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亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


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ロジワニース会議

 「これが、セイントレア国王を騙った手紙です。原本です。」


 ブラードンは一枚の手紙を広げて見せた。


 「うわあ、父上の字に似てるなあ!でもこれは偽物だ。」


 「流石。一目でお分かりになります?」


 「文字が後半へいけばいくほど似ていない、集中力を欠いている証拠だ。」


 「なるほど。」


 「署名だけなら私の方が上手いな。うーん……気になるのはこの便箋と封筒だ。私などはまだ市販の物を使用しても構わないが、父上が使う物は厳密に決められている。それこそこういった事態を避ける為に。用途に応じて何種かあるのだが、その一つに非常によく似ている。」


 「ということは……。」


 「その通り。これを送った人物は、王家の所有する手紙をよく知っている。しかし厳しく管理されているのもあるが、それを持ち出すことが出来る程近い場所にはいない。なんか中途半端なんだな、こんな重要文書なのに王家の紋章の刻印が入っていないのも違和感がある。やはり自分の足で来て正解だった、手紙一つで分かることが大分ある。」


 「刻印が入っていないことは、レスカでも訝しく思っていました。」


 「偽使者に関して分かっていることを教えてくれ。」


 「はい。まず、偽使者の足取りについてお話しましょう。入出港したのはレスカ北岸のウバーハ港。六人漕ぎの超小型船です。」


 「六人漕ぎ?そんなんで来られるのか?」


 「来られます。レスカ――セイントレア間はそんなに荒れない海ですからね、その規模の船はざらに来ています。」


 「そうだったのか。」


 「そもそもその船は、かなり挙動不審だったそうです。当港に着岸した船は、必ずその目的やおおよその滞在日数などを問われますが、それが非常に曖昧です。また大抵の船乗り達は、陸に上がると喜び勇んで飲みに出掛けます。陸上での情報交換は、彼等にとって重要な要素ですからね。しかしその船の乗組員達にはそれがない。どこから来たのかと尋ねてもセイントレアからとしか答えない。漁師のように見えなくもないが、漁師とは思えないと彼等は言っていました。船名もその場で付けていたようですよ、ジョナサン号と。使者も自身をジョナサンだと名乗っていました。」


 「ジョナサン……聞き覚えがないな。」


 「偽名でしょう。」


 「ジョナサン号に何か特徴は?」


 「あります。非常に新しいということです。」


 「新しい?」


 「ありふれた木造船ですが、造りたてで海にもまれていない船だったと。」


 「それは参考になるな、もう一度港を洗い浚い調べよう。船大工もだな。」


 「それから、レスカへの入港に慣れていない。一度でも停泊したことがあったら、手続きがあることを事前に分かっていた筈ですからな。」


 「うん。」


 頷きながら、リアはメモにペンを走らせた。


 「入国の目的は?」


 「知人への訪問、だそうです。ここに記録の写しがあります。」


 「これは助かる。滞在日数1~2日、わざわざ海を渡って来たというのに?乗組員7人、ジョナサンプラス漕ぎ手か、本当にぎりぎりだな。出港エクリスタ、嘘つけ!奴は……実際どれだけ滞在したんだ?」


 「一日です。着いたその日の夜に一泊もせずに出航しました。港の方ではかなり止めたらしいのですが、逃げるように出港してしまったと。」


 「一日とは強行突破だな!まあ、掛かっているのは自分の首だからな。夜間の出航は珍しいのか?」


 「そうでもないです、漁船とか鮮度が命の貨物船とかありますので。只やはり夜の海上混雑は危険ですので、そういった船を優先させています。」


 「なるほど。ジョナサン…………一体何者なんだ?」


 「調べれば調べる程怪しい男ですな。ジョナサンは下船した後、まず港近くで宿を取っています。それはジョナサン単独で、乗組員達は最低限の食事と買い出しを終えた後、直ぐに船に戻っています。ジョナサンはその宿で身なりを整え、その後貸馬車屋へ向かい一番立派な馬車を借りました。馬車だけでなく御者もですな。で、王宮へ向かい、最も外側の門の門番に手紙を託して去りました。帰りはその逆ルートです。」


 「門番は何と言っている?」


 「ジョナサンは門番に、自分はセイントレア国王からの使者で、レスカ国王にご挨拶の手紙をお持ちしたと言いました。当然門番は中へお繋ぎすると申したのですが、彼は手を振ってその場を去ってしまいました。」


