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亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


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私に死んでほしい誰か

 リアは海岸に沿って東へ東へと歩を進めた。当然道など無いから、山へ入り込まないように、或いは海を泳いで渡ることがないようにと、行きつ戻りつ進むしかない。


 ……あーあ、こんな時にジュダがいてくれたらなあ……!!


 無い物ねだりだとは知りつつ、リアは遠くセイントレアにいる愛馬に思いを馳せた。ジュダはリアが望む所はどこへでも連れて行ってくれたが、流石に海は渡れまい。


 ……セイントレア……そう、全てはセイントレアなのだ。セイントレアのどこかに、私に死んでほしい誰かがいる。


 リアは黙々と歩を進めた。


 ……色々なことが重なりすぎて何もかもがごっちゃになっているように見えるが、こういう時は実は逆なんだ。何か事が起きたから、様々な事象が動き出す。


 現実は、この生い茂った山のように足元の様子が分からず常に危うい。


 ……そもそも何が起こった?セイントレアがあのピズロをわざわざ派遣した理由……。


 そして死ななければならなかった……と考えて、リアは首を振った。胸にこみ上げてくるものがあるが、それは後にする。今はピズロの仇を打つ為にも冷静な思考が必要だ。


 ……ピズロが遥々レスカまで渡って来た理由……そう、シャウルが行方不明になったことを私に伝える為だ。


 幼い弟のことを思うと更に胸が詰まる。


 ……無事だろうか。それとも既に保護されているだろうか。


 胸が押し潰されそうになりながら、リアは足元を踏みしめた。


 ……一刻も早く国へ帰りたい。何故なら、私は犯人を知っているから。


 確信した途端、それはリアの中で真実となった。


 ……それで全ての辻褄が合う。


 バラバラだったパズルの破片が、意味を持つように重なり始めた。リアは何も出来ない現状が腹立たしく、グッと拳を握った。


 ……リア。


 急にフローラの声がリアの頭の中に響いた。


 ……な、何だ?


 ……ほら、足が止まってるよ。どうしたの?


 ……え?ああ……。


 フローラに促されてリアは再び歩き出した。怪訝に思っている彼に、リアは自嘲気味に話し掛けた。


 ……自分が本当に間抜けだと思ってさ。


 ……間抜け?


 ……間抜けだよ。ジュラムは勧めてくれたというのに。


 ……ジュラムだって!?


 ……そう。本国に手紙は書かないのかって。


 ……ああ、そういうこと……。


 ……私の方が早く着くから大丈夫、なんて。とんだ道草だ。


 ……命があっただけ良かったよ。


 ……そうだな。お前のおかげだ。


 二人(?)は一歩間違えれば海に落ちそうな山の岩肌を、草木を掴みながら伝って行った。


 ……と言うことは、今回の件は誰の差し金かリアには見当がついているの?


 ……うん……。


 リアは息を大きく吸い込んで答えた。


 ……我々がレスカで懸念していた通り、ガルディとその周辺の仕業だ。


 ……やっぱりそうか……。


 あまり意外でもない様子でフローラは呟いた。


 ……シャウルを攫ったところでどんなメリットがあるのだろうって、話題になっていたよね。


 ……シャウルは聡い子だ。だけど病弱だし後ろ盾も弱く、シャウルの周辺は出世を願っていない。しかし王位継承権を持つ者だということには変わりはない。ガルディ周辺は幼くて聡い王子を廃し、私を弑してしまえば確実に王位継承権に近付く。まさかこっちが本命だと思わなかったけどね。


 ……偉大なお父さんが許さないんじゃないの?


 ……真実が分かればそりゃあね。


 ……そうだよなあ。渡航に出た人間はほぼ全員死んじゃってるもんね。死人に口なしだ。


 ……そういうこと。疑いはあっても海難事故の可能性も捨て切れないだろう。


 ……その為にも絶対に戻らないとね。


 ……勿論そのつもりだ。たとえそれが――。


 ……しっ!!リア、動かないで!!


 急にフローラの緊張感のある声が響いた。


 ……どうした、フローラ?


 海岸沿いに大きく出っ張った岩をよじ登った先は、急に視野が開けていた。この島へ来て初めて見た平坦な土地、遠く広く見渡せる海。よく見ると納屋のような小さな掘っ立て小屋が幾つか点在している。海岸には切り立った岩礁が見え隠れするが、リア達が漂着した所よりは圧倒的に少ない。


 そしてそこには一艘の船、ジョナサン号があった。






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