六話「四人の天使と歓迎会」
「ケイト様」
ケイトが一体のオートマタと掃除をしていると、ケイトを呼ぶ声がした。それはノアの声だ。
「お食事の時間です」
「あ、いえ……なんだかお腹が減らなくて……」
ここに来てからずっとお腹が減っていない。どうしてだろう?と思っていると、ノアがそれについて説明をしてくれる。
「我々が天使だからでしょう。天使は魔力によって生きています。天上の国は空気中に含まれる魔力が人間界より濃い。ですからこうして何も食べなくても生きていけます」
「じゃあ……」
「食べることは、人間の本質でしょう?」
「はい?」
「ここにいるケイト様含め、四人の天使は"元人間"です」
「え?」
「詳しい話は後にしましょう。その道具を片付けたら食堂に来てください」
「わかりました……」
そう言って、ケイトは掃除道具を片付けるためにノアと一緒に一階に降りていった。
* * *
――コンコンコン
「入っていいですか?」
ケイトが食堂の扉の前でそう言うと、中からノアの声が聞こえてきた。
「いいですよ。入ってきてください」
ケイトが食堂に入ると、パンッ!!とクラッカーの音が三つ鳴る。
「「「ようこそ!白の宮殿へ!」」」
そこにはノアの他に、二人の天使もいた。恐らくこの二人がリリとルルだろうとケイトは思う。第一印象は優しそうな二人だ。
「え?えっ?」
「ケイトちゃん歓迎会だよ~!」
「ケイトのためにケーキ作ったよ」
「ケイト様、こちら、プレゼントです」
そう言ってノアはケイトに一つの箱を手渡す。
「あ、開けていいですか?」
「いいですよ」
そうしてケイトはその箱を開ける。中に入っていたのは、綺麗なハンカチと、ひし形の装飾がついたイヤリングだ。
「ピアスでもよかったんだけどねぇ~、ルルが、耳に穴開けるのは痛いからまずはイヤリング!って言ってね~」
「あ、ありがとうございます!」
そうしてケイトは三人に深々とお辞儀をする。
「さっそく付けてみてもいいですか?」
「どうぞどうぞ!」
リリにそう勧められ、ケイトはイヤリングを両耳に付ける。その瞬間、妙な感覚がケイトの体を駆け巡る。
「?」
「あ、ケイトちゃんわかった?念話の魔法の魔道具だよ!それに魔力を流し込んだら、私たちと会話ができるよ」
そう言ってリリは自分の耳を見せる。そこには、ハート型の装飾がついているピアスだった。他の二人の耳元をよく見てみると、ルルはクローバー、ノアはスペードの装飾がついたピアスをしていた。
「このピアスかイヤリングをしてる人と念話できるの。元々ノアさんの案だから、感謝ならノアさんにして」
「ありがとうございます!ノアさん!」
そう言ってまたケイトは深々とお辞儀をした。それから、ハンカチも広げて見てみる。縁に綺麗な刺繍が施されており、端の方に"ケイト"と書かれていた。
「これ、明日から使いますね」
そう嬉しそうにケイトが言うと、リリはにこりと笑い、ルルとノアは柔らかく微笑む。
「さ、三人でケイト様のためにご飯を用意しました。冷めないうちに食べましょうか」
そうして四人は席に着き、それぞれ好きな物を取って食事をする。まだ一日も経っていないというのに、ずいぶん久しぶりな食事に思える。涙は出ないけれど、クシャリとした顔をした。
「ケイト……今は一緒にご飯を食べよう。気持ちの整理はそれから。まずは一つ、楽しい思い出を作って」
そうルルに励まされ、ちょっとだけ顔を上げるケイト。
「明日になれば、時間が経てば、あなたの心の穴はふさがっていくはずです」
「っ……!」
明日になれば。という言葉は、ずっと自分を励ましてくれた。他の人にも言うことで、その人を励ましてあげられるような気がした。特にサラにはたくさんその言葉を言った。ケイトの寿命のことを気にしたサラに、ケイトは「明日ならもっとよくなる。私は死なないよ。だからずっと友達だよ」と励ましていた。その約束はもう破ってしまったけれど……
「ご、ごめんなさい……しんみりしちゃって……」
