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亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


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相次ぐ急使② ジェイルーンの入学面接

 「昨日はたまたま、完全なオフだったんだ。」


 ピックランツは語り始めた。目の前にはリアと、今まさに出仕しようとしていた出で立ちのウィンディアが耳を傾けている。ウィンディアへ遣った急使がギリギリ間に合い、リアの部屋へ彼を呼ぶことが出来た。


 「あんな風に、面接の予定が全くない日なんてここ久しくなかった。」


 「ピック、私の為に本当に悪いね。」


 リアはぺこりと頭を下げた。ピックランツが買って出てくれた申し出は想像以上に問い合わせが多く、彼を忙殺させているようだった。


 「いいんだよ!君の役に立ちたいと思って僕が勝手にやっていることだから!」


 「ありがとう。」


 「全然気にしないでくれ。……僕は昼過ぎまで家の仕事をしていたのだが、ロザリーが気分転換に街でも行ってらしたら声を掛けてくれたんだ。」


 「うん。」


 「お気に入りのカフェで軽食を取り、その後は釣り具屋を冷やかしたりロザリーへのお土産を選んだりしながら本屋へ入った。そうしたら、グッド・スクール時代の級友に会ったんだ。」


 「グッド・スクール?随分昔からの級友だな、とても仲がいいのか?」


 「いい方だと思うよ、家も割と近かったしね。だけど年を重ねるにつれてお互いが忙しくなってしまい、最近はすっかり間遠になっていた。彼は建築士を目指していたから、学生時代から現場へ行っていて今でも殆ど家にいないんだ。」


 「なるほど。彼は偶然休暇中だった訳?」


 「そうなんだよ!一つの仕事に区切りが付いて実家へ戻っていて、街でも散策するかと思っていたところで僕と出会った。」


 「凄いなあ!」


 「ピック、その、殆ど家にいない君の級友が、あの生意気な学生を知っていたというのかい?」


 「いえ、そういう訳ではないのです。」


 ウィンディアの問いにピックランツは首を振った。


 「僕達は再会した後喜び勇んで飲みに行き、沢山の話をしました。子供の頃流行っていた遊びの話、当時仲間だった友達の進路、人気だった女の子達の嫁ぎ先……。夜も更けて僕等もいい感じに酩酊具合になった頃、彼は自分の弟について話し始めたんだ。」


 「弟?」


 「そう、彼には弟がいたのです。一通り色んな話をして、ちょっと空白が出来た時に思いついた話のような感じでした。」


 「君はその弟ともよく遊んだのかい?」


 「いえ、かなり歳が離れていたから一緒に遊んだことはないです。僕の記憶にあるのは、よちよちと兄を追って転んだり、皆に愛されて頭を撫でられていた可愛い幼児の姿だけ。だけど当然幼児も成長します。」


 「そうだな。」


 「彼の弟は、去年無事に名門ジェイルーン・ブリリアント・スクールに入学したと喜んでいました。今秋からは二年生だそうです。」


 「ジェイルーンだって!?彼の名前は!?」


 ウィンディアにしては珍しく、興奮した様子でピックランツ問い掛けた。しかし、ピックランツは逸るウィンディアを伺いながら静か答えた。


 「オコハ・タイラップです。」


 「オコハか!!」


 ウィンディアは驚愕して手を打った。


 「そうか!!オコハの兄が君の級友か!!私も彼をよく知っている!!オコハは非常に良い生徒だよ、成績も優秀だしクラスメイトからの信頼も厚い。え……?オコハが、あの糞生意気な学生の友達だとでも言うのか?」


 ウィンディアは最初は興奮していたものの、次第に腑に落ちないというように首を傾けた。


 「ウィンディア先生、僕も聞きたいのですが、先生はオコハのことを他の生徒よりも特別によく知っているのですか?」


 「特別に?……うーん、どちらかと言うとそうかもな。弓道の成績も良いし、人を纏めるリーダー的な要素も持っている。派手なタイプではないが目立つ生徒ではあるな。」


 「それは、入学当初からそうでした?」


 「え、入学当初から?さあ、どうだっただろう……?でも最初の方から覚えていた生徒であったような…………。あああっ!!思い出した!!」


 「そうです!!」


 「私は、彼の入学面接をしたんだ!!」


 「その通りです!!」


 「そうだった、そうだった!!面接の印象も非常に良かったし、その後もうまく学生生活を送れているか気に掛かるだろう?馴染むにつれてお互いそんなことはすっかり忘れてしまうけどな。」


 「オコハはよく覚えていましたよ。もっともオコハはとても緊張していたと言っていましたが。」


 「君はオコハと会ったの?」


 「はい。失礼だとは思いながら非常に重要な情報の可能性があると判断して、強引に友人のお宅へお邪魔しました。遅い時間にも拘らず温かく迎え入れてくださって有難かったです。」


