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亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


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エクリスタ

 「リア様はエクリスタに来たことがありましたっけ?」


 疾走する馬上から、ジェマーソンはリアに話し掛けた。

 彼等は全速力でエクリスタ軍事基地を目指していた。その構成は、リアとジェマーソン、十五人ほどの精鋭のみ。とにかく、セインティアの事情をエクリスタに伝えるべく集められた第一線組だった。


 「あるよ、レスカへ留学する時に。」


 前方を見据え、息一つ乱さずリアは答えた。


 「ああ、そうでした!」


 「でも、仕事として来たことはない。セインティア軍と並ぶ立派な軍なのだから、私は必要ないだろう?」


 「確かに。リア様の行く所は危ない場所ばかりですからね。」


 「五割くらいはお前が決めてるんだがな。」


 「中々リア様ほどの即決力、実行力、交渉力、損得勘定などを持ち合わせた人間はいないのですよ。……ああ、基地が見えて来ましたね。」


 「こうして見ると、やっぱりでかいなあ!!」


 「陸軍と海軍を併せ持っていますからね。あの基地の裏側には海が広がっている。」


 「そうだな。」


 リアは嬉しそうに目を細めた。


 「海がお好きで?」


 「うん、レスカではどこからでも海が見えただろ?沢山の楽しい記憶がある。」


 懐かしそうなリアの表情を伺いながら、ジェマーソンはそこにいなかった自分をとても残念に思った。


 「そろそろ先触れを出しておきましょう。先方にも準備があるでしょうから。」


 「うん。」


 ジェマーソンが後続を振り返ると、一人の兵士が飛び出した。彼は脇目も振らずにエクリスタ基地を目指して駆け抜けて行った。






     ★★★






 「ようこそ、エクリスタへ。」


 歩く度に大地を震わせそうな大男が、膝を突いたままそう口を開いた。その後ろには、何百?何千?或いは何万!?の兵士が膝を突いて首を垂れていた。


 「やあ、ハドグ!また会えて嬉しいよ!」


 ジェマーソンが声を掛けると、ハドグは更に深々と頭を下げた。


 「ジェマーソン元帥にはご健勝のようで何より――。」


 「ハドグ!!」


 ジェマーソンはハドグの手を取り、無理矢理立たせた。


 「今まで通り、ジェマーソンで構わない。あなたと再び手合わせ出来ることを楽しみにしていましたよ。」


 「そう言われても…………。」


 「そう言われても、何か不都合が?」


 ジェマーソンは笑顔のまま、ハドグの手を渾身の力で握った。


 「何か、不都合が?」


 「いえ…………。」


 ハドグの顔が苦痛で歪んだ時、ジェマーソンは手に折れそうな圧を感じた。ジェマーソンはハドグの目を見つめ、更に力を込めた。


 「何か不都合が?」


 「いや、別に。ジェマーソン、俺もお前と戦えるのを楽しみにしていたよ。」


 「だったら良かった!」


 ジェマーソンはハドグの手を引き寄せ、肩を叩いた。


 「ハドグ、ご紹介しましょう!我が国の王女であり、セイントレア軍近衛隊長のリア様です。」


 ジェマーソンがリアを紹介すると、ハドグは再び地に伏した。


 「ハドグ、私はリア。大歓迎して貰ってありがとう。早速で申し訳ないが、一刻も早く会議に入りたい。このまま会議室へ案内してくれないか。」


 「既にご用意しております。そして、アリアン・ルーシュ――。」


 「長いから略して、リアでいい。」


 「リア王女様には、当軍の特別室をご用意しております。」


 「特別室?」


 「眺望の素晴らしいスウィートルームです。我々は武骨者で作法がよく分かりませんので、領内から嗜みのある女を呼び、侍女として取り揃えております。どうぞ、リア王女様のお好きなようにお使いください。」


 「…………お前、状況分かってる?」


 「はい。私共は、かけがえのない王女様をお預かりしております。」


 「……どうにも話が噛み合わんな。私は、早急に会議に入りたいと言っている。」


 「存じております。ジェマーソンから話は伺いますので、王女様はどうぞご休憩を。」


 「ハドグ、この人を普通の女性だと思わなくていい。」


 「そう言われましても。」


 「そう言われましてもどうなんだ?」


 リアはしゃがみ込み、跪いているハドグの更に下から、彼を睨めつけた。

 

 「何故、私が会議に出てはいけない?」


 「いけないなどと申してません。只、大事なお身体ですから……。」


 「まあ、大事なお身体であることは確かだな。レスカと話が出来るのは今のところ私だけだ。しかし幸運にも、この国の第二の心臓とも言えるお前と話をする機会が出来た。なのに何故私を遠ざける?」


 「遠ざけるだなんて。……ジェマーソンがおりますので、王女様には身体をお厭いくださればと。」


 「ハドグ、こうやってジェマーソンといると、常に我々が一緒にいるみたいだが、実は殆ど離れている。ジェマーソンは中央、私は地方。なるべく齟齬がないように話し合って来たつもりだが、それでも食い違うことはどうしてもある。出来るだけ正確な情報を伝える為に、我々は二人とも同席することが必要なのだ。」


 「しかし……。」


 「しかし、何だ?」


 「あなた様は……女性ですから。」


 「ああ、そこ!?」


 その途端、ハドグは襟首を取られ宙に浮かび上がっていた。いや、厳密には、リアにハドグを浮かばせる程の身長はない。リアは一瞬のうちにハドグの後ろへ回り、立ち上がりざまにハドグの上背を仰け反らせるような体勢を取らせていた。これを支えるのも容易ではないと思うが、リアはひょいとハドグの腰を支え、ぽいっと地面に突き放した。


 「ハドグ、このままでは埒が明かない。勝負しよう。お前が勝ったら私は大人しく特別室へ入り、全てをジェマーソンに任せる。渡航の準備が出来次第レスカへ渡る。私が勝ったら今すぐ、渡航までの限られた時間を会議に充てる。どうだ?」


 「……いいだろう。」


 ハドグは歯ぎしりをしながらリアを見返した。


 「おい、誰か、練習刀を持って来い!!……練習刀だが、死んでも知らねえからな。」


 「安心していいよ、ジェマーソンがいるから。こいつはこういう場面での嘘は絶対につけないんだ。」


 「まあ、そうですけど。なんか……おかしなことになっちゃいましたね。リア様、あなたの行くところは何故いつも大騒ぎなのでしょうね!?」


 「余りにも話が通じないんだもん。ならば力で決めるしかないだろう?とにかく時間がない。」


 「はいはい。ハドグ、もしリア様が参ったをしたら追撃しないで下さいよ!」


 「当り前だ!!」


 「ジェマーソン、私が参ったをするとでも!?」


 「思いません!リア様が必ず勝つに決まってますが、詰まらないことで怪我とか死亡とかされると嫌じゃないですか!」


 「リア様が必ず勝つに決まってる!?お前はどっちの味方なんだ!!」


 「どっちも味方です!!」


 「ああ、こいつ本当に面倒臭い。とっとと剣で勝負を付けよう。私は本来短気なのだ。」


 「そこだけは同感だな、剣はまだか!!」


 ハドグが吠えた途端、若い兵士が転がるように二人の前に剣を差し出した。


 




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