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鍵はあなたが持ってる  作者: ミカンかぜ
第二章【学園入学編】
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八話「まだ我慢」

 学園の朝は早い。アネモネはどれだけ疲れていても、体が勝手に朝早くに起きるので、あまり支障はないが、人間であるサラは違う。昨日のことで疲れていたサラは、二回起こしてもまた寝てしまった。


「サラ、サラ起きて」


「ぅん……あとちょっと……」


「……」


 無防備なサラに、悪戯をしたくなっただけだ。理由はない。悪魔は気まぐれで生きる生物だ。理由を求めることが間違いだろう。


「サラ……早く起きないと、私が全部奪っちゃうよ……」


「ひゃい!?」


 耳元でささやいた言葉に反応して、サラは飛び起きる。そして、アネモネの方を向いたサラの顔は、真っ赤だった。


「な、何を……」


「起きたなら顔洗って。それで着替えたらすぐに食堂に行きましょ」


「は、はい……」


* * *


 朝食を取りにサラとアネモネは食堂に来ていた。そこには見知った顔もいた。


「おはようございます。サラ様、アネモネ様」


「リスタさん!おはようございます。向かいで食べてもいいですか?」


「どうぞいくらでも」


「ありがとうございます」


 そう言ってサラはリスタの向かいに座った。アネモネは嫌な顔をしたが、サラが誘ってみると、渋々サラの隣に座った。


「アネモネ様もおはようございます」


「……」


 アネモネはリスタに挨拶をされてもそれを無視して朝ご飯を食べているだけだ。それを見てリスタは早々に諦め、サラに話しかける。


「サラ様、昨日はよく眠れましたか?」


「あ、はい!それにしてもこの学園のベットってすごいんですね!フワフワで柔らかくて寝心地がとっても良いんです!そういえば……リスタさんって貴族に仕えてるんですよね。こういうベットで寝てたりするんですか?」


「ええ。本当は使用人は寮のように同じ部屋に数人が集まって寝泊まりをするのですが、私は主様からのご好意で、私には勿体無いほどのお部屋を使用させていただいているのです。そんなことをしなくてもよろしいのですが……」


そこまで言うとアネモネが「ごちそうさま」と言って立ち上がり、スタスタと足早に部屋へと戻っていってしまい、その場にはサラとリスタが残された。


「あ、あはは……」


 サラは苦笑いを浮かべ、朝食のパンをかじった。

 さすが名門の学園。朝食まで美味しい。それからすぐにスープやおかずも平らげてしまい、気付いた時には目の前の皿にご飯はなかった。


「美味しいですか?」


「はい!リスタさんの主様はこれよりも美味しいものを食べてるんですか?」


「美味しいかどうかはわかりかねます。主様と私の食事は違いますので」


「じゃあ、リスタさんがいつも食べてるものと、これはどっちが美味しいですか?」


 そう言うとリスタは少し困ったような表情を浮かべ、「すみません。天使と人間の味覚は違うんです。だから答えてもあまり意味はないかと」と言った。

 少し人間味のある表情をしたリスタにサラは驚きながらも話す。


「あ、いや、別にリスタさん基準で良いので教えてください。」


「そうですか?なら……いつもの方が満足感もありますし、何よりも摂取効率がいいので」


「そうなんですか?リスタさんがどんなものを食べてるのか気になります」


「そうですね……また次の機会にお教えしますよ。そろそろ戻らないと授業に間に合わなくなります」


 そう言われ、サラは時計を確認する。時間にまだ余裕はあるが、余裕があって損をすることはないだろう。ここはリスタの言うことに従うことにした。


* * *


 時間は過ぎていき、昼休み前の授業。この授業の内容は基礎的な魔法だった。特待生として入学したサラ、そして、悪魔のアネモネには分かりきった内容だが、サラはそのことをしっかりと聞き、アネモネは先生の話を聞き流していた。


