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鍵はあなたが持ってる  作者: ミカンかぜ
第一章【食料として編】
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五話「悪魔の悩みと少女の心」

 サラと出会ってから悪魔の悩みが一つ増えた。それは……


「ほかの魔力が全然美味しそうに見えない……サラはまだ熱が引いてないし……二日も何も食べてないからお腹が空いたよ~……」


 サラが熱を出してから二日経った。そろそろ治りかけの段階まで来たが、そんなことを知らない悪魔は、サラの身を案じてサラから魔力を二日も取っていなかった。そのせいでお腹が空いてしまい、森の中でテキトーに魔力の含む魔物を食べていたのだが、特に美味しいと感じない。いや、サラの魔力が美味しすぎたのかもしれない。それに、サラの魔力は少量で満足するのに対して、魔物の魔力だけでは二匹食べただけでも足りない。サラの魔力は圧倒的に魔物よりも少ないのにどうしてだろう?と悪魔が首をひねっていると、一つの植物に目が留まった。それは、サラと初めて出会った日に、サラが集めていた薬草だ。


「……お礼として集めようかな?」


 そうつぶやいて悪魔はせっせと薬草を集め始める。これが意外と暇つぶしになり、長い時を生きる悪魔にはちょうどいい時間だった。しかし、その時間も一人の人間の声で終わりを迎えた。


* * *


「ん……」


 いつもよりも遅い時間に起きたサラ。昨日もそうだったが、熱が出てからカーテンを閉め忘れて寝てしまうらしい。日の光が直接家の中に入り込んでいて、ポカポカしてとても気持ちがいい。


「……今日はあの悪魔がこない……帰ったのかな?」


 心の中でガッツポーズをとるサラ。そうしてベットから立ち上がる。もう頭もいたくないし、ふらふらすることもないのだが、恐らく母と父はもう一日休んだ方がいいと言うのだろう。


「お母さん。おはよ~……」


「あら、おはよう。調子はどう?」


「もう大丈夫だよ。なにか手伝えることはある?」


「ん~……私としてはもう少し休んでほしいんだけど……あ!そういえばラミュちゃんが外に遊びに行ったから探してくれないかしら?そろそろお昼ごはんだから」


「……わかった、行ってくる」


 ラミュというあの悪魔の(おそらく)偽名に慣れないサラは違和感を覚えながら、街を歩きだす。しかし、大通りを通って探してみても全くあの悪魔の姿が見当たらない。


(……悪魔は魔物だから、普通の人間よりも魔力が多いはず。だったら……)


 サラはそう思い、とある手段をとる。それは、魔力を感知する魔法、人呼んで"魔力探知"という魔法を使うということだ。しかし、独学で身に着けた魔法だ。本を見て学んだ魔力探知よりも魔力の消費効率も悪いし、効果範囲も小さい。そうとわかっていてもダメもとで一度魔法を使ってみる。すると、思いもしていなかった光景が、サラには見えたのだ。


「えっ……?」


 夜空に浮かぶ星のような光が、サラの目には映る。その星たちは様々な色をしており、大きさもばらばらだ。そして、周りの建物などは変わらないのだが、生物が見えないのだ。びっくりして使っていた魔法を一旦やめる。すると、今まで星のような光を発していた物が、人間になった。


「あ、あれ?この前までこんな感じじゃなかったのに?!え……ど、どうして?……もしかして他の魔法も?」


 そうしてサラは試しに別の魔法を使おうとするが、一応この場所ではなく、人が周りにいないところで実験することにした。そうしてサラが向かった先は、あの悪魔と出会った場所である。なんだかんだ言って、あの場所は薬草がたくさん生えていたり、あの悪魔がリフォームしたせいで開けた場所となっているせいで、意外と快適な場所なのだ。


