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鍵はあなたが持ってる  作者: ミカンかぜ
第二章【学園入学編】
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二話「受験(1)」

「サラ~!うわ~ん!」


「ちょっとお母さん?!」


 サラの母親はサラが家を出ようとすると、サラに泣いて抱き着いてきた。今日はサラとアネモネがラヒューエル学園がある街へと出発する日だ。


「ほら母さん。サラも困ってるし、そろそろ離してあげなよ」


「い゛や゛だ~~!!!」


 サラのことを離そうとしないサラの母親を見ながら、アネモネはサラに耳打ちをする。


「……サラのお母さんこんな人だっけ?」


「いつもこんな人じゃないんだけど……たまに暴走してこうなるの……」


 やれやれという顔をして、サラは無理やり母親を引きはがす。それからサラは母親と父親に向き直る。


「お母さん、お父さん。また長期休みに帰ってくるから、それまで待ってて」


「うぅ……ぐすっ……サラぁ~……」


「はいはい。母さん、もうそろそろ二人を行かせてあげよう。それとラミュちゃん。サラをよろしく」


「はい。それじゃあサラ、行こう」


「うん。それじゃ!またね!お父さんお母さん!」


 そうしてサラとアネモネは馬車乗り場へと向かっていく。そのぶんのお金はグレイが負担してくれているので、あまりそのあたりは気にしなくていい。それに、二人の学費もグレイが負担してくれるらしいので、本当にグレイには感謝しかない。


「サラ、この馬車よ。さっそく乗りましょ」


 そうしてアネモネはサラをエスコートし、馬車に乗せ、自分もその後に乗る。しばらくして二人を乗せた馬車は進み始めた。


「モネ……私昨日から眠れてないから……」


「もう……はしゃぎすぎよ……って、もう寝てる……」


「……」


「……おやすみ、サラ」


 そう言ってアネモネはサラの頭を撫でた。そうしてアネモネは外の景色を見る。悪魔は飛ぶことができ、その方が移動手段としては効率的だ。だからアネモネは移動するときは基本的に空を飛んでいた。だから、こんなふうに陸からの景色をじっくりと眺めることはなかったのだ。


「空から見てた景色も、陸から見てみたら違うわね……」


 それからアネモネはしばらく景色を眺めていると、妙な感覚に襲われた。


「……?」


 どう表したらいいのかわからないが、とりあえず表すとするならば、重い物が体にのしかかっているような感覚と、ふわふわと浮いているような感覚が同時に来ている感じだ。


「一応結界でも張っておこうかな……」


 その判断が正しかったのかはわからないが、とりあえずアネモネが感じた奇妙な感覚は消え去っていた。


「……」


 そんなことがあってから、アネモネは警戒するためにラヒューエル学園に着くまでは眠らなかった。そのせいで少し神経をすり減らしてしまったが、特に問題はない。

 まずは宿を取り、そして昼食や夕食を取ってから今は宿の部屋に二人でいる状況だ。


「さ、明日から受験よ。今日はちゃんと寝てね、サラ?」


「うん。それじゃあおやすみ!」


 そう言ってサラはすぐにベットの中にもぐってしまった。


「う、うん。切り替え早いね」


 ついに明日からは受験が始まる。受験は二日に分かれていて、一日目は筆記試験。二日目は魔法の実技だ。サラは一日目の筆記試験がほとんど免除されているため、アネモネよりも早くに終わることとなる。魔法の実技は二人とも同じくらいに終わるだろう。


