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鍵はあなたが持ってる  作者: ミカンかぜ
第四章【夏に降る星編】
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一話「ガーネット家は」

 サラとアネモネが入学してから、すっかり季節が移り替わり。季節は夏。長期休暇がそこまで迫っていた。長期休暇の間は実家に帰る生徒が多い。サラもその一人だ。


「モネって私と一緒に来るの?」


「ん~……私は育ての親に会いに行こうかな」


 アネモネの育ての親。前々から聞いていたが、サラはその人物が気になって仕方がない。悪魔であることは確実だろうが、どんな容姿をしていて、どんな性格なのだろう。


「いつか私も会ってみていい?」


「……聞いてみる」


「わかった。夏休み中は会う?」


「……育ての親が行っていいって言ってくれたら会おうかな。『久しぶりだからずっといてよ~』って言われそうだけど」


「そっか……じゃあ、しばらくは会えないんだね」


「そうね」


 少し悲しそうな表情を浮かべるサラ。すると、アネモネがサラに抱き着いてきた。


「ふぇ?!なに!?」


「しばらく会えないから、今のうちに魔力欲しい」


「……ん。わかった」


 サラがそう言うと、アネモネはサラからオドをもらう。いつもよりも少し多めに、いつもよりも長めにもらう。サラの体から何かが抜けていく感じがする。


「ぷはっ……もうちょっと……」


「ちょ!それ以上は無理!また体調悪くなっちゃう!」


「む……わかった」


 サラがそう言うと、アネモネが頬を膨らませる。いつもは大人っぽいのに、サラの魔力が絡んでくるとアネモネは少し子供っぽくなる。そんなアネモネを可愛いと感じながら、サラは実家に帰る準備をする。


「サラ……」


「ん?なに?」


「危なくなったらすぐに逃げて。何をしてもいいから、逃げて。必ず私が迎えに行くから」


「うん、ありがとう」


 アネモネにそう言ってもらえると心強い。サラはそう思いながら、アネモネに笑いかける。それでも、心強いと思っていても、今まで二人がこれほど離れたことはなかったため、不安もある。


「モネ……」


「何?」


「私も……」


 そう言ってサラはアネモネを抱きしめる。アネモネの体温がサラに伝わってくる。人間よりも少しだけ冷たい体温は、夏になれば心地いい。


「冷たくて気持ちいい……」


「……それだと冬になったら冷たくて寄ってくれないのかしら?」


「まさか。そんなことは絶対ないよ」


 別に一生の別れというわけではないのに、もう会えないような雰囲気を出す二人。メアリーがこの場にいたのならノリノリでツッコんでいただろう。

 サラがそう思ってると、アネモネはこんなことを言った。


「ちょっと甘えん坊さんになったのね……」


 「さっきまでのモネもこんな感じだったよ」とサラは心の中でつぶやいた。その代わりにサラは笑いをこらえる。


「ちょっと。なに笑ってるの?」


「ううん。何でもない」


 そうして時間は過ぎていく。終業式が終わり、生徒たちは学園の校門をくぐったり、まずは自室に戻ったりしている。サラとアネモネは、すぐに学園を出ていき、家に帰るための馬車に乗った。二人の帰る方向は真逆だったため、ここでお別れだ。


「それじゃあ、また夏休み明けにね」


「ええ……サラの魔力をもらうのもしばらくお預けね……」


 二人はコソコソとそんな話をして、お互いの乗る馬車に乗った。


* * *


 それから何日か経ち、サラは生まれた町へと帰って来る。約4ヶ月、この町を離れていただけが、ずいぶんと懐かしく感じる。特に何かが変わったわけでも無いのに、全てが違うように感じる。


「あ、八百屋のおじさん」


「おお!皆!サラちゃんが帰ってきたぞ〜!」


「へ?え?」


 突然八百屋のおじさんは声を上げる。すると町中を歩いている人たちは一斉にサラの方を向いた。

 この町でサラの両親が営んでいる薬屋は結構有名で、両親はこの町で顔が広いのだ。そのおかげでサラも町の人たちにはかなり知られている。もちろん、サラがラヒューエル学園に入学していることも。