 「国王から国王への手紙だというのに?門番はジョナサン自身について何か聞いてないか?」


 「儀礼的に氏名と身分は。ジョナサン・バーナード伯爵だそうです。しかし恥ずかしながら、最外門の門番達は名乗られたところで殆ど把握しておりません。身なりやその物腰などで判断し、問題がなければ大抵のものは通されます。」


 「うちだってそうだ、中へ入ってからどこへ繋ぐべきか絞っていけばいい。いきなり門前払いじゃ感じ悪すぎるもんな。それなのに、ジョナサンは中へ入らなかった?」


 「はい。時候の挨拶の親書だから、お忙しいレスカ国王のお手を煩わしたくないと。ゆっくり繋いでくれて構わないと言ったそうです。」


 「時間稼ぎか。」


 「そうですな。ジョナサンは南の高級宿の名を出し、自分はそこに泊まっているから何かあったら連絡をくれと言い残して去って行きました。忙しない様子もなく、堂々と落ち着いていたと言っています。しかし、門番だってそんな手紙を放っておくほど馬鹿ではありません。手紙はどんどん中へ引き継がれ、割と早い段階でレイアモンド国王の手に渡ったと思います。その手紙が開封された後は緊急会議です。門番を呼び事情を聴取した後、政府は直ぐに宿と港を押さえました。が、しかし……。」


 「ジョナサン号は出航してしまっていたと。」


 「その通りです。巡視船を出して追跡しましたが、見つかりませんでした。」


 「そうだったのか……本当に腹が立つ奴だな。レスカ政府は、セイントレアが宣戦布告をしたとは思わなかったのか?」


 「それはないですね。手紙の内容が真実なら、使者は国王への謁見を求めた筈です。内容が内容ですからな。」


 「だよな。」


 「とにかく使者を見つけるのが先決だと手を打ったのですが、逃げられてしまいました。使者が逃げたこと、セイントレア国王の筆跡鑑定などを鑑みて、セイントレア国王の関与はないだろうと結論いたしました。」


 「レスカ政府には多大なる迷惑を掛けてしまったようで、本当に申し訳ない。」


 「いえいえ。それにしても杜撰ですよね、ジョナサンの足取りを追えばすぐに偽物だとばれるのに。」


 「そこなんだよ、奴は一体何が狙いなんだ?セイントレア王家を悪者に仕立て上げたかったとしても、もう既に和解している。」


 「手紙の内容もいまいち具体性に欠いていますしな。ひょっとして……リア様を国から遠ざけたかったのでは?」


 「うーむ……。もし今回の件がなかったら、私はアーネスタントとの国境に行っていたと思う。大抵の者がそれを望んでいて、行ってほしくないと願う人間は多分いない。敢えて来てほしくない者を挙げるのならば、アーネスタントだ。しかし、今回の件はアーネスタントと関りがない。うーん……堂々巡りだ。」


 「戦力として考えるのではなく、王女としては?あなた様は素晴らしいお方だと存じておりますが、立場上疎ましいと思う人間もいると思うのですが。」


 「いるにはいるけどね……。想像はつくと思うが異母兄弟と、寧ろその母親達だ。しかしなあ、こんな計画性や行動力があるとも思えないんだよなあ!」


 「権力を目の前にすると、人は変わりますよ。」


 「そうなのだがな。それにしても、こんな計画が出来るほど頭が良いとは思えないなあ!」


 「穴だらけではないですか!寧ろ、こんな計画を立てるのにぴったりだと言っていい。」


 「む、なるほど、そういう見方もあるか。でもさ、実はこいつ、頭いいよ。」


 「そうなんですよねえ。やっていることは杜撰なのに、その尻尾が掴めない。」


 「何より、その動機が分からない。」


 うーむ、と二人は腕を組んで考え込んだ。


 「軍の方は?リア様は近衛隊長の任に就いていると伺いました。あなたを疎ましく思っている者がいるのでは?」


 「無い。」


 「そうですか?」


 「本当に無い。済まんが……私にとって、兵士は家族なんだ。いつも彼等に命を預けている。兵を疑い出すと、私は本当に誰を信じて良いのか分からなくなる。」


 「失礼致しました。では、軍は除外して考えましょう。」


 静謐な表情を湛えた王女に、ブラードンはある種の畏怖を感じた。それはごく稀に見せる王族の表情だ。それが権力から遠い血縁であれ、幼い王子や王女であれ。ここは無闇に立ち入らない方がいい。所詮自分は国を背負っている訳ではないし、王族の気持ちなぞ分からないのだから。