 「そうか。で、オコハは何だって?」


 「それより先生、思い出してください。ウィンディア先生はオコハとどんな面接をしたのですか?」


 「えっ!?そんな……覚えていないよ……。」


 「小さなことでいいんです。」


 「そう言われても……難しい。ジェイルーンの面接は数が半端なく多いから。印象的に、この学生は一発合格だと確信した。他の二人の面接官と密かに目配せし合ったような……。」


 「オコハが言うには、将来の夢について問われたそうです。」


 「将来の夢?」


 「はい。自分の兄は時代の最先端をゆく建築士になったが、自分の夢はそうではない。この国に古くからある、失ってしまったらもう二度と再建出来ないような建造物を――。」


 「あ――――!!」


 「思い出しました?」


 「思い出した!!そうだ、確かにそんな話をした!!そうか、オコハ……そんな面接をしたんだな。そう、確かに緊張した様子ではあったな。しかし、芯の通った将来のビジョンはあるし、こちらの質問には誠実に答えようとするひた向きな様子が非常に好印象だった。その時間、はい、ブ、ブーッ、という感じの学生がいて我々面接官もだれていたところだったから、襟を正すいい機会になったんだ。…………え?」


 「え…………?」


 「え――――っ!?」


 リアとウィンディアは顔を見合わせた。


 「ピック、どういうことなんだ!!」


 「な、何?私は、オコハの前にあいつを面接したってことなのか!?」


 「ちょ、ちょっと、二人とも落ち着いて!!」


 ピックランツは興奮状態の二人を手で制した。


 「端的に言うとそうです。オコハの前に面接した学生が、例の生意気な学生でした。」


 「オコハはあの学生について何か知っているのか!?」


 「待ち時間の間に会話をしたとか!?」


 「ウィンディア先生、リア、焦らせるようで申し訳ないが、もう少し順を追って話をさせてください!」


 ピックランツが窘めると、二人は口を噤み彼の言葉に耳を傾けた。


 「実はオコハは、ジェイルーンの正門のところから奴を見ていたのです。」


 「正門だって?どうしてまた?」


 「たまたまだそうです。登校時刻が同じだっただけです。ところでウィンディア先生、ジェイルーンの正門ってとても狭いそうですね。」


 「ああ、狭いよ。ジェイルーンは今は巨大な学校だが元々は私塾だったんだ。あの正門はその名残り。どんどん増築されて今では門も他に二ヵ所あるのだが、正門だけは記念的に当時の形のまま残されている。」


 「なるほど、そうだったんですか。一人かせいぜい二人くらいまでしか通れないとか?」


 「そう、石造りでね。その正門が何か?」


 「揉めていたんだそうですよ。」


 「ああ!!なるほど!!はあ…………。」


 ウィンディアはガックリと溜息をついた。


 「よく揉めるんですか?」


 「全然揉めないよ。しかしゼロではないな、三年に一度くらいかな。始業ぎりぎりで駆け込んで来て怪我させたとか。」


 「思ったより少ないですね。」


 「あー良かった、不合格にしておいて……。」


 「あのさ……。」


 リアは、何やら納得している二人を遮って声を掛けた。


 「あのさ、私にはあなた達が何を言っているのかよく分からないのだが?」


 「ああ、君を置き去りにして済まない。」


 ウィンディアはリアに笑顔を向けた。


 「ジェイルーンの正門は狭い。そんなこと皆分かっているのだから譲り合って通るのが常識だろう?それなのに揉めるということは、よっぽど酷い何かがあったんだろうなと。」


 「そういうことでしたか。」


 「そんなつまらないことで揉める学生なんてジェイルーンにはいない。ピック、奴は何で揉めていたんだ?」


 「奴が門を通るタイミングと同時に、二人組の上級生?っていうか在校生が通るところだったんです。睨みながら強引に先に通ろうとする彼を引き戻して、二人は門の脇で説教を始めた。そうしたら奴は、俺は偉いんだ、俺の父親は権力者だ、お前等なんか簡単に退学にしてやると息巻き始めた。しかし二人組はそんな挑発には乗らず、君は見たところ入学志願者に見えるが、そんなことはこの学校では通用しない。もっと謙虚な心を持ちたまえ、と彼を威圧して堂々と門を潜って行ったそうです。」


 「素晴らしい!その二人が誰かも知りたいところだ。」


 「ピック、その間オコハはどうしてたんだ?」


 「騒ぎが始まった時にその場から離れたそうだ。騒ぎの間正門を通っている学生も大勢いたらしいが、大事な日に万が一巻き込まれたら嫌だったって。かなり早めに出ていたから、静まってから入ればいいやって様子を見ていたらしいんだ。」


