第特別話 その4 やっぱり浪漫は大事ですよね 前編
「……んで、まずあんたらなにもんなわけ?」
「先生、お願いですから常識を忘れたんなら今すぐ取りに戻ってください」
「これが私の常識なんだけど?」
「どんな常識ですか!!……そして! 姉さんも目の前にお菓子を出されたからってそんなに遠慮なくバクバク食べないでくれ!!」
「え〜だって〜出されたのならちゃんと食べないと失礼じゃない?……あ、これおいしい〜♪」
「人の話聞けよ……」
まったく知らないはずの他人の家で……それも家主達が目の前にいるにもかかわらず、尊大にソファーに腰掛けるどこまでも俺様な先生と周りをまったく気にせずに目の前にあるお菓子をニコニコとした笑顔で次々と口の中に放りこんでいく姉というどこまでも、そしてどこでも相変わらずな二人に思わず溜め息をついてしまう。
わかっていた、このような事態になることは容易に想像できたことだ。
だが、それと同時にこの二人は例え目の前でいきなり弾丸が飛び交おうともこのペースを絶対に崩さないということもどこか確信しているので、今考えるべきはこの二人を止めることではなく、この二人が起こすであろう問題をどこまで抑えることができるかである。
……正直、立場上これを考えるのは逆ではないのか? とひそかに心の中で思ったが、すぐに今更だ、と諦めた。
「え、えーと優斗君? この人たちは……?」
さすがの由宇達もこの二人には呆気にとられたのか、ただ唖然としている者、興味深そうに二人を見ている者、そして今の由宇のように者と反応はさまざまであった。
「本当にすいません由宇さん……こっちのテーブルの上に足をかけて、ふんぞりかえっている方はこの前お話をしたオレの先生で……こっちで遠慮なくお菓子を食べているのはオレの……姉……です」
「えーと……と、とっても個性的なお姉さん達ね」
「由宇さんばっさり言ってくださって結構ですよ……色々とおかしいって……」
ははは……と力なく笑いながら言う。
むしろその方が救われるかもしれない。心の中は由宇達には申し訳ない気持ちでいっぱいなのだから。
しかし、一度そう思うと姉さん達だから~などと言い訳をして二人を野放しにしている場合ではないように思えてきた。
「先生。せめて、皆さんの前なんで、その偉そうな態度でいるのはだけは止めてくださいよ」
駄目はもともとと意を決して先生を注意してみた。いくら先生達とは言えどしっかりと話をすればきっとわかってくれるはず……そう信じて。しかし……
「悪いけどこれは必要なことなのよ」
「何でですか? 理由は?」
その答えは否。なぜかと問い詰めてみると、先生はかなり真剣な表情をしながらこう言った。
「威嚇よ」
「やらんでいいです」
「もしくは牽制かしら?」
「そっちも必要ない」
「そんなことよりも〜私はあなた達の周りをふわふわ浮いているネコちゃんたちが気になるんだけど〜いったいなんなのかな〜?」
「あ、あなた、私達が見えてるの!?」
「あれれ〜みんなは見えないのかしら~?」
「姉さんも……頼むからこれ以上この場を混乱させないでくれ……」
優斗のそんな懇願するような呟きもむなしく、結局この場はいつものごとく混沌に包まれてしまった。
「……それで私たちには“神力”という力がありましてー……」
「なんなのそれ~? 超力? 変身なんかもできるの~?」
「姉さん。そのネタは最近の子にはわからんよ。あと邪魔だからしばらく黙っててくれ」
あれからしばらくというもの実に大変だった。
実体化をしてなくて見えないはずの神子と月を姉が見てしまったせいで「あんたらいったい何者なの?」と先生が興味を持ってしまいその欲望がいつ爆発するのか、と優斗は話をしている間とにかく気が気ではなかった。
「……なるほどね。だいたい分かったわ」
「……ほんとにわかってるんですか?」
「当たり前じゃない。その力によく似たことが書かれたレポートをどっかで見たことがあるわ。ただ、あまりにも突拍子のないことが書かれたやつでほとんど相手にはされてなかったけど……ま、私もその一人だったんだけどね」
だが、そんな言葉とは裏腹にその顔は獲物を前にして舌舐めずりをしているような表情をしていた。
……まずい。これはひじょーにまずい。
今の状況を例えるならば飢えた肉食獣の前にか弱いエサがなにも知らずに遊んでいるようなものだ。とにかく由宇達が危ない状況なのであるため、優斗はまず先生の注意をそらそうと話しかける。
「そういえば先生。どうしてこんな朝早くにここに来たんですか? オレを迎えに来た……というには早すぎますし……」
「はぁ? 何であたしがあんたのために迎えに行かなくちゃいけないわけ。ここに来たのは別の目的、あんたはただそこに偶然いたからついでに拾ってやっただけよ」
せっかくの楽しみを邪魔されて機嫌を損ねたのか、ジロリ、と不機嫌を包み隠さずにおもいっきり睨まれてしまったが、そんなことをいちいち先生相手に気にしてはきりがないので無視をした。
しかしここで気になることが一つ。自分を迎えに来たのが目的ではないとしたらいったい何をしにここに来たのだろうか? 姉と由宇達、双方とも反応からして顔見知りということはまずあり得ないだろうし。
「じゃあなんでここに来たんですか?」
「それは……来たわね」
「は? いったい何……」
優斗がなんなのかと質問しようとしたが、それは叶わなかった。なぜならばその場にいた全員が突如として消え去ってしまったからだ。
