六話「水晶が鳴る(3)」
サラは次の日もヴェントを探す。魔力探知でそれっぽい魔力を探し、町を走り回る。昨日の宝石も、何かの手がかりになると思い、一応持ってきていた。
「ここにもいない……」
この町のある程度の場所を探してみたが、どこにもいない。そして、妖精らしき魔力も感知できないのだ。そんなとき……
「おい人間!」
最近よく聞いた声が聞こえてきた。声の方向へと振り返るとそこにはヴェントが飛んでいた。
「ヴェント!……とりあえずここは人目に付くからどこか別の場所に……」
「昨日の家に夜の十二時に来てくれないか?手がかりみたいなものを見つけたんだ」
「それって夜じゃないとダメなの?」
「夜になると出てきて、朝になると消えてたから……」
「……うん。わかった」
そうしてサラはヴェントに、夜中の十二時にあの空き家に向かうことを約束し、そのままヴェントとはその場で別れた。
とりあえずヴェントは見つけたので、町を走り回ることを中断し、家に帰って体を休めることにした。
「っ~!……あ~……二日も町中を走り回るなんて、思ってもなかったなぁ……」
そんなことをサラはつぶやきながら、ベットに寝転がる。すると、昨日の疲れが抜けきっていないのか、まだ昼前だというのに眠気が襲ってくる。
「……………はっ!やばいやばい……」
だいぶ意識が途切れ途切れになってきたところで、一階から母親の声が聞こえてくる。
「サラ~?ご飯よ~!」
「は、は~い!」
眠気を無理やり押しのけ、サラは階下へと向かっていった。
* * *
「よし……お父さんもお母さんも寝ちゃったし、ヴェントの元に行こう……っと、あの宝石も一応持って行こうかな」
そうしてサラは、準備を整え、家をこっそりと抜け出した。夏の夜はかなり暑く、外にいるだけでも汗が体を伝い、滴っていく。
約束の場所に着いた頃には、汗のせいで服が体に張り付きかけていた。
「着いた〜……ヴェントが言ってた手がかりって……」
そんなことを呟きながら、サラが空き家のドアノブに手をかけようとした瞬間、とてつもない悪寒が全身を駆け巡った。暑さのせいでかいていた汗なのだが、一瞬で冷や汗になる。扉の向こうにいる何かは今までの人生の中で見てきたどんな生物よりも危険だと、サラの本能は警鐘を鳴らしていた。
「っ!?」
ドアを開けることに戸惑っていると、中からヴェントの声が聞こえてきた。
「人間?なんで入ってこないんだ?」
「……ヴェント……あなたが出てきて」
すると、ヴェントの声が途切れ、窓からヴェントが出てきた。しかし、どこかおかしい、何かに怯えるように体が震えており、今にも泣きだしてしまいそうだ。
『よう、待ってたぜ人間』
「っ?!」
そんな時、サラの後ろから声が聞こえてきた。声が聞こえるたび、空気がビリビリと震える。その瞬間、あの音の罠を仕掛けたのはこの悪魔だとすぐに分かった。
「ライト・アロ……」
『おっと、光魔法もお手の物ってか?だが、まだまだ遅ぇよ!』
「かっ……はっ……」
サラは光属性魔法を放とうとするが、その前に謎の人物に腹を思いっきり殴られる。目の前が一瞬真っ暗になり、立てないほどの激痛が体中をめぐる。
「はっ…はっ、はっ…かはっ、おぇ……」
『ケヒヒヒ!いいなぁ、お前からうまそうなマナが漂ってる!オドも相当上手いんだろうなぁ?!』
「……っ……ぁ……はっ…はっ」
『なぁ?なんかしゃべってくれよ!もうちょっと楽しませろよ!一撃なんてつまんねぇ!もっと抵抗しろ!それを俺が屈服させてやるからよぉ!』
「ぅ……はっ、ぁう…っあ」
『はぁ……やっぱり一撃でダウンする奴なんてつまんねぇな……まぁ今日は許してやる。なんたって、ごちそうだからな』
そう言って、謎の人物はサラに手を伸ばす。それを、精いっぱいの力で振り払うサラ。しかし、悪魔の力には元々敵うはずもないのに、今の状態では目の前の悪魔の手を触る事すら難しい。
「あっ……ぐっ……ら、ライト……」
『おっと、静かにしとけ。ったく、お前がまだ詠唱しないと魔法が使えない状態で助かったぜ』
ケヒヒヒ、と妙に耳に残る笑い方をするその悪魔は、片手でサラの口を塞いで、もう片方の手でサラの額に手を当てる。すると、段々とサラの体から力が抜けていく。
『……ケヒ、ケヒヒヒヒヒ!!!うめぇ!めちゃくちゃうめぇな!!』
悪魔がそう声を上げる。すると、ヴェントの声がサラの耳に入る。
「お、おい、その人間を連れてきたんだから、僕の仲間を解放してくれよ!」
「……あ~そうだったな。ほれ、やるよ」
そう言ってその悪魔は、妖精の入っている瓶をヴェントに投げつけた。それを間一髪でヴェントは受け取り、さっそく瓶の栓を開ける。
「長老!」
「おお、ヴェント!」
そうして再会を果たしたヴェントだったが、一つ、重大な事に気が付いた。
「……長老、姫様は?」
「姫様は……ここにはおらん……」
その言葉を聞いて、ヴェントは悪魔に怒る。「約束が違うじゃないか」と……
『あ?約束は守っただろ?俺は悪魔だ。約束事にはうるせぇ』
「だったらなんで……!」
『俺がいつ、"全員"解放するなんて言った?』
「は、はぁ?」
『まぁ、そういうことだ。ちったぁ頭使ってみろ。ケヒヒヒ……』
「そ、そんな……」
悪魔はそう言って、またサラの方へと視線を向ける。すでにオドを大量に奪われていたサラは、意識が飛びかけていた。このまま奪われ続ければ、死につながるだろう。しかし、悪魔はサラを殺したりはしない。オドを回復させて、また喰らおうという考えなのだろう。
(一回だけなら……使える……かな?)
