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鍵はあなたが持ってる  作者: ミカンかぜ
第五章【学園祭編】
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四話「摘花摘蕾」

 サラとリスタは今、カリーナにじっくりと見られている。どういう経緯があってそんなことになったのかというと、約十分前にさかのぼる。


* * *


「サラちゃん!ちょっといい?」


「え、あ、はい。もう授業も終わったことですし、大丈夫ですよ」


 メアリーがサラに話しかけてくることはいつも通りのことだが、なんだか今日はメアリーが怖い顔をしている気がする。


「ど、どうしたんですか?」


「サラちゃん。アネモネちゃんって今いる?」


「自室にいますけど……呼んできましょうか?」


「いや、大丈夫。あとで自分で行くから」


 そう言ってメアリーはサラの手を引いてどこかへと向かっていく。その途中、サラは見知った顔が前から歩いてきていることに気が付いた。リスタだ。リスタがサラに声をかけようとすると、メアリーが先にリスタに声をかけた。


「あなたってリスタ・ノートさんだよね?ちょっと一緒に来てくれない?」


「? かしこまりました」


 そうして二人はメアリーについて行くこととなり、今メアリーに二人は見つめられているという状況だ。いや、観察されていると言った方が正しいかもしれない。何をしているんだろうと二人がちょうど思った時、メアリーが口を開く。


「二人はさ、魔法戦って出るの?」


「出ないですけど……」


「そう……リスタさんは?」


「私は出ますよ」


「パートナーは誰?」


「主様です」


「……やっぱり」


「?」


 話が全く見えてこないサラ。何のためにメアリーはそんなことを聞いたのだろうと思っていると、二人だけで会話は進んでいった。


「それが何か?」


「いやぁ……殿下と君が一番の障害かなって思ってね」


「……魔法戦はパートナーで行われます。あなたが誰と組むかによって変わってくるでしょう?」


「いやいや、やっぱりどれだけ強くても、お互いが仲良くないと連携が取れないでしょ?」


「まぁ、それはそうですが……」


「だから一番仲のいい人がいいの」


 そんな風に二人がしばらく話し、サラはじっとしていると、とある青年が三人の間に入ってくる。


「リスタ少しいいかい?」


「はい。では、私はこれで」


 そう言ってリスタはその青年について行ってしまった。その青年はサラが受験の時に見た青年だ。


「……ほんとに人当たりが良さそうな人だなぁ……」


「人当たりが良さそうじゃなくて良いんだよ。あの人はこの国の第二王子、アベル・オ―ヴ・アジェルリーヴァン殿下。あの方の母親であるセラ・フラン・アジェルリーヴァン妃譲りの美しさと魔力はこの国の貴族を魅了するには十分な才能だよね」


「あ、あの人が……殿下……」


「私は一応あの方が王になればいいなぁって思ってるかなぁ……まぁ、庶民がこんなこと言ったって意味ないけど」


「どうしてですか?」


「あの方の兄、カイン・ザフ・アルジェリーヴァン第一王子は好戦派。つまり、他の国と戦争がしたい人。その反対で、アベル様は非好戦派。戦争はしたくない人なの。私の産まれたところは国境近くだから、あんまり戦争は起こってほしくないなぁ…って思ってるから」


「メアリー先輩……そこまで知って、その上色々と考えてるなんて!やっぱりメアリー先輩は尊敬できます!庶民なんですよね?!私も庶民なんですけど、そんなこと考えたこともありませんでした……」


「え?そ、そうかなぁ?そんなに褒めても何も出ないよ?」


「いや、何も出なくていいです!私、一生メアリー先輩を尊敬します!」


 この場にカリーナやアネモネがいたならば、二人は全力でサラのことを説得していただろう。「本当にこの人を尊敬するのか?」と……

 

「そ、尊敬……!!」


 尊敬という素晴らしい二文字をメアリーがかみしめていると、どたばたと足音が聞こえてきた。そして、顔を見せたのはカリーナだ。


「あ、あれ?カリーナどうしたの?」


「メアリー!早く来てください!」


 そんなことを言うカリーナの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。そんなことは珍しいので、すぐにメアリーはカリーナについて行く。


「サラちゃんも来て!」


 そうしてサラもメアリーについて行くことになった。しばらくしてカリーナに連れられ、二人がメアリーとカリーナの寮部屋に着くと、そこには我が物顔でふかふかのクッションに座っている猫の姿があった。それを見てすべてを察したメアリー。


