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亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


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レスカ宮廷 ♣ピックランツ♣

 「レスカ国王を初め、多くの皆様に大変なご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。」


 リアが深々と頭を下げると、レスカ国王はいやいやと手を振った。

 ここはレスカ宮殿の大広間。大勢の貴族が集う美しい大広間は、セイントレア国王女を歓迎する為の大晩餐会場となっていた。


 「いや、あんなものは気にしておらんよ。どこにでも良からぬことを考える輩はいるものだ。」


 「それでも、レスカの皆様の手を煩わせてしまったことには変わりありません。父が、我が国を信頼してくださって有難いと大変感謝しておりました。」


 「ダンガラール国王はお変わりない?」


 「はい、とても元気です。最近運動不足だとは申しておりますが。」


 「それは私も一緒だ。」


 ははは、とレイアモンド・レスカは笑った。

 リアは、例の手紙についての詳細を聞きたいのは山々だったが、この歓迎の席での話題には相応しくないだろうと諦めた。いずれ聞ける機会はあるだろう。


 「例の件な。」


 レイアモンドは笑いながら声を顰めた。


 「はい。」


 「明日にでも宰相に聞くがよい。」


 レイアモンドは温厚な笑顔を浮かべながら、後ろのテーブルにいる宰相を振り返った。宰相は小さく頷いた。


 「ありがとうございます!!」


 リアは心から感謝した。


 レイアモンドは柔和な顔立ちをしている。レイアモンドだけでなく、同じテーブルについているレスカファミリーは皆おっとりとした印象があった。がしかしそれは見た目だけのことで、その中身は如才なく、冷静沈着で機知に富んでいた。そうでなければ、この国が常に世界のトップに君臨し続けられる訳がなかった。


 「礼には及ばんよ。それより、はるばる海を渡って来てくれたんだ、今宵は楽しんでいきなさい。あのダンガラール国王にこんなに美しい王女がいたとはな!」


 「本当になんて美しいのでしょう!皆あなたに近付きたくてうずうずしているわ!」


 レスカ王妃は優美に微笑んだ。

 事実、リアはその夜の話題を掻っ攫っていた。興味津々で見つめる誰もが、リアのちょっとした視線や時折見せる笑顔に見惚れ、一挙手一投足に釘付けになっている。

 リアの着ているドレスはスタンダードな型のスリムなタイプ。スラリとした印象になり、これはスタイルが良い者でないと着こなすことは出来ない。型はシンプルだが衣は極上で、濃い青のドレスの上に銀糸の小花の刺繍を散らした白いオーガンジーを重ね、それは動く度に優雅に纏わる。真珠とサファイアをあしらった小さな銀のティアラ。クララが最も苦労したのは髪型だ。謝意を表す為に敢えて一筋の髪をほつれ落とし、それが何とも言えない愛らしさを醸し出していた。


 「リア王女、私と踊って頂けませんか?」


 レスカ王国の嫡男、レイダン・レスカがリアに手を差し伸べた。


 「おう、行って来い!儂がもう少し若かったら自分で行ったのになあ!最近どうも膝がな。」


 レイアモンドは悔しそうな表情を浮かべながら笑った。レイダンには妻も子もいる。しかしレスカの伝統で、王族の誰かが踊らないと舞踏会は始まらないのだ。リアは微笑みながらレイダンの手に自分の手を載せた。


 「光栄です。」


 大広間の各地で溜息が零れた。こんなに可憐な少女は見たことがない。王女は妖精のようにくるりくるりと広間を回る。健康的に撓る細い身体、袖から伸びる長くて白い腕、一筋の金の髪がふわりふわりと宙を漂い、きらきらと輝くダイヤモンドのような煌めきに誰もが目を奪われた。

 レイダンと踊り終わった後は引っ切り無しだった。リアと踊る為の順番待ちの列が自然に出来て、リアはロイヤル席に戻る暇も無い。しかし、全員が初対面なので身分の高低も分からず、全ての誘いを受けるしかやりようがない。まあ、あまりにも続くようならレスカの誰かが止めに入ってくれるだろう。


