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鍵はあなたが持ってる  作者: ミカンかぜ
第二章【学園入学編】
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十話「人為的魔力暴走」

 時間は経ち、魔法戦を挑まれたサラは、魔法戦をする場所へと向かっていく。

 魔法戦とは、魔法を主に使う模擬戦のことだ。特殊なルールは特になく、剣を使って戦う模擬戦と何ら変わりない。ただ、一つだけ明確に違うところがある。それは、事前に魔法戦の会場に魔法で細工をしておいてもいいということだ。罠を仕掛けるということも、魔法師には必要な技術として正式なルールが作られている。

 つまり、だ。サラは油断しきって移動しているが、あの貴族に約束された場所にはトラップが仕掛けられている可能性は高い。


「サラ様」


 サラが渋々約束された場所に行こうとしていると、後ろからリスタの声が聞こえてきた。


「アネモネ様が探していましたが……アネモネ様には伝えていないのですか?」


「あ、はい。モネに言うと多分、向こう側がまずいので…………」


「……そうですか」


「それに……」


 そうしてサラは悪意のある薄ら笑いを浮かべて、こんなことを言った。


「私がこの手でやらないと、気が済まないんですよ」


「……お強いですね。そんな度胸を持っているのならば、勝っても負けてもいい方向に転がっていきそうです」


「いや、ほんとは怖いですよ?でも、ちょっとあの人たちにはムカついただけなので」


 アハハと口からは笑い声が出ているのだが、サラの目は笑っていない。


「が、頑張ってくださいね」


 この時、サラは初めてリスタを圧倒した瞬間であった。


* * *


「サラはどこにいるの?」


 アネモネは今朝、朝食を食べているときに話していた女子生徒に話しかける。名前はシャーロット・フェリーチェ。少し気の弱い少女だ。


「さ、サラさんって、特待生のですか?」


「そう。そのサラ。で?知ってる?」


「あ、あの……」


 そう言ってシャーロットはアネモネにひそひそと囁く。


「さ、さっき聞いたんだけどね、サラさん、魔法戦挑まれたんだって……」


「……魔法戦ってどこで?」


「えっと、北校舎の……あっ、待って」


 北校舎と聞いた瞬間、アネモネはすぐに教室を出ていく。


(さっきから人が少ないと思ってたけど、まさか魔法戦があるなんて……チッ……もうちょっと人間の話に興味持つべきだった……)


 そうしてアネモネが北校舎の魔法戦をすることができる場所へと着くと、何人もの生徒が集まっていた。この場所は言うなれば、闘技場のようになっており、周りに席が配置されている。そして、この場所は先生に申請を通せば、生徒は自由に使えることができる。


「サラ……」


 この場所は特殊な場所で、結界が張られており、申請で通された人間以外が緊急時以外に入ることができない。無理やり壊せばいいのだが、それはさすがに目立ちすぎてよくないだろう。


「あ、アネモネさん……っはぁ……はぁ……」


 息を切らして来たシャーロットを置いて、アネモネは一番前の席へと向かっていく。


「あ、ま、待って…はぁ……」


 それから、アネモネは下の光景を見守っていることしかできなかった。サラなら勝ってくれるだろうと信じて。


* * *


 サラが約束の場所へ着くと、元来た道がふさがれた感覚がする。この場所は特殊な結界により、緊急時以外、または、勝者が出た時以外は出入りができないようになる。元々奴隷と魔物を戦わせる時のための特殊な結界だったため、この場所から逃げる方法は基本的に勝敗を決める以外にない。

 結界が開く条件としては、自分または相手が死ぬ。自分または相手が気絶する。自分または相手が降参する。の三つだ。しかし、殺すという行為は国の法律によって禁止されているので、気絶か降参が現実的だ。


(今日は殺しても……だ、ダメダメ!)