「悔しいけどあそこは便利でもあるからね……認めたくないけど……」


 そうしてサラが開けた場所へと向かうと、そこにはすでに先客がいた。


「え?なんであなたがここにいるの?!」


「あれ?サラちゃんだ~!体調は大丈夫なの?」


「大丈夫だけど……それよりもあなたなら何かわかるかも」


 サラがそう言うと、悪魔は嬉しそうにキラキラと目を輝かせながら、サラの手を取る。


「どんなこと?!なんでも聞いて!」


「うっ……なんでそんなに嬉しそうなの……?」


「そりゃあツンツンだった子猫がちょっとでもデレたら嬉しいでしょ?それと同じだよ~♪」


「なっ?!誰があなたにデレるものですか!」


「でもでも~……私が泊まった初日にね、私が貴女に子守歌を歌ってあげたんだけど……」


 悪魔がそこまで言うと、サラは顔を真っ赤にして悪魔をにらんだ。どうやら熱によって素直な感想が出ていたことを本人は覚えているらしい。


「ま、待って!それ以上言わないで!」


「あははっ!顔真っ赤だねぇ~」


「ちょっと!!!」


「はいはい。からかうのはこれくらいにして、で?わからないことって?」


「ッ……も、もう……じゃあさっそく聞くよ」


 そうしてサラは悪魔に、いつも自分が魔力探知を使った時の結果と、今日魔力探知を使った時の結果を伝えた。すると、驚きの答えが返ってくる。


「あ、それ、私が貴女にちょっとだけ魔力を返した時の副作用的な物だから、あんまり気にしなくて大丈夫だよ」


「え?ちょっと待って?返す?魔力を?」


「うん。貴女が辛そうだったから、早く治してほしいなぁ、って思って魔力を返したの。私が貴女の魔力を……なんていうんだろ……熟成?っていうのかな?質がいいやつを貴女に渡して、貴女の病気の抵抗力を高めたの。人間ってば、あれで死ぬこともあるんでしょ?あ、でも、お腹はずっと空いてるんだよねぇ……」


 そんなことを言いながら悪魔はチラチラとサラの方を見てくる。その行動によって、サラは危険を察知し、さっと自分の口を塞いだ。のだが、悪魔はその手を無理やり引っぺがし、キスをした。サラは自分の中から、循環する何かが盗られる感覚がした後、段々と脱力感が襲ってくる。これは初めてこの悪魔と出会った時の感覚と似ていた。

 つまり、この悪魔は出会った時と同じくらい魔力を吸い取っているのだ。そうして悪魔はサラから口を離し、こんなことを言ってくる。


「サラ、もうちょっと魔力作ってくれない?私、オナカスイッチャッテ……モットタベタイノ……」


 サラが聞く悪魔の話し方は、段々と聞き取りにくいような発音に変化していく。何とか聞き取れはするものの、大分カタコトで、まるで異国から来た旅人のようだった。


「ま、待って!私、それ以上取られたら死んじゃう!だからもうちょっと待って!」


「……ダッタラ、コレタベテ」


 悪魔はそう言って、近くの木に成っていたリンゴを差し出した。そのリンゴは見た目は普通のリンゴなのだが、持ってみると、なぜか心地いい。サラはそれを少し警戒したが、意を決してそのリンゴをかじった。すると、さっきまであった脱力感が少し消えた気がした。もう一度かじると、また脱力感が消えた。そして、全部消えると、いつも通りの体の軽さに戻っていた。


「モドッタ?ダッタラ、モットチョウダイ?」


「……これでやめてくれるの?」


「ハ、ヤク……ヤメル、カラ……ハヤク!」


 別にここで拒絶してもいいはずなのに、サラの目に映る悪魔は、とても哀れに見えた。知性の高い悪魔が、本能に従って生きるただの獣へと成り下がっている。その光景を目の当たりにして、情が湧いてしまったのかもしれない。


(我ながら異常じゃない?私、どうしちゃったんだろう……)


 嫌だ。そう言って逃げればよかったのに、気づけばサラは、自ら歩み寄っていた。


「ア……?イイ、ノ?」


「こ、今回だけ……でも、もうこれでおしまいにしてほしいんだけど……」


「……ムリダッテイッタラ?」


「……そ、その時…は……し、死んでやる!悪魔にずっと食べ物を与えるくらいなら、その場で……死んでやる……」


 震える声で、そんなことを叫ぶサラ。悪魔はそれを黙って聞いていた。そして、そんな状態がしばらく続いて、悪魔はコクリと一度頷いた。そして、サラから魔力を吸い取る。段々と理性を取り戻した悪魔は、サラを見て、目じりを下げ、悲しそうな顔をする。


「さよなら……」


 そうして風が吹く。目をとっさに閉じてしまうほどの強い風だ。優しい音が聞こえた気がした。そう思い、サラは目を開けた。いつもの光景だ。しかし、一つだけ足りない物がある。あの悪魔はもう、サラの目の前にはいなかった。

 さっさと消えてほしいと思っていたあの悪魔は、消えていった。のにもかかわらず、どうしてこんなに心が空いているんだろう?どうして、どうして……どうしてこんな気持ちになるんだろう……サラがそう思っていると、ポタポタと、地面に水滴が落ちる。涙が、サラの頬を流れ落ちる。


「……な、んで?……おかしいでしょ?…だって、相手は悪魔だよ?……普通、こんなことありえないよ……」


 あの悪魔に情が移ってしまった。そう思うと、罪悪感によって胸が締め付けられる感覚がした。


「……帰ろう……」

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