風呂はええなあ②
「ふうぅぅぅ…………やっぱり風呂はええなあ…………。」
広い浴槽で、リアは独りごちた。
「身体を使うより、頭を使う方がずっと疲れるよなあ!」
………………。
「なあ!?」
………………。
………………おい、フローラ。
………………はい。
……礼を言いたかったのもあるけど、お前の為にわざわざ面会したんだ、何か言え。
……うん…………ありがと。
……どういたしまして。……で?あのフローラはお前と何か関係があるのか?
………………ないと思う。
……だよな……。
……名前が一緒なだけなんだと思う。
……ということは、お前が曾てフローラと名乗っていたのは本当なんだな?
……うん。うーん……名乗っていた……というより、呼ばれていたっていう方がしっくりくるのかな。
……同じじゃないか!
……そうなんだけど……微妙に。
………………。
リアはゆらゆらと湯気が立ち昇る天井を見上げ、溜息をついた。
……お前…………女?
……男だと思う。
……私はさ……女だと思うんだ。
……違う!!
……そうかな。だってお前、男好きじゃん。
……え……!?
……ほら、ジョンのことが好きって言ってたし……それから、ケールがいいって言ってたこともあるぞ。
……俺が好きなのはリアだ!!
……女好きの女……?そうか、私はあまり女らしくないから好きなのかな。
……違う!!お前の場合好きとか嫌いとかの次元じゃない!!心から愛してるんだ!!
……あら。
リアはズルっと浴槽を滑った。
……じゃあさ……リア。
……何?
……おっぱい見てよ。
……はい??
……男と女じゃ、おっぱいを見た時の感じ方が違うだろう?
……はあ!?
……大事なことだ、早くおっぱい見てよ。
………………。
……早く!!
………………。
一体何なんだよ……と呟きながらも、リアは湯船に視線を落とした。
……で?見たけど?胸は胸だろ、何をそんなに息巻いてるんだ?
……胸は胸!?こんなにお美しいお胸様に向かって何を言っているんだ!!何か……たまらん。
………………。
……でさ、リア。
……何だよ、フローラ。
…………触ってよ。
……はあ――――!?
……頼む!!俺が男か女かを見極める大事なことなんだ!!
……そうかあ!?
……そうなの!!お願いだから!!
……ったく、仕様がないな!!
リアは渋々、両手を胸に当てた。
……で?胸は胸だろ?
……リア的にはそれが感想?
……感想って……。まあ、柔らかい部位だなってことぐらい?お前的には違うのか?
……全然違うよ!!柔らかいし……丸いし……指に掛かる弾力がぷにょぷにょしてるし……。掌にぷつんと当たる感じが……可愛いっていうか……。
……へ?ああ、乳首?
……きゃ――!!そんなストレートに!!
……アホか!!
……あ――!!もう離しちゃうの!?
……これ以上付き合ってられるか!!
……え――ん!!でもさ、分かっただろ?
……何が?
……おっぱいに対する男と女の感受性が。俺は男だ。
……うーむ、どうだろう。私は女が好きな女説も捨てられないな。何と言ってもフローラだし。
……何でだろうなあ、自分では女だって気が全然しない。
……そう?ま、名前が分かっただけでもよかった。あとはユースに任せよう。
……ユースって、三軍の大将の?ペイジに行くって言ってた?
……うん。ちょっと変わった奴なんだ。
……魔法街の出身って言ってたよね?霊媒能力とかあるの?
……そういうのも違うんじゃないかな……。私もよく分からないのだが。
……魔法が使えるの?
……使えない。何ていうかな、ちょっと変わった奴としか言いようがないなあ。例えば……急にあっちへ行きたくないって言い出すんだ。理由を聞いても分からないと言う。で、結果的にそっちへ行っていたら、敵が待ち構えていたりするんだな。何故分かったんだって聞いても、何となく嫌な感じがしたって言うだけ。
……へえ!!それはちょっと変わってるね!!
……だろ?前日くらいから分かっていたらもっとやりようがあるのだけど、そういう勘が働くのは急みたいなんだ。
……そんなにうまいこといったら怖すぎるよ!直前でも十分なんじゃない?
