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亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


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後継者

 「リア様、お具合はいかがですか?」


 クララが膝を付いて入って来た。


 「何ともないよ。」


 「それはようございました。朝食のご用意をしてよろしいですか?」


 「うん。」


 「あのう……。」


 「何?」


 クララは言いづらそうに口籠った。


 「あの、お父上がご一緒したいと。」


 「えっ……?やだ!いっぱい人が来ちゃうじゃん。」


 「さようでございますわね。」


 「私が行く!そう伝えて。」


 「畏まりました。リア様は大丈夫なのですか?」


 「全然!元気、元気!」


 「そのようですわね。では、ドレスをご用意してよろしいですね?」


 「駄目!」


 「…………。また、何か言い掛かりを付けてくる輩がいるかもしれませんよ。」


 「いいよ別に。だってドレスって苦しいじゃん。ご飯、食べられないよ?」


 「慣れの問題ですけどね。でも確かにリア様……久し振りの食事になられますし、ちょっと心配ですね。」


 「そうだよ!いつも通りにして。」


 「畏まりました。いつも通り、騎士服を用意させます。私はリア様が上がられると伝達して参りますわ。」


 クララは膝を付いて、去って行った。


     ★★★


 「お前、大丈夫なのか?」


 「大丈夫ですよ。」


 「もっとゆっくり食べなさい。」


 「ゆっくりですよ。早食いは胃を壊します。」


 「確かに。一定のペースで淡々と食べている。」


 「そうですよ。おーい、お兄さん!」


 「何でございましょうか?」


 黒服の給仕が会釈した。


 「赤ワイン。」


 「銘柄は?」


 「軽いけど肉に合う、甘くないやつ。南系で。」


 「良いのがございます。」


 「ちょびっと冷えてるやつね。」


 「勿論でございます。」


 彼は一礼してテーブルを離れた。


 「飲むのか!」


 ダンガラールは、思わず席を立ち上がった。


 「そのつもりは無かったのですが、余りにも肉が美味しくて。赤ワインと合わせてやらないと、肉に申し訳ない。」

 

