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亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


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それぞれのレスカ ⑧ピックランツ 作家ネタを建前とした悪目立ちする学生の話の聞き取り「羽ペンの舞作戦」他

 「やあやあ、お待たせしてしちゃってごめんね!」


 ピックランツは、応接室で手持ち無沙汰そうにきょろきょろしている少年に声を掛けた。


 「ジャンの弟さんだって?わざわざ来てくれてありがとう!どうぞ掛けて掛けて!」


 愛想の良いピックランツに、彼はほっとしたように椅子に掛け直した。


 「ロメインと申します。」


 「ロメイン、気楽にして。僕はピックランツ、作家志望だ。君の学校に凄く悪い奴がいるのかい?ああ、大丈夫、もし書く時は絶対に分からないようにするから!」


 「分からないように出来るかな、ちょっとした事件になったので。兄に話したら、面白いからあなたの所で話して来いって。」


 「興味深いな、書く時は君に相談するよ。君の学校で何があったんだい?」


 ロメインは少し考え込んで、ぽつりぽつりと話し始めた。


 「僕のクラスにハーマンていう奴がいるんです。明るいし友達も多いし、親切だから誰からも好かれています。」


 「いるね、そういう子。クラス委員長とかになるタイプだね。」


 「その通りです。」


 「その子が?」


 「渡り廊下を歩いていたんだそうです。彼の周りには大抵人がいるのに、その時はたまたま一人だった。やけに風が強い日で、突風が吹いたので身を屈めると、目の前にバサッと鳥が落ちて来た。可哀そうにと思って取り上げると、それは鳥ではなくカツラだった。」


 「カツラ?」


 「ふと前を見ると、普段はフサフサの化学教師が輝きながら歩いている。」


 「あはははは!!」


 「まだ全然若いんですよ。」


 「お気の毒に。」


 「そう!ハーマンもそう思ったんですよ。ですから彼も、化学教師にこそっと近付いて、落ちてましたよと素早く手渡してその場を去った。」


 「いい話じゃないか。」


 「ですよね。でも話はこれで終わりではなかったのです。」


 「というと?」


 「僕も何か変だな、という違和感は感じ始めていました。その化学教師は毎回のようにハーマンを指し、答が違うと罵倒して居残りをさせました。グループでの化学実験中なのに、私語が多いとか言われて叱咤される。信じられないことに、彼は素行不良ということで退学になってしまいました。」


 「それは酷い。親は何も言わなかったのかい?」


 「それが、彼は外国人なのですよ。」


 「外国人だって!?」


 「そうです!彼はグレイト・スクールからこっちの寮に入っていたのですっかり忘れておりましたが。しかし彼は留学生です、自国の親に訴えてもすぐに対応出来る訳がありません。あれよあれよと言う間に退学が決まってしまいました。」


 「ハーマンはどこからの留学生なんだ?」


 「セイントレアです。」


 「セイントレア!!……それではさぞかし、レスカ国の教育体制を恨んでいるだろうね。」


 「いえ、そんなことはありません。」


 「そんなことはない!?そんな訳ないだろう!!」


 「あ、すみません。この話には続きがあって。」


 「え?そうなの?」


 「すみません、僕は話すのがうまくなくて。」


 「いや、十分うまいよ、続きを聞きたいな。」


 「はい。ハーマンは本当にいい奴で、化学教師の名誉の為にカツラの話を誰にもしていませんでした。ハーマンと仲の良い親友が彼を問い詰めて、やっと真相が判明したのです。」


 「そうだったのか……。」


 「クラスメイトは全員怒りました。彼が退学になる理由は何もなく、親切すぎて理不尽なことをされていた訳ですからね。僕も本当に腹が立ちました。僕は引込み思案な方ですので、入学当初に彼が気さくに声を掛けてくれて、どれだけほっとしたか分かりません。」