 サラは今日、この魔法戦のことを考えすぎて、授業をまともに聞いていなかった。そんな戦い一色の頭で叩き出す答えは基本的に倫理観に欠けているものだ。


「そろそろ始まる……」


 周りを見て見ると、生徒たちがこの魔法戦を見に来ている。サラと相手がその場に到着すると、大量の視線が二人に注がれた。


(うぅ……視線が痛い…………って、モネ?!ま、まぁ、こんだけ騒がれてたら気付いてたよね。ごめんね、黙ってて……)


 一人で反省会をしていると、サラの足元に大きな落とし穴が空いた。サラがギリギリで地属性の魔法を使い、足場を形成したが、形成できていなければ、今頃落とし穴に落ちて怪我でもしていただろう。一応回復魔法は使えるが、あまり魔法を使ってマナを消費したくはない。


「ああ、落ちなかったんだな。まぁ誉めてやろうじゃないか」


 いちいち上から目線の言い方に、イラっとするサラ。アネモネがこの場にいればこの男子生徒は即、負けを認めていただろう。それくらいこの男子生徒とアネモネには実力の差がある。しかし、サラはそうもいかない。魔法は使えるが、他の推薦で入学した生徒たちよりも魔法の使い方は下手なはずだ。


「それより、なんで私に勝負を挑むんですか……私よりもっとすごい人が……」


 そう言うと、サラの頬を氷の矢が掠める。ツーと頬から血が流れる。その相手の行動で、サラはしゃべることをやめた。戦いの場で相手に話しかけるのは、力の差があって初めてするべきだと、サラは思った。そうじゃないと、負ける。


(あの人の得意属性が何かわからない……とりあえずこっちも得意属性で……)


 そうしてサラは風の刃を三つほど作り出し、相手に向けて放つ。人間に初めて攻撃魔法を放つが、魔物よりも狙いずらい。魔物は図体が大きいものたちが多いうえに、動きも鈍いやつらが多いので、そのせいだろう。


「当たらない……なら、もうちょっと強くしてもいいのかな……」


 初めての対人戦は困ることが多い。うっかりミスをして、相手に怪我をさせないようにしなければ……と、そこまで考えてサラは思った。リスタの言っていたことを実行するならば、ここで全力で叩きのめしてもいいのではないか。と……


「どうした?怖気づいたか?」


「そんなわけない……」


 そうしてサラは魔力探知の魔法を展開する。アネモネに教えてもらったおかげで、以前の自己流の魔力探知よりも魔力消費量が大幅に減少し、魔力を探知できる範囲がかなり広がった。


「うん……罠はあと五つ」


 サラが魔力探知で探していた物は、さっきの落とし穴のような罠だ。あの罠は魔道具によるもので、魔力を含む魔道具は、魔力探知でどこにあるのか知ることができる。

 そうしてサラはその罠めがけて走った。魔道具の上に立つと、落とし穴が再びできる。それを警戒して、先に展開しておいた魔法が発動し、落とし穴ができた瞬間に、地面が埋まった。


「うん……多分全部の罠が落とし穴。だったら踏まなければいいか……」


 そうしてサラは、男子生徒の方へと視線を向けた。そして、リスタに向けたあの薄ら笑いを向けて、言う。


「覚悟してよね……」


 その瞬間、熱風があたりに吹き荒れた。炎と風の魔法を使った、複合魔法だ。複合魔法は二種類以上の属性を同時に使う魔法のことで、今回のように、炎と風を使って火力を高めるという芸当もできる。

