最期の景色
……お前の事情は、ようく分かった。だからさ、そろそろ消えてくれよー。
リアは、一旦は眠りに就いた。しかし、夜明け前にふと目覚めたタイミングで、再び謎の声に話し掛けられてしまった。
……俺だって出来るのならそうしたいよ。でも、どうすればいいのか分からないんだもん……。
謎の声は、しょんぼりと言う。
……何とかならないものかな。要約すると――お前は亡霊だ。既に死んでいる。で、何故だか分からないが、私に取り憑いた。
……多分。
……あの時だな。どうりで変だと思った、私が落馬するなんて。どうすればいいんだ?祈ればいいのか?それとも墓参りでも?
……そんなんじゃないと思うよ。それに、さっきから散々祈って貰ってるじゃないか。
……だよな。あ、ひょっとして、私に恨みがあるとか?
…………分からない。
……その可能性はあるな。可愛い妻と乳飲み子がいたのに、うっかり私に殺されてしまった。
……そうなのかな……。えっ!?お前、人を殺してるの!?
……うん。
……誰を殺したんだ?それが俺かもしれない!
……覚えていない……。
……覚えていない!?
……戦場だもん。あ!ひょっとして、カイゼル将軍か?しかと私を見据えて倒れていった……。
……違うと思う。
……だよな。お前はカイゼル将軍より、ずっと若い気がする。お気の毒に。
……畜生!!俺はお前に殺されたのか!可愛い妻と乳飲み子がいたかもしれないのに!
……そうなのか!?
……分からない。でも、そう言われるとそんな気がしてきた。
……いい加減だな。恨むんだったら、自分が死んだ状況くらい覚えておけ。
………………覚えてる。
……覚えてる?
……そうだ、俺は戦場で死んだんだ!!
……思い込みじゃないのか?今そんな話をしたから。
……違う!俺は本当に戦場で死んだんだ!……俺を殺した奴の姿が見える。馬上から細身の剣で、俺の咽を貫いている。
……そうか!それが分かれば話が早い!私が敵を討ってやろう。お前を殺したのはどんな奴だ?
…………分からない。
……分からないって……お前、さっき姿が見えるって。
……逆光なんだ。太陽を背にして、そいつの影だけ見える。
……はああ……頼りにならないな。
……あ!
……なんだ?
……橋が見える。
……橋?
……うん。あれはランウェル橋だ!
……ランウェルだって!?
……俺は刺されながら、橋を見ている。俺を刺した奴の後ろで眩しく輝いている……綺麗だな、最期の景色だ。
……そうか、ランウェルか!だから私に憑りついたのか!
……どういうこと?
……有名な戦場なんだ。で、私はたまたまそこにいた。
……そうなんだ!……たまたま?俺はお前に殺されたんじゃないのか?
……いや、私は殺していない。ランウェルでの戦に参加したことがないんだ。
……本当に?
……何だ、その疑い深い言い方は。
……だって……。
……且て、ランウェルでは何度も戦があった。しかし、ここ百五十年ほど、大きな戦いはない。
……そ、そうなの!?
……小競り合いならしょっちゅうだけどな。ところで、私も聞きたい。お前、本当に殺した奴を恨んでるの?百五十年前の話だぞ。
……さあ……どうなんだろう。戦場だからなあ。恨みようがない気もするしなあ。
……ほんっとに頼りにならない奴だな!何を恨んでるのか分からないなら、救いようもないだろうが!
……ごめんね。
……謝られてもなあ。原因が分からないんじゃ、お前消えてくれないいじゃん。何か執着していたことは?どうしてもやり遂げたかった仕事とか、本当に妻に一目会いたかったとか?
……さあ……。
……怒るぞ!とっとと成仏しろよ!
……もう怒ってる。
……ああ、お前が生きていたら、とっくに殺している。
……はは、出来なくて残念だったね。
………………。取り敢えず、もう一度ペイジに行ってやる。何か思い出すかもしれない。
……ありがとう。ペイジって?
……ペイジが分からない!?
……うん。
……ハルナックは?
……分からない。
……セイントレアは?アーネスタントは?
……何、それ?
……うぎゃー!!信じられない!何故ランウェル橋だけ覚えている?
……さあ。何かおかしいの?
……おかしいさ!ペイジはセイントレア国!ハルナックはアーネスタント国!ランウェル橋は、その境界となる橋なんだ。国は分からなくて橋の名前だけ憶えているなんて。お前、どっちの者なんだ?
……そんなの分からないよ。どっちも聞き覚えがあるような、ないような……。
……ほんっとにいい加減な奴だな!
……ランウェル橋は覚えてたよ!
……自慢気に言うな!お前、今まで何してたの?あの辺を彷徨っていたのなら、ちょっとはバックグラウンドがありそうなのに。
……彷徨っていた記憶はないなあ。剣で咽を突かれて、橋が光り輝いているのを見て、気が付いたらお前の中にいた。
………………。お前、名前は?
……ああ!…………何だろう?
……名前くらい覚えておけ!!
……うーん、俺も気になる。俺は何て呼ばれていたんだ?
……さいっていな記憶力だな!犬より酷い。
……ひゃくごじゅうねんだよ、ひゃくごじゅうねん!犬だって忘れるよ!
……あー、やだやだ!!どうしたらいいんだ!!お前、何で成仏してないんだよ!未練がないならとっととあの世に逝け!!
……俺だって出来るならそうしたいよ。ここは……セイントレア国?
……そう!セイントレアの首都、セインティア!
……お前は……リア?
……はい?
……名前。お前の。
……え?ああ、そう。
……本名?
……いや、愛称。本当は、アリアンルーシュキャロル。
……どこからが姓なの?
……全部、名。
……長っ!!
……だろ?だから略に略されて、リア。
……うーむ。全部だとどうなの?
……それは……。
その時、コンコンコンというノックの音が聞こえて、静かに扉が開いた。