……大分助けられてるよ。本人の戦闘能力も高いのだけど、寧ろその変な勘みたいのでいつの間にかトントンと位が上がり、今では大将だ。
……やっぱり魔法系の家柄だからかな?話の流れでは、自分の家が嫌みたいな感じだったけど?
……物凄く嫌らしいよ。実家の跡を継ぐ継がないで相当揉めたようだ。
……そんな能力があるんだったら家業を継いでも重宝されただろうに。
……それがそうでもないらしいんだな。彼の一族が求めているのはその能力とか血筋だけで、我々が考える家族、とは大分違うみたいだ。
……それは確かに嫌かもね。
……ここへ来た時も家出同然だったと聞いた。軍へ所属する為にはブリリアント・スクール以上の卒業が必須なんだ。だから頑張ってスキップしまくって、何とか卒業して、卒業した途端、着の身着のままでうちを訪れたって。一度入隊してしまえば衣食住は保証されるだろ?外部の者が軍の兵舎まで侵入するのはまず不可能だし。今では一の郭に立派な屋敷が与えられているが、全然そっちへは帰らずにずっと兵舎で暮らしてる。
……大将なのに?
……里の者が急に尋ねて来たらと思うと怖いって。外部の者が一の郭へ入るのだってまず無理だし、どれが誰の家だなんて絶対に分からないのにな。
……よっぽど実家が嫌なんだね、なんかかわいそう。
……その代わり、三軍の結束って物凄く固いよ。本当の家族みたい。
……部下を大事にしてるんだ。
……本人は茶化すけどな。照れ屋だけどいい奴だよ。
……彼にとっては軍が家なんだね。居場所が見つかって良かったね。
……うん。それより!お前の為に大幅に人事を変えたんだからな!思い出せることがあったらなるべく思い出せよ。
……え、俺の為?ハジャとパリアグラスの為じゃなくって?
……それは建前だ。
……そうだったの!?責任重大だ!!
……ま、重荷に感じることはない。ユースだったらペイジでもエクリスタでも、どっちでもうまくやるだろう。お前も今回みたいに、少しずつ何かを思い出せたらいいと思う。
……そうか、ありがとう。…………ね、リア。
……うん?
……俺に、早く離れて欲しい?
……どういうこと?
……俺はさ……ずっとリアの中にいるのも悪くないなって思い始めてるんだ。あ、ちがうよ!!取り憑きたいとかじゃなくって、このままでもいいかなって。リアが誰と結婚しても、何人子供を産んでも。
……ふうん。ま、いいよ。
……え!?
……好きな時に成仏すれば?今のところ私も困ってないし、弓は上達したし。只、この現象は余りにも不可解だから、私的にはこのままでいる訳にはいかない。出来る限り調べたいと思う。
不意に、リアの目からボロッと涙が零れ落ちた。
……え……?何……?
意図しない感覚に、リアは戸惑った。
……あ、ごめん……。
……どうした?っていうか、私がどうした?
……ごめん、俺ちょっと泣いちゃった。
……え!?なんで!?
……嬉しくって。
……え?え?え?何が嬉しい?じゃなくて嬉しくて泣く?や、それは分かる、嬉しくて泣くことはある。違う!何故お前が嬉しくて泣いて、私が泣く!?
……わかんない。リア、俺のぼせてきた。
……ああ、ああ、そうだろうよ、私ものぼせてきた。
……早く上がろうよ、明日も早いんだろ?
……そうだよ。何かどっと疲れが来た。
……侍女呼んだら?
……え――。
……リアは嫌みたいだけど凄く眠いんだもん、早く寝ようよ。
……まあね。たまにはいいか。
リアが呼び鈴を鳴らした途端、数名の侍女が駆け寄って来た。身体を拭かれ、ガウンを着せられ、鏡の前に座らされたのは何となく覚えている。
あんまり無理をしてはいけませんよ……という、側近のクララの声が耳に残ったまま、リアは深い眠りに就いた。




