リアVS.ハドグ
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いきなり激しい剣戟が始まった。
リア王女とハドグ大将は、剣と剣がぶつかり合う音を響かせながら、右へ左へ、前へ後ろへと目まぐるしく位置を変えていた。いや、縦横無尽に立ち回るだけではない、まるで果てない平原をゆく竜巻のように急に飛び、辺りに旋風を撒き散らしながら互いを攻め込んでいた。
とても目に追える速さではない。今ではもう膝を突いている兵士など一人もいなかった。立ち上がり、一瞬の隙が命取りになりそうなこの名勝負を見逃してなるものかと、手に汗を握って見守っていた。
激しい打合いの後、次第に均衡が変わってきた。足を止めての鍔迫り合いの場面が多くなり、離れてはまた打ち合うという形を繰り返している。どうやら打ち込んでいるのは大将、離れたがっているのは王女のようだ。それはそうだろう、あのハドグ大将の渾身の力を受けているだけでも、兵士達にとっては背筋が凍る思いだった。
★★★
……動きが速いな……。
リアは思った。
……あんな巨漢なのに、私のスピードに余裕でついてくる。離れてもすぐに追い込んでくる……。
★★★
……速いっ!!速過ぎる!!捉えたと思ったらもう離される。よい型に持っていく前に逃げられてしまう。ひらひらと逃げ回りおって……。いつまでもこやつのペースに合わせてる訳にはいかん、早期に決着をつけねば。
ハドグはどっしりと立ち位置を変えた。
★★★
戦い方が変わった?
兵士達は新たな戦況を見守った。ハドグ大将は堂々と剣を構え、王女の後を追おうとはしない。そうなると今度は、必然的に王女が飛び込む形となった。
大将の動き方を見て、なるほど、と彼等は納得した。あのスピードについて行こうとすると、速さに翻弄され、彼女のペースとなり、みるみるうちに体力を消耗する。追うことをやめて向かってくる剣だけに反応すれば、幾らかは無駄な消費は抑えられるだろう。とは言え、あの王女は息つく暇などないぐらい打ち込んで来てはいるが。このペースで動き回っていて本人の体力は持つのだろうか……?
★★★
……さすがにこちらのペースには合わせてはくれないか……。
岩のように立ちはだかる大男に下から切り込んだ後、リアは即座に斜めに跳んだ。
……重いなあ!!少しでも気を抜いたら剣が折れそうだ。一瞬でもバランスを崩してくれるとよいのだが、身体の正面は常にこちらを向いている……。
★★★
……まだスピードが上がるのか!?一体どこまで加速するのだ!!今はまだ捌けているが、一瞬の遅れが手遅れになる。早く疲れてほしいものだが、このスタミナはどこまでもつのだろう……?
ハドグは、下から掬うように腹を狙って来た剣を、上から手首で叩いた。
……もう跳んでやがる。決して軽く当てに来た訳ではないのだが、甘く見てると本当に腹を持っていかれるだろう。俺は……何故手首だけで捌こうとする……?ああ、体重を乗せて振り下ろすと上背が傾くことになる、それを本能で嫌がってたのだな。体幹が傾いたところを上から振り被られる可能性が高い。では……上からきた剣だけを狙ったら?この身長差なら俺の上体がぶれることはまずないし、王女は必ず身体を開かねばなるまい。
ハドグは、次から次へと繰り出されるリアの剣筋に意識を集中した。
……上からのは全部フェイクじゃねえか!!
ハドグは呆れた。
……畜生、今頃気付くなんて!……まあ、よかろう、一つ分かった。考えてみりゃ、この身長差でまともに振り被るなんざ自殺行為だ。上からきて……と思いきや……横、上からきて……と思わせて下からの突き上げ。フェイントのパターンは一定じゃねえな、こっちの動きに合わせて柔軟に動いてる。それにしてもちょこまかと小賢しいな!兎みてえにぴょんぴょん跳ねやがって!しかしこのフェイントを適当にあしらうとこっちがやられる。……ん?
ハドグは下から向かってきた剣を叩きつけた後、リアの動線を追った。
…………見つけた。
ハドグは心の中でほくそ笑んだ。
……右下から腹を狙ってきたやつ。これを叩き落とすと、奴は必ず右斜め後ろへ跳ぶ。癖だ………ならば。
ハドグは剣を構え直した。
……着地点が分かっておるなら、こやつを追うのも訳ない話だ。どんなに速くとも、下からきた剣を叩いてすぐに間を詰めればいい。……チャンスだ。
王女は相変わらず目まぐるしく打ち込んできている。しかし、まるでパターンなど無いように見えるが、人である以上必ず打ちやすい方向や動き方がある筈だ。
……左……右……一旦下がって……上から左……下がって……来た!!
ハドグは右下から伸びてきた剣を手首で叩きつけた後、即座に剣を振り上げながら右前方へ跳んだ。跳びながら渾身の力で打ち下ろす。
……こやつ、本当に死ぬかもしれんな…………うっ!?
ハドグは突如バランスを崩した。そして何故か右手に軽い痺れを感じる。ゆっくりと地に倒れながら、陽光を浴びて白く光る練習刀が、青い空に向かって高い放物線を描きながら落ちていくのが見えた。
……こやつは…………。
倒れていく体勢を直すことも出来ずに考える。
……こやつは、一手とか二手とか先の話じゃねえ、五十手だか百手だか分からねえが、俺の知らない世界を見ている。
ハドグが地面に倒れ込むと、まるで彼に笑い掛けるような澄んだ青空が目に映った。
……王族にも面白れえ奴がいるもんだ…………。
彼は見上げた空から目を離してのっしりと立ち上がると、リアの前で膝を突いた。
「俺の負けだ。」
「え、もういいの?」
王女は拍子抜けしたような顔をしている。
「これ以上やってられるか!!」
「あっそう?……では会議に入るぞ。立てるか?」
「ああ。」
リアが差し出した手を取って、ハドグは立ち上がった。
兵士達は目を疑った。目の前で起きていることが信じられなかった。呆けたように口を開ける者、首を捻ったまま固まる者、中にはじくじくと泣き出す者もいた。
ハドグ大将が女の手を取って立ち上がる!?
そんなことは、絶対に、絶対に、絶対に、有り得ないことだった。