 

「サラちゃんだわ」

「学園はどうしたんだ?」

「バカねぇ、夏休みでしょ」


 そんな声たちが聞こえてくる。元々人に注目されることは苦手なのに、こうも注目されると、少し萎縮してしまう。それでも、学園で注目されてきた分、少しは苦手が克服できたのでは無いだろうか。


「わ、私、お母さんとお父さんのところに行ってきますね!」


 そう言ってサラは走り去っていく。後ろの方から町の人たちの温かい視線を感じたが、恥ずかしさのあまり振り返ることはできなかった。


* * *


「あなたぁ……」


「ん?どうしたんだ?」


「サラに会いたい……」


「また言ってる。今日で5回目だよ?まだ昼にもなってないのに……」


 サラの母親のシャロンは、愛娘に会いたいばかりに、口癖が「サラに会いたい」になっていた。ちなみにサラの父親であるヴィルが記録しているものによると、最高で42回も「サラに会いたい」と言っていた。


(今まではサラがこの町にいたからここまでひどくなかったけど……離れたらこんな感じになるんだなぁ)


 ヴィルはそんなことを思いながら、シャロンの様子を見ていると、ガチャリと扉が開いた。客かと思い、ヴィルがそちらを向くと「ただいま」と声がした。


「「サラ!」」


 二人が同時にそう言い、シャロンはサラに飛びつく。そのせいでサラはどさりと後ろへ倒れた。特に怪我をしていないようだが、シャロンはあわあわしていた。


「ごめんね、嬉しくてつい……怪我してない?痛く無い?傷薬ならたくさんあるから!」


「あはは。大丈夫だよ」


 笑いながらサラはシャロンと一緒に立ち上がり、両親に「ただいま」と告げる。


「「おかえり」」


「最近夏の長期休暇に入ったから帰ってきたんだ」


「そうなの…あら?ラミュちゃんは?」


「ラミュ?……ああ!ラミュちゃんね!えっと、親のところに行ってるの」


 アネモネがシャロンに言っていた偽名を忘れかけていたサラは、咄嗟にそのことを思い出した。


「そうなの?まぁあの子はこの町に住んでたわよね?」


「ああ、そのはずだったんだけど、親の都合で引っ越して、実家は別のところになったらしいの……だからこの夏には会えないらしいよ」


「あら?そうだったのね。残念。ラミュちゃんの親御さんにお礼をしたかったのに……」


 シャロンはそう言って残念そうに肩を落とす。確かにサラは風を引いた時や魔法を教えてもらったことなどで、たくさんの恩がある。


(こう思うと、やっぱり私ってモネにたくさん助けられたんだなぁ……)


 サラがそんなことを思いながら少しにやけていると、ヴィルがサラの頭を撫でた。


「学園はどうだった?」


「ん〜……楽しいんだけど、大変なこともあったよ」


「そうか……こっちはだいぶ大変だったぞ。主に母さんが」


「あ〜……」


 最後の一言によって、サラは全てのことを察することができた。受験しにくときですらあれだったのだ。時間が経つともっとひどくなるのは容易に想像できた。


「もうちょっと子供離れしてもいいのに……」


「まぁまぁそんなこと言わないであげてくれ。サラは父さんと母さんの間に生まれた奇跡の子なんだから」


「大袈裟だよ〜私だって周りの子達と一緒で普通に生まれたでしょ?」


「うーん……大袈裟じゃなくて……まぁいいか。とりあえず大切だって思ってることはわかっていて欲しいな」


「わかってるよ」


 ヴィルとサラがそんな話をしていると、そこにシャロンが入ってくる。


「二人とも、何の話をしてるの?私も混ぜて!」


「お母さんが毎日大変だったって話」


「それは……だって〜、サラが心配で心配で……」


「はいはい。心配してくれてありがとう」


 そう言ってサラは笑う。シャロンはそれを見て泣きそうになっていたが、ゴシゴシと自分の目を擦って笑った。


「さて、サラも帰ってきたことだし、今日は薬屋をおやすみして、遊ぶわよー!」


「「おー!」」


 ガーネット家の1日はこうして過ぎていくのであった。

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