 「女なんじゃないの?」


 ヴァネッサが、じっとりとリアを見つめていた。


 「あなたの縁談か何かがうまくいきそうで、それを恨んでいる女。」


 ヴァネッサは瞬きもせずに言い放った。ブラードンはそれを窘める。


 「ヴァネッサ、女というのはおかしいだろう。男なのでは?あなたの縁談か何かがうまくいきそうで、それを恨んでいる男。」


 「それはない。」


 「本当に?」


 訝しげな表情で、ヴァネッサはリアの顔を覗き込んだ。


 「本当だってば。」


 「嘘おっしゃい!!」


 ヴァネッサは立ち上がり、高い視線からリアを見下ろした。


 「王女で!?第一子で!?十七で!?縁談の一つも無いなんて有り得ないでしょう!!リア、大事なことだから隠さないで言って頂戴。あなたの命が狙われているかもしれないのよ!?」


 ヴァネッサの真摯な表情に打たれて、リアはたじろいだ。


 「や、本当にないんだよ。猛烈アタックしてくる奴は権力目当てなのが見え見えだから断ってるし、父上も乗り気じゃないし……。」


 「そういう正当なのじゃなくても何かあるでしょ?バラ園で想いを告げられたとか、百合園でキスされたとか。」


 「あのさ、ヴァネッサ、私はその……男の子にあんまり人気がないんだ。」


 「あら。」


 ヴァネッサの顔に思わず綻んだ。が、直ぐに元の怖い顔に戻ってしまった。


 「女は?」


 「え?」


 「女だって例外じゃないわ。あなた、こっちにいる時はモテモテだったじゃない!!昨夜みたいにダンスの長い列が出来て!!」


 「ああ、そんな時代もあったね……。」


 ヴァネッサが言わんとしている光景を振り返り、リアは遠い目をした。


 「うん、女の子にはモテると思うよ。次は私と踊って、今度うちへ遊びに来てって。でもさ、戦地から戻るとみんな婚約者と手を取り合っていちゃいちゃしてるんだ。幸せそうで良かったと思っていたけど、改めて考えると…………うっ!!」


 深く考えないようにしてきたが、ヴァネッサの真剣な表情を見ると情けなさが募り、リアは不意に涙した。


 「まあ、リア!!ごめんなさい、あなたを傷付けるつもりはなかったの!!」


 「分かってるよ、自分が情けないだけだ。」


 「そんな……!!」


 ヴァネッサはリアを抱きしめた。


 「あなたが悪い訳じゃないわ!みんなが馬鹿なのよ、目先の男に目を奪われるなんて!」


 「そ、そう?」


 「そうよ!皆が皆そういう訳じゃないわ!現に……私なんかずっとあなたを待っていたし……。」


 「君は優しいな。」


 ヴァネッサははにかみながら、リアの肩に身体を預けた。


 「ウホン!!」


 ブラードンの咳払いの音が大きく響いた。


 「ん、ではヴァネッサ、後のことは君に任せるよ。年寄は大人しく退散――。」


 「ちょーっと待った――!!」


 リアは立ち上がり、ブラードンを引き留めた。


 「な、な、何なんだ、この展開は!?待て、ブラードン、まだ話は終わっていない!!」


 「また後日でいいじゃないですか、何なら我が家で――。」


 「駄目だ!!私の時間は限られている!!」


 「ゆっくり滞在なさればいいじゃないですか。」


 「それが出来たら私だってそうしたいよ!……ちょっと会議が続き過ぎたな。うちでもよくあるんだ、あんまり煮詰まると話が意図しない明後日の方向へと流れていく。こういう時はお茶だ、お茶に限る!おーい、お兄さーん!!」


 気付いた時には、リアは重い扉を開けて誰かを呼んでいた。


 「……うん、そう、ちょっと待ってね。何がいい?」


 リアは朗らかな顔で振り返った。頭の切り替えの早さと、躊躇いなく人を使うその行動力に、二人は呆気に取られ心の中で舌打ちをした。


 「……ダージリンを。」


 「……カモミール。」


 「えっと、ダージリンとカモミール、私はジャスミンで。バナナプリンとマンゴータルトを付けてくれたら君と踊るよ、嘘じゃないって!」


 扉の外の誰かと話しているリアの声を聞きながら、ロジワニース父子は互いに目配せした。

 流石セイントレア国王女、一筋縄ではいかない、そう簡単に情に流されてはくれないか。ならば、更なる努力あるのみ。狙った獲物は決して諦めない、如何なる犠牲を払ってでも必ず手に入れる。

 良くもあり悪くもあるそのしぶとさは、脈々と受け継がれたロジワニース家の、確かで紛れもない血統だった。






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