しかし、余分にサラのオドを残していたのが、形勢を傾ける原因となる。
「こほっ……こほっ……」
『お~、まだ動けんのか。オドが少なくなって死にかけだってのに……』
「はぁ……はぁ……」
『まぁそのまま寝ておけって。それとも、俺が寝させてやろうか?』
そうして悪魔は手を振り上げ、サラめがけてそれを振り下ろした。その瞬間を狙い、サラはとっさに詠唱する。
「錠前!!!」
『あ?』
その状態のまま、悪魔は動けなくなる。鎖が複雑に絡み合い、動こうとすればするほど、その場に拘束される。
「い、今です!妖精さん、たち!」
そう言った瞬間、光でできた槍や矢が悪魔めがけて飛来していく。どれだけ強い悪魔と言えど、複数の光属性魔法を喰らえば、ひとたまりもないはずだ。
「これで……」
『甘ぇよ』
「?!」
突如後ろから聞こえた声に反応できず、サラはそのまま蹴り飛ばされる。元々安定していなかった意識が段々ととぎれとぎれになってくる。
「ど、どうや、って……」
『あんな弱ぇ鎖、いくらでも破壊できる』
そう言ってその悪魔はポケットから何かを取り出す。それは透明の宝石、水晶だった。それを複数個サラに投げつけ、詠唱をする。
『破壊音』
パキリという音がしたと思うと、辺り一帯に爆音が轟く。普通の人間なら鼓膜どころか、頭が割れるような音だ。それを、一人の人間に、しかも近距離でぶつける。音によって破壊された建物が瓦礫となり、サラの上に降り注ぐ。
『ちっ…契約者かよ……あ~あ、もったいねぇ。まぁ、ちょっとは楽しませてくれたなぁ……あと、そこの妖精も、始末しないとな。ケヒヒヒ!!』
そうして悪魔は、妖精の方へと視線を向けた。すでに妖精たちはその場から逃げようとしているが、悪魔がそちらへ視線を向けた瞬間、彼らの足はぴたりと止まる。まるで、蛇に睨まれた蛙のように……
『お前らは帰っていいぞ。解放するって約束したからなぁ?まぁ、捕まりたい奴だけ俺のところに来い』
そう言ってその悪魔はその場を立ち去ろうとする。そんな時、一人の妖精が動いた。
「姫様を返せ!」
「ま、待て!ヴェント!」
『あ?あ~、お前は捕まりたいのか……まぁ、あの人間を連れてきたから、とりあえずは観賞用として置いといてやるよ!!』
そうして、悪魔は口を開いた。先ほどのように水晶を使って音を出すのではなく、直接口から声を発する。
『止まれよ』
「っ?!」
『ケヒヒヒ!面白れぇなぁ!助ける方法もない癖に突撃だけしてきやがって!弱い!弱い弱い!お前は馬鹿で愚図なんだよ!』
ヴェントは憤りを覚えた。しかし、それよりも、劣等感がヴェントの心を支配する。何もやる気が起きない。このまま死んでも何も感じないかもしれない。そう思ったのだ。そんな時……
「"爆発"」
爆発が巻き起こり、ヴェントの目の前の悪魔がその爆発に巻き込まれる。不思議なことに、ヴェントと妖精たちは悪魔の近くにいたのに爆発の影響を全く受けなかった。
「な、なに?」
ヴェントがキョロキョロとあたりを見渡してみると、フードを被った人物が屋根の上に立っていた……




