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鍵はあなたが持ってる  作者: ミカンかぜ
第七章【知っていく者たち編】
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一話「名前をくれたあなただから」

 リスタは自分の主人を探す。あの場にいないとなると、あの謎の悪魔に連れ去られたのだろうとケイトは考えた。


(幻覚の魔法で自分の姿を隠してたら戦う時に魔力が足りなくなる……でも、私の姿を見られるわけには……)


 リスタがそう思っていると、魔力探知の範囲内にアベルの魔力が反応した。しかし、近くには何もいないようだ。それをおかしく思い、リスタは慎重にアベルの方へと近づいていく。


「……」


 そうしてあと家一戸をはさんだところで、リスタは後ろから大きな魔力反応を検知した。


「っ!!」


 後ろから迫る巨大な闇属性の魔法。それは、並みの天使ならほぼ即死。大天使や神々でも喰らえばそこそこのダメージだろう。


「止まっ…て……」


 とっさに防御結界を張ったのだが、それでも止めきれない。防ぐのは無理だと感じ、リスタはその魔法をかわした。すると、家が一つ消滅し、アベルの姿があらわになる。アベルの状態は眠っているだけのようで、特に何かされたわけではないようだ。しかし、揺さぶってみても全く起きる気配がない。そんな時……


「貴様……あの夢から覚めるのはたとえ神々ですら難しいぞ。どうやって目覚めた?」


「そんなのは知らない。それよりも殿下を返してもらいます!」


「無理だなこいつは我が主が欲しがっている者だ。そうやすやすと渡すことはできない。それでもこいつが欲しいなら……力ずくで奪ってみろ」


 その瞬間、悪魔から重く嫌な魔力が大量に放出される。一撃でこの勝負を決める気だろう。しかも、その悪魔がまだ本気を出していないということがリスタにとって絶望的な状況だった。


(相手は契約悪魔……大天使としての力を使えたなら……)


 まだその力を使ってもほとんど失敗しかしていないのに、目の前の相手をどうにかできる気がしない。


「なす術なしか?」


「っ……」


「そうか……やはりただの天使では手応えがないな。さっさと死ね」


 なす術がないわけではない。しかし、失敗する可能性が高いので、なす術がないと言っても過言ではない。


(でも……一回できたなら、もう一回できる!一度起きたことは絶対にもう一回起こせる!)


「なんだ?」


 リスタは眼帯を外し、まっすぐに悪魔を見据える。初めて力を使った時のことを思いだす。無意識だったこともあり、思い出すのはかなり難しい。


「まぁいい。もうお前は終わりだ。死ね」


 そうして悪魔は手のひらサイズのボール型の闇をリスタに放つ。それに触れた物質は塵となり、サラサラと風に乗って塵は舞っていく。


Good night(安らかに死ね)


 そう言って悪魔はリスタに背を向けアベルを担いでその場を離れる。


(あの天使……普通の天使にしては少し変だったが……まぁいい。今はもうどうでもいい。それより我が主にこの王族を届けることが優先だ)


 そうしてその悪魔は羽ばたいた。蝙蝠のような闇夜の様な羽は昼になるとよく見える。町にいるすべての人々がその悪魔を見上げた。そして、目のいい者たちはそれが悪魔だと気が付き、周りの住民に知らせ、そうしてパニックが起き、冒険者たちはその悪魔を倒そうと魔法を放つ。しかし、その魔法はすべて避けられる。だんだんと冒険者たちが放つ魔法が鬱陶しくなってきた悪魔は、冒険者たちを殺すために、闇属性の矢を作り出し、放つ。


「ぐあぁああああ!!!」

「ぎゃあぁあああ!!」

「痛い痛い!!」


 そんな悲鳴がその矢が当たった冒険者たちから上がる。闇属性魔法の濃度が高すぎてその矢に触れた場所がすぐに塵となる。


「ふん。主でもない人間どもが」


 そうして悪魔はまた飛行を開始する。誰にも邪魔はされない。普通の聖騎士はこの悪魔の相手にすらならないだろう。


「……」


 そんな時、悪魔は空中で止まる。魔力探知でおかしな魔力を探知したからだ。最初は小さな小さな違和感がある魔力だった。しかし、それはだんだんと大きくなり、悪魔が吐き気を催すほどの光の魔力を感じる。


「ちっ……さっきの天使、自分の力に気が付いた!」


 そうつぶやいた瞬間、悪魔の目の前に無数の槍が飛んでくる。それを避けることは悪魔にとってたいしたことではないが、近くを通るだけで気分が悪くなるほどの濃度の高い光属性魔法だ。


「くそっ……天使風情が……」


「"ブライト・ミスト"」


 その瞬間、光の霧のようなものがあたりに現れる。それらはキラキラと光り、目で周りを見ることが厳しくなる。しかし、魔力探知があるので、どこにどんな者がいるのかがわかるので関係ない。


