それぞれのレスカ ④リア
リアは、立派な店構えの大きな貸馬車屋を見上げた。この規模だと大小様々な馬車があるだろうし、馬も豊富で御者も中で待機しているに違いない。曾てリアと同じようにこの店の前に立ったジョナサンは、一体どんな思いでこの店のドアを開けたのだろうか?そんなことを考えながらリアが入って行くと、貸馬車屋の店主は怒気を孕めた声で、うんざりとしたように口を開いた。
「またっすか!?もう何度も答えただろう!?」
「何度でも聞く、それが我々の仕事だからな。」
「営業妨害だ……。」
「そんなことを言っていると犯人の協力者かと疑われるぞ?」
「冗談じゃない!!こっちはこれだけ協力しているというのに!!」
「それはそうだな。だが、あまり非協力的だとそう思われる可能性もあるということを忘れないように。これを見ろ。」
「…………。」
男はぶつぶつ言いながら、リアが差し出した紙を見た。
「どう思う?」
「どう思うも何も、これは俺が描いた似顔絵だ。」
「嘘つけ!!」
「嘘じゃねえよ!!」
「では、これは何だ!!」
「えっ!?あれ……?」
男は二枚の紙を、矯めつ眇めつ見つめた。
「あれ?どっちだ……?」
「どっちだと思う?」
「……一枚目の方。いや、二枚目の方か……?」
真剣に悩んでいる男を見て、リアは満足気に頷いた。
「二枚目の方。一枚目の方は、色んな人の絵を統合したものだ。どっちの方が似ている?」
「一枚目。」
「そうか。お前の絵も特徴をよく捉えている。ご協力、感謝する。」
「いや……。」
男は急に感謝されて、戸惑ったような表情を見せた。
「こう言っちゃ何ですが、俺よりも御者の方が覚えているんじゃないすかい?近距離にいた訳だし。」
「そうでもないんだな。御者はずっと後ろに乗せていたから、あまり顔は見ていないんだ。対面で会計をしたお前の記憶の方が信憑性がある。」
「はあ……。」
……リア!!
リアは急に割り込んできた、頭の中の声を聞いた。
……何だ!?
……この人に、タイの結び方はどうだったかを聞いて!!
リアはさっと二枚の絵に目を走らせたが、どちらも曖昧な感じで描かれていた。
「店主。」
「何すか?」
「こいつの、タイの結び方を覚えていないか?」
「え…………?」
彼は虚を衝かれたようにポカンとし、再び二枚の絵に目を落した。
「あ?…………ああ!!」
「どうした!?」
「変だな、あの時はそうは思わなったけど、何か変だ……。」
「どういうことだ?この二枚の絵には描かれていないが、お前は覚えているのか?」
「普通……だったと思います。それこそ、俺がどこかへ呼ばれた時にちょっと結ぶような。変だな、服や馬車があれだけ立派なのに、タイの結び方が普通なのは。」
「そうか!!」
リアは立ち上がり、貸馬車屋の店主の手をぎゅっと握った。
「店主、あなたの記憶力は素晴らしい!これは私からの気持ちだ、疲れた時にでも舐めてくれ!」
リアは、可愛らしいピンクの紙に包装されたキャンディを彼の手に握らせた。
「ご協力感謝する!!」
瞬く間に馬で去って行く彼女を見送りながら、彼はキャンディを口の中に放り込んだ。その途端、ガチッと音がする。
折れた…………?
店主が恐る恐るキャンディを掌に出すと、唾液に塗れた小粒の金がきらきらと光っていた。