 「いい子なんだなあ!……全員で校長に直談判とかしたのかい?」


 「いいえ、それでは甘いと思いました。それ以前に、化学教師が校長を言いくるめているかもしれないと思ったのです。」


 「なるほど。」


 「僕達は何度も話し合って「羽ペンの舞作戦」を実行することにしました。」


 「す、凄そうな作戦だ……!!」


 「化学の授業の後半、僕達はインクをたっぷりと含ませた羽ペンを、同時に教師に投げ付けたんです。彼は顔を真っ赤にして怒りました。「お前ら何をやっているんだ!!全員退学は免れないぞ!!」と。僕達は声を揃えて言いました、「風が強かったので」と。化学教師はインク壺を投げ付けて出て行きました。」


 「あはははは!!」


 「次の授業は二分に分かれての幾何学と代数学の授業でした。どちらの先生もとても人気で、きっと生徒の気持ちに寄り添ってくれると信じていたから、わざとこの時間を選んだのです。お二人の先生はとても驚かれました。何しろ僕達は服から顔からインクまみれでしたからね。僕の学校は共学ですので女子もそうでしたが、彼女達も毅然として授業に臨んでいました。」


 「で、どうだったんだ?」


 「両教師は僕等に事情を聞きました。聞き終わると直ぐに校長を連れて来てくださって、状況を説明しました。その後は長い会議です。校長以下、幹部職員が集結し、帰ろうとしていた化学教師も呼び戻されました。彼は当初、こいつらは全員退学だ!!と息巻いていましたが、次第に劣勢になってきました。幾何学の教師は、「先生、それは本当にカツラですの?まずはその真偽が確認出来ませんと、どちらの言い分も証明出来ません。お脱ぎになって貰えませんか?」なんて言い出すし。僕等は笑いを堪えるのに必死でした。」


 「だはははは!!」


 「長い話し合いの末、化学教師は懲戒解雇となり、ハーマンは復学を許されました。」


 「良かったなあ!!……じゃない、その化学教師は、この国の教育体制をさぞかし恨んでいるだろうね。」


 「だと思いますよ。」


 「彼が裏で手を引いて、ハーマンに嫌がらせをする可能性は?或いは僕もよく分からないけど、もっと上の機関に訴えて君の学校自体を陥れる可能性は?」


 「多分ないと思います。」


 「何故そう言い切れる?」


 「化学教師の父親が謝罪しに来たんですよ。」


 「え?わざわざ?父親は何をやっているの?」


 「それが何と、グレイト・スクールの校長なんですよ。」


 「ええっ!!」


 「西の田舎の方らしいんですけどね、ハーマンに謝罪しに来たそうです。ハーマンが言うには、本当に心から謝罪して貰って、息子の性根は叩き直すから君は思う存分勉学に励んでくれたまえ、と励まされたそうです。」


 「化学教師は今……?」


 「父親の所で用務員をやっているようですよ。」


 「よ、用務員……!!それじゃあ悪いことは出来ないな。」


 「当然です!ハーマンの受けた心の傷を思うと、一生田舎に引っ込んでいてもらいたいです!」


 「そうだよな。君達もよく頑張ったね、下手すれば自分達が退学になる可能性だってあったのに。」


 ロメインは照れたように頭を掻いた。


 「僕達は……納得がいかなかっただけです。」


 「胸のすくようないい話だ。ああ、ずっと喋りっぱなしで咽が乾いたよね。つい話に引き込まれてしまって、お茶も出さずに失礼した。うちのココナッツ・ケーキは最高なんだ、一緒に食べよう。」





     ★★★





 「来てくださって嬉しいわ!!ニーシャ、お茶をどうぞ、気楽になさって。私はロザリーです。」


 「ありがとうございます。」


 ニーシャは丁寧に淹れられたお茶を一口飲んだ。その途端彼女は目を見張った。


 「お口に合わなかったかしら?」


 ロザリーは心配そうに彼女の顔を伺った。ニーシャは茶器を手に取ったまま固まっている。やがて彼女は茶の香りを吸い込み、目を閉じて静かにもう一口飲むと器を卓へと置いた。