「――だから火の魔法を使う時には気をつけろよ……っと、そろそろ時間だな。それじゃあ午後の授業は終わり」


 そうして先生が教室を出ていくと、何人かの生徒たちは集まり、話し始める。話をしている生徒たちの目線は、サラへと集まっている。それが意味するのは、もちろんサラの噂のことだろう。視線がずっとサラの方向に向けられているので、なんとなく居心地が悪いと思ったサラは、お昼ご飯のために買っておいたパンを持って、中庭に出ていった。


* * *


「うへぇ~……魔法を学べるのはいいことだけど、やっぱり同い年の人がたくさんいる場所は疲れるなぁ~……」


 そんな独り言をこぼしながら、サラはパンを一口かじる。このパンは今朝、食堂で買ったもので、中には生クリームとジャムが入っているので、とても甘い。いつも食べているパンは堅いし、特に味付けもされていないので、このパンを見つけた時はよだれが垂れそうになっていた。


「おいしい……」


 朝に買った時は、まだどんな物なのかわかっていなかったので、サラは一つしか買わなかったのだが、これはもう一つ食べたくなる。そう思い、サラは食堂へ向かうため、中庭のベンチから立ち上がった。すると……


「お前が噂の特待生だろ?」


「はい?」


 サラが立ち上がり、前を向くと、そこにはいかにもという感じのガラの悪そうな生徒が二人の取り巻きと一緒に立っていた。


(こういうシチュエーション、娯楽小説で見た!)


 本当にこんなことあるんだ。と思いながらも、サラはその人たちを無視しようとすると、強引に肩をつかまれた。


「痛っ!な、なんなんですか?!」


「おい特待生、お前の魔法の腕、見せて見ろよ」


「い、今ですか?」


「いや、ちげぇ。俺と戦え」


「え?」


 ということで、サラは絡んできた男子生徒と魔法戦で戦うことになってしまった。ちなみにこの学園には魔法戦をするための設備が整っており、誰がいつ使ってもいいというルールになっている。


「きょ、強制ですか?」


「ああ。貴族の俺が庶民のお前の相手をしてやるんだ。光栄に思え」


(理不尽過ぎない?!)


 この学園に入学する前にわかっていたことだが、やはり貴族の中には庶民を見下している人もいるということだ。しかし、その理不尽に対して言い返すと、貴族の権力で何をされるかわからないので、素直に従うしかない。


「こ、光栄です……」


 心の中では目の前の相手の首を絞めながら、サラは嘘まみれの言葉を吐く。


「そうだろう?それで、魔法戦をする時間だが、明日の授業が終わった後にしてやろう。優しい俺がお前に準備の時間をやる」


 目の前の男子生徒からその言葉が出てきた瞬間に、サラは手が出そうになったが、震える右手をそっと左手で静止する。


(危ない危ない……落ち着いて……)


 そうして精神統一していたサラを見て、絡んできた男子生徒の周りにいた取り巻きはこんなことを囁いていた。


「ジル様。こいつの手、震えてますよ。ジル様の気迫にビビってます。明日の魔法戦、余裕の圧勝ですね」


 その言葉に、サラの理性のタガは外れた。明日の魔法戦はボコボコにして、あわよくば周りの取り巻きも挑発して魔法戦に巻き込んでまとめてボコボコにしてやりたい。と、そう思ったサラだった。


「ジル様、そろそろ帰りましょう。俺たちはこんなやつと違って忙しいんですから」


「ああ、そうだな。こんな庶民と違ってな!はっはっは!」


 人生約16年分の中で一番イライラしたであろう出来事を経験したサラは、思いっきりベンチを蹴り飛ばしそうになったが、ギリギリで踏みとどまった。今日はギリギリで抑えることが多い気がすると思いながら、サラは少しにやけていた。なんたって明日になれば、こんな我慢をせずに済むのだから……


「絶対ボコボコにしてやる~!」


 そんな声が中庭に響き渡った。

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