それぞれのレスカ ③ヴァネッサ
「ヴァネッサ様、お待たせしてしまって申し訳ない。」
応接室で待たされていたヴァネッサは、立ち上がりながらドレスの裾を広げた。
「まあ、クロード先生!!無理を言って押し掛けてしまったのに、まさか校長先生が出迎えてくださるなんて!!」
「押し掛けてなぞおりませんよ、ロジワニース侯爵からも伺っておりましたし。それにしてもヴァネッサ様、暫くお会いしないうちに随分お美しくなられましたね!」
「先生ったらお世辞がお上手ですわ!」
「お世辞なんかではありませんよ、今流行の茜色のドレスがとてもお似合いだ!」
「ありがとうございます!!」
「お礼を言いたいのは私の方です、目の保養になる。本来ならそのドレスは、あなた様とか、リア様とか、本当に美しい人が着るべき物なのです!それを知らない宮廷の女性共は……!!まるで毎日、下品な売春宿に出廷しているような気分になる!」
「おほほほほ!!クロード先生ったら面白いですわ!!」
「や、これは失礼した。つい日頃の鬱憤が……!!」
「お褒めいただいて嬉しいですわ。」
「やれやれ、面目ない。早速本題に入りましょう。これが、この五年間でリード校を卒業出来なかったセイントレア人の学生です。」
クロードは一枚の紙をヴァネッサに手渡した。ヴァネッサはその紙をじっと凝視した。
「思ったより……少ないですわね。五年間で三人だけですか?」
「はい。当校は入学自体が難しい学校ですので。因みに、無事に卒業出来た学生も三人です。そのリストはお持ちしませんでしたが。」
「構いません。クロード先生、リアの氏名がアリア・レイベッカのままになっておりますが、他の二人も偽名ですか?」
「はい。リード校はレスカの中でも最も公平な学校です。偽名で入学して、卒業時には卒業式の前日に生徒を呼び出して、卒業証書に乗せる氏名は偽名の方が良いか本名の方が良いかを問います。私は本人の希望に従って名前を書きそれを渡します。実質それが卒業です、翌日の式は只のお祭りに過ぎない。公平性を謳っておりますが、例えば……リアのように、いえ、リア様のように、凄い身分の者が入ってくることがある。知らない方がお互いの為でもある訳です。まあ私は、レイアモンド国王にこっそり耳打ちをされて知っておりましたが……。」
「本当に徹底していますわね。クロード先生……一つお願いがあるのですが。」
「何でしょう?」
「この二人についてもう少し調べたいのです。学生時の記録を見せて貰う訳にはいかないでしょうか?」
「そう仰ると思ってました。書庫へご案内致します、子汚いところですが。」
「よろしいのですか!?それに校長先生が自らだなんて勿体ない、お忙しいでしょうに!」
「いいのですよ。皆忙しくて一番暇なのはきっと私だ。」
「あ、分かりました。」
ヴァネッサは素の顔になり、すっとドレスの裾を引いてクロードに一礼した。
「本当に、大事な記録なのですね、決して人目に触れてはいけないような。クロード先生が立ち会ってくださるということは、私の保証をしてくださるということなのですね?」
ヴァネッサの言葉に、クロードは深く礼を返した。
「あなたは本当に聡明なお方だ。」
「嫌ですわ、先生!子供の頃から馬鹿な子だと言われ続けてきたのに!」
「まさか!!お父上とお母上が!?」
「いえ、それ以外の鬱陶しい親戚達ですわ!父と母は、お前は馬鹿で本当に偉いと褒めてくれておりましたわ!」
高笑いするヴァネッサに、クロードは腕を差し出した。
「書庫へご案内しましょう。あなたが求める記録があるか分かりませんが、とことんお調べください。」
ヴァネッサは優美にクロードの腕を取った。