「あ~……どうしようかな……サラちゃんって猫触れる?」


「触れますけど……」


「ごめんね?私たちどっちも猫アレルギーだからさ、そとに連れてってくれない?できれば猫の毛の掃除も……」


「わかりました!すぐにやります!」


 そういってサラはやる気満々に猫を抱き上げて外に連れていく。そうして寮の庭から外に猫を出そうとしたとき……


「お主よ、(わらわ)のような可愛い猫を外に追い出すというのか?」


「うひゃぁ!?」


 急に抱きかかえていた猫が流ちょうにしゃべりだし、サラは思わずしりもちをついてしまう。


「娘よ、妾の世話をせよ」


「あ、あなたは誰ですか?」


 恐る恐るそんなことを聞いてみるサラ。しかし、猫はそれを無視して、サラの肩に乗る。


「お、重いです……」


「さあ、妾を世話するのか?しないのか?」


「う……」


「今、妾を世話するのならお主に妾を好きにモフモフさせてやっても良いぞ。ほれほれ~、妾をモフモフしたくないか?」


 そう言いながら、猫はサラの体に自分のふわふわな毛並みをこすりつけてくる。サラは動物が大好きで、よくケイトが飼っていた犬と遊んでいたのだ。


「ま、毎日していいですか?」


「世話をしてくれるならよいぞ!」


「じゃあお世話します!」


「ふふん。それじゃあ今日から世話をするのじゃぞ。ちゃんと育てろよ」


 そう言ってその猫はサラに抱き上げられ、ギュッと抱きしめられた。サラは幸せそうにその猫を抱えながら、寮へと戻っていく。自分の服に猫の毛がついたので、風属性魔法で全て取り払い、メアリーとカリーナの部屋の猫の毛も全て取り払った。


「ありがとうサラさん。これで安心して部屋に入れます」


 そう言ってカリーナは部屋に入っていった。そのあとメアリーにお礼を言われ、メアリーも部屋に入っていった。


「私も部屋に戻ろう」


 そうしてサラも部屋に戻ろうとすると、サラとアネモネの部屋から声が聞こえてきた。何事かとサラは急いで部屋に入ってくと、さっきのしゃべる猫がアネモネにとびかかっていた。


「ストップストップ!防音結界も張ってないのに大声出さないでよ……」


「サラ!この猫何?!しゃべるし私にめちゃくちゃ敵意むき出しなんだけど!」


「おい娘よ!こんなやつがいるなんて聞いてないぞ!」


「ちょ、ちょっと待って、今防音結界張るから……これでよし!じゃあ、お互いの不満を……」


「この猫、めちゃくちゃ生意気なのよ!」


「お主、こんなやつと一緒にいるのか?!」


「え、そうですけど……」


「今すぐその(えにし)を切れー!」


「は?!」


 そうしてまたアネモネと猫はぎゃんぎゃんと喧嘩を始める。そこにサラは割り込む。


「あ、あの……縁って何?」


「縁とはお主と、この性悪女の繋がりじゃ!お主ら、契っておるじゃろう?」


「サラ!こいつどこで拾って来たの?!私たちの関係を知ってるとか絶対にろくな奴じゃないよ!……これは早く処分しないと……」


 そうしてアネモネは机の上に置いてあったサラの刺繍道具箱から裁ちばさみを取り出し、猫に向ける。


「待って待って!一旦待って。私が話聞いてみるから……ね、猫さん。あなたの名前はなんですか?」


「ふん、お主がそこの性悪女と縁を切るならば教えてやってもいいぞ」


「う、う~ん……それは無理です……」


「じゃあ教えられん。じゃあ妾は出ていくぞ」


「まっ……」


「待て」


 アネモネの低い声がこの部屋に響き渡る。サラがアネモネの方へと視線を移すと、ハサミをシャキシャキと動かしている。


「簡単に逃げれると思わないでよね……」


 重い空気がこの部屋に漂う。その重圧を向けられていないサラでさえ、体が固まって動けない。


「ぷっ…あっははははは!!」


 そんな状態なのにもかかわらず、その猫は呑気に笑っている。


「性悪女、お主、殺気の出し方が下手じゃのう。そんなんじゃ契約者を守ることもできんわ!」


「は?」


「まぁ、安心せい。お主たちの関係を周りに明かすことはせん。じゃが、時が来ればおのずと今までの物は崩れ去る。覚悟せい」


「……この猫風情が!」


「ま、待ってモネ!」


「サラ……」


「ちょっとだけ話が聞きたいの」


「……いいわよ」


 そうしてサラは猫に真剣に向き合った。この猫は間違いなくただ者ではない。あの状況で笑っていられたのも、アネモネより強い自信があったからだろう。


「あなたは、何を私たちに伝えたいんですか?」


「……ふん、一つ言うとすれば、お主らの大きな分岐点の一つ。その大きな分岐点は、お主らの人生を大きく変えると言ってもいいかもしれんな」


「その分岐点って……」


「おっと、これ以上語るのは野暮じゃ。真実は自らの目で見てみぃ。そして、お主らが花咲くか、蕾のままなのかはお主ら次第じゃ。それじゃあの!」


 そうしてその猫は開けている窓から出て行ってしまった。二人はその場に立ち尽くしている。様々なことを言われたが、二人が今思っていることは、運命の道筋にある大きな扉の鍵を、二人が解錠したということである。

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