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猫に好かれすぎて幸せです - 猫に愛された僕は最強猫テイマーに

作者: 朧月 夜桜命

今のところ続きを書く予定はありません。

頭痛に悶絶している時にパッと浮かんだのを、ババッと書いた単和作品になります。

 王都から遠く離れた辺鄙な村に一つの命が生まれた。

 若者は仕事を求めて村を出ていってしまう為、子供が生まれたのは何年振りだろうか。

 子供の名前は【エリクト】という可愛らしい男児である。

 周囲は新たな家族の誕生に喜び、それはそれは大事に育てられ5年の歳月が経った。


「ほっほ、今日はエリクトが生まれて5年、職業判定の儀式を行う年となった。ワシは神官としてこの村に来て以来、一番楽しみにしておった日じゃよ」

「神官様、孫みたいに可愛がってたもんな!目に入れても痛くないとか言ってそりゃあもう甘々にさ!」

「煩いぞ戦闘狂が!お主こそ『大きくなったら絶対オレと狩りをしような~』などとデロンデロンに顔をふやけさせておったではないか!」

「なっ!それは!いいじゃないか夢を語るくらい!」

「ならワシだっていいじゃないか!楽しみを語って何が悪いか!」

「「「はっはっはっは!!」」」


 白髪を蓄えた老神官とムキムキで男言葉な20代後半の女剣士の喧嘩を眺めながら、集まった村人は楽しげに笑い、ささやかながら幸福に包まれた一時が流れていく。


「あのー、親のボク達より盛り上がるのはどうかと思うんだけど……」

「まぁまぁいいじゃないですか、ワタシはとても嬉しいですよ♪」


 何故か蚊帳の外に居る気分になる父親と、ホワホワ笑顔で眺める母親の足元で、主役のエリクトは猫と戯れていた。


「クロさん、ホムさん、きょうもフワフワですねー」

「にゃー」

「ゴロゴロゴロ……にゃーん」

「きもちーですかー」

「「にゃにゃー」」


 全身真っ黒な黒猫【クロ】と、赤茶色の毛に白い靴下を穿いた【ホム】の二匹はエリクトに撫でられてとても満足そうに鳴いた。


「さてエリクト、神官様と礼拝所に行って儀式を受けようね」

「うんー。クロさんとホムさんまたねー」

「よい……しょっと。おっちょっと重くなったか?成長してる証だな!」


 父親はエリクトを抱き上げると、背中をポンポンと叩いてニコニコ顔で礼拝所へ向かう。

 先程まで言い合いをしていた老神官達も気付けば移動していたようで、礼拝所に着く頃には村人全員が待ってましたと言わんばかりに待ち構えていた。


「それではこれより、職業判定の儀式を始める。エリクト、前へ」

「はーい」


 どこかおっとりした性格のエリクトは、のんびりした足取りで老神官の前へ歩き着く。

 エリクトが老神官を見上げると、そのオデコに手をかざして何かを唱え始めた。


「これは……ふむ、エリクトの職業は【従魔術師】である!」

「「「おぉ~!!!」」」

「なんで剣士じゃないんだよー!」


 村の人々は生活に困るような職業でなければなんでも良いと思っていた。

 いずれ村を出るにしても、きちんと稼いで生活できるのであればと願っていた。

 だからこそ、従魔術師という比較的レアな職業が出てお祭り騒ぎ状態に。


「じゅーまじゅつし?」

「動物と友達になって一緒に戦うことができる職業のことじゃよ」

「どーぶつさんと……ともだち……」


 エリクトは動物が大好きだ。

 村に居る猫も犬も、家畜の牛も羊も、行商と共に来る馬もみんな大好き。

 そんな動物と友達になれると分かり、普段みせない速さで……といってもそれでもゆっくりではあるが……母親の足にしがみついて顔をグリグリと押し付けた。


「あらあら、そんなに嬉しかったのかしら?ふふふ♪」

「厳密には違うんだけど……5歳じゃ今の説明が精一杯ってところかもね」


 実際の従魔術とは、魔物を従わせて戦う職業だ。

 ただの動物を従えて、というのは本来のものとは違うが、まだ魔物を見たことがない5歳児にそんな説明をするのも早いと思った老神官の配慮だった。