「いいんですよ。私もこちらに来た時、リリ様とルル様が居なくて、寂しくて……お二人が来るまではずっと泣けそうで泣けない時を過ごしましたから。今は四人まで増えて私は嬉しい限りです。あ、リリ様、ルル様、もう食べてもらっても大丈夫ですよ。ケイト様もゆっくりでいいので食べてください。ルル様が言っていた通り、今は思い出の一つをここで作ってください」
「はい……」
そうして四人は食事を始める。最初はしんみりしていたケイトだったが、料理を口に入れた瞬間、少しそれは和らいだ。しっかりと味付けされた鶏肉のようなものに、ケイトが少し苦手なサラダやらがあったが、全て美味しかった。
「美味しいです!」
「よかったです。そこの焼き魚なんかは料理が苦手なルル様がやってくれて……」
「ちょ、ちょっとノアさん!」
「二個くらい焦がしちゃったんだよね~?」
「リリ姉!」
「あははっ!」
「ケイトまで……もう!」
そんな四人の会話を、一体のオートマタが聞いていた。顔のパーツなどはなく、マネキンのように真っ白で、少しくぼんでいる。
[メモ帳とペン。お返しします]
それだけ書いて、そのオートマタはメモ帳とペンを扉の前に置き、その場を去っていった。
* * *
「はぁ~……お腹いっぱい……」
ご飯を食べた後、全員でケーキを食べ、お腹いっぱいになった四人。そんな時、ルルがケイトにこんな疑問を投げかける。
「そう言えばケイト」
「なんですか?」
「さっきオートマタに話しかけてたけど……」
「えっ、あれ見てたんですか……いるなら言ってくださいよ~。挨拶したかったんですから……」
「ああ、ごめん。それよりどうしても確認したいことがあって」
「なんですか?」
「ケイトってメモ帳とペンを渡してオートマタに字を書かせてたでしょ?」
「はい」
「オートマタって字が書けないようになってるの。教えても絶対にかけない。私たちの命令に従うだけ。読むことはできるけど、相手に伝える方法は首を振るか、文字が書いてあるところを指さして伝えることしかできないの」
「え?」
「ちょっとそのオートマタ連れてきてくれない?」
「え、あ、はい……」
そう言ってケイトは食堂を出ていく。そして、ケイトが食堂を出たすぐに、メモ帳とペンが置いてあった。あのオートマタに渡したものだ。それを拾い、とりあえずそのオートマタを探しに行った。
一方ノア、リリ、ルルの三人は少し考え事をする。
「オートマタの不具合?いや、創生神様が今日来たときは何も言わなかったはず……」
「ケイトがオートマタに何か不具合を起こしたんですかね……」
そんな風にノアとルルが話していると、何かを思いついたように、リリは「あっ」と声を上げた。
「ねぇ、ケイトちゃん、もしかしたら大天使の資格があるんじゃない?ねえ、ノアさん。大天使って神様に近い存在なんでしょ?だから創生神様が創ったオートマタにも影響が出たんじゃないかな?」
「なんと……彼女はもう開花したというのですか……」
「リリ姉、そういうところだけ覚えてるんだね」
「だってだって!特別な力なんて憧れないわけがないでしょう!?はぁ~、いいなぁ。創生神様の創った物に干渉できるような力。憧れちゃう!」
そんな風にリリがはしゃいでいると、ノアがそこに口をはさむ。
「リリ様、ルル様。まずは彼女に魔法を教えてあげてください。大天使の力は魔法の力と似ています。制御できなければ誰かを傷つけてしまうかもしれません」
「「わかりました」」
そんな二人の顔にはやる気が満ち溢れていた。ノアが二人のことを評価するならば、まずはここだろう。誰かのために自分ができることを一生懸命する。もちろん、奉仕を使命とする天使だからということもあるのだろうが、二人は人間の頃からそれが人一倍強かった。
だから、"天上からの使者"というものが二人にはあったのだ。それはケイトも、そしてノアも同じだ。四人はそうして選ばれ、地から天へと昇る資格を与えられたのだ。
(それにしてもお二人は私たちよりも遥かにそれが高い。まぁ、あまり無理はしないでほしいですが)
そんなことを思いながら、ノアは食堂の扉の方を見た。




