五話「合格通知」
ついにラヒューエル学園への合格者発表の日がやってきた。合格通知はあらかじめ指定しておいた住所へと配達されるようになっており、二人の合格通知が来る場所は、グレイの自宅であった。そして、合格通知が来るまでの期間。二人はラヒューエル学園がある街にずっと泊まっていたのだ。その時の分の宿泊費もグレイが出してくれるらしい。
「はぁ~……ついにだねぇ……」
「ええ。まぁ、サラなら大丈夫でしょ?」
「そんなに期待されても……うぅ、自信なくなってきた……」
二人がそんな話をしていると、泊っている部屋の扉がノックされた。「どうぞ」とアネモネが促すと、この宿の主人が手紙を二通持ってきて、部屋へと入ってきた。
「あなた方二人に手紙を渡してほしいという人がいまして……どうぞお受け取り下さい」
「ありがとうございます」
「では、ごゆっくり」
そう言って宿の主人は部屋を出ていった。部屋には手紙を受け取った二人がいる。受け取った手紙の封には、豪かな魔法師の杖と、"魔力"の象徴する蘭の花が使われていた。その紋章はラヒューエル学園が使っている物。 つまり、ラヒューエル学園の合格通知だ。
「つ、ついにだね……」
サラがドキドキしながら慎重に手紙の封を切っていると、アネモネはもうすでに封を切っていた。この悪魔には合格か不合格かどうかはどうでもいいらしい。
「あ、合格だって。私が合格ならサラは合格でしょ」
アネモネはそんなことを言って、サラの持っている手紙を取り上げる。サラが手紙の封を切る速度が遅いので、アネモネがすぐに手紙の封を切り、結果をサラに見せつけた。すると、サラはへたりとその場に座り込んだ。
「どうしたの?!」
「よかった~!」
そうしてアネモネがサラの合格通知を見てみると、"合格"の文字が書かれていた。これで晴れて二人ともラヒューエル学園に入学だ。
「お祝いとして何か食べに行かない?」
「うん。そ、それよりも先にグレイさんに報告しよう」
「あ~……あの聖騎士ね……サラだけで行ってきて」
聖騎士には悪魔の変装に対して勘のいい人が多数いる。1,2回くらいなら騙せるのだが、3回目くらいから聖騎士は何か違和感を感じ始める。6回目からはほぼ確実に悪魔かどうかを見分けることができるのだ。しかも、その勘は聖騎士の強さや歳に比例していく。経験が勘を成長させるのだ。
「あの人団長でしょ?そろそろ私に違和感を感じてるはずだから、できるだけ会う機会は避けたいの」
「わかった。じゃあ私一人で行くよ」
そうしてサラが部屋を出ようとすると、アネモネはこんなことを言ってくる。
「あっちょっと待って!私のことを聞かれたら、ご飯食べに行ってるって言っといて。それじゃあ私はこの辺りの魔物狩ってくるから」
「あ、うん。いってらっしゃい」
そうしてアネモネは先に宿屋を出ていった。残されたサラは二人分の合格通知を持ち、宿屋を出ていった。
* * *
「っはぁ~……疲れた……」
サラはグレイの元へ、合格の知らせを持っていった。今はその帰りだ。どうしてサラが疲れているのかというと、グレイは聖騎士団団長で、いつも多忙だ。なので、家にいる頻度は少ない。しかし、今回はサラたちのために少々休暇を取って家にいてくれたのだが……
「ほかの騎士さんたちもいるとは思わなかった……」
「あの団長が推薦する人」という理由で、色々と質問攻めにあったのだ。それだけではまだよかったのだが、アネモネのことも色々と聞かれ、アネモネの素性を隠すのに必死になり、神経がすり減った。
「モネ……どこに行ったんだろう……」
そんなことをつぶやいていると、後ろから声をかけられた。
「あ~!サラちゃん!」
振り返ると、見覚えのある人物がこちらに走ってきていた。赤い髪に、深い海のような青い目の少女、メアリー・イフェスティオだ。
「メアリーさん?!」
「この前のプレゼント、どうだった?」
「あ、やっぱりいらないって言われました……だから私が使ってます」
「そうなの……あ、その子は今どこに?」
「食べ物を食べてくるって言ってたので、レストランかどこかにいると思います」
「ちょっと会ってみたいな~」
二人がそんな風に話していると、メアリーはサラの持っている手紙に興味を示した。
「それってラヒューエル学園の合格通知でしょ?みせてみせて~!」
