七話「学園祭当日(3)」
アネモネが目を覚ますと、いつもの寮部屋で目が覚めた。外を見てみると、もうすでに太陽が沈んでいる。ベットから起き上がろうとすると、サラがアネモネのベットに突っ伏して寝ていた。周りには看病をしたと思われる跡があり、迷惑をかけてしまったようだ。
「サラ。…サラ。」
「ん……んん…………もね?」
「そうだよ」
そう言うとサラは飛び起き、アネモネを抱きしめる。サラの体温がいつもより低いなぁとアネモネが思っていると、サラがアネモネの額に手を当て、悲しそうな顔をする。
「モネ、熱があるよ」
「え?」
「それに、モネの魔力。……マナの方がなんか、変。ずっと少ない状態を保ってるっていうか……それに熱が重なってモネの体調は今、すごく悪いんだと思うの」
「……」
「命に危険があるくらいの症状じゃないらしいんだけど、明日の学園祭はずっと安静に。って先生も言ってた」
「そうなの?じゃあ、明日はサラだけでも楽しんできて」
「……モネと一緒に行きたかったのに……」
「別に誰かが戦ってるのなんて見ても面白い物じゃないよ」
「いろんな人の魔法が見れるのに……」
「知らないよ。私はもうこの学園のどの生徒よりも強いし」
「……」
「だから魔法戦はサラだけで見てき……」
「もう知らない!」
そう言ってサラはアネモネに背を向け、自分のベットに入った。それからはアネモネがいくら話しかけても、何も言わなかった。ずっとそっぽを向いたまま、サラは黙ったまま。
アネモネを無視することが、どれだけ辛くても、サラはアネモネを無視した。
* * *
「サラさん、どうしたんですか?」
「え?」
サラは今、シャーロットと二人で魔法戦の観客席へと向かっていた。アネモネが体調不良、メアリーやカリーナ、リスタが選手として出場するので、その次にかかわりのある生徒と言えばシャーロットだけだったのだ。こう考えてみると、仲のいい生徒や、サラが積極的に関わる生徒は世間一般的に見れば少ない部類なのだろう。
「サラさん、なんだか、こう……暗い表情というか……あ、違ってたら、ご、ごめんなさい」
「……大丈夫だよ、うん。それと、暗かったかな?こっちこそごめんなさい」
そう言ってサラは少し歩く速度を速めた。その様子を少し後ろから見るシャーロットは、心配そうな顔をしてついて行く。しばらくして観客席へ着き、二人とも隣同士に座った。
(き、気まずい……)
元々シャーロットはアネモネとは仲がいいが、サラとは仲がいいというわけではなかった。最近話すことが多くなってきたが、それでもまだまだシャーロットから話しかけるのには時間がかかりそうだ。それなのに、今はサラから話しかけてくることはない。
「サラさん。」
「……あっ、な、何?」
「あの……体調悪いなら保健室に……」
「大丈夫大丈夫」
「そ、そうは言っても……」
「ほんとに大丈夫だから気にしないで。あ、ほら、始まるよ」
「……」
不安な気持ちでシャーロットは始まった魔法戦を見る。一回戦目から様々な魔法が見られて、シャーロットはそれに魅入っていた。はっと我に返り、サラの方を見てみると、同じように魅入っている。ほっとしたシャーロットは、再び目の前の試合を見ていた。
そうして順調に数チームが準決勝へと歩を進めていく。その中で残っているのは、三年生のチームが二組。二年生のチームが一組、そして、一年生のチームが一組だ。
「サラさん!殿下とその付き人のリスタさん、すごいですね!」
「うん。光属性はふつう人間には癒しの効果があるから、殿下を回復しつつ、光属性の魔法で目くらましをしてサポート。さらにリスタさんは体術がすごいから。私も一回手合わせしたときはぼろ負けだったよ」
「サポートのタイミングも絶妙ですしね」
そんな風に二人は目の前の魔法戦の話で盛り上がる。その間はサラの暗い表情もなくなり、話しやすそうな雰囲気が漂っていた。
「サラさん、次は三年生と一年生の戦いですよ。三年生の方もかなり強かったので、どちらが勝つか見ものですね!」
「うん。しかも三年生の人たちは三年生の中でもかなり強いらしいよ」
「殿下たち、どんな感じになるんですかね」
二人があれこれ議論していると、三年生vs一年生の戦いが始まった。最初の方はあまり差は見られない。
「サラさん、リスタさん、おかしくないですか?」
「うん、全く動かないし、何もしてない」
「魔力の流れも全く変わらないですし……回復魔法のための温存ですかね?」
「多分そんなとこじゃないかな?」
そんなことを話している二人の目は終始キラキラしていた。いつも予想外の展開になるその戦いは、ずっと見ていられる。
「?! サラさん!すごいですよ!」
「うん!」
そうして時間が過ぎていくと、三年生チームの動きがだんだん鈍っていく。それに対して、一年生の方はまったく動きが鈍らない。普通、回復魔法は体力まで戻らないのだが、天使の使う回復魔法だから体力も回復してるのだろうか、それとも殿下の体力が多いのかわからないが、どれだけ経っても息が切れている様子がない。
