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亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


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是非とも行かなくては

 「ね、陛下!!何とか言ってやって下さい!!」


 エリは鬼のような形相で、ダンガラールに迫った。


 「リア、どうしたんだ?」


 ダンガラールは、そっぽを向いたリアの顔を正面に向けた。


 「殴る、蹴るの酷い暴行を受けたんです!ね?ね?ガルディは口から血を流してるし、サリーナのスカートはカギ裂きです!マドレーヌのとこのローワンだって酷い目に合いましたわ!」


 「あなたには聞いていない。リア、何故こんなことに?」


 「やっかみに決まってますよ!ね、そうよね?私がサリーナに真珠のネックレスを与えたから。それとも、ガルディが頭が良すぎるせいかしら?とにかく!この子は非情な悪魔の子です!!」


 「あなたには聞いていない、少し黙りなさい。」


 「…………。」


 「リア、もう一度聞く。何があったんだ。」


 「…………。」


 「リア、幾つになった?」


 「……じゅ、十二。」


 「そうだな。お前が十二、ガルディは八、サリーナは六、ローワンは五歳だ。小さくて弱い者に暴力を振るってはいけないと思わないか?」


 「三対一でも?」


 「そうだ。」


 「そ、そいつらは、三人で寄って集って、小さい子を苛めていたんだ!!」


 「そうか。」


 ダンガラールは、ズタボロになったガルディとサリーナに目を遣り、そっぽを向いたリアに再び声を掛けた。


 「暴力はいかん。」


 「だって、こいつらだって……!」


 「そうだ。彼等はお前によって、罰を受けた。お前も罰を受けねばならぬ。」


 「…………。」


 「王宮の掃除、三日間だ。」


 「またあ!?」


 「甘いのではありませんの!?ね?体罰を与えた方がよろしいのでは!?」


 エリは目を三角に尖らせて、ダンガラールに迫った。

 そんなエリを、ダンガラールは冷ややかな目で見る。


 「私の話を聞いていたか?」


 「…………。」


 「この件はもう終わりだ。ガルディとサリーナは、小さい子を苛めない。リアは王宮掃除。さ、その後は皆、勉強、勉強!」


 ダンガラールはマントを翻し、その場を去って行った。


     ★★★


 「おほほほほ!!リア様がいらっしゃると聞いて、是非とも行かなくてはと参りましたの!」


 エリとその子供達は、リアとダンガラールが食事をしているテーブルに、勝手に腰を下ろした。そしてエリはふと顔をしかめ、テーブルの上を凝視した。


 「お酒……?」


 エリは冷ややかな目を、リアとダンガラールに向ける。そんな彼女を、リアは真っ向から見つめ返した。


 「そう。病み上がりなもんで。」


 「え……?ああ!そうでしたわね!お具合は大丈夫ですの?」


 「おかげさまで。何か私にお話があると?」


 「ええ!そうですの!陛下にお話ししたのですが、反対する一方で。」


 「では、私に相談されても無駄でしょう。陛下のご指示に従った方が良いのでは?」


 「経験者のリア様にお伺いするのが良いと思いまして。」


 「経験者?」


 リアがダンガラールに視線を遣ると、彼は渋面を作ってワインを啜っている。これは面倒臭くなりそうだと思いながら、彼女もワインを咽に流し込んだ。あんなに美味しかったワインが、ちっとも美味しくない。


 「ね、ね?リア様は、十二の時にレスカ国のエクセレント・スクールに留学して、十四で見事卒業……いえ、中退なさっているでしょう?」


 「はあ。」


 この国の教育は5歳から始まる。一般的には4年毎に、グッド・スクール5~8歳、グレイト・スクール9~12歳、ブリリアント・スクール13~16歳、エクセレント・スクール17~20歳となっているが、優秀な者はスキップ出来るし、進級試験に合格しなければ留年する。

 リアは2年で帰るからと約束して、十二の時にレスカ国の難関エクセレント・スクール、リード校に留学したが、一単位落として卒業出来ず、国へ帰ることとなった。


 「それでね、リア様。ガルディは当国の誇る名門ビリアーニ・ブリリアント・スクールにおりますけれど、物足りないらしいんですの。来年度あたり、リア様と同じようにレスカに留学させたいと思いまして。」


 「ガルディは十三……だったっけ?今年ビリアーニを卒業するの?」


 「いえ……。」


 エリは顔を赤らめた。


 「いえ、まだ二年生ですの。編入させようかと。」


 「やめといた方がいいんじゃないですか?時期が中途半端すぎるし、レスカ国は我が国と随分考え方が違う。」


 「ガルディには合わないとでも?」


 「恐らく。あそこは多くの国からの留学生を受け入れている。只、各国の王族や重鎮だということがばれると、即退学になってしまう。」


 「まったく!レスカはどういうつもりなのかしら!厚かましいにも程があるわ、多くの恩恵をうけているというのに!もしも……ガルディにそんなことがあったとしたら、セイントレアの威光をちらつかせてみるのも良いかもしれないわね。」