 その後はささやかながら村人総出で宴会を行い、素晴らしい職業を得たエリクトを祝うのであった。



--


 職業を得てから7年、エリクトは12歳になっていた。

 大きな街や王都に暮らす子供であれば身分問わず学術院に通うものだが、なにぶんここは大変な田舎。

 エリクトは村人と自然に囲まれてスクスクと育っていた。


「エリクト、今日はキャロッティの収穫だから手伝ってくれ」

「はーい」


 相変わらずのんびりとした性格のままだが、家の手伝いをしっかりとし、両親を煩わせるようなこともなく幸せに暮らしている。

 一つ変わった点といえば、家に猫が住み着いたことくらいだろうか。


「クロ、ホム、セイ、ウィン、スイ、ロク、行ってくるね」

「「「にゃっ」」」


 6匹の猫に軽く手を振って、のんびりと家を出ていく。

 そんな平和な日常を送っている中、人知れずジワリジワリと危険が迫っているなど、エリクトはおろか村の人々は想像すらしていないだろう。


「にゃー」

「にゃ?」

「ふんっ……にゃー」


 のんびりダラリとしている猫達を除いて……。



--


「かの森に異変があるのは確かなのか?」

「はい!南方へ大量の魔物が移動した痕跡があるのを確認したとのことです!」

「最南の村とはいえ、我が守るべき国民が多く居る、至急冒険者を向かわせよ!」

「承知致しました、直ちに!」


 遠く離れた王都の一室、王と宰相、騎士数人が何やら神妙な面持ちで話している。

 駆け足で出ていく王国近衛騎士達を見送り、王が大きなため息を吐いた。


「我が国土の端の村だからなんだ、守るべき民がそこに居るというのに……」

「本当に頭が痛い問題でございますな」

「頭の悪い馬鹿貴族共には分からんのだ、失って良い民など一人もいないということが」

「うぅ……良き王になられましたな、ワタクシは嬉しいですぞ坊ちゃま!」

「えぇい鬱陶しい!抱きつこうとするな!我はもう子供ではないのだぞ!」

「坊ちゃまーー!」

「やめろーー!」


 超過保護な宰相とギャーギャーやりあいながらも、無事乗り切ってくれることを願う王。

 城下では着々と冒険者が集まり、移動が開始されるのであった。



--


 そんな騒動が起こっているなど知る由もない最南の村。

 エリクトは一日の仕事を終えて眠りにつこうとしていた。


「今日も疲れたなー」

「んなーん」

「にゃー」

「どしたーねこさんたちも一緒に寝るのかー?」

「んなー」


 なんとも和やかな空気だが、猫達の様子がどこかおかしい。

 部屋の中をウロウロと歩き回り、窓の外をしきりに気にしている。

 いつもと違う様子に違和感を覚えたエリクトは、早足に家の外に飛び出した。


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」

「……っ!!」


 森の方から聞こえた、けたたましい遠吠えに体が震えた。

 村の人々も異常に気付いたのか、家々から飛び出して森の方を見ている。


「エリクト!今の遠吠えは!」

「父さん、わからない。なんかねこさんたちの様子が変で外に出てみたら……」

「そうか……これは不味いかもしれないな……」


 何か覚えがあるのか、険しい顔をした父親が女剣士の方へ走っていく。

 どうして良いか分からないエリクトは、出てきた母の肩を抱いて背中を見送るしかできなかった。


 不安な気持ちで森の方を見ていると、微かにだが土煙が立ち上るのが見えた。

 父親と女剣士もそれを見たのか、大声を張り上げた。


「魔物の氾濫だ!礼拝所に避難しろー!!」

「急げ!急げ!」


 動揺が走り、徐々にパニックが起こり始めた。

 魔物の氾濫、餌の事情か強者に追われたかは分からないが、稀に起こるという厄災。

 戦力のない村人しか居ない村など一瞬で壊滅させられてしまう地獄の行進。


 エリクトが生まれる前に住み着いた女剣士が居るとはいえ、頼れる戦力は一人だけ。

