそう言うと、緑髪の悪魔の女性が少年を守るように抱き寄せ、口を開く。


「初めまして、悪魔の子、その契約者である人の子。私はエタールミナス。そしてこっちはサンス」


「こ、こんにちわ……僕はサンス・……」


「サンス、氏は言わない」


「あっ、ご、ごめんなさい……」


 そんな風に言い、サンスという少年は少ししょんぼりした様子でエタ―ルミナスの腕をギュッと握る。


「それで?あなたたちは?」


「あ、えっと……私はサラで、こっちが……」


「アネモネよ」


「サラにアネモネ……ふむ……」


「何?私たちに何かついてる?」


 アネモネがそう言うと、エタ―ルミナスはサラのローブのポケットを指さす。


「その石。もしかして魔石かしら?」


「あ、こ、これですか?」


 そう言ってサラはポケットから魔石を取り出す。この魔石はアネモネが倒した"腐食"の異常(アノマリア)の力を持っていた悪魔の魔石だ。もしもの時に使えると思い、サラはずっと肌身離さず持っていたのだ。


「その魔石、どうせなら私がもっといい使い方を教えてあげるわ」


「本当ですか?」


「まぁ、待ちなさい。悪魔と言えば?」


「ちょっと待ちなさい、サラの魔力は渡さないわよ!」


 そう言ってアネモネはサラとエタ―ルミナスの間に割って入り、狼のように威嚇する。


「違うわよ。サラが持ってるそのハンカチ。それを代償にして契約よ。私が魔石のいい使い方を教えて、ハンカチをこちらに渡して、それで終わりよ」


「あ、そういえばハンカチ……」


 そう言ってサラがハンカチをローブのポケットから出すと、サンスが声を上げた。


「あ!僕が買ったハンカチ!」


「やっぱりサンス君の……はい、どーぞ」


 そう言ってサラはサンスにハンカチを手渡す。すると、サンスは嬉しそうに受け取り、それをエタ―ルミナスに渡した。


「落としちゃって汚れちゃったけど……はい、プレゼント!」


「……ありがたく貰っておくわ」


 そう言って少し口角を持ち上げるエタ―ルミナス。


「こ、コホン……それじゃあ、教えてあげるわ。その前に一つだけ言っておくわね。この方法はメリットが大きい分、デメリットも大きい。それでもやる?」


「どんな内容か教えてくれたらしてあげてもいいわ」


「そうね……メリットはアネモネの異常(アノマリア)が強化される。デメリットは、その悪魔の異常(アノマリア)に飲み込まれるわ」


「そ、それでどうなるんですか?」


「あなた達の異常(アノマリア)がわからない以上、どんなことがあるかわからないわ。でも、悪かった前例としては……血を扱う異常(アノマリア)を持っていた悪魔は、自分の血に貫かれて死んだ……とかね」


 そんなことを言うエタ―ルミナスは悲しそうな表情を浮かべる。恐らくその悪魔を自分の目で見たのだろう。しかも、かなり親しかったと見える。


「もちろん運がよければデメリットなんて全くないし、デメリットを受けたとしても死にはしないわ。死ぬのは最悪の場合。アネモネの異常(アノマリア)が強化されることによってサラがアネモネの異常(アノマリア)を使う時にも強化されている。どう?見たところあなた達、逃亡中に見えるわ。今のあなた達は身を守るための十分な力を持っているのかしら?」


「……」


「ダメです!」


 そんな提案に、アネモネは黙り込んだ。しかし、サラはすぐに猛反対する。さすがにデメリットが大きすぎるのだ。こんなに危ない橋はわたりたくない。それでも……


「私はやるわ。私がデメリットを受けても、サラにはデメリットなんてないんでしょう?」


「ええ、これは悪魔側だけ」


「ならやるわ」


「ちょっ、モネ……」


 すると、アネモネはサラに魔法をかける。"睡魔の魔法"という闇属性の魔法だ。その魔法は相手を眠らせることができるのだが、ほとんど子供だましの魔法で、サラくらいの歳では少し集中を途切れさせるくらいしか無理だろう。


「サラ、ちょっと落ち着いて聞いて」


「な、何……」


「……私とサンスは離れておいた方がいいかしら?」


「ええ、お願い」


「そ。じゃあ、サンス、ちょっと離れておきましょうか」


「うん」


 そう言ってエタ―ルミナスはサンスと一緒にその場を離れる。そこに残されたのはサラとアネモネだけだ。


「サラ……私と初めて出会ったところもこんな感じの場所だったよね」


「あれはモネが作った場所でしょ」


「そうだね……最初はただの森で、それで、私が美味しそうな貴女を見つけて……」


「無理やり私から魔力を取った……」


「そうそう。あの時は私がずっとサラのことを欲しいなぁ、って思ってたけど、その後にサラが契約してくれて嬉しかったよ」


「……悪魔は悪いやつって町の人たちは言うけど、あの時、思ったの。私の魔力が目当てでも、それでも人間よりも優しいものを見せてくれたモネに頼っても良いんじゃないかって思ったの」


「それは光栄ね。それなら……私はサラの"特別"なの?」


「えっ?と、特別?う、うん。まぁ、そうかな?」


「そっか……特別かぁ…フフッ」


「?」


「私ね、ずっとサラの特別になりたかった。契約するまではそう思ってて、契約してからもずっと思ってた。どんどんサラの特別が欲しくなった……」


「うん」


「それでね、昔に私が契約した人が言ってたの。この人と一生を添い遂げたいって思うのは、その人の特別になりたいからだ。って」


「うえ?!」


「だからね、それを思い出してからずっと思ってた。この特別もほしいなって」


「な、な……」


 アネモネの急な告白によってサラの顔は真っ赤に紅潮する。その顔を見られまいと、サラが両手を隠そうとすると、アネモネがそれを阻止した。


「ほんとはね、口移しで魔力供給するのも効率がいいのはほんとなんだけど、私がしたかったから。っていうのもあるの」


 そう言ってアネモネはサラの唇を奪った。それは魔力供給の意味などない。ただ単純に、愛情表現としてのキスだ。


「私はサラが大好き。だから守ってあげたい。だけど、力が無いとあの金の騎士は倒せない。それに、あったことはないけど、銀の騎士もどうせ倒せない。それに……サラを狙ってた悪魔も……」


「う、うん……」


「だから、もっともっと力が欲しいの。私の上限を壊す鍵がほしい。だから、この橋を渡らせて……死んでしまうかもしれないけれど……私はそれでもサラを守る力が手に入るのなら、そっちを選びたい」


「モネ……で、でも、モネが死んだら私……」


「……その時は、私の育ての親を頼って。場所は、サラの家のある町から十個離れた町の"カルセラ"って町の近くの森にいるから」


「……」


「サラ……大好き!」


 そう言ってアネモネはギュッとサラを抱きしめた。サラも負けじとそれを抱き返す。ボロボロと、大粒の涙を流しながら。

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