「シャーロットさん!もう決勝が楽しみ過ぎてやばいです!」
「私もです!決勝はもう無言で行きますか?!」
「行きます!」
決勝は二年生のメアリー、カリーナチームと、一年生のアベル、リスタチームだ。
そうして二人は決勝が始まると同時に終始無言で試合を見ていた。
* * *
「よし、カリーナ!決勝だよ決勝!」
「ついに来ましたね」
メアリーとカリーナの二人には緊張感が走る。相手は想定内のアベル、リスタペアだ。あの二人の実力は本物だった。去年二人が魔法戦で戦ったペアよりも強いかもしれない。いや、絶対に強い。しかし、メアリーもカリーナも去年までの二人じゃない。
「さ、カリーナ。行こう!」
「ええ、全力で行きましょう」
そうして二人は戦いの場へと立った。アベル第二王子とリスタからは、とてつもない圧を感じる。さすが、決勝まで進んできたチームなだけある。しかしそれはメアリーもカリーナも同じ。両者は向かい合い、無言で見つめ合っている。やがて審判が戦い開始の合図を出した。
二チームはいっせいに距離を取る。魔法を使う以上離れた方が有利なのだ。そうして二チームが距離を取った時だった。メアリーがすぐに魔法を放つ。
「まずは小手調べ」
簡単な部類の中級魔法だ。それを防がれるのは想定内だ。
「メアリー!防御結界を!」
「っ!」
しかし、防がれるだけじゃなく、相手はすぐにカウンターを仕掛けてくる。これは小手調べなどをしている暇はない。そう思ったメアリーはすぐに全力で行くことに決めた。
「カリーナ!頼む!」
そうしてカリーナが身体強化魔法をメアリーにかける。地属性の身体強化魔法は、相手は使えないはずだ。なぜなら、アベルの使える魔法の属性は水属性と雷属性、さらに少しだけ火属性。リスタは光属性のみだ。
(だからカリーナの身体強化魔法より早く動けはしないはず!)
そんなことを考えながら、メアリーは拳に炎をまとわせ、リスタを狙った。リスタはさっきからずっと動いていないのだ。何をしようとしているのかわからないやつを先につぶしておくのがいい。
「はぁっ!」
そうしてメアリーはリスタへと殴りかかった。その拳はリスタに直撃する……かと思いきや、ギリギリで避けられる。それでも、瞬間的に判断し、メアリーはそのまま攻撃に移った。
「"ブライト"」
「っ!」
ブライトという光を発生させる魔法で、メアリーは視界を奪われた。目の前で強い光を当てられれば、数秒程度視覚が戻らなくなる。それだけの時間があれば、リスタには十分だ。その時間を使って、リスタは全力の蹴りをメアリーの腕に喰らわせ、よろけたところを狙って、腹を蹴った。
「っ……身体強化してんのになんでそんなに痛いのよ……」
腹を抑えながら、メアリーは愚痴をこぼす。一旦、メアリーはリスタから離れ、カリーナのそばによる。カリーナから離れすぎると、アベルが近接戦闘が苦手なカリーナを狙ってくる可能性があるからだ。
「……」
すると、アベルは"無詠唱"で上級魔法を放ってきた。一年生で上級魔法を使えることがまず少ないのに、それを無詠唱で放ってきたとなると、普通の学生の領域を超えている。さすが代々宮廷魔法師のメルト家の血を継いでいるだけある。更に、王族ということもあって一流の教育を受けてきたのだろう。
「カリーナ!一緒に行くぞ!」
「ま、待って、メアリー!」
「なんで!」
「私が防御結界を張る。だからメアリーは殿下を!」
それを聞いてすぐにメアリーはこくりとうなずき、アベルの攻撃を防いだところで、メアリーはすぐに結界の後ろから飛び出した。普通、王族に怪我をさせるのは罪に問われるのだが、この魔法戦は殿下が怪我をすることを了承している。
「スチームエクスプロージョン!」
メアリーは火属性が得意属性だが、水属性も一応使える。なので、火と水の複合魔法で、水蒸気爆発を起こすことができるのだ。威力の調節が難しいし、自らも巻き込まれてしまうので、威力は極端に下げてある。その代わりに、アベルに極限まで近づいて爆発させた。
「うっ!」
小さい爆発だったとしても、常人に数発殴られたくらいの威力があるその爆発を喰らい、アベルは一瞬ひるんだ。その瞬間、メアリーとアベルの間に壁が生じる。それは、リスタが作った光属性魔法の"反射結界"だ。反射結界は普通の防御結界よりも耐久力は低いが、受けた攻撃をそのまま反射できる。そのせいで、むやみに攻撃ができない。
その瞬間、メアリーの頭に水球が張り付いた。突然のことで驚き、メアリーは思いっきり水の中で息を吐きだしてしまった。
「メアリー!」
カリーナは聖女の弟子であり、人々に優しく、と教えられてきた。しかしそれは状況による。聖女は状況次第で臨機応変に対応することをカリーナに教えていたのだが、やはりモットーである言葉をカリーナは先に思い出してしまうのだろう。
「その心配が、僕たちを勝ちに導いたんですよ」
アベルはそうつぶやき、メアリーに張り付いていた水球を解除し、強めの電流をメアリーとカリーナに流した。
その電流で二人は気絶し、魔法戦は閉幕を迎えたのだった。