 「お前……毎朝ステーキを食っとるのか?」


 「時々です。」


 「嘘つけ!!」


 「本当ですよ。久し振りの食事だから美味しくって。やっぱりここの厨房は最高だなあ!」


 「お褒めの言葉、ありがとうございます。……どうぞ。」


 「ありがとう。…………んま!!」


 「リア様は本当に分かってらっしゃる。ワインも喜んでいることでしょう。」


 「有名処のなの?」


 「いえ、全くの無名のものです。私が買い占めました。」


 「どこの?」


 「エクリスタのサディワイナリーです。家族でやっている小さな酒造で。」


 「良い仕事をしたな。ワインを飲みに、また来るよ。」


 「ありがとうございます。ワインも心待ちにしていることでしょう。」


 彼はクールな笑顔を浮かべて、テーブルを離れた。


 「そんなに……美味いのか?」


 「ええ。父上もどうぞ。」


 「では、一杯だけ。……うん、美味い。」


 「肉と合わせた方が、より美味しいですよ。」


 「では……いや、駄目だ!」


 「何故です?」


 「最近、運動不足のせいか、太ってしまって。昔は朝からステーキの一枚や二枚、何てことなかったのに。」


 「自分の身ぐらい、自分で守れるようにしろ。あなたにそう教わったのですよ。運動不足なら軍に顔を出して下さい。私がお相手しますよ。」


 「殺す気か!」


 「元気で健康でいて下さいと言っているんです。」


 「…………。自分の身ぐらい自分で守れるようにしろ、確かに私はそう言った。それにしても……どうしてこんな風になってしまったんだか。お前、幾つになった?」


 「十七です。」


 「もうとっくに嫁に行っても良い年頃だなあ。」


 「そうですね。」


 「――!!行く気があるのか!?」


 「ないです。」


 「…………。私の跡を継ぐ決意を固めたとか?」


 「いえ、別に。」


 「…………。一応聞いておく。お前に希望はあるのか。」


 「ありません。強いて言うなれば、国に貢献できるのなら如何ようにも。」


 「うーむ……。」


 ダンガラールは深く溜息をつき、赤ワインを呷った。


 「お前の幸せを考えるなら、嫁に行くのが良いのだろうな。」


 「行っても良いのですか?」


 「お前の幸せを考えるなら、だ。しかし……軍は混乱するだろう。」


 「そんなことありませんよ。私はたかが近衛の隊長ですよ。」


 「表向きはな。だが実質、軍を把握しているのはお前だ。本気でお前に歯向かわれたら、私だって倒れるかもしれん。」


 「そんな訳ないじゃないですか!」


 「分かっておる。……嫁に行かせるのが、ええんじゃろうなあ。」


 「父上がそうお決めになるのなら、私は構いませんが。あ、でも、ジーズロット侯爵家だけはやめて下さい!バクナストーン伯爵家も!」


 「有力な候補だ。実力者だし、向こうはお前を嫁に取りたくて躍起になっている。」


 「冗談じゃない!!それならいっそのこと、シャウルの家庭教師として、一生を捧げます!」


 「シャウルはまだ三歳だぞ。非常に聡いとは思うが病弱だ。この先どうなるか分からん。肉体的にも精神的にも。」


 「精神的には大丈夫ですよ。」


 「何故そう言い切れる?」


 「あんなに健やかな精神を持った御子は稀です。人の性質というのは、幼少期に現れますから。」


 「ほう、よく言ったな。……朝からリア様のお姿がありません!裁縫の指導をしていただけなのに骨折しました!ご一緒にパンケーキを作っていたのですが、厨房が全焼しました!何故こういった現象が起こる!?」


 「さあ、何故でしょうね。私が知りたいです。」


 「…………まあ、いい。何れにせよ、今のところお前しか、私の後継者として考えられん。」


 「はい。」


 「やけに素直だな。」


 「残念ながら、私ほど優秀な臣下はいないと思うんですよ。」


 「残念ながら、お前の言う通りだ。何故我が家系は、こう極端に出るんだかなあ。いいか悪いかのどっちかだ。」


 「シャウルはいいですよ。」


 「分かっておる。だが、今は何とも言えん。そして、例えシャウルが良き後継者として一人前になったとしても、その頃のお前はとっくに行き遅れておる。」


 「それならそれで構いませんが。」


 「ならぬ。どう成長するか分からないシャウルを待つよりも、お前を後継者として立てておく方が確実だ。私だって、いつ何があるか分からないしな。」


 「父上はまだお若いですよ。」


 「しかし、私には何があってもおかしくはない。ガルディは妙に計算高いし、ローワンは欲が深すぎる。サリーナは我儘だ。お前が……正当な第一子で良かったよ。ジャスミンからの最高の贈り物だ。」


 「十年前にその言葉を聞きたかったですよ。この子は悪魔に女を抜き取られたんです、とまで言われたからなあ。ま……いいでしょう。あなたの跡を絶対に継ぎたくない訳でもないし、私よりましな人間がいるとも思えない。」


 「うう……よく言った!」


 「父上、泣くことないじゃないですか。」


 「や、やっと言えた!」


 「そんなに?」


 「きっぱり断られたら、どうしようかと思っていたのだ。今日言おう、いや、明日言おう、いや、思い切り酔わせてから言おうとか……。」


 「飲んでるから決めた訳ではないですよ。それに、そんなの親の権限で、言語道断で決めてしまえばいいのに。」


 「この仕事は、そんな簡単に務まる仕事ではない。嫌がっている人間に無理矢理やらせたとしても、先は見えている。まさかお前が真剣に考えてくれていたとは……。」


 「残念ながら、真剣に考えてはおりません。父上より良いことが出来るとも思いません。ただ、周りを見渡しても、私よりましな人間がいるとは思えないのですよ。やけに財だの権だのに、執着しているように思える。」


 「その通りだ。しかし……お前には、実は財は無い。それは理解しているか?」


 「ええ。父上に替わる後見が少ないということでしょう?」


 「それが分かっておるなら十分だ。本当に……良いのだな?」


 「父上がそう望まれるのなら、それで結構です。私は最初からそう言ってます。」


 「そうか!父は嬉しく思うぞ!」


 「それは良かったです。で、早速なのですが……。」


 「何だ?パパにおねだりか?」


 「え?そ、そうです!実は……」


 「そうか、そうか、何でも言え。おーい、ラクト!」


 先程の給仕が、慌てた様子で寄った。


 「何でございましょう。」


 「赤ワインを!今日は祝いの日じゃ!」


 「畏まりました。あ、あの、よろしいですか?」


 「固いことを言うな。目出度い日じゃ!」


 「そうではなくて!エリ様がいらしております。それから、ガルディ様とサリーナ様も。」


 「何だって!?重要な会議中だと言え!」


 「そう申し上げました!しかし、わたくし達にも重要な要件が、と無理矢理……。」


 「わ、私はもう行くからね!父上は大事な方々と、憩いのひと時をお過ごし下さい。邪魔しちゃ悪い。」


 「リア、行かないでくれ!」


 「姫様、待って下さい!」


 「何だよ!」


 「それが……リア様がここにいるのを知って、先方はわざわざ出向いたと……。」


 「はあ!?」

 

 その時、ちりんちりんという可憐な鈴の音が響き、遥か遠くに見える扉は開いた。

 

 



 



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