 「なるほど。オコハも凄いな、自制心がある。私だったらきっと便乗しちゃう。」


 「それもちょっと違うから。で、オコハは事態が落ち着いた後、例の学生と充分に距離を取って校舎へ入り受付を済ませた。先生、受付では面接する教室の番号が記されたカードを渡されるそうですね?」


 「うん。自身の面接番号もだね。」


 「オコハは受付の案内通りに面接される教室の前へ来た。そこには数脚の椅子が置いてあって、志願者は椅子に座って自分の番号が呼ばれるのを待っていた。そして、そこに奴がいた。」


 「ひゃ――!!」


 「縁があるな!!割り振られる教室だって沢山あるのに!!」


 「で?オコハは?」


 「奴から一番遠い席に座り、自分は緊張しているから話し掛けないでくれってオーラを放ちまくっていたそうだ。」


 「ははは!!それでも何かあったんだな!!」


 「いや、何もない。」


 「え、そうなの?」


 「そうだ。しかし肝心なのはここからだ。」


 「どういうこと?」


 リアに問われたピックランツは、自分を落ち着かせる為に一つ深呼吸をした。


 「オコハは、奴が番号を呼ばれて教室のドアをノックし、その時名乗った際の名を覚えていた。」


 「――――――!!」


 「彼の名は、ガルディア。ガルディア・なんちゃらかんちゃら。」


 「ガルディア…………?」


 「ガルディア?ガルディア……ガルディア……。あ――!!確かにそうだった気がする!!」


 「そうなんですか、先生!!」


 「そうだ!!ガルディア・なんちゃらかんちゃらだ!!ガルディア……何だっけ……?ガルディア……ガルディア……ガルディア……。」


 「なあ、ピック。姓はなんちゃらかんちゃらだが、名の方はガルディアで間違いないのか?」


 「うん。その頃のオコハは、ガルディアというメーカーの工具セットを親にねだっていたそうなんだ。この国では超精巧だけど高いのでも有名な精密機器企業だ。彼は大好きなメーカーと奴の名前が同じで凄く嫌な気分になったって。」


 「ああ、あのガルディアね!確かにそれは嫌だろうな。」


 「ガルディア……ガルディア……ガルディア……ガルディア……。」


 「先生……?」


 「ガルディア……ガルディア……ガルディア……ガル、ガルルルル!」


 「先生、煮詰まらないでください!!」


 「ガル、ガル、ガル、ガガガガガー。」


 「先生、休憩しましょう!!」


 「ガガガー、ガガガー、ガル…………ガルディア・ズールベントだ!!」


 「――――――!!」


 ウィンディアは予期せず自身の記憶に辿り着き、自分でも信じられないというように瞠目した。


 「そうだ……ガルディア・ズールベントだ。ああ、やっと思い出した……!!」


 「先生、やりましたね!!」


 「ああ、やっと……。大きな石を飲み込んでいたのを吐き出したような気分だ。」


 「よかったね、リア!ガルディア・ズールベントが例え偽名だったとしても、大分近付いたんじゃないか?いつもみたいにセイントレアへ問い合わせをして――。リア……リア?どうしたの?」


 リアが静かだったのでピックランツは声を掛けてみたが、リアは微動だにせず宙の一点を見つめていた。


 「リア!!」


 「え?あ……何だっけ?」


 「リア、大丈夫?例の学生の氏名が分かったんだから、セイントレアに問い合わせをしてみたら何か分かるんじゃないかって。」


 「セイントレア……?そう、セイントレアだ……。」


 「リア……?」


 「セイントレア……問題はセイントレア……。」


 「…………?」


 「そうだ……私は……今すぐにでも本国へ帰らなければ!!」


 「何だって!?」


 「リア!!リア!!」


 立ち上がろうとするリアの前にウィンディアは回り込み、彼女の肩に手を置いた。


 「リア、落ち着きなさい!!」


 「落ち着いている場合じゃないんです!!」


 「それでも落ち着きなさい!!君らしくない!!」


 ウィンディアはリアを引き寄せ抱きしめた。ゆっくりと彼女を離し、琥珀色の瞳を覗き込む。


 「リア、君は……ガルディア・ズールベントが誰なのか知っているのだね?」


 ウィンディアに尋ねられて、リアは目の前にあるウィンディアの眼を見た。何て綺麗な菫色なんだろう……今はそんなことしか考えられない。


 「……多分。」


 「偽名か?」


 「はい。」


 「それでも分かるの?」


 「はい。ガルディア・ズールベントは…………恐らく私の弟だ。」






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