 「だから、その前に退学だってば。もうこの話は終わり。後は父上と話し合って下さい。」


 「お前だって、相当問題を起こしているじゃないか!!」


 ガルディは立ち上がって、リアを睨み付けた。


 「かなりの苦情が来たと聞いたぞ!結婚の約束をしたのに一向に返事がないという女とか、婚約者をお前に取られたという男とか!」


 「全く身に覚えのないことばかりだ。それに、私の身元はバレてないもんね!」


 「スレスレだったって言うじゃないか!父上が苦労したと!」


 「さあ、私は国にいなかったから分からない。」


 「お前なんかに人の進路をとやかく言われたくない!!」


 「聞かれたから答えたまでだ。私はもう行くよ。如何せん、病み上がりなもんで。」


 「お待ちください!!」


 立ち上がり掛けたリアを、エリは呼び止めた。


 「なに?」


 「ガルディのことは、こちらで何とかするとしましょう。しかし、リア様でないと出来ないことがあるのです!」


 「そんなことがあるとは思いません。どうぞ陛下に思いの丈を。」


 「軍を出して頂きたいのです。」


 「はい――!?」


 リアは目をぱちくりさせてエリを見た。しかし、エリの顔は真剣そのものだ。


 「あの、それ、聞かなかったことにします。」


 「いいえ。どうしてもリア様に聞いてもらわなければ。バクナストーン伯爵の令嬢がいるでしょう?彼女がサリーナに嫌がらせをしているらしいのです。」


 「ご自分で言ってること、分かってます?バクナストーン伯爵は、我が国でも有数の大貴族ですよ?」


 「ええ、図に乗っているんでしょうね。そこで――。」


 「ああ、本当に頭痛がしてきた。私は退室しますよ。」


 「お待ちください!!」


 「やだ。」


 「これが一番大事なことです。同じ、ブロンドを持つ者同士ではないですか。」


 「髪、関係ないと思いますけど。」


 「リア様は、この国には王妃が必要だと思いませんか?」


 「いえ、別に。」


 「必要なのです!他国に対しても、面子というものがありますから。」


 「そうは思いませんが。しかし、どうしても必要とあらば父上が何とかするでしょう。」


 「そうです、そこなのです!わたくしは第二夫人として、陛下に長くお仕えして参りました。この国にとって王妃がいた方がよろしいと何度も訴えているのですが、一向にお聞き下さらなくて。」


 「そんなプライベートなお話、私にされても困ります。」


 「悪い輩がいるのです。」


 「は?」


 「陛下を騙して、この国を我が物にしようと企んでいる輩が!」


 「はあ。」


 「……アイーシャです。」


 「はい?」


 「アイーシャですよ!虫をも殺せないような大人しいふりをして、心の中は邪悪そのものですわ!陛下を誑かして王妃の座を狙っているんです。シャウルが成長してきたこの頃、ますます酷くなってきましたわ!大臣たちにしてもそう!あの手この手を使って、皆すっかり騙されているんです!!」


 「アイーシャは虫をも殺せない人じゃないよ。」


 「ね、ね!!そうでございましょう!!」


 「遠い昔……私には、ダンゴムシを籠いっぱい取りたいという夢があった。だけど、誰も取り合ってくれなかった。でも、アイーシャだけは違って、私の夢を叶えるのを手伝ってくれた。リア様、こうやって背中を優しく撫でてあげると、コロンと丸まって取りやすくなりますよって。彼女は虫を殺せないんじゃない、虫博士なんだ!」


 「は、はあ……。よくわかりませんけど、彼女の出自っていうのはよくわかりましたわ!」


 「私だってよく知ってるよ。アイーシャは下級貴族の出だ。旦那さんを若くして亡くしてしまって、それ以来ずっと王室付きの侍女として仕えてくれた。蛇の皮を剥いで遊んでいた時はひっぱたかれたなあ……蛇が可哀そうでしょって。」


 「ほら、思った通りですわ!無礼にも甚だしい!王女を引っ叩くなんて即、死罪ですわ!」


 「そんな訳ないだろう、悪かったのは私なのだから。もう、この話も終わり。国王の王妃問題なんて、私がどうこう出来る話ではない。私は行きますよ、本当に疲れているので。」


 リアはそう言いながら席を立った。


 「おお!私も退席せねば。朝の会議が始まってしまう。」


 ダンガラールもあたふたと席を立つ。


 「あ、父上!」


 「なんだ?」


 「先程のお願いは了承して頂けたんですね?」


 「な、何だ……?」


 「ペイジをもう一度視察するという話ですよ。さっき、いいって仰ったじゃないですか。」


 「そんな話したか?……いや、駄目だ。また気絶したらどうする!」


 「たまたま体調不良だっただけですよ。体力が回復したら任務に当たりますので。」


 「お前が行く必要はない。」


 「私が行く必要があるのです。それにさっき、了承して頂けたじゃないですか。」


 「そ、そうか……?」


 「そうです。」


 リアは歩き出し、エリの横で足を止めた。


 「エリ夫人、あなたはこの国には王妃がいないと仰ったけど、いない訳ではないのです。」


 「なんですって!!」


 エリは目を見張り、その目でダンガラールを睨み付けた。


 「この国には、王妃は実在しません。しかし、記録上では空位ではありません。」


 「…………。」


 「ジャスミン。亡くなってはおりますが、彼女が王妃です。我が母上ですよ。」


 リアはふっと笑って、エリの脇を通り過ぎた。


 





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