 「奥様……。」


 「ロザリーと呼んで。」


 「ロザリー、失礼ですがお宅様ではいつもこのお茶を出されるのですか?」


 ロザリーは突然の質問に驚きながら、心配そうに首を振った。


 「いいえ、あまりお出しすることはありません。お口に合わなかったら他のものをご用意しますわ。」


 「いいえ!」


 「あら、そう……?」


 「パイチャ……ですわね。」


 「まあ!ご存じで!?」


 「いえ、頂いたのはこれが初めてです。何ておいしい……。」


 「だったら良かったですわ!」


 ロザリーは朗らかに笑った。


 「飲んだことがないのに銘柄を当てるなんて、素晴らしい才能ですわね!」


 「何故私にこれを?」


 「あの……こう言っては失礼かと思いますが、あなたのお顔の色が優れないと思いましたの。これは健康茶です、あなたが元気になってもらえればと。」


 「お心遣いありがとうございます。こんなに美味しいお茶は飲んだことがありません。」


 ニーシャは深々と頭を下げた。


 「どうぞ気楽になさって。ニーシャ、学校のことで何かお悩みですの?」


 ロザリーが尋ねると、ニーシャは意を決したように口を開いた。


 「はい。私はウィンシン・ブリリアント・スクールの三年生で――。」


 「ウィンシン・ブリリアント・スクール!?確か女子校ですわよね!?」


 ロザリーは心の中で舌打ちをした。


 「いいえ、五年前に共学校になりました。」


 「ああ、ああ、ああ、そうでしたわね!!ごめんなさい、話の腰を折ってしまって!どうぞお続けになって!」


 「私はガーデニング・クラブの部長をやっているのですが、クラブにおかしな噂が立つようになってしまって……。」


 「おかしな噂?」


 「そもそもはあなたが仰った五年前に遡るのです。私はまだ入学しておりませんでしたが、ウィンシンが共学校になった折に、運動部の活動場所を広げる配置換えがありました。」


 「ウィンシンはスポーツが盛んな学校でしたわね。」


 「ええ。盛んは盛んなのですが圧倒的に強い訳でもなく、男子も入れることによってスポーツに特化した学校にしようという動きがあったようですわ。」


 「そうでしたか、それで?」


 「当時ガーデニング・クラブは地上にありましたが、それを機に活動の場を屋上へ移すようにと指示があったのです。」


 「まあ!植物の移動は大変でしたでしょうに!」


 「だと思います。当時は部員三人ほどの弱小クラブでしたから、廃部にならない為に必死だったと先輩から聞きました。」


 「今は?」


 「おかげさまで、今は二十名ほどのクラブ員がおります。」


 ニーシャは誇らしげに頷いた。


 「自分で言うのも何ですけど、私頑張りましたのよ!うちもお茶……主にハーブですけどやっておりますので、茶会を開いて勧誘したり、農家出身の男子を口説き落としたり。」


 「素晴らしいわ!順調なように聞こえますけど……?」


 「順調だったのです!それが最近……。」


 「どうなさいましたの?」


 「屋上に幽霊が出るという噂が立ってしまって。」


 「幽霊ですって!?」


 「言い出したのは、運動部の男子部員だと思います。話は皆同じです。」

 

 「複数人いるのですか?」


 「はい。クラブ活動に熱中していてふと空を仰ぐと=屋上を見ると、自分を熱心に見つめている女子がいる。遠くて分からないが、黒髪を風に靡かせている美人のようだ。どんな子なのか確かめたくて、ある日こっそりと彼は屋上に上がった。彼女はいた。彼女が振り返ると確かに黒髪の美人だったが、胴から下がなく浮遊していた。彼女は嬉しそうににっこりと笑うと、こんな風に空中を匍匐前進でグワーッと!!」


 「ウギャ――――!!」


 「あ、ごめんなさい。」


 「それ、実話なの!?私を担いでいるんじゃないでしょうね!?」


 「担いでなんていません!!」


 目を伏せた美しい横顔に黒髪が掛かり、ニーシャは心底憔悴しているように見える。え……?


