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鍵はあなたが持ってる  作者: ミカンかぜ
第四章【夏に降る星編】
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七話「化け物たち」

「ん……うぅ………っ!……いたた……」


 サラが目を覚ました時、強烈な痛みが体中を襲った。辺りを見渡そうとしても、体中が痛い。指を少し動かすだけでもものすごい激痛が走る。


「あいたたたた……」


 そうしてサラが激痛と戦っていると、サラの部屋の扉が開かれた。入ってきたのは、サラの母親と、医者らしき人物だ。サラの母親は、サラが起きていることに気が付くと、ほっと安心したような表情をして、サラの方へと駆け寄ってきた。


「よかった……あなた、家の前で血まみれになって倒れてたのよ。昨日何があったの?」


「昨日……覚えてない……」


 本当は覚えているが、ここは覚えていないと言っていた方が後々めんどくさくならなくて済むだろう。そう思っていると、医者らしき人物が口を開いた。


「もしかしたら何者かに操られていたのかもしれません。私は医者なのでそこら辺は詳しくないですが……昨日は爆発もありましたし……とりあえず、娘さんの容態を調べてみましょう」


「はい、お願いします」


 そうして医者は、サラに今どのような状態なのかを質問する。それからしばらくして、医者は診察を終え、サラの母親と話していた。それから、医者はサラの部屋を出ていく。


「サラ……大丈夫?一応薬は塗ったし、教会で回復魔法をかけてもらったけど、まだ痛むかもって言ってたから……」


(痛むかもじゃなくて、めちゃくちゃ痛いんだけど……)


 恐らく、外傷が癒えるくらいの軽い回復魔法をかけただけなので、体内の傷はまだ癒えていないところがあるのだろう。だから今激痛が走るのだろう。教会もてきとうな仕事をするなぁと思いながら、サラは自分で回復魔法をかける。


「よし、これで全回ふ、く……」


 ベットから立ち上がろうとすると、サラはバランスを崩して倒れそうになってしまう。とっさにシャロンはサラを抱き留めた。


「まだフラフラしてるから今日は一日安静にしててね」


 そう言って、サラをベットに寝かせた。


(そういえば、オドがまだ回復してないんだった……)


 そうして、サラは目を閉じた。すると、パタンという扉が閉じられた音がした。シャロンがサラの部屋から出た音だ。

 静かになった自室に、サラだけが寝転がっている。しばらくそうしていると、昨日の光景が段々と浮かび上がってきた。


(そう言えば、あれからどうなったんだろう……)


 透明な宝石を投げられたところで、サラの記憶は途切れており、その後どうなったのかはわからない。どのようにして助かったのかが非常に気になるが、考えても仕方がない。サラがそう思っていると、窓の方から、コンコンと音が鳴った。


「あ、ヴェント!」


 窓の外にヴェントの姿を見つけたサラは、急いで窓を開ける。すると、ヴェントとともにもう一人、少女の姿をした妖精が入ってきた。


「だ、誰?」


「貴女がサラ様ですか。(わたくし)、ライラ・シクラメン。"姫"と呼ばれている者です」


「えっ?!ひ、姫…様ですか?」


「はいそうです」


 とっさにヴェントの方を見ると、「そうだ」と言わんばかりにうなずいていた。


「へぇ~……なんで姫様がうちに?」


「もちろん、お礼とお詫びを申し上げるためです」


「いやいや、お礼もお詫びもされるようなことなんてしてないですよ」


「いえいえ、このヴェントとともに私たちを救い出そうとしてくれたことと、恩があるにも関わらず、このヴェントが貴女を危険な目に合わせたことによるものです。ほらヴェント、まずは謝りなさい」


 そう言ってライラはヴェントの背中をパシンと叩く。


「……ごめんなさい」


「気持ちがこもってない!もう一回」


 どうやら妖精族の姫は、同族にだいぶ厳しいようだ。……それかヴェント限定か……


「ごめんなさい!」


「大丈夫だよ。まだまだ生きてるし……でも、なんで私生きてるんだろ?何があったのか知らない?」


 サラがそう聞くと、ライラが口を開いた。


「私たちが見たことを全部話しましょう。信じられないのならそれでも構いません」


「うん、話してほしい」


「わかりました。では……」


 そうしてライラは悪魔に連れ去られた後のことを話し始める。


* * *


「私はいいから、皆を解放しなさい!!」


「だめです姫様!あなただけは……」


 そこには、あの悪魔と、妖精たちがいた。暗くてよくわからないが、どこかの部屋のようだ。連れてこられる時には瓶の外に布がかぶせられていたので、どんな道順で、また、どんな方法でここに来たのかがわからない。