 そんな状態でこの危機的状況を乗り切れるはずもない。

 それが分かるからこそ、村人達は慌てて礼拝所へと急いでいた。


「二人共!礼拝所へ急ぐんだ!」

「あ、あなたはどうするの!」

「ボクは残る……たとえ一瞬だとしても、お前たちが逃げる時間稼いでみせるさ」

「父さん……」


 農家が持つ力などたかが知れている。

 そんな父親が残ったところで、死ぬ未来しかないのは火を見るより明らか。

 しかし、今まで見たことがない真剣な眼差しを見て口をギュッと結んだ。


「行こう、母さん……」

「いや!いやよ!あなた!……あなた!!」

「母さんを頼んだよ……」


 父親にすがり付こうとするのを引きずり、礼拝所の方へ引っ張っていく。

 途中後ろを振り返ると、森の方へ走る父親の背中が見えた。


 従魔術師という職業を得ながら、農業を手伝うだけで活かしてこなかった。

 森に入って契約をしようと試みたが、力も体力も無く一度も成功することはなかった。

 そんな自分の不甲斐なさに涙が出そうになるが、歯を食いしばって母親を連れて逃げるしかないのであった。



--


「だいぶ近付いてきましたね」

「あぁ……いいのかい?あんたが居ても居なくても何も変わりゃしないよ?」

「死にたいわけじゃない……でも、ここで立ち向かわなかったら大黒柱ではないでしょ?」

「はっ!あんたが結婚してなきゃ惚れてるところだよ、まったく!」

「独り身だったらボクも逃げてますから」

「違いない!はっはっは!」


 少しでも気を紛らわすためなのか、そんな言葉のかけあいをしているが、それでも二人の体は恐怖で若干震えていた。

 女剣士も剣豪なわけではない。

 食料を確保するための狩りで剣を振るうことはあっても、大規模討伐など若い頃以来経験していないのだから。


 徐々に近づく土煙。

 先頭が森から出てくるのも時間の問題だった。



--


 泣き崩れる母親の背中を撫でながら、エリクトは険しい表情で外を見ていた。

 周りには不安そうに身を寄せ合う村の人達。

 近くの村に逃げようにも、到着する前に追いつかれて食い殺される。

 同じ死なら、せめてこの村でと逃げるのを諦めた。


 夜の空よりも暗い空気の中、エリクトはあることに気が付いた。

 逃げている時には気が付かなかったが、猫達が居なかった。


「そういえばボクより先に外に飛び出して行ったけど、いったいどこに行ったんだ……」

「…………にゃーん」

「え?」


 外から聞こえた声に驚き、慌てて窓に駆け寄る。

 六匹の猫がこちらに向かって走ってきているではないか。

 いや、よく見ると六匹じゃない、知らない猫が数匹一緒に向かって来ている。


 エリクトの様子に気が付いた村の人達は、何かあったのかと寄って来るが、猫が走ってきているのだと分かるとまた離れて行った。

 家族として一緒に暮らしてきた母親だけが隣に残り、飛び込んできた猫達を一緒に受け止めた。


「どこに行ってたんだ?」

「にゃっにゃーん、にゃごにゃご」

「ははは……何言ってるか分からないよ」


 苦笑いを見せるエリクトに向けて、クロが口に咥えている何かをズイッと寄せて来る。

 何か思いながらそれを受け取ると、暗くてよく見えなかったそれは綺麗な腕輪だった。


「腕輪……みんなはコレを取りに行ってたのか?」

「にゃーん」

「ありがとう……でも今は……」


 口をギュッと結んで俯くと、何匹かに足をゴンゴンと頭突きされる。


「付けろってこと……かな?……しょうがないな」


 そう言って腕輪を付けて母親に見せると、辛そうな笑顔で「キレイね」と言った。

 その顔に胸の辺りがギュッとなる。

 ふるふると体が震えて涙が出そうになる。

 そんなエリクトの肩に、ホムが飛び乗ってきた。


「ホム……?」


 ホムの方を向いて頭を撫でてあげると、エリクトの鼻に自分の鼻をチョンッとくっつけた。

 すると……



--