「早く殿下を返してください」


 そんな声が聞こえ、悪魔はそちらに攻撃を放つ。しかし、あたらない。魔力はこっちの方にあるのになぜなのか。それは、"ブライト・ミスト"が悪魔の魔力探知を知らず知らずのうちに狂わせているからだ。


「くそっ!」


 そうして悪魔はあたりをめちゃくちゃに攻撃し始める。周りの住民はそれに怖がってもう避難しているようで、怪我をしている人はいないようだ。


「私はただ殿下を取り返しに来ただけです。それ以上でもそれ以下でもありません」


「ちっ……奉仕種族はめんどくさいな……」


「それはあなたもでしょう?」


「悪魔はお互いの利益がある。お前たちみたいに一方的な奉仕じゃない」


「……そうですか」


「……貴様、なぜこいつに固執する?主ならまた探せ。そもそもとして天使の主はあの忌々しい神々だろう?」


「そうですね……ですが、その方は……記憶のなかった私を拾ってくれました。私に人間界のことを教えてくれました。私に……名前をくれました」


「それがどうした?」


「そして、名前をくれた殿下は、私に人間とは何かということを教えてくれました。命は、こんなにも尊い物だということを教えてくれました。私たち天使にとっても、あなたたち悪魔にとっても"(めい)(めい)"。殿下は命を失っていた私に、名を授けてくれた。そして、その命に様々なことを刻み込んでくれた」


 そう言ってリスタは一瞬でアベルを奪い返す。


「は?なぜだ!?」


「私でもわかりません。でも、今はとても心地がいい。体が軽くてどこにでも行けそうで、なんでもできそうな気がする」


 そう言ってリスタはアベルに呼びかける。


「殿下、お目覚めの時間です」


 そう言うと、アベルはゆっくりと目を覚ました。


「り、リスタ?ここは?」


「殿下、すみません。今、終わらせますので」


 そう言って、リスタはアベルを地上に降ろし、悪魔とにらみ合う。リスタの瞳はもう前までの迷いと不安に満ちた濁った眼ではない。記憶がよみがえり、嫌なことも思い出したが、記憶がない時よりも遥かに希望に満ち溢れている。


「"神聖の手綱"」


 リスタがそう詠唱すると、リスタに変化が現れた。一対の翼に加えて、もう二対の翼が生えてくる。そして、黒色の右の瞳の中に、王冠の紋章が刻まれた。


「貴様、大天使だな?しかも、かなり手ごわそうだ。はぁ……"ソノス"なら真っ先に戦うだろうが、めんどくさい……」


 そうして悪魔は逃げようとすると、目の前に光でできた網が張られた。


「事情は大体わかった。お前のような危険な悪魔は生かしては置けない」


(ちっ……さすがに魔力の質が高いだけあってこの網も簡単には解けないな)


 そうして悪魔はその光でできた網を解除するのに奮闘する。しかし、そんな無防備な状態をリスタたちは逃すわけがない。


「ジャッジメント・ランス!」


「がはっ……」


 その槍は悪魔の体を貫き、体に大きな穴をあけた。


(くそっ、異常に威力が上がっている……これが大天使の力か……早く抜け出さなければ)


 そうして二回目の攻撃を喰らう前に悪魔は網から脱出し、反撃を仕掛ける。しかしその攻撃は全てリスタが防いだ。「なんでもできそう」というリスタの言葉は嘘では済まないようだ。それでも、あの悪魔を仕留めるには力が足りない。なぜなら、さきほど体に空いた穴も、もうすでに埋まっているような驚異の再生能力を持っているのだ。


「……殿下、私の名前を呼んでくれませんか?」


「? リスタ・ノート」


「そちらではなく、ケイト・ノート、と……」


 そのやり取りで悪魔は気が付く。

 どうしてか悪魔と天使は相対する存在なのに、似ているところが多く存在する。その一つに、"契約"が存在することに賭けたのだ。


「ケイト・ノート。これでいいかい?」


 そう言うと、ケイトとアベルの間に糸がつながれる。そうしてそれはだんだんと二人に絡まり、やがて糸は消えた。しかし、二人の間に糸があることがなぜかわかる。


「アベル・オーヴ・アルジェリーヴァン。私はあなたの元へ仕えることを誓いましょう」


「こ、これは?リスタ……」


「これからはケイト。と、そうお呼びください」


 そうして二人は悪魔の方へと視線を向けた。

 契約は完了した。これでもう、あの悪魔には勝てる。契約をしてきちんと仕える身になって初めて、天使は本来の力を扱うことができることを、リスタは……いや、ケイトは今初めて知ることができた。誰もしようとしなかったことをケイトとアベルの二人は初めてして、新たな事実を発見したのだ。

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