相次ぐ急使④ リアーピックランツーウィンディアージュラム 四者会議
「そうでしたか……。」
ジュラムは、白いもじゃもじゃ頭に指を突っ込んだまま固まっている。
「レスカの皆様には、ご迷惑をお掛けして申し訳ない限りでございます。」
リアはテーブルに突っ伏すように頭を下げた。
「リア、顔を上げて。」
「はい。」
ジュラムは顔を上げたリアをまじまじと見つめながら、どうしたものかと大きく溜息をついた。
「はあぁぁ…………。まさか、そんな顛末だったとはねえ……。」
「返す言葉もありません。」
「早急に調整して、今日にでもレイアモンド国王と面談する機会を作るのは可能です。当時はかなり混乱しておりましたし、あなただって謝罪の為にもう一月以上滞在している。一刻も早い解決が必要でしょう。」
「ありがとうございます!!」
「それよりも気になるのは……そのお話は真実なのでしょうか?ガルディ王子はレスカの入学が叶わなかった腹いせに、戦争まで起こす?」
「戦争を起こす気はなかったと思います。本当にその気があるのなら必ず父と私に話が入りますので、その時点で話は立ち消えます。個人的に誰かの私軍に頼んだとしてもまず無理でしょうね。海を越えてレスカを攻撃なんて、そんな馬鹿げた話はない。となると正規軍に頼まなざるを得ない。しかしどんな伝手を使ったとしても必ず私の耳に入る。軍はそんなに甘くない。」
「ですよね。今回の件は、ガルディ王子にとってどんなメリットがあったのでしょうか?」
「ジュラム、本当に申し訳ないんですけど、メリットとかないんです。」
「と言いますと?」
「もう本当にすみません、メリットとか考える頭すら持ち合わせていないんです。試験に落ちたり私に反対されたりした腹いせに、レスカが混乱して私が疑われたらいいくらいにしか考えてないんです!!」
リアの言葉に、ジュラムはポカンと口を開いた。
「あ…………あなたも大変ですね…………。」
「ありがとう、ジュラム……グスッ……。それに、ガルディも馬鹿だけどその母親の方がもっとヤバいんです!!」
「でしょうね。」
「何も考えずに行動して!私も人のことは言えないけど、絶望的に頭が悪すぎるんです!!」
「まあ、そうでしょうね。ということは、今回の件は母親の協力があってのことだと?」
「だと思います。いや寧ろ……母親の方が乗り気だったのか……?」
「いずれにせよこのことが明るみに出れば、彼等はもう表舞台に出て来られないのでは?」
「はい、その為にもこちらが動いていると察せられる前に帰らないと。元々そんなつもりはなかったけど、これは危険すぎる。表に出て来られない場所に永遠に行ってもらわなければ!!」
「そ……そうですか。御国のような大国でも、こんなことが起こるんですね。」
「レスカ国と比べると赤ん坊のようなものです。」
「そんなこともないです。今は馬鹿がいないだけです。」
「馬鹿がいない……?」
「ええ、リア。あらゆる組織の中に馬鹿はいます。大体決まり掛けている話なのに、たった一人の馬鹿のせいで話が頓挫する。その人に主義主張や信念があるのなら、それは馬鹿とは言わない。馬鹿というのは、己の私利私欲やつまらないプライドを守る為に、ろくでもないことで翻弄させる輩のことを言うのです。」
「お言葉、とてもよく分かります。」
「馬鹿というのは、血統や生活環境はあまり関係ありません。多少はあるのかもしれなませんが、あまりね。だって王族の中にも本当に困ったお方が出て来ますから。彼等の殆どは幼い頃から多くの勉学や素養を教育され、飢える心配などまずありません。そんな環境なのに、ごく稀に困ったお方が出てくるのですよ。それも、一番上だったり真ん中だったり下だったりと、特に統一性もない。私は、それが世間というものなのかなと思っております。」
「凄い、ジュラム……悟っている。」
「今のレスカは本当にいい時代です。しかしいつ馬鹿が出て来ないか、私は常に目を光らせているつもりですよ。」
とてもそんな腹黒いことを考えているとは思えないような目で、ジュラムはにこりと笑った。
「では、私はレイアモンド国王に進言して来ましょうかね。レイアモンド様はあなたのことを非常に高く評価しておられますので、私が進言したところでフンフンと頷いておられるだけでしょうが、やはり直接お話された方がよいでしょう。」
「よろしくお願いします。」
「それはそうと。本国にお手紙は書かれないのですか?」
「手紙?」
「今回の件を、いち早くセイントレア国王にお伝えした方がよろしいのでは?」
「ああ、そうか。いや……やめておく。どちらにしても私の方が早く到着するだろう。」
「そういえばそうですよね。全ての便はエクリスタを経由しますものね。」
「私から直接父上に報告する。万が一手紙の方が先行して、ガルディ近辺に気付かれるのもよくないし。」
「確かに。ああ!ジョナサンのことは何か思い出しましたか?ひょっとして、ガルディ王子付近にいたのでは?」
「ジョナサン?……いや……思い出せない……。ガルディやエリ夫人の近辺……?あまりピンとこないな……。」
「そうですか。宮中へ戻ればもっと詳しい話が出て来るかもしれませんね。」
「ええ。ジョナサンの似顔絵も行き渡っている頃だろうし……。」
王宮にも諜報が入っているし、という言葉をリアは飲み込んだ。レスカ国に比べるとあまりにも危うい現状に、己の力不足を感じながら大きく溜息をついた。
その時ドアをノックする音が聞こえて、慌てたような様子のクララが顔を出して一礼した。
「重要な会議中申し訳ありません。」
「どうした、クララ?」
「セイントレアからの急使です。」
「急使だって!?何があった!?」
「それは……。」
クララが後ろを振り返ると、そこにはあまりにも懐かしい顔があった。
「ピズロ!!」
意外な急使に、リアは思わず息を呑んだ。
「どうしてお前が!?セインティアを離れて大丈夫なのか!?」
「お久しぶりです、リア様。」
ピズロはリアの前に跪き、その手を取ると口付けた。しかし、顔を上げた彼の表情に笑顔はなかった。