 「ねえ、その運動部君が屋上に上がった時は、ガーデニング・クラブも活動していた訳でしょう?」


 「だと思うんですけど。でも、うちの部員もすっかり怯えてしまって、最近は私以外誰も来なくなってしまいました。」


 「あら……それは大変ね。」


 「はい。私、もうどうしたらいいか分からなくて。結構手を広げてしまったから、一人ではどうしても全ての面倒は見られません。」


 「ニーシャ、あなたは怖くないの?」


 「怖い?と言えば……怖い気もしますけど、そうでもないです。」


 「どうして?男子部員も逃げ出すたった一人の屋上でしょう?」


 「誰かが世話をしないとこの子達は枯れてしまう、という恐怖の方が強いです。それに……。」


 「それに?」


 「それに……私、昔から植物の近くにいる方が落ち着くんです。ましてや今私がお世話している子達は、歴代の先輩達が大切に育てて受け継いでいる命でしょう?幽霊なんか吹っ飛ばしてしまう強い力を持っていると思うのです。」


 「偉い……!!」


 「偉いとは思いません。でも困っているのは事実です。」


 ニーシャは下を向いて項垂れた。ロザリーはそんなニーシャの手を取り、大きく頷いた。


 「方法はあるわ。」


 「そうなんですか!?」


 ニーシャは驚いて顔を上げた。


 「いい?まずは噂を言い出した運動部員を探すの。きっとみんな、友達の友達が……とか言って、具体的に誰だと特定されないと思うわ。」


 「そうなんです!!」


 「とにかく徹底して噂の根源を探し出して。多分何も出て来ないと思うけれど。」


 「何も出て来なかったら?」


 「そうしたら、只の偽情報だって分かるじゃない!離れた部員も戻って来るんじゃない?」


 「そうですよね!もし本当に見たっていう人がいたら?」


 「そうしたら厳重に調べて。いつ、どこで、何が、どのように。具体的に何月何日だったのか、その日にガーデニング・クラブの活動はあったのか。それが分かったらまた連絡を頂戴。」


 「分かりました、どうもありがとう。何だか希望が見えてきました。」


 「ああ、やっと笑ってくれたわ!……ニーシャ、馬には乗れる?」


 「馬?一応乗れますけど。」


 「では、裏の農道から馬でココナッツ畑を散策しましょう。畑と言っても森なんだけど。」


 「まあ、嬉しい!!」


 「庭の手入れも楽しいけれど、大きな木の下に身を置くのも面白いわよ。今のあなたには気分転換が必要だわ。馬でココナッツの森を散策して、新鮮なココナッツ・ジュースを飲みましょう!」





