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亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


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相次ぐ急使③ リアーピックランツーウィンディア 三者会議

 「弟………………?」


 ウィンディアとピックランツは絶句した。


 「それ、本当なの…………?」


 ピックランツが恐る恐る尋ねると、リアは俯きながら頷いた。


 「うん……。正式には、ガルディ・ターゴエル・ノルビン・セイントレア。腹違いだけど弟だ。」


 「………………。」


 「こう考えるとやっぱり兄弟なんだなあ……!名を一文字いじるところや母方の母方の旧姓を使うところなんか。」


 「ガルディア・ズールベントが……?」


 「そう。オコハは、ガルディの見た目については何か言ってた?」


 「うん。服装は立派過ぎるほど立派で、それから髪は素晴らしいブロンド……の割りには、残念な顔立ちだったって。」


 「じゃあ間違いない。はあ………………。」


 項垂れたリアに、ピックランツもウィンディアも掛ける言葉がない。そんな中、リアは何かに気付いたように不意に顔を上げた。


 「あ……れ……?それって去年の入学試験の話なんだよな?そうなんですよね、ウィンディア先生?」


 「そうだよ。丁度一年ちょっと前、夏の終わり頃の入学面接。」


 「この春の編入試験ではなくて?」


 「編入試験?いいや、そんなことはない。それだったら流石に私だってもう少し覚えている。リア、どうしたんだ?」


 「ええ……。今年の春、ガルディとその母親に進路の相談を受けたんです。ジェイルーンとは限定していなかったと思うけど、レスカのブリリアント・スクールに編入させたいって。」


 「編入?いーや、確かに前年の秋の入学時期だった!」


 「ですよね……どういうことなんだろう?」


 「もしかしたらさ……。」


 首を捻っているリアに、ピックランツは声を掛けた。


 「もしかしたら、ガルディは去年の夏の入学試験を受けていたんじゃないか?それに落ちたから、この春の編入試験にチャレンジするつもりだったんじゃ。」


 「そういうことか!だから私に反対されて腹を立てていたのか!父上は端からその気がなさそうだったし。」


 「去年の夏、リアはガルディの動きに気付かなかったの?君はその頃何をしていたんだ?」


 「私?うーん、どうだっただろう…………ああ!!確かに中央にはいなかったな!!」


 「戦ってたの?」


 「や、そんな激しいものでもない。領主同士の痴話喧嘩みたいな感じで、言った言わないだの裏を取っていたら結構時間が掛かった。」


 「じゃあ、ガルディが海を渡ってレスカで入学試験を受けていても分からなかった?」


 「分からないねえ。例えその時セインティアにいたとしても分からなかったかもしれないな……。」


 「リア、お父上は?お忙しい御身だとは思うが、流石に自分の息子の進路なのだから何か存じ上げているのでは?」


 ウィンディアの質問にリアは首を振った。


 「やー、微妙です。ガルディがレスカへ留学したい、くらいなことは覚えているかもしれません。だけど、知っていたにしろ知らなかったにしろ、受からなかった時点で父の中では「無かったこと」として処理されているような気がします。」


 「あー、それは分かる。」


 「ですよね?私も父上のその辺の思考回路は分かるんだ。一度決まったことは、それはそれで処理していかないと次の段階へ進めない。」


 諦めたような笑みを浮かべているリアに、ウィンディアも納得したように苦笑いをした。


 「一度決定した事項を、あーでもないこーでもないといちゃもんを付ける輩は必ず一定数いるんですよね。」


 「いるねえ。そのガルディ君にしても、落ちたら自国での勉強を頑張ればいいじゃないか。それとも、レスカの編入試験に向けて猛勉強でもしたのかな?」


 「分からないです。只、相談を受けた時点で彼の横柄な態度は全く変わっていなかったので、どうせどこも落ちると思って反対しておきました。」


 「それは良かった。」


 「あーあ、そう考えるとブラードンの直感は当たったな……。」


 「ブラードン?ロジワニース侯爵のこと?」


 「はい。こんなに杜撰で穴だらけな計画を立てるのは、私を疎ましく思っている異母兄弟やその親族なのではないかって。」


 「ロジワニース侯爵、流石だな。」


 「リア、君はそもそも何の為にここへ来たんだったっけ……?」


 ピックランツが遥か昔を探るように、遠い目をしながら尋ねた。


 「レスカからセイントレアに問い合わせがあった。セイントレア国王の名において、「レスカの教育学と傭兵学を共有したい、従わなければ武力行使する」という内容の書状が届いているが、それは真実なのかと。」


