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第43話 人生楽なし苦だらけだ その4

春、一言にそう言ってもそこにはいろいろな意味があるだろう。


長い冬の終わりと暖かな春の始まり。


眠っていた動物や植物達の目覚め。


始まりと終わり、出会いと別れ。


そして今、ここでも新たな春が始まろうとしていた・・・。




チュンチュン


チュンチュン


そんな鳴き声に誘われて空に目を向けると、そこには雲一つ無い抜けるように青い空とスズメ達。柔らかい日差しの中を優雅に舞っていた。

その暖かな日差しは地上にも降り注ぎ、起きてきた動物達がまた眠ってしまうのではないのだろうか?、と思ってしまうほどの心地好さを与えてくれる。


だがそんなゆったりとした風景に交わらない物が一つあった。


それは白衣に身を包んだ女性がその光景の中で全力疾走しているのだ。

その女性が通った後にすでに穏やかな空気など存在せず、驚いたスズメ達が一斉に逃げ出した後だった。


「・・はぁっ・・はぁっ・・はぁっ」


しかし、女性はそんなことお構いなしと言わんばかりに走り続ける。

何かに遅れそうなのかと女性に問えばきっと否と答えるだろう。なぜなら女性は走りながら笑っているからだ。

まるでこれから遠足に向かう小学生のような楽しげな笑みを浮かべながら走り続けている。


ふと、女性の足が止まる。

そこにあったのは雨のように桜の花びらを降らす大きな木。

そしてその雨に濡れる一人の女性。


「やっと会えた・・・」


先ほど走っていた女性がおもむろに口を開く


「あなたが・・私を呼んだの?」


桜の木の女性が温和な笑みを浮かべてそれに答える。


「ええ・・あなたに一つ頼みたいことがあってね・・」


そこで一度言葉を区切る。そして・・・


「あなたの頭を解剖させて!」




「・・・それが私たちの最初の出会いだったわね・・」

「そういえばそうだったわね」

「へーそうなんですかー」

「いや、へーとかそんなレベルじゃないでしょそれ」


他にもいろいろツッコミたいところはあったが、まず、なんか納得をしちゃってる部長さんにツッコミを入れる。


「なんだってこんなことになっちゃってるかなー・・」


そんな愚痴がつい、口からこぼれてしまったが、結局その言葉は誰の耳にも入ることはなかった。


あの後、オレは心を鬼にして全員を正座させて説教。

さすがに正座は堪えたのかしばらくの間は静かになっていた。

これでやっと静かになる、そう思っていたのもつかの間。


「ああ、そういえば酒を持って来てるのを忘れてたわ」


その一言で一気に状況が一変してしまう。


その後はあれよあれよと流れ流され今にいたるというわけだ。

いつの間にか停止していた皆さんは今アクセル全開・・・どころかリミッター解除している状態になってしまっている。

こうなってしまっては、もうどうしようもない。

要は自然災害と同じなのだ。終わるのを待つしかない。

とりあえずお茶でも飲んでいったん落ち着くのを・・・。


ずずず・・・


・・・ん?


「あっっっちゃいいい!!」


し、舌が、やける!やける!


「何やってんのさ優斗〜。はい、水」

「ふ、ふまん、ひろー・・・」


士郎から差し出された水に舌を差しこんで冷やす。

じんじんとした舌が緩やかに冷えていくのを感じる。


「まったく、今の優斗は猫舌なんだからもっと気をつけてよね〜」


士郎の言うとおりだ。

確かにさっきのは少し注意が足りなかったな。

しかし、猫舌の人はいつもこんな感じなのだろうか?

