ロメンとジュリエッタ
「あぁ、うちの長子が死んでしまった」
「うちの嫡男もだ」
「こんなことなら、婚約くらい許すんだった」
―――聞こえてるんだぞ?今、仮死状態です。
「せめて、一緒の墓に入れてやろう」
棺桶の段階で私と彼は抜け出した。
棺桶にはシーツの塊とそれなりの重さになるように水をしみこませたシーツ。
『最後に顔を見たい』とか言わないことを祈ろう。――むしろ開けると不幸になるとかいうように神父を買収しよう。この段階ですでに買収済み。金額が増えるだけ。教会への寄付よ。寄付。
さて、今後は平民として生活をしていくわけです。
買収をした神父に色々と指導をしてもらって、まだまだですな。
ロメン16才、ジュリエッタ14才。
この二人で平民として生活をしていくのです。
「まずは兄妹として認知されるのが、無難でしょうな。平民の婚姻年齢は貴族よりも遅いですから」
神父はそう言うけどさぁ。わざわざ仮死状態にまでなって、平民の道を選んだんだけど?
「その情熱は素晴らしいですよ?しかし、若気の至りもありますし、今は燃え上がるような恋でしょうけど、その後に残るものは?燃え尽きたら灰が残るんですよ。だから、まずは‘兄弟’としてというわけです。それでも想いが続けばよし。続かなかったら?ってことも考えて下さいね。いやぁ、若いって素晴らしい」
褒めてるのか?貶してるのか?
ジュリエッタはパン屋で働くことにした。
「全く朝は早いし、配達あるし。思ってたよりもキツイわ。お金を稼ぐって大変なのねー」
ロメンは夕方からの飲み屋でウェイターをしている。
「ウェイターの仕事は、そこにアルコールがあるのに飲めないってのが嫌だな。結構力も使うし。客に絡まれたりもする。男女問わず」
「何よー?私を妬かせたいの?」
「うん、お前は妬いた顔も可愛い」
そういえば、私らは出会ってから数日なのよね?不思議なもんだ。
「洗濯できるようになったんだから、洗濯物出してよー。下着は自分で洗う事!風呂のついでに洗えるでしょ? 料理は手が空いてる方。ってもだいたい不在だしね。掃除は気づいたらすること!」
こんなんでいいかな?二人とも働いてるし。
「いやぁ、離れてわかる。使用人様様だな」
「言ってらんないでしょ?これからは自分たちでなんとかしなきゃいけないんだから」
正直、ロメンがこんなに‘使えない’と思わなかった。もっと積極的に引っ張って行ってくれるものだと思っていた。
俺はジュリエッタに幻想を抱いていたんだろうか?
こんなに家の事をうるさく言われると思わなかった。何より、自由時間が少なくて辛いな――。
*****
飽きた。この一言に尽きる。この生活にも、ロメンという男にも。ロメンも同様に私に飽きているだろう。
「ロメン、ごめん。私、家に帰る」
「俺も帰る。この生活はやっぱり体に合わない」
「4年後くらいに適齢期になるのかな?デビュタントもあるでしょうし、その時に気が向いたら釣書でも家に送って」
「わかった」
はてさて、この二人。帰る家があると思っているのでしょうか?盛大に死んでいるのに、今更生きてましたーというのは都合がよすぎるというものではないでしょうか?
~ロメン
「ただいま」
「誰だ?不審者だ。衛兵!」
「酷いな。俺はロメンだよ」
「ロメンを騙るとは!」
「ロメンの内股には2つの並んだほくろがあります」
「誰だ?」
「だから、ロメンだってば」
このようになります。死亡届も出ているし、陛下も確認済み。葬式も終わっている。
「お前を嫡男として迎え入れることはできない」
俺は罪人か?
「せめてもの温情で領地に幽閉だな」
~ジュリエッタ
「ただいま帰りました」
「え?お嬢様ですか?旦那様!お嬢様のそっくり様がいらっしゃってます」
「失礼ね。本物よ」
「そうは言っても……死亡届も出した。葬式も終わった。陛下に報告済み。そうなるとお前を正式にジュリエッタとして引き取るわけには―――」
マジですかい?
「では、わたくしはどうしたらよいのでしょう?」
「こればっかりはなぁ?向こうもロメン君をどうするかかなり悩んだはずだよ?」
「え?嫡男では?」
「それは、ロメン君の弟君が引き継いだ。さて、お前だが……」
「引き取るのなら、うちの使用人だなぁ」
「厳しくありませんか?」
「なんの、平民として暮らした経験があればやっていけるさ」
そして4年後、ロメンは真面目にも幽閉先からジュリエッタに見合いの申し込みを行った。
相手のジュリエッタだが、貴族令嬢などではなく使用人。
貴族からの見合い話など破格だ。
ロメンの親族はまたしても反対したが、もうどうでもいいと内心思っていた。
ロメンはまさかジュリエッタが使用人などになっているとは思いもよらず、「また平民になるのでは?」と恐怖した。
対するジュリエッタだが、使用人として生活をしているうちに馬丁の男と情を交わすようになり、その男と結婚。ロメンのことなど忘れていた。
見合い話がジュリエッタの元に行くわけもなく、ロメンは一人相撲のように恐怖しているだけでした。