三話「学園祭のこと」
アネモネはサラと一緒に魔法の練習をしていた。アネモネは別にこんなことをしなくても大丈夫だが、応用の幅を広げておくことも大事だ。
「ねぇモネ」
「ん?」
久しぶりに氷魔法を使っていると、横からサラが話しかけてくる。
「学園祭があるんだって」
「ガクエンサイ……ってなに?」
「あっ、そこからか。……えっと……学園祭って言うのはね……って、私もあんまり知らないや。まぁ、学園の中で出し物をしたり、学生がバザーを開いて物を売ったりするイベントだよ」
「ふ~ん……」
「あっ、あとね、この学園って魔法戦があるらしいよ」
「うわぁ……サラが魔力を暴走させたあの魔法戦?」
「それはもういいでしょ!あの後、化け物を見る目で見られたんだから!」
「……でもそのぶん評価されてたわよ」
「そうだけど~……私はモネに評価されればそれでいいの!」
「っ?!」
突然そんなことを言われ、アネモネは嬉しさのあまり固まってしまう。
「どうしたの?」
「……サラはもうちょっと私の気持ちを考えてほしい」
「えっ?えっ?私何かした?!怒ってるなら謝るから!」
「はぁ……今はいいわよ。またそのうち。ね?」
「わかった。私、アネモネの気持ちを考えてみる!」
そう言ってサラはまた魔法の練習を再開する。アネモネの周りには集中すると人が変わる人が多い気がする。サラにしろ、シャーロットにしろ、集中すると、いつもとは別人のようになるのだ。
(……そういえばあの子もそんな感じだったかしら……)
アネモネが昔契約した、エドワードという青年もそうだった。妹の病気を治すために小さいながらも必死に勉強していたが、国が戦争で負け、貧しくなったことでアネモネに助けを求めてきたのだ。「お金がほしい」と……
病気の妹のためならなんでもするような兄だった。だからこそ、妹のためならどんなことにも集中していた。寝る間も惜しんで薬を調合し、アネモネが気まぐれに話しかけると、普段は誰に対しても優しいはずなのに、ものすごく冷たかった。聞き上手な青年は、ろくに人の話も聞かなくなるのだ。
「……最後はまぁ……悪魔と契約したからね……」
病気の薬は作ることができた。それは歴史に名が残るような偉業だった。しかし、やはり悪魔と契約したその事実は変えられない。"悪魔との契約は何者であろうと死罪"だ。
彼の首が飛ぶ姿は今でも覚えている。あの頃は何も思わなかったが、今思えば、ため息をつきたくなるような出来事だ。
(そうならないように、サラは私が守るから)
そう心に決め、アネモネも魔法の練習を再開した。
* * *
カリーナとメアリーは学園祭が大好きだ。なんといっても魔法戦がある。一応ラヒューエル学園は中等部と高等部が別の校舎にあるというだけで、敷地内に中等部の生徒と高等部の生徒はいる。だから、中等部からそのまま上がってくる生徒の方が多いのだが、アネモネやサラのように高等部から入ってくる生徒も多い。メアリーは高等部から入ってきた生徒で、カリーナは中等部から上がってきた生徒だ。
カリーナが中等部の生徒だった頃、魔法戦に参加したくてたまらなかった。自分にどれだけの実力があるのか知れる機会だと思っていたからだ。しかし、中等部の生徒は魔法戦に参加できない。だから、自分もいつか参加したいと思っていたのだ。
そしてメアリーは、シンプルに戦うことが好きだからだ。自分は不器用で、どれだけ暴れても壊れない場所はあまりなく、自分の強みを発揮できる場所というのはそうそうなかったのだ。
「カリーナ、そっちはどう?」
「順調です。長期休暇中、師匠の下でたくさん修行してきましたから」
そんな二人は学園祭で魔法戦に参加するのだ。去年は準決勝敗退だった。五十チーム近くある中で準決勝はかなりすごい方なのだが、どうせなら結晶を目指したいということで、二人は今年も参加するのだ。
「……サラさんやアネモネさんも参加するのでしょうか?」
「え~?それだったらちょっとやだなぁ~」