『姫様の方が利口だなぁ……俺の狙いは最初からそこの姫だ。お前らを解放できても、姫だけは譲れねぇんだよ』


「ぐっ……」


『ああ、そうやって黙って見てろ』


 すると、その悪魔は何かを思い出したようにその部屋を出ていく。しばらくして、その悪魔が帰ってくると、悪魔はこんなことを言ってきた。


『よかったなぁお前ら。もう一人のお仲間のおかげで助かるんだってよ』


 嫌な笑みを浮かべてそう言い、姫以外が入っている瓶を持ち上げる。


「もう一人の仲間……まさか、ヴェント?!」


『へぇ~、ヴェントっていうのか……ま、自分以外の真名なんてどうでもいいけどな』


 そうしてその悪魔は大きな欠伸をし、妖精の入っている瓶を机の上に置く。


『ま、取引の時間は0時だ。気長に待っとけ』


「ま、待ってください!」


『あ?』


「取引とは何ですか?」


『取引か……あのヴェントってやつからうまそうな魔力の匂いがしたんだ。その魔力を持ってる人間を約束した場所まで連れて来いって言った』


「……約束を守ってくれる保証は?」


『俺は悪魔だぞ?約束事はうるせぇ。お前らの長老も知ってるだろ』


「そうなんですか?長老」


「ああ、悪魔は契約が成立すればそれをきちんと守るやつらじゃ。そこだけは信用してもいいじゃろう……」


『ま、そう言うこった』


 そんなこんなで、時間は過ぎていく。そうして、悪魔が時計を確認したかと思うと、姫以外の妖精が入った瓶を持っていく。


「待ってくれ!姫様は……!」


『あ?昼に言っただろ?あいつが一番の目当てだ。そうそう渡せねぇよ』


「じゃが、約束は……」


『俺はちゃんと言ったぞ。"仲間を解放してやる"ってな。まぁ、全員とは言ってねぇけどな!ケヒヒヒ!!』


「そ、そんな……」


 長老が絶望していると、ライラは全員に微笑む。


「大丈夫ですよ。私一つの命よりも、あなた達の命の方が重い。私は姫という立場ですが、別に私がいなくなってもあなた達に何か災いが降りかかるわけでもない……早く連れて行ってください」


『ケヒヒヒ……姫様はだいぶ利口だなぁ。世の中の理不尽も全部受け流せそうだなぁ。羨ましいぜ』


「お世辞はいりません」


『そうかよ』


 そう言って悪魔は出ていく。誰もいなくなったその場所で、ライラは一人膝をついた。急に襲って来た脱力感のせいだ。あの悪魔としゃべっていると、蛇に睨まれた蛙のように動くことができなくなってしまう。


「はぁ…はぁ……あれは、本物の化け物です……」


 そのままどさりと床に倒れこんでしまう。極度の緊張感から、再び力を入れることができない。しばらくその状態でいると、扉の開く音が聞こえた。


(またさっきの悪魔が……)


 そう思い、そちらに目を向けた。しかし、さっきの悪魔の気配ではない。フードなんか被っていなかった。そもそもあの悪魔はフードを被るような奴なんかじゃない。


「だ、誰……?」


 そう呼びかけるが、謎の人物はまったく口を開かない。しかし、ライラの方に近づいてきて、瓶の蓋を開けた。


「た、助けてくれるの?」


 ライラがそう問いかけると、その人物はコクリとうなずいた。そのまま謎の人物はライラを手の上に乗せ、ゆっくりと歩き出す。


「……私!仲間を助けに行きたいんです!ですから、もう一人で大丈夫ですので!」


 ライラはそう言って、謎の人物の元を離れようとした。すると、謎の人物は、ライラを止める。


「どうして止めるんですか!」


 ライラがそう言うと、謎の人物はライラの前を歩き、振り返る。それを見ているうちに、信じられない考えがライラの脳内をよぎった。


「まさか……貴方も一緒に来るんですか?!」


 そんなことを口にすると、コクリとうなずく。そんなこと絶対にダメだ。あの化け物を相手にするには、それ相応の実力を持っていないといけない。悪魔同士ならまだしも、人間となると……


「ダメです!貴方は人間……」


 すると、ライラが言い切る前に、謎の人物は首を横に振った。


「に、人間じゃ…ない?」


 コクリとうなずくフードを被った人物は、証拠を見せるように、闇属性の魔法を使った。ライラは驚いた。悪魔特有の嫌な気配が全くしない。……そういえば、あの悪魔も全く悪魔の気配がしなかった。人間ならば気が付かないような違いだが、妖精や天使などの魔法生物は、悪魔と人間には隠せないような違いがわかる。まだ生きた年数が少ないような者たちだと、その違いを見分けることは困難だが、ライラは百余年生きている。もうすでに、違いを見極めるのには十分な歳のはずだ。そのはずなのに、目の前の人物は、それをあっさり否定した。魔物特有の角もうまく隠れ、悪魔特有の嫌な予感も全くしない。


「……わかりました。では、取引です。あなた達はこうすれば守ってくれるのでしょう?」


 わかった。という風に、一度頷く謎の人物。


「私の仲間を助けてください。それで、私からの代償は……」


「人間の保護」


 今まで硬く口を閉ざしていた謎の人物が、ようやく口を開く。しかし、その声は魔法によってつくられた声のようで、本当の声はわからない。


(ん?この魔法、何か違和感が……)


「どうなんだ?」


「あ、え、ええ……それで大丈夫です。では、周りの人間の保護ですね」


「ああ」


 そうしてその人物はライラの仲間を助けるためにどこかへ走り去ってしまった。それを見届けた後、ライラは先ほど感じた小さな違和感を口に出す。


「さっきの魔法……あの悪魔の魔力じゃなかった……」


 契約者がいるのだろうか?と、ライラは考えたが、ひとまず人間の保護の方が先だ。考え事は後にして、ライラは夜空を飛び回った。

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