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鍵はあなたが持ってる  作者: ミカンかぜ
第二章【学園入学編】
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六話「入学式と天使のつぶやき」

 ついにサラとアネモネはラヒューエル学園の制服に身を通す。ついおととい届いた制服は、まだ自分の形に合っておらず、少し硬い感じがする。


「それじゃあ、準備は整った?」


「うん」


「それじゃあ今日から……」


「「入学だ!」」


* * *


「今年も多くの人にこの学園を選んでもらえてうれしい限りです――」


 ついにラヒューエル学園の入学式だ。今は学園長の話を聞いているところである。二人とも静かにその言葉を聞いている。しばらくすると、学園長の話は終わり、今度は生徒会長の話になった。


「ようこそラヒューエル学園へ。僕は現生徒会長の――」


 そうして入学式は終わりを迎えると、今度は自分たちの教室へ移動するときだ。サラとアネモネは二人とも同じクラスで、1年2組だ。


「モネ、一緒のクラスだね」


「そうだね」


 小さな喜びを共有しながら、二人は教室へと入っていく。教室の中にはもうすでに何人もの生徒が話をしている。もう知らない人と仲良くなったのか……とサラが感心していると、先生らしき大人が教室に入ってきた。すると、教室にいる生徒たちは全員自分の席に着き始める。サラとアネモネも皆と同じように席に着いた。


「はい。全員揃ってるわね。それじゃあ私の自己紹介をしましょう。今日からあなた達の担任の、ロベリア・ファラディ。よろしくね」


 眼鏡をかけていて、恐らくこの教室のどの生徒よりも小さいだろう。しかし、アネモネはロベリアに秘められたその魔力に魅せられていた。この人間は上質な魔力を持っているのだ。


(それでもサラの方がもっといい魔力持ってるなぁ……)


 サラの魔力が上質なのは、生まれつきだ。しかし、ロベリアは生まれつきとは違う。魔法を使い続けていくうちに、質の高い魔力をため込むようになっていったのだろう。基本的に魔法を使っても、魔力の質は変わることはない。つまり、ロベリアのような人は稀なのだ。


「それじゃあ今年使う教材を配るわね」


 アネモネは教材を受け取りながら、この学園にある魔力について分析していた。探知できる数が少なく、魔力の容量が多い魔力のほとんどは先生。魔力の容量がまだ少なく、探知できる数が多いのはほとんどが生徒だろう。その中でまばらに魔力の容量が多かったり、魔力の質が高いものは、才能を持っている生徒だろう。

 そんなことを考えている時、アネモネはありえない者を見つける。


(……は?あの魔力って……普通より弱いけど、間違いない)


* * *


 アネモネは授業が終わると、すぐに別クラスへと移動した。目的のクラスの前を通ると、目的の人物がいた。


「あいつ……実技試験の時の……」


 見るからに位の高い少年と、眼帯を付けた少女を見つけ、アネモネはその二人を見つめた。少年は気付いていないようだったが、眼帯を付けた少女はこちらを見た。少女の瞳は見えないが、こちらを見たとアネモネは確信した。