 「リア王女、お会い出来て嬉しいです。ピックランツと申します。ヒールカイロ男爵家の長男です。」


 「うん。」


 リアは差し出されたピックランツの手を取った。


 「ようこそ、レスカへ。リア様は本当にお美しいですね、この広間の男子達は皆――。」


 「ピック、敬称とか挨拶とか全部省略。時間が勿体ない。」


 「うわぁリア、見た目はこんなに可愛いのに中身はそのまんまじゃないか!!」


 ピックランツは思わず吹き出した。


 「自分でもこっちの方が違和感あるよ。」


 「王女様なのに?っていうか王女様だったの?あんなんだけど本当はいいところのお嬢さんなんだろうなとは思っていたけど、まさかセイントレアの王女様?」


 「あんなんって何だよ!」


 「まあまあ、その辺は。」


 「まあいい、今日お前に会えたのは幸運だ。……色々と尋ねたいことがある。近日中に時間を取って貰えるか?」


 リアは声を顰めた。


 「勿論だよ!……君を卒業させてあげられなかったことが、僕の最大の悔恨だ。どんなことでも君の力になりたいよ。」


 ピックランツは辛そうに目を伏せた。


 リアとピックランツは同窓だ。そして、弓道術でペアを組んでいた。気が合ったからペアを組んだ訳ではない、たまたま隣にいたから組んだ学生だったのだ。しかし、出会いはそんな他愛もないきっかけに過ぎなかったが、この二人こそ共に勉学に励んだ仲と言ってよいだろう。

 誰もがリアの弓道センスの無さに手を挙げる中、ピックランツだけは徹底的に付き合ってくれた。暇さえあれば弓道場を訪れ、射る肩の角度を変えた方がよいのではないか、弓の種類を変えてみてはどうだろうかと、ありとあらゆる提案をし、共に実行してくれた。

 その代わり、リアはピックランツが苦手な弁論話術学にとことん付き合った。ピックランツは穏やかな人柄だが無口な方ではない。雑談は寧ろ得意で友達も大勢いた。しかしこの科目に関しては、かっらきしお手上げだった。




 「それはさ、割り切れないものなの?」


 リアの問いに、ピックランツは頭を抱えた。


 「や、割り切ってはいるつもりなんだよ。だけど、自分がいいと思っているものを否定し続けるっていうのはどうも……。」


 「全然割り切ってないじゃないか!」


 「そうなのかな。それにさ、相手の言い分を聞いていると、そういう考え方もあるかなって気がしてきて……。」


 「駄目だ、駄目だ!!そんなんだとお前本当に単位落とすぞ?」


 「どうしよう……。」


 「いいか?自分は正義だ。相手は悪で、丸め込み、誑かし、打ちのめし、八つ裂きにするのだ!!」


 「……君って本当は悪魔?」


 「だぁかぁら、現実はそうもいかないだろ?こんな茶番が出来るのも学生のうちだけだから楽しもうぜ?」


 「楽しむ!?とても、そんなっ……!!」


 「はいはい、考えてないでどんどん喋れ。今度は生意気だけど頭が悪い男子学生風にやるから、とことん叩きのめせよ。」


 「うん、ありがと、リア。」


 「礼なんか言うな。早く戦闘モードに入れ。」


 しどろもどろになりながらも、ピックランツは何とか単位を取った。しかしリアは落とし、卒業出来なかった。約束だからと言って泣く泣く帰るリアの姿を、ピックランツはチクリと痛む胸の痛みと共に忘れることが出来なかった。




 「そんなに重く考えるなよ。あ、今は弓矢は得意なんだ!」


 「ええっ!!本当に!?」


 「猛特訓した!」


 「凄いな、そんなことってあるんだな。」


 「酷い言いようだな!」


 「だってちょっと信じられないよ。あんなにノーコントロールだったのに。」


 「今はトップで単位取れるって。うちの軍の元帥が言ってた。……ふはは!試合に負けて勝負に勝つとはこういうことだな!」


 「よく分かんないけど。」


 「あ、そう言えばロザリーは元気?」


 「元気だよ。僕達、去年結婚したんだ。」


 「それはおめでとう!!」


 「ありがとう。」


 「今日は来てる?」


 「残念ながら来ていないんだ。母親がちょっと調子を崩していて里帰りしてる。」


 「そうか、そりゃ心配だな。」


 ピックランツは学生時代からロザリーと婚約していた。しかしあまりにもリアと頻繁につるんでいた為彼女は心配し、ピックランツはリアと会わせる機会を設けたのだ。一度会ってもらえれば、ロザリーが心配するような仲ではないのが一目瞭然だろうと考えたからだ。ピックランツの目論見は成功した。全然違うタイプの二人だが何故か馬が合い、ピックランツの知らないところでも親しくしていたようだ。


 「うーむ、曲が終わってしまう。お前ともう一曲踊ったら顰蹙かな?」


 「まずいと思うよ。」


 「だよな。あ、王族席から誰か来る。多分彼で終わりだ。」


 「随分踊ったもんね。」


 「女性パートをこんなに踊ることもないからクタクタだ。……えっと……ヒールカイロ男爵家で間違いないな?」


 「うん。」


 「明日にでも使いを出す。また会おう。」


 「待ってるよ。」


 曲が終わるとともに二人は離れ、向かい合ってお辞儀をし、別れた。



 



 

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