     ★★★





 「おなら……?」


 ピックランツはポカンとした顔で呟いた。

 彼の目の前には、十歳前後の少年少女が憤った顔で立っていた。男子が四人、女子が二人。年齢が統一されている訳でもなく、通っている学校もそれぞれのようだ。


 「えっと……君達は公園で遊んでいたんだよね?ここから目と鼻の先のミニア公園で。」


 「そうです!!」


 少年の中の一人、ノースが声を張り上げた。


 「僕達は輪になってしりとりをしていました。そうしたら急に、強烈なおならの匂いが。イモ系だったと思います。」


 「俺じゃない!!」


 サウスがいきり立った。


 「あやしい……。」


 ノースはふふんと鼻で笑った。


 「お前、前日の夜は大好きなマッシュポテトで嬉しかったと言っていたじゃないか!」


 「マッシュポテトは本当だけど俺じゃない!!それに俺は右から、東側から匂いを感じたんだ!!ポテトというより馬糞系の匂いだった!!」


 「俺だっていうのか!!」


 イーストがサウスに掴みかかった。


 「だと思うよ、女子だってそう言っているじゃないか!」


 サウスはイーストに引き倒されながら、二人の女子を指差した。


 「君達は……?」


 ピックランツは、おどおどとしている二人の女の子に声を掛けた。すっかり怯えてしまって震えている。


 「あの、あたし達は、男の子の西側で遊んでいたんです。腐ったチーズみたいな匂いがしたと思ったら急に喧嘩が始まって。怖かったです。」


 「だったらウェストが一番怪しいんじゃないか!?」


 「何でだよ!!ノース、お前は南側から匂ったと言っていたじゃないか!!」


 「南風が吹いていたからさ。でも女子がそう言うんだったらお前かもしれない。」


 「女子はちょっと離れた場所にいたじゃないか!!誰だっておかしくないだろう!?ノース、本当はお前なんじゃないか?」


 「何だって!?」


 「僕は匂いなんて何も感じなかった。言い出したお前が一番怪しい。」


 「なにを――!!」


 「ちょーっと待て――――!!」


 ピックランツは、混乱した全員の中に割って入った。


 「ちょっと待て待て待て!!」


 ピックランツは肩で息をした。


 「あのな、あのおならね、あれは……僕なんだ。」


 「そうなんですか!?ピックランツさん!?」


 時が止まったかのように、全員が目を見開いたまま固まった。


 「うん……そう、あの日ね。うん、思い出した!僕もミニア公園へ散歩に行っていたんだ。君達も女の子達も確かにいたね。ちょっと通り掛かっただけだけど、迷惑を掛けてごめんね。僕がプウッと失敬したんだ。」