「マズっ……」


 そうしてアネモネが逃げようとすると、サラがアネモネに声をかけてくる。


「モネ。もう、どこ行っちゃったのかと思ったよ……」


「サラ。そういうのは後で……ここから離れるよ」


「え?な、なんで?!」


 そんなサラの言葉も聞かずに、アネモネはサラを連れて、眼帯を付けた少女のいる教室から離れていく。


「っはぁ……はぁ……はぁ……どうしたの?モネ……」


 サラがアネモネにそう聞くと、アネモネは暗い表情をして、サラに話し始める。


「サラ。さっきの眼帯の女、いたでしょ?」


「え、あ、うん……あの子がどうしたの?」


「あいつ……天使族だ……」


「え?!あの神話の?」


「……神話はただの妄想なんかじゃないよ。それに、人間の言葉に"火のないところに煙は立たぬ"って言うでしょ?」


「ええ。そうですね」


 サラとアネモネがしゃべっていると、その間に一つ声が増えた。


「うわっ?!」


「どうしたのですか?そんなに驚いて」


 眼帯を付けた少女は首を傾げ、サラたちに疑問の眼差しを向ける。この天使を相手にしていると、人間の常識が欠けていることが目に見えてわかる。


「サラ・ガーネット様と、アネモネ様ですね?」


「さ、様?……そうだけど……」


「……そんな敵意むき出しの目をしないでください。よければ仲良くしましょう」


 抑揚のない声で、少女はそう言った。


「申し遅れました。私、リスタ・ノートです。よろしく」


 そう言って眼帯の少女、リスタは手を差し出してくる。握手を求めているのだろうが、アネモネは全くその手を取ろうとしない。仕方なく、サラがその手を取った。


「よ、よろしくお願いします……」


「はい。よろしくお願いします」


「ちょっとサラ!そんなやつと仲良くしないで!」


「え、あ、……う…ん?」


 肯定しずらい空気の中で肯定できる者はとてつもなくメンタルが強いのだろう。しかし、サラはそんなメンタルを持ち合わせていないので、肯定とも否定ともとれる曖昧な返事をする。


「どうして仲良くしてはいけないのでしょうか?何か理由が?」


「あんたが気持ち悪いのよ!人間の常識を覚えてから人間界に来なさい!」


「……アネモネ様もずいぶん人間らしくないですね」


「は?」


「一般的な人間であれば、サラさんのように少しうろたえたりするものです。私の主も動揺を隠そうとしていましたが、私には見え見えです。……となると、人間ではない何か……ということになりますが?どうなのでしょう?」


「ちっ……はぁ……なんで初日からばれないといけないんだよ……」


「えっ、ちょ!モ……ネ?」


 サラはアネモネが悪魔だということを明かすのだと思っていたが、予想とは違う答えをアネモネは出した。


「ご察しの通り、私はエルフだよ」


 サラはてっきり、悪魔の角を見せるのかと思っていたが、その代わりに作り物の長い耳をさらした。


「エルフ……にしては金髪ではない。ダークエルフとエルフの混血ですか?」


「お~、さすが天使。って、こんなこと誰でも知ってるか」


 この世界には人間の他に人間に似た種族がいる。それが悪魔だったり、天使だったり、エルフと呼ばれる種族だったり……そういう者たちは、自分から人間に接触しようとする悪魔以外はあまり人前に姿を出さず、俗世離れしている物が多いのだが、人の生活に慣れている者たちは訳アリが多い。


「ハーフエルフ。いつの時代も蔑まれる種族ですね……」


「そんなのはお互い様でしょ?地上に堕ちてきた天使さん?」


「……」


「ちょ、ちょっと待って!いったいどういうこと?」


 話について行けないサラは、二人に事情を簡単に説明してもらうように求める。


「……普通、天使はこの地上に降り立つことはない。だけど、異端だと認識されれば、天使は神々に堕とされる。そうでしょ?天使さん?」


「……」


「ちょ、ちょっと、モネ、そんなこと……」


 すると、リスタは少し顔をうつむかせて、こんなことを言ってきた。


「そうなんですか?」


「は?」


 その答えはアネモネからすると、予想外の答えだった。悪魔は天使や神々の生きる世界をよく知らない。が、アネモネの育ての親が長く生きた悪魔だったので、天使のことや神々のことをよく知っていたのだ。その知識は本物だった。はずだ……


「私、記憶喪失なんですよ。私は使用人として生活をしていますが、主に拾われた数年前。それ以降の記憶がない。まるで霧がかかっているように……」


 そう言ってリスタはため息をつく。


「……まぁ、私の過去などどうでもいいことです。それよりも今を大切に。そして、明日を大切にしたほうがよっぽど生活を楽しめます」


「……あっそ」


 そうしてアネモネはリスタから逃げるように、サラと一緒にどこかへと去ってしまった。そこに残されたリスタは、何が悪かったのかを分析する。


「今のは何が悪かったのでしょうか?サラ様は少し打ち解けてくれたようですが、アネモネ様は少々気難しい方です……何か手土産でも持っていった方がよろしかったでしょうか……」


 そんな天使のつぶやきは風に乗ってどこかへと消えて行ってしまった。

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