「先頭が見えた!森から出てくるぞ!」

「くっ……反れてくれないかと思ってましたが、叶いませんでしたか」

「諦めろ、もう腹括るしかないんだよ」

「はは、分かってますよ!もう!」


 魔物の氾濫が村へ到達する。

 そのカウントダウンが始まった。



--


 エリクトとホムの鼻がくっつくと、腕輪は一瞬強い光を放った。


「なっなに!うっ!」


 思わず目を瞑ると、周りからも眩しさに驚く声が聞こえてくる。

 1秒とかからず消えた光。

 恐る恐る目を開けると、先程までと変わらない光景がそこにはあった。


『エリクト!エリクト!』

「え?」


 声がする方を見ると、つぶらな瞳でじっと見つめるホムが居るだけ。


『エリクト!やっと契約できた!』

「え……この声は……ホム?」

『そうだよ!やった、やったー!』

「ど、どういうことなの?」

「どうしたの、エリクト?今の光はなに?」


 混乱するエリクトに母親が声をかけるが、エリクトも理解が追いついていない。

 分からないと困った顔で首を振る。


『魔物来る!一緒!戦う!』

「戦うって、どういうこと!」

「エリクト、戦うって、どういうこと?」

「ホ、ホムが……」

『大丈夫!見てて!』


 混乱極まる中、ホムが窓の縁に飛び乗って空を見る。

 体を少し丸めたと思った次の瞬間。


『炎弾!』


 ホムの正面にギュルッと炎が生まれ、丸くなったと思ったら空に向かって飛んでいった。


「「「え……えええええええええええええええ!!!」」」


 エリクトと母親、成り行きを見守っていた村人達の声が木霊した。

 何が起こった?魔法?火の玉がビューンと?え?どういうこと?


『戦う!みんなも契約する!』

「「「にゃーん!」」」


 混乱が混乱を呼ぶ中、マイペースにニャーンと鳴く猫達。

 頭にハテナが浮きまくっているエリクトを無視して状況は進んでいく。

 エリクトの鼻に、次々と猫達がチョンッチョンッと鼻をくっつける。


『『『エリクトー!!!』』』


 エリクトの混乱などお構いなしと、契約を果たした猫達がエリクトの胸目掛けてビャッと飛んでくる。


「うわわわわわっとと……」

『『『エリクト!一緒に戦う!』』』

「みんな……」

「どうやら、その猫達は魔物だったようじゃな……ただの猫だと思っとったわい」

「神官様!」


 即座に冷静さを取り戻した老神官が、今の光景とエリクトの職業を思い出していた。


「エリクトは従魔術師だったろう?おそらくその腕輪は【契約の腕輪】、従魔術師が使う道具の一つだったはずじゃ。昔から懐いておったからの、力を貸してくれるということなんじゃろう」

「みんな……ありがとう!」


 ようやく理解が追いついたエリクト。

 自分の力を活かすことができなかった事に多少負い目を感じていた。

 それがまさか、こんなタイミングで解消されるとは思っていなかった。

 緊張が解けたのか、いつものへにゃっとした笑みが自然と溢れる。


「母さん……」

「エリクト……」

「ねこさんたちと、父さんを迎えに行ってくる」

『『『行ってくるー!』』』


 いつもの笑顔で言うエリクト。

 そこには不安も絶望も諦めもない。

 不安そうに見つめていた母親は、そんなエリクトを見ていつもの笑顔を見せた。


「遅くならないように帰ってくるのよ?」

「うん、いってきます」


 いつものやりとり。

 いつもの笑顔。

 それを見ていた村人達からも不安の色は消えていた。


 畑に行く時と同じように扉を出て、猫達と走っていく。

 地獄の行進、魔物の氾濫がなんでもないことであるかのように。



--


「間もなくだ……腹は決まったかい?」

「ははは、あいつら怖い顔してますね……大丈夫です、たとえ一瞬でも……」

「あんたホント、良い旦那してるよ」


 魔物の表情が分かる程度に、壁が近付いてきている。

 あと1分もかからない内に村に激突するだろう。

 剣を振るう余裕はあるだろうか?

