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鍵はあなたが持ってる  作者: ミカンかぜ
第三章【宝石を探して編】
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五話「弱くて脆い(2)」

「くそっ!あの悪魔が死んだ……名付きの悪魔だったって言ってたくせに、ただのガキに殺されやがって……」


 そう愚痴をこぼして、ドカンッと壁を殴った。男の耳には、小さな子供の悲鳴が入る。それすらも腹立たしい。


「黙れ!」


 そう男が怒鳴った時だった。男の右腕に痛みが走る。見て見ると、一本のナイフが刺さっている。そして、声が響いた。


「めった刺しにするって言ったから……ここでしてあげるね?」


 男が後ろを振り返ると、あの少女が立っていた。しかも、頭に悪魔の角を携えて……


* * *


「お、お前も悪魔だったのか!」


「ええ……」


 短くそう返し、アネモネは氷で作ったナイフを男に複数本投げる。男は必死にそれを避けるが、アネモネは投げてはナイフを生成しを繰り返す。やがてナイフはかすりだし、一本ナイフが刺さると、次々と刺さっていく。男から鮮血が飛び出し、アネモネは無慈悲にそれを見守ってるだけだ。


「あっ、がっ!も、やめ……」


「止めないわ」


「くそっ……傲慢なあく、ま……め……」


「そうだよ。悪魔は傲慢で、いじわるで、矛盾したことしか言わない。誰かに指摘する癖に、自分のことは治さない。だけどそれでいい。それが悪魔(わたし)の生き方。人間とは違うってことをよーく覚えておいて」


 そう言ってアネモネは直接ナイフを持ち、男を刺し殺そうと近づいていく。もうすでに生命の灯が消えかけている人間に、拘束しても無駄なだけ。……そう思ったことが、アネモネにとって誤算だったかもしれない。


「渦巻く魔力よ……爆ぜろ……」


 すると、男の魔力が一瞬にして乱れ、体の中から熱が膨れ上がり、爆発した。辺りはすべてが破壊され、めちゃくちゃになっていく。それはあまりにも大きく、近くに住んでいる人たちはその場所が爆発する瞬間をとらえていた。爆発に巻き込まれる者もいた。その爆発の中心にいたアネモネもまた、例外ではない……


* * *


 一方そのころ、カリーナとシャーロットと合流したメアリーは、爆風によってけがをした人の避難を手伝っていた。


「大丈夫ですか?あっちにいるカリーナという女の子が回復魔法をかけてくれますので、そちらに……」


「あ、歩けますか?」


 メアリーとシャーロットは避難する人の誘導。カリーナは命にかかわりそうなけがを負った人や、骨折をしてしまった人に回復魔法をかけていた。三人がそうしていると、やがてそこに騎士団が集まってくる。


「君たち、ああ、市民のことを逃がしてくれていたのか。もうこれからは我々が受け持つ。君たちも早く逃げなさい」


「「「はい」」」


 そうして、三人はその場から離れていく。……その前に、シャーロットは一人の騎士にこんなことを聞いた。


「私の友達が、行方不明になって……灰色の髪と、金色の目の女の子なんですけど……」


「……わかった、探してみよう」


「ありがとうございます!」


 そうお礼を言い、シャーロットはメアリーとカリーナと一緒にその場から離れていく。シャーロットは心配を抱えながら……


「先輩方……」


「何?」


「あ、あれ……!」


 シャーロットの心配はよそ見をした瞬間に晴れた。空をちらりと見たシャーロット。空には、何かシュルエットが浮かんでいた。それは、鳥にしては少し大きい。それに、足元にも何か大きなものを運んでいる。段々と近づいて来るその影は、近づいて来るにつれて正体がわかってくる。灰色の髪に金色の目の女の子。アネモネが空を飛んでいた。


「アネモネさん!!こっちです!こっち!」


 シャーロットがそう大声を出すと、アネモネは気が付き、笑い、そうして……落ちた。

 大きな袋を抱えたまま、真っ逆さまに……


「ひぇ?!ま、まってまって!!まってぇええええ!!!」


 焦るシャーロット。しかし、頭はパニックになっていても、体が勝手に動いた。水があたりに漂い、集まり、大きな水滴のようになる。それは弾力を持ち、指でつつくとぷにぷにと気持ちいいだろう。

