五話「学園祭当日(1)」
長期休暇が終わり、授業などがあれば、すぐに時間は過ぎていく。魔法の授業も入学当初よりはかなり増え、段々とサラは魔法の実力をつけていく。そんな風に過ごしていると、もう明日は文化祭当日。今はそんな日の夜のことだ。
「アネモネ、メアリー先輩とカリーナ先輩が魔法戦に出るんだって。あと、リスタさんとその主人も」
「リスタ?ふん!あんなやつの主なんてろくな奴じゃないわ!」
「しっー!おっきい声出したらマズいよ……その主って言うのは、この国の第二王子。王族だよ?」
「王族?あれは嫌いだわ。自分だけ権力を持ってて、貧乏な奴らには何もしてやらない………そんなやつ……私は嫌いだわ……」
そう言いながらアネモネはうつむいた。サラはアネモネの過去に何があったのかは知らない。いつか教えてくれるということを信じて、サラはアネモネを励ます。
「モネ」
「何?」
「私は何があってもモネを信じてついて行くから。あなたが信じた道を進もう。間違ってると思ったら、私が意見を出すから、二人で考えよう」
「じゃあ、今ここでその第二王子を殺すのは?」
「それはダメ!……でも……」
そうしてサラはどこか遠くを見るように、つぶやく。
「いつか、王様だって敵に回しちゃうかもね?」
「……あの猫の言ったこと、まだ気にしてるの?」
「えっ?そんなことはないけど……」
「はぁ、ならいいわ」
そうしてアネモネは笑う。これからの心配が全て「どうってことない」と言っているような笑みを、サラに見せる。
「王子でも王様でもなんでも敵に回してやろうじゃない。必要であれば神であっても、私は殺すわ」
「ふふっ」
「ちょっと、なに笑ってるの?」
「いや、そこまではしなくていいよ。……まぁ、この話はいいや。それよりモネ、お腹空いてない?」
「空いてる。くれるのね?」
「うん」
そう言ってサラは、アネモネに身を任せた。程よい脱力感と、眠気に襲われ、サラはそのまま眠ってしまう。アネモネも、明日の朝に向けて眠りにつくのであった。
* * *
そうして学園祭当日。朝食の時から生徒たちは騒然としている。聞き耳を立ててみると、出し物や、学園祭で開演される劇、更に、魔法戦のことも話に出ていた。
「モネ、楽しみだね」
「ええ、まずどこに行こうかしら?」
「えっと、魔法戦はたしか明日だったよね?とりあえず劇は見たいから……」
そうしてサラは今日の予定をしばらく練ってから、朝食を食べて一度寮部屋へと戻っていく。そして、準備をしてから二人は寮部屋を出て、校舎へと向かっていく。庭の方へと行くと、先生生徒たちに加えて、生徒の保護者らしき人たちもいた。そして、トラブルが起きた時の騎士もそこら辺に待機している。
「モネ、あのハンカチ可愛いよ!一緒に買おう!」
「ハンカチなんかなくても風の魔法で……」
「えっ?!今までハンカチで拭いてなかったの?」
「え?うん」
「え?」
「え?」
「え?」
「え?」
衝撃の事実を知ったサラは、速攻でアネモネとお揃いのハンカチを買い、アネモネにプレゼントする。そして、これからは魔法ではなく、ハンカチで手をふくようにサラは言った。
「も~……今日から絶対にハンカチで拭いてね?わかった?絶対だからね?」
「はいはい、わかったよ。今日からハンカチで拭く」
「ほんとに~?」
今は疑っても仕方ないので、とりあえず見逃して、また気になる店にサラは立ち寄る。そうして二店ほど巡った二人は、次に劇を見に行くことになる。
劇の内容は、この国の有名な伝説である、とある神と、この国の初代国王の建国物語だ。その神は、貧乏だが心優しい少年。のちに初代国王となる少年に神の慈悲を与え、その力を使って、人々に尽力したのだ。すると、時間が経つにつれて、様々な人間がその少年について行くようになった。少年が青年になるころには、一つの国ができるくらいの人数となり、やがて建国した。それが今のアルジェリーヴァン王国となったのだ。