 「そうだったのかあ……。」


 少年少女は、ほっと息を撫で下ろした。


 「悪かったのは僕さ。仲直りして公園で遊んでおいで。メイドにお菓子を貰うといい、皆仲良くね。」


 「ありがとう、ピックランツさん!」


 「ピックランツさん、ごきげんよう。」


 彼等はガヤガヤと出て行った。


 「なんだ、そうだったのかあ……。」


 「プープークランツさん、ぎゃはは!!」


 「シッ!!お菓子取りやめになるぞ。」


 「何して遊ぼうかあ。」


 賑やかな少年達を見送りながら、ピックランツはがっくりと肩を落とした。





     ★★★





 「最初にボイスと付き合っていたのは私なんです!!それを、親友だと思っていたケイティが……!!」


 ロザリーの目の前で、一人の少女が泣き崩れた。ロザリーは心の中で舌打ちをしながら、彼女の背に手をやった。


 「イレーネ、あなたの気持ちはよーく分かるわ!でもね、私なんかより、もっと理解のある人が今丁度来てるの。すぐに呼んで来るわ!少しだけお待ちになってね。」


 ロザリーは嵐のように過ぎ去り、直ぐに戻って来た。


 「イレーネ、お待たせしたわ!こちらはアン、あなたのお話を聞きたがっているわ!」


 イレーネは目の眩むような美形の少年に、ポッと顔を赤らめた。


 「こう見えても女性だから安心して。色々と相談するといいわ。」


 「イレーネ、よろしくね。色々と君の話を聞きたいな。」


 「ああ、良かったわ!では私はこれで。」


 「ロザリー、君はいないの?」


 「残念だけど色々とあって。あなたがいれば安心だわ。」


 「そう、いつもありがとう。」


 ロザリーは笑顔で去って行き、リアは目の赤い少女に話し掛けた。


 「イレーネ、泣いていたのかい?」


 「ごめんなさい、少し気持ちが高ぶってしまって。」


 「気にすることはない。君の学校で何かあったのかい?」


 「はい。あの、私はボイスという男の子と付き合っていたんです。」


 「やー、羨ましいな!」


 「それが、全然羨ましくないんです!!」


 「というと?」


 「私の親友はケイティというのですが、いつの間にかボイスはケイティとも付き合っていたんです。」


 「え――――!!」


 「驚きますよね?私だってびっくりしました!!」


 「ちょ、ちょっと待ってね。私は外国人なので付き合うという概念がずれているかもしれないのだが、君とボイスは親が決めた許婚みたいな関係だったのかい?」


 「いえ、そんなんではなく、只の口約束ですけど。」


 「や、本当に羨ましいな!で、その口約束を君の親友ともしていたと。」


 「そうなんです!二人で、私のことを陰で笑っていたんだわ!!」


 イレーネはわーっと泣き崩れた。


 「凄いな!そのボイスって奴は、二人同時に付き合うなんてことが出来るのだろうか?」


 「私はどちらとも親しくしていたので、自然と顔を合わせる機会が多くなったみたいで。」

 

 「はあ……。それだけで自然と付き合うことになるものか?」


 「なってしまったのです!」


 「そうか……そもそも、私は付き合うということを理解していないな。」


 「は?」


 「イレーネ、付き合うということは、具体的にどういうことなのだろう。好きです、付き合って下さい、みたいな約束が交わされるのだろうか?」


 「はあ……まあそれが一般的だと思うけど。」


 「なんと!世間ではそんな会話が一般的になされているのか!君の場合は?そんな感じだったの?」

 

