七話「嫌な感覚」
眼帯を付けた少女。リスタは、ほとんどの時間を主の後ろをついて回っている。なぜなら、この学園では使用人兼護衛だからだ。そして、リスタは周りに生徒がいないことを確認した後、主に話しかける。
「殿下、少しお話が……」
「なんだい?」
「昨日の爆発。あの少し前に……異常を感知いたしまして……」
「そうか……あの場に名付きの悪魔がいたのかな?」
「ええ、恐らくは……ですが問題が一つ……」
「どんな?」
「その時に一瞬、そして、わずかですが……人間のオドも感知しました……」
その瞬間、アベルの表情が変わる。
「オド……というと、マナとは別の魔力だろう?」
「はい。それは基本、感じ取れるわけではないのですが……オドを使った魔法のようなものを行使するときに、我々のようなオドに敏感な生き物が察知するのです。コツをつかめば魔力探知と同じようにオドを識別できるのですが、私はいかんせん未熟なもので……」
「そうか……」
街に名付きの悪魔が出たことは大したことではない。今の時代、聖騎士団には歴代最強と呼ばれる者が所属していて、騎士団もそれに次ぐ者。女性の中であれば騎士団の歴史を見てもそれほどの実力を持つ者はいなかっただろう。それくらい、今の騎士団たちは他国や罪人、悪魔に対して、かなりの抑止力になっている。
しかし、今回最も問題な事とは、この学園内でオドが感じられるというのが問題なのだ。
「確か、名付きの悪魔と契約した者は、その悪魔の異常が使えるんだよね?」
「はい」
「そして、その悪魔か契約者のどちらかが異常を使うと、契約の際に付けられた刻印からオドが漏れ出るようになる……と」
「はい。そして、契約の際についている刻印は、普段ならどんな者たちにも見えません。しかし、オドが漏れ出ていた場合ですと、見えるようにもなります」
悪魔の契約者がこの学園に潜んでいるということは、生徒の危険が常に付きまとっているということだ。もしかしたら第一王子を支持する者が、第二王子を秘密裏に暗殺しようとしているのかもしれない。様々な考えがアベルの頭の中に浮かぶ。
「殿下……私がお守りいたしますので、どうかご安心を」
「ああ、そうだね。……それと、サラ・ガーネットとは仲良くできているかな?」
「はい。とても優しく……時々大胆なお方です」
「確かに。入学してから三日目くらいには魔法戦を申し込まれていたからね。まさか、人為的魔力暴走を使って勝つとは思わなかった。普通、あんな風に使うものではないだろう?」
「はい。犯罪者グループの下っ端が情報を吐かないように自殺するときなどにしか使いません」
「ハハッ……全く、驚かされる……」
「そうですね。あれを使ってほぼ無傷なのも、恐らくは……彼女のマナの質がかなり上質な物だからかと……とっさに張った結界の質が良かったのでしょう。それ以外も様々な工夫をしていたようですが、それが一番大きな要因だと思います」
「へぇ~……」
「サラ様の……マナの質の良さはオドの質の良さに比例します。逆もまた同じ……殿下よりも質は良いかと……」
「そうか…………もし、サラ・ガーネットが僕を殺そうとしているとわかったなら直ちに処理しろ。そうじゃないならば、こちら側に引き込むのもいいかもしれない」
「かしこまりました」
リスタはそう言ってアベルの近くから離れていく。今日、リスタはサラと一緒に魔法の練習をする予定があるからだ。今のところサラに敵意はないことはわかっているので、魔法を教えているのだ。
特に天使という種族であるリスタは、光属性の魔法が得意属性なので、回復魔法を覚えるためにサラはリスタに魔法を教えてもらっているのだ。
「サラ様、おまたせしました」
「あ、リスタさん。すみません、今日も魔法を教えてもらって……」
「いえいえ。私も好きでやっていますのでお構いなく」
「ありがとうございます」
そう言ってサラはリスタにぺこりと頭を下げる。
「そういえば……昨日の爆発の時に、悪魔の魔力を感じまして……」
「えっ……?」
「私は天使なので、そういう魔力には少し敏感と言いますか……まぁ、条件を満たさないとわからないですけど」
「そ、そうなんですか。その…悪魔って、まだこの街にいるんですかね……」
「わかりませんが、恐らくまだいるでしょう」
リスタがそう言うと、しばらくの沈黙。その間、サラは焦燥を感じていた。昨日、アネモネが異常を使った時に放出したオドを、リスタに感知されていたのだ。そして、アネモネがオドを放出していると、契約者であるサラからも少しだけオドの放出が行われる。逆も同じくだ。だから、もしかしたらサラのオドのことも感知しているかもしれない。
「それと……その悪魔は契約者がいまして……その契約者がこの学園にいるみたいなのです。もし、怪しい人がいれば、私に言ってもらえると対処しますので……」
「わかりました」
内心冷汗をだらだらと流しながら、サラはリスタと話す。「それは私とアネモネです」などと誰にも言えないその事実が、リスタにばれた暁には、サラとアネモネは終わりだろう。
「あの~……リスタさんって悪魔を討伐したことは……」
「主様を狙う悪魔がいたので、そいつらを何体か……主様は魔力の質がいいので。サラ様には劣りますが、主様も中々ですよ」
「名付きの悪魔とかは……」
「はい。五体ほど」
「す、すごいですね……」
「ありがとうございます。それと、私から忠告があります。質のいい魔力を持った生物は、魔法生物からすれば高級な食べ物。正直私もあなたの魔力には惹きつけられます。私は……魔力を供給してくれる人がいますので、まだ耐えられていますが、魔力を供給してくれる生物がいない悪魔は、必ずと言っていいほどあなたを狙うでしょう。ですので、それには十分に気を付けてください」
「は、はい……肝に銘じておきます」
「大丈夫ですか?少し怯えてるように見えますが……」
「だ、大丈夫ですけど……こっ、困ったら言いますね!」
だいぶ怪しさ全開だが、悪魔のことを聞いて怯えているとリスタは勘違いしてくれたみたいだったようで、今日一日は悪魔に対抗する魔法を教えてもらったサラだった。
特に回復魔法である"ヒール"は、人間や天使のように光属性に耐性のある者には回復を、悪魔のような光属性に耐性のない者にはダメージを与える魔法が一番いいということで、重点的に教えてもらったのだった。