「それは、躊躇いで?」
「いや、あの二人は強いから。サラちゃんはまだまだ伸びる前だけど、アネモネちゃんはもうつぼみの所まで来てる。宮廷魔法師になれるくらいの実力が現時点で合ってもおかしくない」
「戦ってもないのにそんなことを判断するんですね……と言いたいところですが、正直、私もそう思います」
「だよねぇ……アネモネちゃんが連れ去られたときのやつ。確かあれって悪魔がいたって噂でしょ?しかも名付きの悪魔」
「ええ、私も現場で確認してみましたが、異常が使われた痕跡がありました」
「そんな状況だったのに生き残ったのは運がよかったのか、それとも実力か……どっちにしろ、アネモネちゃんは強いに変わりはないからね」
「あと、強敵になりそうな人たちはどの人たちでしょうか……」
「結構いるけど……一年生だったら、殿下じゃないかな?」
「殿下、というと、アベル様ですか?」
「うん。あの眼帯つけてる使用人もなんかすごそうだし」
「てきとうすぎません?」
「いや、あの使用人、眼帯付けてるけど多分周りを見てるよ」
「え?」
「常に魔力探知をしてる感じかな?なんにしろ、ずっと魔力探知をしてて魔力切れしないのなら、それ相応の魔力量があるか、消費効率をよくする方法を知ってるか。どっちも魔法戦で自分を有利にする方法だよね。それに、殿下もすごい。なんせ、母親譲りの魔法の才能があるみたいだからね」
「セラ妃ですか……代々宮廷魔法師の職に就き、陛下から侯爵の地位を賜ったメルト家。そのご令嬢だった人ですからね。……でも、その使用人が参加する可能性はあれど、殿下が参加する可能性は少なくないですか?殿下が怪我でもされれば問題になりそうですよ?」
「……いや、多分参加するよ」
「どうして?」
そうしてメアリーは一呼吸おいて、真剣な表情でカリーナにこんなことを言う。
「そろそろ王位継承権をめぐる争いが活発になってくるから」
* * *
メアリーは自分のことを考えるのが不得意で、不器用だと自称しているが、カリーナはそう思わない。なぜなら、庶民の人間は普通、王位継承権がどうとかを考えないから。そもそも、王というのは、先王が王子たちの立ち振る舞い、成績などを見て判断するものであって、庶民が口出ししても何の意味も持たない。下手をすれば不敬罪だ。
なので、庶民は誰が王になるのかなどを考えることはあれど、この王子はどのような成績がある。この王子はこんな能力があるなどを考えはしないから。しかし、メアリーは庶民ながらにしてそんなことを考えることがある。例えば今のように……
「なぜ王位継承権をめぐる争いが関係あるのですか?」
「ここは魔法を教える最高機関。そんな場所で、魔法の腕に自信がある者たちが参加している学園祭の魔法戦に優勝するとなると、結構な成績になるよ。それに、貴族も見に来る魔法戦は殿下のお披露目の場にもなる。パーティーだけが貴族のお披露目の場じゃないよ」
「……やっぱりメアリーはすごいです。貴女はもうちょっと自分の頭がキレることを自覚してください」
「え?なんで?私、長期休暇前のテスト、下から6番目だったんだけど」
「……」
「え?ちょっと?なんでそんな無言になるの?さっきほめてくれてたじゃん」
「……次のテスト、クラスで半分の順位にならないと殴りますからね。もちろん私の助けなしで」
「なんで?!」
ちなみになぜかというと、一年生のテストでメアリーは赤点を取りまくっていたせいで、進級が危うく、3学期のテストはカリーナがつきっきりで勉強を教えたからだ。メアリーのテストの点は上がったが、カリーナのテストの点はひどい物で20点ほど落ちた。
「はぁ……聖女様の弟子たるもの、物で人を釣りたくはないのですが、仕方ありません。頑張ったらこの近くのパフェおごってあげますから……」
「ほんと?!よ~し、魔法も勉強もがんばる!」
気合が入ってくれて、少しだけ安心したカリーナ。メアリーは大事な友達だからこそ、自分で困難を切り抜けてほしいのだ。