 「ああ、そうだったね!!」


 「酷い内容だし、レスカ国王がわざわざ問い合わせをしてくれたことも有難いことだったので、王族で留学経験もある私が謝罪に行くのが適当だろうと決まったんだよ。」


 「そうだよなあ……。まさか、同じ王族であるところの弟が仕組んでいたとはねえ……。」


 「本当だねぇ…………。」


 「リア、ピック。まだガルディやその周辺が仕組んだとは言い切れないだろ。」


 「えー、言い切れないけどやりそうなことです。恐らくこれ以上にやりそうな人間は出て来ないでしょう……。」


 リアはズブズブとテーブルに突っ伏した。


 「なんかやっと合点がいったよ……。「レスカの教育学と傭兵学を共有する」なんて曖昧すぎるとは思っていたけれど、今回のことでレスカはセイントレアをもっと尊重すればいい、ついでにセイントレアの第一王女に疑いの目が向けられて排除出来ればいい、というご都合主義がよく分かります。何でこんなに頭が悪いんだ……?うっ…………!」


 「………………。」


 「こっちはレスカとの国交を回復する為に、夜な夜な慣れないヒールを履いて踊り狂っていたというのに……!!」


 「リア、君はとても頑張っているよ!!」


 「ありがとう、ピック……うっ……!!」


 リアは顔を伏したまま泣き崩れた。そんな中、


 「リア、しっかりしなさい!!」


 グスグスと泣き始めたリアを、ウィンディアは叱咤した。


 「君に泣いている時間はない!!まず君が一番最初にすることは何だ?」


 「え……?」


 「リア、君がまずすべきことは何なんだ?」


 「私……?私が最初にすべきこと……?」


 リアは涙を拭いながら顔を上げた。


 「私は……私は……えっと……。」


 迷っていたリアの眼に、光が宿った。


 「私が一番最初にすべきこと、それはお二人にお願いすることです。ウィンディア先生、ピック。」


 「何だ?」


 「今の話、内緒にしてください。」


 「了解した。」


 「僕もだよ!!」


 二人は力強く頷いた。


 「ありがとう。レイアモンド国王にはきちんと私から説明する。しかし残念ながら、セイントレア国の王子がレスカ国に対して宣戦布告をしたのは事実だ、ということが明らかになってしまった。私がどのように説明しても、セイントレアへの疑いを完全には払拭出来ないだろう。何せここは、世界で最高峰のレスカ国なのだから。」


 「僕は信じてくれると思うよ。」


 「私もそう思う。王宮で陰ながら見守って来たが、君の外交力は素晴らしい。」


 「ありがとうございます。私は言い訳をせず、事実のみを話して謝罪する。どこまで信じてくれるか分からないが。」


 「それが良いだろう。」


 「それから……私は、一刻も早く国へ帰らなければならない。ひと月余り滞在して漸く手掛かりを掴めたんだ。彼等が今どういう状況だか分からないが、未だにのほほんと胡坐を掻いている可能性がある。だったらそれがチャンスだ。証拠を隠匿されない為に、速やかに秘密裏に帰りたい。」


 「そうだな。」


 「うん……寂しくなるね。」


 「それから、それから……レイアモンド国王と話す前に、是非ともジュラム宰相と話さなければ。彼がどれだけ私を信用してくれているか分からないが、私は彼を信用している。レスカ国王族との柔らかいクッション材になってくれることを祈るのみだ。今直ぐ一筆を書く。朝議が終わり次第でいい、なるべく早く会いたいと。それを急使に託して……いや、違うな。」


 「違う?間違っていないと思うけど?」


 リアはピックランツに首を振りながら、ウィンディアを見つめた。


 「ウィンディア先生、申し訳ないのですが、先生が急使になって貰えませんか?先生が行くことで重要度が変わって来る。」


 「心得た!!」


 「必ず先生も一緒に戻って来てくださいね。」


 「勿論だよ!!」


 ウィンディアは頷きながらリアの肩を叩いた。


 「それからさ、それからさ……先生……。」


 ピックランツが躊躇いながら、しどろもどろに言葉を継いだ。


 「どうしたんだ、ピック?」

 

 「あの……僕がこういうことを言うのはおこがましいのですけど……。」


 「何だ?気になるな。」


 「えっと……リアが、ミミズとナメクジを使ったアート展に出られないってことも伝えておいて貰えませんか?マニアの間では、リア王女が昆虫(?)好きってことは有名なんです。普段お姿すら見られない王女がいらっしゃるということで、待ちわびていた彼等はとてもがっかりするでしょう……。」


 「お安い御用だ!」


 「先生を使っているみたいですみません。」


 「とんでもない!さ、リア、君はとっとと書きなさい。」


 「はい!!」


 リアは書斎にあった紙を引ったくるようにテーブルの上へ置き、猛烈な勢いでペンを走らせ始めた。

 その様子を眺めながら、ウィンディアはピックランツに声を掛けた。


 「ピック、君は本当に優しいな。この国の昆虫マニアのことにまで気が回るなんて。」


 「そんなことないです……。僕も、釣り餌に使うシマミミズが大好きなので、彼等の気持ちはよく分かるんです……。」


 「そうか、そうか。」


 ウィンディアは笑いながら、恥じ入っている様子のピックランツの頭をぐりぐりと撫でた。


 さらさらとリアがペンを走らせる音と共に、貴重な時間が刻一刻と過ぎていく。





 

お読み頂いてありがとうございます。

皆様にとって今年が良い一年でありますように (^.^)/~~~

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