「あ、どうぞ」
そう言ってサラはメアリーに自分の合格通知を見せる。
「すごいじゃん!それじゃあこれからは私の"後輩"になるんだね!」
「ん?」
今聞き逃してはいけない言葉を聞いた気がする。そう思い、サラはメアリーに聞いてみた。
「メアリーさんはラヒューエル学園の生徒なんですか?」
「そうだよ~。あれ?言ってなかったっけ?」
「初耳です」
「あれ?それじゃあもう一回自己紹介しようかな。ラヒューエル学園の2年3組。メアリー・イフェスティオ。メリーでいいよ」
その自己紹介にサラが唖然としていると、メアリーはサラの手を握ってくる。
「私ね。後輩に憧れてたんだぁ!ねねね!わからないことがあれば私に聞いてよね?約束だからね?」
「わ、わかりました」
グイグイ来るメアリーにサラは目を回しながら、メアリーの話を聞いていると、また誰かの声が聞こえてきた。
「サラ~!……またあの人に絡まれてる……」
「お!この前のサラちゃんの連れだ~!あ、もしかしてあなたが例の子?」
「? 例の子って何ですか?」
「サラちゃんが櫛をあげたけど『いらないって』言った子」
「あ~……確かに私ですね……」
「へぇ~……確かに髪が綺麗……朝に髪とかしてないの?」
「まぁ……」
「え~!いいなぁ。どうやったらこんなに綺麗な髪になるの?」
「生まれつきなんでわからないですけど……」
それからアネモネはメアリーにつかまり、日が沈むまで二人はメアリーと話していた。ほんとに無限に話題が出てくるので、二人とメアリーが別れてから、アネモネはメアリーに"話題生成器"というあだ名をつけていた。少し……いや、大分失礼である。
* * *
二人の後輩と話した後、メアリーはラヒューエル学園の寮に戻っていた。ラヒューエル学園は全寮制で、長期休みにしか自分の家に帰ることができない。そして、そろそろ入学式なので、帰省していた生徒たちがラヒューエル学園の寮に戻ってきているころだろう。……メアリーはこの街に家があるので帰省してもしなくても、ほとんど変わらないが……
「サラちゃんとアネモネちゃんか~……二人とも絶対いい子だなぁ……」
メアリーがそんなことをつぶやくと、メアリーの寮部屋の扉が開いた。そして、ルームメイトのカリーナ・ミラーが顔をのぞかせる。
「お久しぶりです。何事もなかったでしょうか?」
「うん。あ、そうだ。カリーナにいい知らせがあるの!」
「何でしょうか?」
「ちょっと前に後輩と知り合って、今日街で偶然出会ったんだけど、二人とも可愛いし偉いの!」
「後輩……というと、今年入ってくる一年生の方々ですか?どんな人たちなのです?」
「えっとねぇ……サラ・ガーネットちゃんっていう子と、アネモネちゃんって子。サラちゃんは闇属性以外の魔法が使えて、アネモネちゃんは上級魔法を使いこなすらしいの!それと、アネモネちゃんに苗字が無いんだって。昔はそういう人がたくさんいたらしいけど、いまだに苗字がない人なんて珍しいよね~」
「そうでしょうか?私がいる教会の近くに孤児院がありますが、孤児院の子たちは苗字がありませんよ」
「そうなの?」
そんな会話をしていると、メアリーはもっと先に言うべきことを思いだした。
「あ、そうだ!こっちの方がすごいんだけど……その二人は聖騎士団団長のグレイさんから推薦を受けたらしいよ?」
「そうなのですか?ならばとても優秀な二人なのですね」
そう言ってカリーナはほほ笑む。その二人に期待を寄せているのだ。そして、恐らくその二人は立派な魔法師になるだろう。もし魔法師にならないとしても、輝かしい未来を生きるのではないか?とカリーナは予測する。
「その二人。ぜひ私も見てみたいですね」
「でしょ?入学式の日に会えるかなぁ?」
「入学式の日に会えなくても、いずれ会えますよ。焦らずに行きましょう」
「そうだよね。それじゃあ今日はもう寝よう。カリーナは今着いたばかりでしょ?」
「はい。馬車に乗ってきたので、まだ体は清潔ではないですが……」
「それじゃあお風呂に入って、早く寝よう。明日は一緒に買い物でも行かない?」
「いいですね。そうさせていただきます」
そうして二人はお風呂に入り、眠りにつく。その夜、二人は、入学式の日を楽しみにしながら眠りについた。
 