きがつけばめのまえにビルほどのおおきさがあるねこがいましたまる
「な、な、なんじゃこりゃああああぁぁぁ!!」
あまりの事に某刑事のような叫び声をあげてしまう。それに気がつけば自分の周りは由宇達の部屋ではなく、なにもないただ真っ白な世界が広がっているだけの場所になっていた。
「せ、先生!? これはいったいどういうことなんですか!? それにここってどこですか!?」
先ほど話そうとしていた“ここに来た目的”とはおそらくこれのことだろうと思った優斗は先生を問い詰める。すると先生は……
「説明面倒」
まさかの説明放棄をしたのであった。
「さすが光ね~これは私でも想像できなかったわ~」
「いや、これは想像できる方がおかしいでしょ……じゃなくて! 先生! どういうことかちゃんと説明を……!」
「あ、あのー……」
優斗がもう一度先生を問い詰めようとした時、今まで黙っていた由宇が声をかけてきた。
「あの子なんだかさっきからこっちを見てませんか……?」
そう言って由宇が指さした先にいたのはおそらく自分達よりも前からここに居座っていた小さなビル程の大きさがある猫であった。
「先生。色々あって忘れそうになってましたけど、あれって大丈夫なんですか?」
「そうね……あの図体だから、もし遊ばれでもされたら間違いなくタダではすまないと思われるわ」
「ちょっと!? それって……!!」
「だから優斗!」
「は、はい!?」
「これを使いなさい」
そういって先生は懐からある物を優斗に手渡してきた。
それはピンク色をした円柱状の棒でその柄の先には一目で安物とわかるような大きな紅いルビーがくっついている物体であった。……そう、言うなればそれはレストランの入り口とかで売っていそうな安物の魔法少女の杖を想像させる物であった。
「……先生」
「何よ?」
「これは何ですか?」
「わからないの? 変身ステッキよ。魔法少女の」
「これをオレにどうしろと?」
「変身してあいつを倒しなさい」
「な、何言ってんですかあなたは!! つか! 先生がその手に持っている何ですか!!」
おそらく変身ステッキを出した時に一緒に出てきてしまったのだろう、その手には普通の形をしてないどこかのRPGやシューティングゲームに出てきそうなとても強そうな拳銃が握られていたのだ。
「ああ、これ? これは……」
つまらなそうにそれに視線を移したに先生は次の瞬間、バキバキと硬い物をつぶした時にしか出ないような音を出しながら片手でそれをいとも簡単に握りつぶしてしまった。
ゆっくりとその手を開いていくとそこあった物はもうすでに原型を留めていなかった。
「今なくなったわ」
「…………」
正直「もうあなた一人でこれなんとかできるんじゃね?」というツッコミを入れたい気持ちになったが、「そんなことをしてもこの状況は変わらんだろう」という心の声に従い口には出さなかった。無駄な労力は無いにこしたことはないのだ。
非常に不本意ではあるが、もはや覚悟を決めるしかなかった。
「ゆ、優斗君?」
「みなさん下がってください。オレが何とかしてみます……たぶん」
変身ステッキを握りしめながらみんなの先頭に立つ。
正直不安でいっぱいだ。なにが不安なのかと問われると色々ありすぎて何を言えばいいのかわからないくらい多い。先生がサポートをしてくれるらしいがそれも不安要素の一つであるためどうしようもない。
だが、この状況(たぶんおそらく……だと思うが)自分しかどうにか出来ないのだ。やるしかない。
「それじゃあ先生お願いしますよ」
「わかったわ。……ああそうそう、言い忘れてたけど変身した後しっかりと名乗りを上げないと変身が強制解除されちゃうから忘れないように」
「はぁ!? なに言ってん……!!」
「はい、変身」
文句を言いかけてる優斗を無視して手元にあるパソコンのボタンを押す。
次の瞬間、手に持ったステッキから思わず目を覆ってしまうほどの光が放たれた。
その光も次第に収まっていき視界が確保されていくと優斗は自分の身の回りは一変していることに気づいた。
まず自分の着ている服。それが白い……どこまでも白い衣装に変わっており、胸には大きな宝石のような紅い球体が付いており、あとはただひたすらに全身にフリルとレースの付いている服になっていた。
他にも下は短いスカートに白いストッキング。さらにはしっぽも二つに増えていたのだ。
ネコ耳としっぽのオプションが付いているが、その姿はまさしく魔法少女……だが、その心の方はいたって普通(?)の男子高校生であることを考えると哀れで仕方がない。
「ほらー早く名乗りを上げないと変身が強制解除されちゃうわよー。頭にもうデータが入ってるから忘れてるなんてこともないでしょー」
「あーとりあえず死にたい……」
そんな優斗の心情も無視して物語は加速していく……のか?
クロ「どーも、やっぱり約束は守れなかったぜ! なクロです」
会長「いい加減そろそろ終わらせないとまずいんじゃないか? もう始めてから2カ月くらいたつぞ?」
クロ「いやー……うん……うん……」
会長「ちゃんと喋れ」
クロ「なかなかうまく書けねえんだよおおおおおおお!!」
会長「やけになるな。それよりもちゃんと行動で示せ。見てくれてる人はいるわけだから」
クロ「…………」
会長「多くはないがな」
クロ「……やっぱりかー。次回に続きます」