二話「先輩たちと」
アネモネがシャーロットの財布を探しに行ってから約一時間が経った。そろそろお昼ごはんの時間だ。
「アネモネさん、遅いなぁ……」
犯人を捜しているにしても、さすがに遅すぎる。もしかしたらずっと探しているのかもしれないが、これだけ時間をかけているのなら、一旦帰ってくるものではないのだろうか?
ひとまず、シャーロットはアネモネのことを探しに行こうと思い、座っていたベンチから立った。
「えっと……アネモネさんはこっちにいったよね」
そうしてシャーロットはアネモネが走っていった方向に歩いていく。今日は休日で人通りが多く、小柄なシャーロットではその人ごみに流されてしまいそうだ。
「あぅ……」
さらにシャーロットはアネモネみたく堂々と人混みの中を歩くことができない。これは昔からの癖だ。どうしても人前では緊張してうまく行動できない。そうして縮こまっていると猫背になってしまい、元々あまり大きくない背丈が、更に小さくなってしまうのだ。だから、誰もかれもシャーロットがそこにいることに気が付かず、ぶつかって行ってしまう。
「うへぇ……」
ようやくシャーロットは人混みを抜けたかと思えば、さっきのベンチからさほど離れていなかった。その事実にうなだれていると、誰かから声を掛けられる。
「あれ?カリーナ、この子ってみたことない?」
その声にシャーロットは顔を上げると、そこには赤毛の少女と、銀髪の少女が立っていた。
「だ、誰ですか?」
「あ、ごめん。私はメアリー・イフェスティオ。ラヒューエル学園の二年生だよ」
「私も同じく二年生の、カリーナ・ミラーです」
「わ、わ、私は、シャーロット・フェリーチェで、です。一年生です!」
そう自己紹介をするシャーロットを、メアリーはまじまじとシャーロットのことを見ていた。しばらくして、メアリーは何かを思い出し、カリーナに言う。
「この子、アネモネちゃんと一緒にいる子じゃない?サラちゃん以外の子と友達だなんて……私、嬉しい!」
「メアリー。あなたはアネモネさんの保護者じゃないでしょう?」
「でも~……せっかくの後輩なのに~!」
そんなやり取りを見て、シャーロットはクスリと笑う。
「あ、ご、ごめんなさい。笑うつもりはなかったんですけど……」
「大丈夫ですよ。確かにメアリーは面白さの塊みたいなものですから」
「ねぇ、それってほめてる?けなしてる?」
「もちろん……」
「褒めてるよね?」
「けなしてるに決まってるじゃないですか。逆にそれ以外ありえません」
「ひどくない?!」
そんなやり取りを見て、またシャーロットは笑ってしまう。それを見て、メアリーとカリーナもほほ笑んだ。それを見て、シャーロットは察した。今自分は心配されていたのだと。思い込みかもしれないが、さっきの自分はきっと心配が顔に出ていたのだろう。
「あ、えっと……ありがとう、ございます」
「ん?何のこと~?」
「ええ、何のことでしょうか?」
そんなことを言いつつも、二人はほほ笑んだままだ。そんな二人に感謝の念を抱く。それと同時に、申し訳なさも抱いた。そんな時ふと、アネモネの言葉が頭をよぎった。
『貴女はもうちょっと人を頼ることを覚えなさい』
「っ!……あっ、あの!……先輩方に手伝ってほしいことが……」
そう言うと、メアリーは目をキラキラさせて、シャーロットの方を見ていた。
「カリーナ聞いた?聞いた?!先輩だって!嬉しい~!」
そう言ってメアリーはシャーロットに抱き着く。メアリーは女性の中でも背丈がかなり大きいので、背丈が小さいシャーロットに抱き着くと、シャーロットがメアリーの体に隠れてほどんど見えなくなってしまった。
「く、苦しいです……」
「あっ、ごめんね。つい……」
「い、いえ、大丈夫です……って、それよりも!助けてほしいんです!」
必死そうにそう言うシャーロットを見て、二人は真面目に話を聞く。シャーロットはそんな二人に、今起こっている状況を説明する。アネモネはシャーロットの財布を探しているのかもしれない。しかし、なぜかわからないが、胸が無性にざわつくのだ。
「分かった。私はこっちを探すから、シャーロットちゃんとカリーナはあっちを。見つけたらアネモネちゃんを連れてきて」
「はい!」
「ええ、わかった」
「……でももし、アネモネちゃんが面倒なことに巻き込まれてたら、助けてあげよう。何か見つけたらまたここに集合!」
そう言ってメアリーはシャーロットとカリーナと別れた。そうしてアネモネの捜索を始める。最初は今まで歩いてきた道、その次にギルド、通ってきた道の周りにある店。様々なところを探し回った。そして、裏路地を探し回っていた時、シャーロットはとあるものを見つける。
「これって……」
「何か見つけたの?」
「これ、私が財布に付けてた魔道具です。ひんやりして夏にはちょうどいいんですよ」
「ちょっと見せてみて」
そうしてカリーナはシャーロットの魔道具を観察する。なんてことのない、ただの魔道具だ。魔力を込めてもシャーロットが言っていた効果しか発揮しない。
「本当にどこに行ったの?」
少しの手がかりを見つけたが、あまり進展はしなかった。
* * *
一方メアリーの方も、何の証拠もない状況で探し出すしかない。手当たり次第に走り回って探すしかないのだ。
「魔力探知……は、私苦手だし、もう走って探すしかない……」
そうしてメアリーは町中の人にも声をかけていく。しかし、ほとんど目撃情報がない。あったとしても、全く意味のない物ばかりだ。
「あの、すみません。灰色の髪で、金色の目の女の子見ませんでした?背丈は私と同じくらいで……」
「えっと、見ていませんね」
「そうですか。ごめんなさい、時間を取ってしまって」
そうしてメアリーがその場から離れようとした瞬間、"それ"は起こった。
――ドオォオンン!!!!!
遠くで爆発が起きた。だいぶ離れているのにも関わらず、辺りに爆発で発生した風がこちらにも吹いてきた。黒煙が上がり、その場所は恐らく悲惨なことになっているだろう。
「なんで爆発?!」
周りの人たちは爆発の方向を向いたり、爆発した方向と反対方向に逃げたり、街を警備している騎士たちは現場に向かったりしている。
「何があったの……?ま、まぁいいや、とりあえず二人と集合しよう」
そう言ってメアリーは集合場所へと走っていった。