 一撃でも当てることができるだろうか?

 一匹でも倒すことができるだろうか?


 命を捨てる行為だと分かりながらも、父親は震える脚を一発叩いて前を睨む。

 女剣士はその様子を見ながら、気合一発、両手で頬をバチンと叩いた。


「父さーーん」


 極限の緊張で幻聴が聞こえる。

 やはり怖いものは怖い、きっと逃避したい気持ちが聞かせているんだ。

 そう思って頭をブンブンと振った。


「父さーーーーーん!!」


 やめてくれ!

 もう腹を決めたんだ!

 やるんだ、やってやるぞ!


「父さん!横に避けて!!」


 ハッキリと後ろから聞こえた声に振り返ると、エリクトが走って近付いてきている。

 避けて?横に?

 一瞬体が硬直したが、炎の塊が出現したことに驚いて思い切り地面を蹴った。


 ゴウッ!!!


 横を熱が通り過ぎ、飛び退きながら顔で飛んでいった炎の塊を追う。


 ドガーーーンッ!!!


「GYAAAAAAAAAAA!!!」


 轟音の直後、魔物の断末魔なのか激しい苦痛の声が響く。

 呆然と見ていると、エリクトが横を通り過ぎ、村の入口の前に立った。


「エリクト!」

「父さん、大丈夫だよ。ボク達がなんとかするから」

「ボク達……」

「ねこさんたち、行くよ!」

「「「にゃああああああああああああああん!!!」」」


 エリクトの声に応えるように猫達が鳴くと、その背中にバッとコウモリのような羽が出現した。

 一瞬ギョッとしたが、瞬く間に猫達が魔物へと飛んでいき、様々な魔法を撃ち込んでいく。


「もう、大丈夫だから」

「そう……みたいだね」

「なんなんだいこりゃ……」


 そこからの展開はとても早かった。

 炎が辺りを走り、氷塊が四方に飛び、風の刃が斬り裂き、岩が地を突き上げ、雷が落ち、光と闇の矢が降り注ぐ。

 時折攻撃を受けていたようだが、即座に癒やしの光が傷を治していった。


 轟音や閃光を見た村人達が続々と集まり、父親と女剣士と共に成り行きを見守った。

 猫達に指示を出すエリクトの勇敢な背中をその目に焼き付けながら。

 そしてしばらくすると、辺りは静寂に包まれていった。


「父さん母さん、ただいま」


 目の前にはいつもの笑顔を零すエリクト。

 その周りで褒めて褒めてと飛び回る猫達。

 夢でも見ているのかと思ったが、頬を伝う涙の冷たさが現実だと教えてくれた。


「おかえり、エリクト」

「おかえりなさい」


 二人はエリクトを抱きしめ、生きている喜びを噛みしめる。

 村人達はそんな三人を見ながら、次々に喜びの声を上げるのだった。



--


 あの後、薄っすらと白み始めた空に目を細めながら、ゆっくりと眠りについた。

 久しぶりに三人一緒に。

 当然、猫達も一緒に。


 目を覚まして外に出ると、村人総出で大量の魔物の処理を行っていた。

 女剣士が率先して指揮を取りながら、いつ終わるともしれない山を相手に。


 氾濫から二日後、あまりにも遅く冒険者達が到着した。

 総勢百名ちょっとが、魔物の死体の山を見ながら騒然。

 老神官と女剣士が説明に走ったが、村人から処理を手伝えと野次が飛んだのは仕方のないことだったかもしれない。


 氾濫の後分かったことだが、普通の猫だと思っていた生き物は【ピクシー・ニャンドラゴン】という種族だったらしい。

 深い深い森の奥で、親を亡くした妖精竜ピクシー・ドラゴンの卵を森猫が育てたところ、自分を猫だと思いながらスクスク育ったよう。

 そして森猫と妖精竜が交わり、長い時を経て妖精猫竜という種族になったんだとか。


 猫の姿でありながら竜の力を有する、この森にしか存在しない固有種族。

 そんな猫達に愛された少年エリクトが、村で生活しながらも様々な問題に巻き込まれていくのは、まだ誰も知らない話。

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