 そうしてサラは、拳くらいの炎と風の球に魔力を込める。すると、みるみるうちにその球はサラよりも何倍も大きな炎の球となった。かと思うと、今度はその球は収縮していく。


「何だそれは……その炎は……」


 限界まで圧縮されたその炎は、さながら宝石のようだった。そうしてその炎の球をサラは相手めがけて投げた。


* * *


「なんだあれ。遅すぎる……こんなんじゃ簡単に避けれるだろ。魔力で威力を強化したとしても、当たらなきゃ意味ないのに……」


「ほんと、あの子特待生って聞いてたのに、がっかり」


 そんな声がアネモネの周りから聞こえてくる。シャーロットにも聞こえていたようで、アネモネの顔を見ては慌てふためいている。


「まぁ、所詮、属性が多く使えるってだけだったんだよ。強さで推薦をもらったんじゃないんでしょ」


 そんな声を聴いて、アネモネの理性が千切れそうだった。それを済んでのところで、シャーロットが止めてくれる。


「き、きっと大丈夫です。サラさんなら!」


「……そうね……サラもサラなりの考えがあるんでしょ」


 シャーロットのおかげで少しだけ怒りが静まったアネモネは、もう一度サラの方を見る。するとアネモネの目には、何かをつぶやいているサラの姿が写った。遠すぎて聞こえないが、魔法の詠唱でもしているのだろう。しかし、サラは相手が攻撃してきても一切動じず、詠唱しているばかりだ。


「サラ!どうして!」


 アネモネが大声を出しても、全く見向きもしない。魔法戦などどうでもいい。今からサラを助けに行こう、と、アネモネが身を乗り出そうとすると、シャーロットがアネモネの裾を引く。


「アネモネさん……あ、あの魔法って、なんでずっと残ってるんですか?」


 そう言ってシャーロットが指さしたのは、先ほどサラが放った炎と風の複合魔法だ。それがずっと魔法戦の会場の中心でとどまっている。アネモネがそれを見ていると、何か嫌な予感がアネモネを駆け巡った。そうして魔力探知で魔力の流れを見る。すると、炎と風の複合魔法である球体は、サラの手の中にあった時よりも、魔力の流れが乱れている。そこでアネモネは気付いた。サラができる魔法の中で、最も威力を高めることのできる方法。それは……


「シャーロット!伏せて!」


「えっ?!わぶっ!」


 アネモネはシャーロットの頭をつかんで、強制的に伏せさせた。


* * *


(くそっ!こいつ、どれだけ攻撃しても全く動じない!普通、何か反応を示すだろ!中庭では俺にさんざんビビってたくせに!)


 そうしてサラの相手の貴族こと、ジルは、攻撃魔法をサラに連発する。何かの魔法の詠唱をしているようなのだが、結界などは張られていないようで、全ての攻撃を喰らってはいるのだが、一切の反応を示さない。まるで、何もないかのように……


(こいつ、詠唱だけして何をするつもりなんだ?それに、詠唱なんかしないでも、こいつは魔法を使えるはずだろ?)


 ジルが今の状況に困惑していると、ようやくサラが反応を示した。


「最初、言ったよね。覚悟してねって……」


 その瞬間、ジルの背筋にはゾクリと悪寒が走った。その時、熱風がここら一体を包み込んだ。ジルが後ろを振り返ると、先ほどサラが放った炎の球が浮いている。


「? なぜまだ消していない?ただの魔力の無駄だろう?」


「それが間違いです。私のやりたかったことはこれですよ」


 そう言ってサラは最後の詠唱を口にする。


「無差別の攻撃を浴びろ。"人為的魔力暴走(マナ・バースト)"!」


 すると、先ほどサラが投げた炎の球体が膨張し、爆発した。魔法戦の会場には強力な結界が張られているので、爆発による被害はないのだが、熱風があたりに吹き荒れた。


「よかった、防御結界の準備もしておいて……なかったら私も大けがだよ……」


 サラは自分用の防御結界を張っていたので、全くの無傷だが、相手はどうなったかわからない。恐らく結界を張れただろうが、爆発の威力に耐え切れずに防ぎきれていないかもしれない。


「とりあえず砂埃を払って……あっ、あの人倒れてる……」


 一応殺していないか心配になり、サラは相手に駆け寄り、脈を測ってみると、問題なく生きているようで今は気絶しているだけのようだ。とりあえず魔法戦は終わりを迎えた。死人も出なくて何よりだ。


「あとで先生に怒られそうだなぁ……」


 と、そんなことを言いながら、今の状況よりも、あとの状況に怯えるサラであった。

前の話のサラがぶつぶつとつぶやいていたのが人為的魔力暴走の詠唱です。アネモネにばれたら止められそうだと思ったサラは隠していました。

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