「それじゃあ私も寝ようかな」


 そう言ってアネモネも眠りについた。


* * *


 朝起きたサラは体を伸ばし、ベットから降りる。もうすでにアネモネは起きているようだ。起きたばかりで寝ぼけているサラは、アネモネにもたれかかる。


「おはよ。もたれかからないでまずは顔洗ってきて。それから朝ごはんちゃんと食べてね」


 そんなセリフを聞いて、サラはこんなことを思った。「モネって……お母さんみたいだ」と……


「……モネってさ……」


「何?」


「子育てしたことある?」


「え?ないけど……」


「ふ~ん?」


 完全に雰囲気がお母さんみたいだと思いながらサラは顔を洗い、部屋に置いてある椅子に座る。すると机の上にサンドイッチが出された。


「ありがとう。いただきます」


 そうしてサラは朝ごはんを食べ終わった後、昨日準備しておいた荷物を再確認し、アネモネと一緒に荷物を持って宿の外に出た。


「サラ。道分かる?」


「うん。こっち」


 そうしてサラはアネモネを案内する。サラは方向音痴でも何でもないので、特に迷うこともなく学園へと着くことができた。


「私は一つ目のテストで終わるから、終わったら先に帰っておくね」


「うん。……それじゃあ……絶対合格しよう!」


「おー!」


 そうして二人はそれぞれの受験会場へと向かっていく。サラとアネモネが筆記試験を受けるところは別々なのだ。

 そうしてサラは受験会場へと入っていく。ラヒューエル学園の外もそうなのだが、やはり内装もサラが住んでいた街の建物とは比べ物にならないくらい豪華な場所だった。


「それじゃあテスト用紙を配る。合図があるまで開かないように――」


* * *


 筆記テストを終えたサラは、街の中を少し歩いていた。今日が休日だからなのか、それともこの街にいる人が多いからなのかわからないが、通りに人が多いように感じる。それに比例するように、お店も多い。そんな街にサラが興奮して、いろいろな店を見て回る。さすがに高そうな店は怖気づいて入れはしなかったが、裕福そうな人たちが入っていくところを何回か見た。


「あのお店は魔道具を扱ってるんだ……あっちは綺麗な服……綺麗なのに安い!……あっちは食べ物!」


――グー


 食べ物の店を見つけた瞬間、サラのお腹が鳴った。まだ朝ご飯を食べて二時間しかたっていないというのに……


「全部が美味しそうに見える……」


 しかし我慢をしながらサラはまた店を見回っていく。すると、とある店のとある物が目に留まった。


「あ、この櫛かわいい」


 そうしてサラはその櫛を手に取る。自分用に買ってもいいが、アネモネに買ってあげてもいいかもしれない。と言っても、アネモネはこういう物を使わないと思うが……


「こういうのは気持ちが大事……多分……」


 そう自信なさげにつぶやきつつ、しばらく悩む。すると、後ろから声をかけられた。


「どうしたの?」


「わ、ひゃ?!」


 サラの口から情けない声が出てしまった。後ろの人の距離的に聞かれてしまったので、恥ずかしさでサラの顔が真っ赤に染まる。湯気が出てしまいそうなほどに真っ赤だ。


「あ、あの……な、なんでひょうか?」


 動揺しまくったせいで噛んでしまった。そのせいでもっと顔が赤くなる。


「一回落ち着こうか」


「はい……」


 サラは呼吸を整え、話しかけてきた少女と話し始める。


「ど、どうしたんですか?」


「それはこっちから聞きたいよ。どうしてここで立ち止まってるのかなぁ?って思って……あ、その櫛が買いたいの?」


「あ、えっと……」


「お金ない?それなら私が買ってあげようか?」


「いや、お金はありますけど……」


「じゃあ買えば?この櫛、おすすめなんだ」


 そう言って少女はサラにその櫛を差し出した。


「その~……贈り物としてあげたいんですけど、友達が使うかどうかわからなくて……」


「使わないなら君が使えばいいんじゃない?その時はその時だよ」


「う~ん……じゃあ買ってみます」


 そう言ってサラはその櫛を買った。その後に店から出ると、あの少女が店の前で立っていた。


「あ、出てきた。それじゃあちょっとお話ししようよ~」


「えっ……あっ……」


 予想外のことを言われ、サラは固まってしまう。初対面の人にそんなに話しかける勇気などサラは持っていなかった。アネモネは強制だったので別だが……


「私はメアリー・イフェスティオ。メリーでいいよ。君は?」


「私はサラ・ガーネットです……」


「君はどうしてここに?」


「えっと……受験に来てまして……」


「受験?!それなら時間過ぎてない?!」


「あ、えっと……」


「ほら、道教えてあげるから!急いで!」


「え、あの……」


 勘違いしているようだが、サラはもうすでに筆記試験は終わっている。そのことを伝えたいのだが、初対面の人にあんまり大きな声は出せない。


「ほらこっち!」


「あの、私……特別推薦なのでもう筆記試験終わりました……」


「え?!」


 ドッキリなら100点満点のリアクションをするメアリーは、特別推薦を受けているサラに質問攻めをしてくる。


「どうして特別推薦を受けたの?誰からの推薦?!テストどうだった?!」


「え……あ、の……魔法が好きで、推薦はグレイさんから……」


「グレイさん?!あの金の騎士?!すっご!!」


 ぶんぶんとサラの手を握手して振り回すメアリーのせいで、サラの目が回ってくる。メアリーはいい人なのだが、よく言えば元気、悪く言えばめんどくさいタイプの人だ。恐らく暴走すると手が付けられなくなるタイプだろう。


「それに特別推薦なら普通に上級魔法とか使えるの?」


「いえ、使えませんけど……闇属性の魔法以外は初級程度なら使えます」


「え?すっごい!!」


 そのまま興奮しているメアリーは無限に話題が出てくるし、サラが少し無礼なことを口走ってしまっても、優しく受け流してくれるので、かなり助かったのだが、話が途切れることはなく、アネモネに救出してもらうまではずっとメアリーと話していたサラだった。

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