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鍵はあなたが持ってる  作者: ミカンかぜ
第六章【昇り堕つ編】
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五話「あれの準備」

 部屋を見て回るケイトは、部屋にあったメモ帳に、簡易的な地図を記していた。そうしないとすぐに迷ってしまうからだ。この宮殿は5階建てであり、一番上はあの白と黒が基調の部屋。そして一階は食堂やら大浴場やら厨房やらがあり、四階はケイト、ノア、リリ、ルルの部屋があった。二、三階はただの空き部屋で、ノア曰く、誰がアレンジしても良いそうだ。


「リリさんとルルさんには会えなかったな……」


 ぐるっとこの宮殿を回ってみたのだが、双子らしき姿は見えなかった。いたのは約三十体のオートマタだけだ。

 ノアもどこかに行ったようで、この宮殿内では全く見なかった。


「う~ん……」


 それ以外特に何もない。人間時代に持っていた物もないので、暇なのだ。


「そう言えば、私の仕事って掃除とここを守ることだっけ……掃除用具入れは確か一階にあったから掃除しよう」


 そうして一階へと降りていくケイト。掃除用具入れがある部屋に入り、そこを見てみると、ほとんど掃除用具はなかった。オートマタが使っているのだろう。そう思いながら、残っている箒と雑巾と塵取りを持ち、五階の廊下から段々掃除していく。宮殿内にいるオートマタは十体ほどで構成されており、きれいに掃除をしてくれているのだが、なんとなくケイトはもう一度自分で掃除をする。


「暇なんだよねぇ……」


 そうつぶやくと、一体のオートマタが目に入った。どうやら五階を掃除しているようだ。


「あ、そうだ。まだ掃除していないところ聞いちゃお」


 そうしてケイトはオートマタにまだ掃除をしていないところを聞いてみると、オートマタが歩き出す。どうやらまだ手を付けてないところがあるみたいだ。

 そうしてついた場所は、二階の空き部屋だ。


「ここ掃除してないの?」


 ケイトがそう問いかけると、オートマタはコクリとうなずいた。


「あ、そういえば、ここって好きにアレンジしていいんでしょ?」


 その質問にもコクリ、とうなずくオートマタ。「はい」か「いいえ」しか答えることができないのは不便だと感じたケイトは、自分の持っているメモと、インクが出続ける不思議なペンをそのオートマタに渡し、対話を試みることにする。


「図書室がここにないでしょ?だから、ここを図書室にしようと思ってるんだけど、どうかな?」


 ケイトがそう言うと、オートマタはメモに何やら書き始め、書き終わったものをケイトに見せた。


[いいと思います。ルル様がひそかに図書室を欲しがっていました]


「へぇ~、あっ!あと、リリさんとルルさんと、あとノアさんはどこにいるの?」


[リリ様、ルル様はただいま外へ出ております]


「外に出てるって……このネックレスで出れるんだっけ?」


[そのネックレスを握って祈れば出れますよ。外に出てもう一度同じことをすればこちらに戻れます]


「わかりました、またいつか試してみますね」


 そう言って、ケイトは部屋の掃除を始める。それに伴って、そのオートマタもその部屋の掃除をし始めた。メモ帳とペンは渡したままの方がコミュニケーションが取りやすいので、そのままメモ帳を渡しておいた。


「あっ!オートマタさん、こっちにきてください!」


 ケイトが先ほどまで対話をしていたオートマタを呼ぶと、オートマタはスタスタとケイトの前まで来る。


「あの、これって誰の髪留めかわかりますか?」


[これはリリ様がつけている髪留めと似ています。聞いておきますので、私が預かっておきます]


 そうしてそのオートマタは片手を差し出してくる。


「ありがとう」


 ケイトはその手に髪留めを渡し、また部屋の掃除を続ける。しばらくその部屋の掃除をしていると、ふと、ケイトは家を掃除している母親の姿を思い出し、人間の頃の家を思い出す。しかし、悲しくはなるのだが、涙は全く出ない。


「あ、あれ?なんで?」


 そんな独り言を聞いて、ケイトの元にオートマタが近寄り、[どうかしましたか?]とメモ帳に書き込む。


「うん……人間の頃のことで悲しくなって……でも悲しいはずなのに泣けなくて……」


[それはケイト様が天使だからでしょう。天使を含め、魔法生物と呼ばれる生き物は涙が出ないのです。またノア様にでも聞いておいてください]


「そう……わかった」


 少ししょんぼりした様子でまた掃除を再開するケイト。掃除を再開したケイトを見て、オートマタも掃除に戻った。ただ命令に従っているだけの人形は、気遣いというものができない。だからケイトがしょんぼりしているからとしても、慰めることはできないのだ。


* * *


「ルル、今日は買い物付き合ってくれてありがと!」


「まぁ、ルルが行かないとリリ(ねえ)ずっと駄々こねるんだもん」


「うっ、そ、そうだけど、今日は特別な日だからね?そのための買い物でしょ?」


「それはそうだけど……リリ姉、ルルに荷物全部持たせるから」


「だ、だって、ルルの方が力持ちだし……」


 そう言いながらリリとルルはトコトコと宮殿の廊下を歩く。まずは買ってきた食べ物を厨房に置き、小物は自分たちの部屋に置く。そうして二人がノアに秘密でお菓子を食べようと二階の空き部屋に向かっているとき、何やら声が聞こえてきた。ノアとは違って、まだ成人していない高い女の子の声だ。


「リリ姉、なんか声聞こえる」


「そうね。誰かしら?」


「多分、ノアさんが昨日言ってた、新しく来た子じゃないの?」


「へ?そうなの?」


「……昨日話聞いてた?」


「……てへっ」


「はぁ……」


 どうしてうちの姉はこんなに人の話を聞かないんだろうと、ルルが思っていると、リリが声が聞こえてくる部屋をこっそりと覗いていた。


「何してるの!」


「しー……」


 口元に人差し指を当て、手招きをしてくるリリ。それにつられて、ルルはその部屋を覗き込んでくる。そこにいたのは、オートマタに話しかける少女だった。オートマタの手にはメモ帳とペンが握られており、そうしてコミュニケーションをとっているようだ。


「可愛いわね~!ルルもそう思わない?」


「うん……でも、なんで……」


 何かを言いかけたルルは、そのまま口を閉ざした。嬉しそうにしている少女が、掃除に戻った瞬間、なぜか悲しそうな顔をする。


「ルル?何を言おうとしたの?」


「……」


「ルル?」


「え?あ、ああ、何を言おうとしたのかって?その……オートマタって普通、文字を書けるように作られてないのに……」


「そうなの?」


「これもノアさんが言ってたよ。もちろんリリ姉と一緒の時に」


「そうだっけ?」


「もう……まあいいや、"あれ"の準備をするついでにノアさんに聞いてみよう」


「わかったわ~、それじゃあさっそく行きましょう」


 そうしてリリはルルを連れて厨房へと向かう。厨房に二人がつくと、もうすでにそこにはノアがいた。


「ノアさん、ただいま~!」

「ノアさん、ただいま」


「おかえりなさい、二人とも。それじゃあさっそく始めますよ」


 ノアはそんなことを言いながらエプロンを二人に渡す。そんなことをするノアはすでにエプロンを着ていた。


「それでは、新しい天使。ケイト様の"歓迎会"の準備を始めましょうか」


 二人が「はーい」と返事をし、三人は一緒に歓迎会のための準備をする。その間ケイトは、少ししょんぼりしながら、何も言わないオートマタと掃除を続けていた。

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