 そうしてアネモネはそこに落ちる。奇妙な水滴はアネモネを包み込み、落下の衝撃を和らげる。


「アネモネさ~ん!」


 シャーロットは声をかける。しかし、返事はない。すると、アネモネが持っていた大きな袋がごそごそと動いた。


「ひぇ?!」


 シャーロットがその光景を見て驚き、固まっていると、大きな袋の中からは十人ほどの子供がはい出てきた。多数の子供たちはシャーロットを見ると驚いて、逃げようとしていたが、見るからに年長の二人の子供が、その子供たちをなだめていた。


 それから数分後、騎士団が駆け付け、事情を少年から聞いていた。アネモネは見た目にけがはないのだが、魔力の使い過ぎの症状がでていただけのようで、一時間もしないうちにパチリと目を覚ました。


「あれ?ここどこ?」


「私たちの部屋だよ」


 声のした方向を見ると、そこにはサラが立っていた。いつの間に家に帰ってきたのだろうと、アネモネが思っていると、サラが説明してくれる。


「シャーロットさんから聞いたの。モネが子供を抱えて空から落ちてきたって」


「あ~……ちょっと端折ってる気がするかもしれないけど、そんな気がする」


「それより、あの爆発でしょ?その前の時に異常(アノマリア)使ったでしょ?リスタさんと別れた時にちょうど手の甲に紋章が浮かび上がってきたからびっくりしちゃった。もうちょっと早かったらマズかったかも」


「それはごめんなさい。……う~ん、まぁ、明日にでも話すわね。それより今は魔力!異常(アノマリア)も魔法もたくさん使って疲れた!」


「……いつもお母さんみたいなのに、今日は子供みたい」


 そう言ってサラは苦笑する。それでもサラはアネモネに魔力を譲渡する。それが契約だから仕方がない。


「モネ……」


「……ん?」


「また明日にシャーロットさんと一緒に買い物行ってあげたら?」


「……あ~、そう言えばそうだった。……うん、そうするわ」


 そう言ってアネモネはベットにゴロンと転がり、また目を閉じた。そうして、今日起こったことをサラにちょっとだけ話した。


「……悪魔は人間よりも強い。人間は私たちよりもずっとずっと弱い。弱くて脆い。だけど……なんだか……う~ん。なんていえばいいんだろう?……こう、強い光を持ってたの。どんな状況でも、ずっと目に光が灯ってる。どんな状況でも……どんな状況でも……」


「フフッ……人間(わたしたち)悪魔(モネたち)よりもずっと強いかもね~?」


 からかうように笑うモネは、決して冗談では言っていない。人間は確かに悪魔よりも者が多いと思う。でも、ずっと光を灯している人を、サラは一度見たことがあるから。簡単には消えないその炎を持っている人を見たことがあるから。どんな状況にだって立ち向かい、解決策を見つけようとするその姿勢は、どの種族にだって負けていないと思っている。絶対ではないかもしれないけれど、そうであってほしい。とサラは思っている。


「……サラ」


「なに?」


「……これあげる」


 そう言ってモネは赤い宝石のようなものを差し出す。"それ"からは魔力があふれており、触っている間は力が湧き出てくるような感じがする。


「これなに?」


「魔石。まだ実家にいた時に本で見たでしょ?」


「うん……もしかして、悪魔と出会ったの?」


 サラがそういうと、アネモネがだるそうにコクリとうなずく。そうして目をうっすらと開き……


「あいつ……気に食わなかったなぁ……というか契約者がゴミだし、頭悪いしで最悪の二人だったなぁ……」


 一体どんな状況を切り抜けてきたのだろうと、サラは思い、小さく吹き出す。それを見て、モネもつられて笑った。

 しばらくして、サラが夕食のために自室を出た後、アネモネはつぶやいた。


「明日……シャーロットに謝ろ」


 そうしてアネモネは目を閉じた。そよそよと吹く風の音。それを聞いていると、段々と意識は夢の中へと落ちていった。

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