島がいっぱいあるんだな
「島がいっぱいあるんだな。」
リアは隣に腰掛けた若い船員に話し掛けた。
彼の名はサニー。年は十七とリアと同じで、乗組員の中で最も若い。同年代のせいか王女相手に物怖じすることもなく、人懐こい性格もあってリアとクララの近くにいることが多かった。
「いっぱいありますよ、セイントレア側にもレスカ側にも。地図には載ってないけど。」
「人が住んでいる島はあるの?」
「ないんじゃないかな。全部無人島です。」
「そう。」
リアはどこまでも広がる青い海を見渡した。波はきらきらと輝き、涼風が頬を撫でてゆく。船は丁度、小さな一軒家のような島の脇を通過していくところだった。
……あんな島で一日過ごせたら楽しいだろうな……。
そんなことを考えていると、
「可愛らしい島ですわね。休暇で過ごせたら気持ちよさそうですわ。」
クララも同じことを考えていた。
「私もそう思ったとこ。」
リアとクララは顔を見合わせて笑った。
「そんなにいいもんじゃないと思いますよ。足場は悪いし、気持ち悪い虫は出るし、どんな獣がいるか分からないし……。」
「そりゃそうだ。そんなにいいところだったらとっくに誰かが住んでいるだろう。」
「そうですよ。でも僕も、魚釣りだけだったらしてみたいような気がするな……。」
あの島だったらどこで仕掛けたらいっぱい捕れるだろう……サニーが無邪気にそんなことを考えているうちに、船はあっという間に島を通り過ぎて行った。
リアが乗っているのは、十二人漕ぎの小型客船。総勢二十二人のクルーが、短いスパンで交代しながら昼夜漕ぎ続けている。船を止めない為に前列から時間差で交代し、軽食を取り仮眠する。リアは効率の良さに感心すると共に、荷物の多さを申し訳なく思った。流石にワイン百本は重過ぎる。留学する時はトランク一つで渡ったというのに。
「よ、サニー、もうすぐお前の番だ。」
仕事から上がったばかりの船員がサニーに声を掛けた。自分が上がったら、順番待ちの予め決めておいたクルーに声を掛ける。そんな点においてもこの船は徹底していた。
「ありがとう、ブライアン。」
「うん。リア、航海は順調です。もう一時間ほどでレスカに到着しますよ。」
「分かった、お疲れ、ブライ――。」
「一時間ですって!?」
クララが飛び上がった。
「あ、はい……。」
「なんてこと!!リア様、早くお仕度いたしませんと!!」
「クララ、何をそんなに慌ててるんだ?一時間もあれば――。」
「一時間しかありませんのよ!!」
クララは目くじらを立ててリアの手を引いた。
「わ、分かったよ……。」
リアは大人しく客室へと連れられて行った。
この船の客人用の客室だけは立派である。そもそもこの船は、リアのような要人を渡す為の船なのだ。
もうレスカ島が見え隠れし始めた一時間後、客室の扉は開いた。
その途端、時が止まった。
甲板で談笑していたクルーも、決して止めてはならない漕ぎ手の手も、寄せては返す波の音さえも。カモメの鳴き声だけが、やけにリアルに耳に響く。
そこには、海の女神が立っていた。