 「私?そういえば……そうじゃないわ!ボイスが、財布を忘れたからランチを奢ってくれって。」


 「全然ロマンティックじゃないな!」


 「でも後日、彼が豪華なランチを奢ってくれたんです!食堂じゃなくて街のお洒落なお店で!」


 「それはロマンティックだな!」


 「あの頃は良かったわ……。ボイスが……デザートも好きなのを食べなよって優しくて……うっ……うっ……!」


 イレーネは再び泣き崩れた。


 「あ、あ、ごめんね!泣かせるつもりはなかったんだ!」


 「いいえ、私こそごめんなさい。楽しかった頃を思い出してしまって、うっ……。」


 「それにしてもケイティって子も酷いな。親友だったんだろう?今でも親友なのかい?」


 その途端、イレーネは身体を二つ折りにして絶望的に泣き出した。


 「ど、どうしたんだい?」


 「私が……私がいけないんです!!」


 「君がいけない?そうは思えないけど?」


 「私が……ボイスの気を引く為に……デビットと付き合ってしまって!!」


 「え――――っ!!」


 「本当はボイスのことが好きなんです!!でも、でも!!」


 「ちょ、ちょっと待ってくれ!!君は、付き合おうと思ったら、いつでも誰とも付き合えるのか!?」


 「え……?勿論、ちょっとは好きじゃないと付き合えないですけど……。」


 「や、そういう感情的な問題ではなくて。物理的に、君がちょっとは好きだったら直ぐに付き合うという環境に持ち込めると?」


 「は……?いつもそうだとは限らないと思うけど、今回はたまたまそうなってしまって……うっ!」


 「たまたまそうなる!?信じられない!!」


 「ケイティがすっかり気を良くしてしまって。ボイスと付き合っていてごめんなさい、でもあなたもデビットとうまくいっているからいいわよねって、うわ――――ん!!」


 「ひゃ――!!いや、イレーネ、君の才能はボイスやデビットに留まるもんじゃない。その才能を最大限に活かして、最高の男と結ばれた方がいいんじゃないか?」


 「うおーん!!わ、わ、私は、ボイスがずきなんでずぅ!!」


 「………………。」


 「アン、私はどうしたらいいのでしょう!?」


 「む、難しい質問だな、難易度が高過ぎる!」


 「え――――ん!!」


 「イレーネ、君は立派だよ!」


 「は?立派……?」


 「是非ご教授願いたい。君はどうやってデビットと付き合ったんだい?」


 「デビット……?」


 「ボイスの気を引く為にデビットと付き合ったと言っていたじゃないか!」


 「本気じゃありません!!ボイスが気にしてくれたらと、つい!!」


 「つい!!……ついは分かるよ、そこをもう少し具体的に。」


 「具体的にって言われても。」


 「君がデビットに、好きです付き合って下さいと言ったのか?」


 「言いません!!」


 「では、デビットが君にそう言ったんだな?」


 「まあ、そうですけど。」


 「どうやって彼にそう言わしめたんだ!!」


 「言わしめたなんて……!!別に、普通にお喋りしてただけですよ。」


 「普通にお喋り?」


 「そうですよ。」


 「騙されないぞ……。君はボイスの気を引く為にって言った。そこには何か特別な技能がある筈だ。」


 「技能だなんて……。」


 「頼む、イレーネ!その技能を是非とも私に教えていただきたい!!」


 イレーネは、ふうっと溜息をついた。


 「そんなに難しいことじゃありません。喋りながらちょっと肘をさわるとか。」


 「肘をさわる!?」


 「ちょっと軽くです。」


 「ちょっと軽く?こんな風に?」


 「きゃ――!!脱臼する――!!」


 「あ、ごめん、うっかり身体が反応してしまった。」


 「はあ!?」


 「失礼した。イレーネ、どんな感じでさわるんだ?」


 「もう!こんな感じよ!」


 イレーネはリアの肘に軽く触れて離した。


 「へ?一瞬じゃないか!」


 「そう言っているでしょう!!」


 「これがなんで……?いっそのことこうやってしっかり組んでしまえば?」


 「それじゃ駄目なの!!そんなことをしたら引かれるわ!!」


 「引かれる?」


 「そう!!……こんなことを話していても虚しいだけだわ……私はどうしたら……うっ……うっ……。」


 「君は大丈夫だよ、プロフェッショナルと言っていい。」


 「こんなの女子なら誰でもやります!ボイス……ボイス……!!」


 「肘をちょっとさわる……難しいもんだな。」


 「ボイス……えっ……えっ……。」


 「肘……肘……。」


 「ううっ………………。」


 「むむ………………。」


 「………………。」





     ★★★





 「ピックランツさん、これが我がビンティーク島の案内です。」


 ディーターと名乗った男は、机の上にドサドサッと複数の冊子を重ねた。ピックランツは首を捻りながら、にこやかな表情で笑っている彼に問い掛けた。


 「ビンティーク島というと、レスカより東にある高級リゾート地ですよね?一体僕にどんなお話が?」


 「レスカの皆様には常日頃から非常に懇意にして頂いて、ありがたいことでございます。しかし統計的にみると、レスカからビンティークへの渡航が、年々減少傾向にあるのです。」


 「はあ……。よく分からないけど、ビンティーク島はとても楽しいけど、何もかもがべらぼうに高いというイメージがあります。そのせいなんですかね?僕も行ったことがないので何とも言えませんが。」


 「そういう訳ではないのです。古くから、高かろうが何だろうが、休暇はビンティーク島で過ごすものだと思って下さるいいお客様が、レスカ国には沢山いらっしゃいます。」


 「何となく分かりますよ、何故客足が減ってしまったのでしょう?」


 「お年を召されたからですよ。」


 「ああ、なるほど。」


 「行きたいには行きたいけれど、足や腰や船旅に不安がおありになって一歩が踏み出せない。」


 「でも、その子供が行くんじゃないですか?幼少期からのいい思い出があるでしょうし。」


 「そこなんですよ!来てくれてはいるのですが、やはり世代交代した溝があります。値段を鑑みて毎年でなくてもいいかとか、今回は別の場所で休暇を取ろうとか。」


 「難しいでしょうけど、少し値段を下げられたらいかがですか?」


 「もう動いております。高級街は我が島の要なので勿論大々的に宣伝しますが、今まで何もなかった地域に、もう少しリーズナブルで気楽な宿やレストランを開拓中です。」


 「流石、観光の島ですね。一時的に落ち込んでもまた戻ってくるのではないですか?」


 「そう信じております。あとは広告力です。という訳で、ターゲットは若者です。歴史やショップ、風景や名物など様々なジャンルのものを用意しましたので、ピックランツさんが面白いと興味を持って頂いたもので構いません。」