もしそうなら、かなり不便だし、かわいそうに思えてしょうがないのだが。


「ところで・・どうして、橘先生はネコ君のお姉さまに興味を持たれたんですか?」


舌を水で冷やしているとそんな言葉がオレの耳に入った。

声の主は部長さん、どうやらさっきの先生の話に興味が持ったらしくメモを取りながら熱心に話を聞こうとしている。


「ああ、私が由美子に興味を持った理由?それはね、こいつが私を抑えて大学の試験でトップを取ったからよ」

「トップ・・・ってことは橘先生が勉強で負けたってことですか!?」


部長さんの顔が驚きで染まる。確かに事情を知らずに先生が学で負けたと聞けばこんな反応をしてしまうのも無理はない。事情を知らなければ・・・ね・・


「んー・・・結果的にはそうなったんだけどちょっと違うのよね」

「・・・?」

「そのことを由美子に聞いたらね、なんて答えたと思う?”勘で答えを選んだら全部正解してました”とか言うのよ。正直最初は信じられなかったわよ」


そう、我が姉、大島由美子は学校の試験などといった重要な局面においては何故かとんでもない強運を発揮してしまう体質なのだ。

マークシート方式であれば満点は確定。そうでなくても7割以上はほぼ確実に取ってしまうというほどの強運っぷりである。


しかしながら、それに対して同じ血が身体に流れているはずのオレはそれに反比例しているかの如く不幸が現在進行形で増え続けている。

今日のこと然り、この姿になったこと然り。・・・正直、家の姉はオレから運を吸い取ってるんじゃないんだろうかと思えてならない時がある。


「ほえ~それはすごいですね~。他にはどんな伝説があるんですか?」

「ああ、ちょっと待ってくれない」


子供のように目を輝かせる部長さんを制してこちらを向く先生。この流れで行くとろくなことがないのは経験上わかっている。


「優斗、お酒のつまみが欲しいわ、大至急用意して」


・・はい、予想どうりですね。相変わらずこの人の辞書に礼儀という言葉は無いらしい。


「あの、先生、ご期待のところ悪いんですが、今の家にはつまみになるような食材が無いんですけど」


こればっかりはどうしようもない。つーか酒だけ持ってきてつまみをそこの家主に作らせるってそこんところどうなのよ。

まぁ、結局その目論見は崩れ去ったわけなんだが・・・


「あら〜それなら大丈夫よ〜」


・・とか思っていたけどそんなことはなかったぜ!