そんな内容のよくある逸話だが、サラはそれが気に食わないらしい。
「な、なんでそんな嫌な顔してるの?」
「……神がでてくる時点で嫌、絶対ろくな奴じゃないから」
「も、物語だけだから。ね?」
「物語でも嫌いなのよ……」
周りの生徒には聞こえないように、二人はひそひそと話す。そうしていると、学園の大ホールに着いた。ここで劇が行われるのだ。この学園の大ホールはかなりの人数が入れるほど大きい。この学園の生徒が全員入っても大丈夫なのではないだろうか。
「すごいね~。この学園、おっきいと思ってたけど、まさかこんだけおっきい場所もあったなんてね」
「今からここで劇……神、嫌だなぁ……」
神という単語に拒絶反応を起こしているアネモネを連れて、サラは空いている席へと座る。隣に渋々アネモネが座ったところで、数分待っていると、壇上の端から司会が出てくる。そうしてあらすじを説明し始める。それから正午まで三時間ほどの劇が繰り広げられる。
「あれ?これで終了なの?」
「いやいや、長いから前後半で別れてるんだよ。モネ、聞いてなかったの?」
「聞いてるわけないでしょ。ほとんど寝てたわ」
「モネ~……」
「そんなことよりサラ、しりとりしない?」
「え~?お昼ごはんが先でしょ?」
「あ、そうだった。たまに忘れちゃうんだよね」
アネモネが「そうだったそうだった」と思いながら歩いていると、後ろから声が聞こえてくる。その声は学園で聞いたことが無い声だった。
「あ~、わかるわ~」
しかしその声をアネモネは知っている。夏の長期休暇終わりの頃に、町中でぶつかった人だった。この学園祭には招待された人しか入れないはず。ならば、この人も誰かに招待されたのだろうか?アネモネがそう思っていると、その人物が口を開く。
「え~っと……そこの灰色の髪の子は会ったことがある気がするなぁ……どこだっけなぁ……ん~……確か……」
「ちょっと前にぶつかった人です」
「あ~……?あ~?……あ~!わかったわかった。あの子だ~久しぶり~」
「別に久しぶりという関係じゃないでしょ?」
「お~、年上にいきなりため口なんて、面白い子だねぇ」
「そ、そうだよモネ。年上じゃなくても初対面なら敬語じゃないと……」
「お~、そっちの真麻色の髪の子は礼儀正しいねぇ。よ~し、お姉さんがお昼ご飯をおごってあげよう」
「え?そ、そんな、ダメですよ。お姉さんもお昼ご飯食べてないでしょう?」
「いいのいいの。私、お金持ってるし。あ、そっちのため口の子にはおごってあげな~い」
「別に良いわよ。今はお腹空いてないし。まぁ、サラにはついて行くけどね」
「へぇ~、サラちゃんって言うんだ~?可愛いねぇ。お姉さん欲しくなっちゃう。メイドさんとか向いてそうだなぁ」
「?!」
「なっ?!さ、サラはあげないわよ!」
そう言ってアネモネはサラの腕を引っ張り、その女性から距離を取った。
「うわ~……やっぱり灰色の髪の子も懐いてない猫ちゃんみたいで可愛いなぁ。個人的にサラちゃんよりもメイドさんになってほしいなぁ。気の強い子が嫌々従うところ見ると……お姉さん嗜虐心がそそられるよ~」
「うわぁ……」
ぞわぞわぞわっとアネモネの背筋に虫が這うような感覚が走る。この女性はだいぶ気持ち悪い。サラはとりあえず近づけないことを決意したアネモネだった。
ついでに自分の身の周りは学園祭の間だけでもガチガチに固めると決めた。そうじゃないとどんなことをされるかはわかったもんじゃない。
「サラ、あの人に近づいたらダメだよ。特に誰もいないとき。わかった?」
「う、うん」
「あ~ん……灰色の子にそんな目で見られたら……お姉さん興奮しちゃう」
「サディストだけじゃなくてマゾヒストでもあるの?無敵すぎない?」
「ん?モネ、今何か言った?」
「ん?い、いや?何も?」
「君モネって言うの?」
「貴女は黙って!」
そうして気持ち悪い人に付きまとわれながら食事をとった二人だった。