 「は?何のお話でしょう……?」


 「うちの者にやらせると、どうしても偏ってしまって結局今までとあまり代わり映えがしないのです。若者にやらせてもそうです、この寺院は街の根幹だからどうしても外せない、と似たり寄ったりで。ピックランツさんはどうぞ自由な発想でお書き下さい。そうですね、敢えて注文を付けるとすれば……若者の一人旅、自分探しの旅……ちょっと日常を離れてみませんか?……ああやっと見つけた、この東の島で、みたいな感じで。」


 「はあ!?あの、何を仰っているのかさっぱり……?ディーターさんは、どちらのお方でしたっけ……?」


 「ビンティーク島観光協会の者です。」


 「その、観光協会の方が何故僕に……?」


 「は?だってピックランツさんはフリーライターなのでしょう?あなた様の文章は、必ず大ブレイクすると伺いました。」


 「はあ?僕は一作も書いたことがありません、アマチュアですら無いですよ?」


 「またまた。火のない所に煙は立ちませんからね!」


 「本当ですって!それに僕は、一度だってビンティーク島に行ったことがないんですよ!?」


 「そこが腕の見せ所ではないですか!!」


 「ひぃ――!!それは…………詐欺じゃないですか!!」


 「人聞きの悪いこと言わないで下さい!ピックランツさん、どうか……どうか……!!」


 「無理ですってば!!」


 「いいや、あなたなら書ける!!」


 「何を根拠に!?」


 「私の勘です!!」


 「ひぃ――――!!」


 「――――――!!」


 「――――――!!」


 「――――!!」


 「――!!」





     ★★★





 「ラーララーラ、ララーラーラー

  ラーラララーラララー

  ラーララーラララ、ラララー

  ラララーラーラーラーララララ

  ララ、ララ、ラーラー♪」


 ポロロン、とバンジョーの最後の音が終わると、若者は一礼した。


 さして上手くもない歌とバンジョーにピックランツはうんざりしていたが、仕方なくパチパチとおざなりな拍手を送った。


 「気に入った?」


 若者は、そうに決まっているだろうといった様子で、ピックランツの顔を覗き込んだ。


 「ま、まあ……。」


 「そうだと思った!!」


 若者はパチンと指を鳴らしながらウィンクした。


 「決まりだな。」


 「何の話だ?」


 「君と俺が、ユニットを組むという話さ!」


 「はあ――――!?」


 「今の曲に詩を付けてくれ。」


 「アゥッ……アゥッ……!!」


 あまりのことに言葉が出て来ない。


 「どうにも文字を書くのが苦手でね。でも、バンド名はもう考えた。」


 「アゥッ……。」


 「ザ・心の中のオンザロック!!格好いいだろ?」


 「アゥッ……。全然ロックじゃないじゃないか――!!」


 「細かいことは気にしない、気にしない。」


 「気にするよ!ほら、帰った帰った。」


 「つれねえなあ!俺達、きっと成功すると思うけど!?」


 「しないよ!!頼むから一人称で語るのは止めてくれ。」


 「せめてマネージメントだけでも頼めないかなあ?」


 「絶対に嫌だ。」


 「いいコンビだと思うんだけどなあ。」


 「僕はそう思わない。真面目に働け。」


 「あーあ……。」


 あーあ……はこっちだよ!と呪いながら、ピックランツは若者を部屋から追い立てた。









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