お願いだから空気読んでください。


「あら由美子、何か良い案があるの?」

「良い案かどうかはわからないけど、確か光のラボにマグロがあったはずよね」「ああ、なるほど。・・・・もしもし、あたしあたし、大至急用意してほしいのが・・」

「ヘイ、待てティーチャーズ」


なんかあまりにも自然な流れにスルーしてしまいそうになったが、先ほどの会話で意味不明な単語が紛れ混んでいたのをオレは聞きのがさなかった。


「マグロってどうゆう意味ですかマグロって」

「別に、ただ実験用に水槽で飼っていたマグロを今ここで食べようと思っただけよ」

「いや、十分大事ですからそれ」

「別に大丈夫よ~あくまで実験用にする予定だった奴だからまだ何にも手を加えていないわ」

「そうゆう問題じゃないでしょ。・・・それに姉さん達はどうやってマグロを食べるつもりなんですか?」

「それはもう、そのままガブっと・・・」

「どうなったらその発想にたどり着くんだよ」


二人合わさることで非常識さも2倍どころか2乗になってしまっている。ただこの二人なら実際にやりかねんと思えてしまうのが怖い。


・・・つーかこの流れだと実際にやっちまうぞ、これ


「あーと・・・先生、今からオレ買ってきますんでそれキャンセルしといてください」


さすがに家をスプラッターハウスにさせるわけにはいかないためにもここは動くしかない。


「買ってくる・・たって、あんたマグロ売ってる店なんて知ってんの?」

「とりあえずマグロから離れてください。リクエストはなんかありますか?」

「「マグ・・・」」

「もちろんマグロを除いてですが」

「・・・お任せするわ・・」

「私も・・・」

「・・・今のは10:0で安易なオチを言ったそっちが悪いですよ」


ものすごく残念そうな顔をしている教師組。そうまでして食いたかったのか。


「・・あ、そだ、士郎悪いんだけど荷物運びとして一緒に来てくれないか?この身体じゃ少し大変でさ・・」

「あー・・ごめん。僕は先輩のサポートをしなくちゃいけないから手が離せないんだ・・」

「そうか・・」

「その代わり、その後の料理の手伝いはさせてもらうよ。悪いけど荷物運びは健人にお願いしてくれないかな」

「事情が事情なんだ気にすんな。・・さてと、それじゃあ健人を叩き起こすとすっか・・」


ゆっくりとその場から立ち上がり健人に近づいていく。

今まで部屋の隅にほったらかしにしておいて、用があるからと叩き起こすのは少し気が引けたがそこは緊急事態だと割りきることにした。


「健人ー、起きてくれー、頼むー」


せめてもの、とゆうことで出来る限りやさしく揺り動かして起こそうとする。


「・・・う・・・」


しばらく揺り動かしていると声が聞こえてきた。意志の籠もったはっきりとした声が。

閉じていた健人の瞼はゆっくりと持ちあがっていき、やがて目と目が合う。


「よ、起きたか」

「・・・・・・・・」


まだ寝ぼけているのか返事が返ってこない。

よく見ると呆けている瞳が少しずつ焦点を作っていくのがわかる。

そして・・・


「・・おわああああああああああ!!!」


何を驚いたのか叫びながら高速で後ずさりをする健人。ずいぶんと器用なマネすんな。


「お、おおおおおおおお前なんて格好してんだよ!!」


なんて格好とはこのゴスロリ服のことを言ってるのだろう。いろいろと忙しかったためそのままにしてしまっていた。


「あーと・・・これは、ほにゃららら〜とゆう訳でこんな格好になってる。とりあえず落ち着け」

「な、なるほど・・・しかしお前そんな格好して大丈夫なのか?そうゆうの苦手なんだろ?」

「・・・うふ、うふふ・・慣れれば案外平気なもんナンデスヨ?」

「優斗〜目が死んでるよ〜」


もはや心は砕かれた身、この程度のことはもうナレマシタトモ。エエ


「・・・えっと、それで何か用があるのか?俺をわざわざ起こしたわけだし」

「・・・あ、そうそう、実は買い物に行くんで健人にその荷物運びを手伝ってほしいんだよ」

「なるほどね・・・よし、任された!俺に任せろ!」

「サンキュー健人。すまんな」

「別に礼を言われるほどじゃねえよ。・・ただその格好はいろいろとまずいからちゃんと着替えてくれよ?」

「んなこと、当たり前だ。今から洗面所で着替えてくるから少し待っててくれ。・・・覗くなよ〜」

「の!?バ、バカ!いいからさっさと着替えてこい!」


ちょっとした冗談で言ったつもりなんだがどうにも本気で捉えてしまったようだ。

いくら健人は単純とはいえ、いつもならそこまで過敏に反応することはないんだがな・・先ほどといい、何かあったんだろうか?




「ありがとうございました!」


威勢のいい声で挨拶を受けながらお店を出る。

空を見るとどうやら曇っているらしく、いつもなら見ることのできるきれいな星空も今は真っ暗闇だ。

あのきれいな空を見るのはわりかし好きであるため少し残念だ。


「ゆ・・優斗・・」


そんなことを考えていると後ろから声をかけられる。

先ほどの店員と対称的につらそうな声だ。


「どうした、健人?」

「お、お前・・本当に・・これだけの量を使うのか・・・?」


健人の両手を見ると買い物袋が左右合わせて六つ。その全てがほとんどパンパンに詰まっている状態である。


「そうだな・・・今回は部長さん達も含めて6人もいる大人数だから、多すぎるってことはないと思うぞ?」

「ま、マジかよ・・・」


その答えに疲れた表情を見せる健人。

今回はさらに運悪く、家に食材が無いという事態も重なってしまったため、これだけの量を買わざるを得ない事態に陥ってしまったのだ。


「すまん・・・実は少し予測が甘かったところもある・・まさかここまで量が増えるとは思ってなくて・・」


実際にお店を見て回っていると、アレが必要、これが必要・・といろいろ買う物が増えてしまい、気がつけばこれだけの量になっていたのだ。


「とにかく、これはオレのミスだ。全部は無理だけど何個かはオレが持つよ」

「・・・・・!?」

「・・?どうした?健人」


買い物袋を持ってやろうと腕を伸ばすが、なぜかそれを渡そうとしてくれない。

不思議に思い健人を見ると何だか妙な表情をしている。今まで見たことない表情だ。


「い、いや!やっぱり大丈夫だ!この程度!」

「大丈夫って・・さっき・・」

「そ、そうだ!そういえば、皆を待たせてんだから急ごうぜ!」

「な!?お、おい、いったいどうしたんだよー!?」


オレの必死の叫びもむなしく、健人はすでに彼方に消えてしまっていた。

この姿になってから、どうにも健人の様子がおかしいことが多い・・・何があったのだろうか・・?心配だ。


とにかく、健人の言ったことには一理ある。先生達をこれ以上待たせるわけにはいかないので、オレは急いで健人の後を追いかけることにした。

クロ「どーも、お久しぶりクロです」

姫神「お待たせしてしまいまして申し訳ありませんでした・・・!」

クロ「なんだかんだでいろいろピンチですがそれは忘れてレッツエンジョイ!」

姫神「それはいろいろとまずいと思いますよ・・・」

クロ「もはややばいのは決まってるんだから、これはこれからのための休息だからいいんだよ」

姫神「でも、今やっておけば後で役に立つと思いますけど・・?」

クロ「う・・・ま、まぁ・・今回だけってことで・・・次回に続きます」

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