第19話 初めての日常 前編
「ん・・・」
カーテンとカーテンの間から降り注ぐ陽光の眩しさに目を覚ます。
視界に入るのは見慣れた白い天井。
「・・・起きるか・・・」
まだ重く閉じようとする瞼を無視して広々としたベットからはいずるように抜け出し洗面台に向かう。
背が縮み洗面台が高くなってしまったのでイスを使うことでちょうど良い高さに合わせる。
「・・・やっぱり慣れないな・・・」
溜息混じりにそんな言葉が漏れてしまう。
鏡に映るのは見慣れた自分の顔ではなくネコ耳のついた白髪のかわいらしい少女の顔と後ろでふりふりと動くしっぽ。
それに加え服装の方もだぶだぶのジャージの上だけしか着てないのだ。
元とはいえオレは男なのだ、そんな格好をした美少女が目の前に現れれば下が反応しなくなったとはいえ少しはドギマギしてしまう。
今現在、縮んでしまった体に合う服は制服しかない。
銭湯の時に使ったのは舞から借りた物だ。
そのため、今オレが持っているズボンをはこうとしても全てずり落ちてしまうので寝る時は下に何もはけないのだ。
しかし上の方も今のオレの全身を包んでしまうくらい大きくなってしまったので問題はいろいろあるがなんとか生活ができている。
だが洗面台から水を出し顔を洗おうとした時に新たな問題に直面する。
「っく・・・袖が・・長い・・」
全身を包んでくれた上ジャージであったが袖の方もかなり余ってしまうくらいに大きくなってしまいそこから手を出そうと袖をまくるがなかなか姿を現さない。
「やっぱ不便だ・・・」
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あの後なんとか顔を洗ったオレは朝食を食べるためにキッチンに移動した。
時計を見るとちょうど8時を示していた。
いつもならすでに学校に到着している時間であるが今は緊急のクラス変更により三日間、臨時休校(課題付き)してしまっている。
そのためか今日はいつもよりのんびりと朝をすごしてしまったようだ。
「さて・・なにがあるかな・・・?」
洗面台の時と同様にイスを使い冷蔵庫をあさり始める。
冷蔵庫の中には新鮮な肉、色とりどりの野菜、さまざまな飲み物などがたくさん詰まっており何か作るのに不自由はなさそうだ。
そこから何を作ろうか考えているとあることを思い出してしまった。
(ね、猫は玉ねぎとかは食べさせちゃいけないんです・・他にもチョコとか・・優斗さんの体は今は猫ですから最悪死に至ることもありえます・・・)
「・・・そうだった・・・」
そう、今の自分の体は半分ネコなのだ。人間の時食べられたものが今食べれるとは限らない。
下手になにか食べて死んでしまった、なんてことになったら笑い話にもならない。
しかしそうなってくると一つの疑問が浮かんでくる。
「・・どれなら食べていいんだ?」
自分はネコのことを飼ったことなんてないので、なにを食べさせてよく、なにを食べさせてはいけないか、なんてわかるはずがない。どれも安全そうに見えるし危険そうにも見えてくる。
いろいろ悩んだがこのままでは埒が明かないので姫神に連絡することにした。
「あ、姫神か?」
「はい・・優斗さんですか?」
「ああ、実はネコに食べさせちゃいけない食べ物について教えて欲しいんだが?」
「ええと・・・・種類はいろいろあって・・・言葉で説明しきれないんですけど・・」
「うーん・・・・だったら今からこっちに来れないか?」
「え!!??でででで、でもお邪魔になっちゃうんじゃ・・!?」
なにやら、ものすごい動揺し始めた姫神。オレ別に変な事言ってないよな?
「別に変な事させようってんじゃない。たださっきのことを教えてもらうために来てほしいだけだ」
「えっと・・・でも・・・いや、わかりました。できるだけ早く行きます・・・」
「そうか、ありがとう。じゃ」
電話を切って一安心のオレ。姫神が来るまでの間部屋の片付けでもするか・・・
--10分後
ピンポ~ン♪
「はいはーい」
返事をしつつも辺りを見渡す。
・・・・うん、特におかしなところはない。誰に見せても恥ずかしくない部屋だ。
部屋の最終チェックでOKを出したオレは玄関にむかいチェーンを外しドアを開ける。
「お待たせ、姫・・が・・み・・?」
・・・あれ?おかしいな?何で姫神の後ろに人影が見えるんだろう。それも・・・
「まだまだ読みが甘いわね~、優斗」
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「相変わらず、面白みのない部屋ね~」
部屋に入った第一声がこれだ・・・親しき仲にも礼儀ありって言葉知ってます?
「ごめんなさい・・・優斗さん・・」
「ああ、別にいいよ。あいつの言うとうりオレが悪いわけだし」
実際そのとおりだ。こんな朝早くに同居人が外に行こうとしたんだ、舞だって理由ぐらいは聞くだろう。
「それより、あんた!その格好は何なの!」
「ちょうど良いサイズの服がないんだよ」
部屋の次はオレですか。とりあえず飯を食い終わるまで黙ってほしいところだがそれはまずあり得ないだろう。
「それにしたってこれはひどいでしょ」
「・・・・う。確かにそのとうりだが、代わりの服がないし・・・」
「買いに行けばいいじゃない」
「この格好で外に出歩きたくないし・・・」
「あのねー、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。それにどのみちいつか外に行かなきゃならない時が来るんだから」
「・・・・」
「そういうわけだからさっさとご飯食べちゃいなさい。その後買い物に行くわよ。服も私の貸してあげるから」
「・・・・わかった」
今回ばかりは舞の方が正しいため素直に従うことにした。
別にただ買い物に行くだけ・・・そう自分に言い聞かせて安心させようとした・・・が。
やはり今回もレーダーに何かが引っ掛かったらしく耳としっぽが落ち着きをなくしてしまっている。
こうなってしまってはもう回避不能だとわかってしまったため、できるだけ不幸を軽くしてくださいと(無駄だと思いつつ)神様に願った。
クロ「どーも、今日はmyチャリ参号で疾走しまくっていたクロです」
優斗「テストで買いに行けなかったマンガを買いまくってたな」
クロ「イエス!昨日の憂さをやっと晴らせたぜ・・」
優斗「相変わらずコントローラーは壊れたままだがな」
クロ「まぁマンガがあるし何とかなるだろ」
優斗「テストはもうどうにもならんがな」
クロ「・・・もう少しだけ夢をみさせてください・・・次回に続く」