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亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


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33/85

何が心配なんだ?

 「や、ピズロ、久しいな!どうした、こんなところで?ローウェンは?」


 リアとジェマーソンは、正面玄関からいくらも離れていないところで、ピズロ・キーアパルと遭遇した。


 「父はもう中です。私は、あなたがジェマーソンを探しに行ったと聞いて心配で心配で……!」


 「何が心配なんだ!!」


 ジェマーソンはいきり立った。リアは小首を傾げ、怪訝な顔で彼に問うた。


 「ピズロ、本当に何が心配なんだ?我々最強の二人組でいて、何か懸念することがあるのか?まさか不審者がいたのか?」


 「うっ…………!」


 邪念のない瞳に真っ向から見つめられて、ピズロは言葉に詰まった。ジェマーソンはほくそ笑む。


 フレデリック伯爵家の長男ジェマーソンと、キーアパル伯爵家の長男ピズロは、セインティア社交界の人気を二分する公達だ。いずれの父親もそれぞれ軍務大臣、宰相と高官で、先祖代々王家に大きく貢献していた。父親が偉大すぎるとその息子は残念なことが多い貴族社会だが、この二人はその例に嵌らなかった。ジェマーソンは淡いブロンドに薄いブルーの瞳、ピズロは褐色の髪と瞳を持ち、肌は白いが為に鋭利な一重瞼がより強調される。穏やかで優し気な風貌のジェマーソンと、孤高の怜悧さを見せるピズロ。外見と役職がちぐはぐな彼等は、若くしてめきめきと才覚を伸ばしている期待の星(特に若い女性からの)だった。

 ピズロの方がジェマーソンの二つ上、しかし同窓の卒業だ。本来ならピズロは王立のトップ校、サルベスト・エクセレントスクールを十五で卒業すると見込まれていた。にも拘らず、古代の徴税法はテキストが間違っていると主張し、卒業出来なかった。彼はその後二年の歳月を掛けてそれを証明し、テキストを変え、法を変え、首席で卒業した。

 ピズロとジェマーソンは後半二年は同窓だが、専攻が違いすぎる為に顔を合わすことはまずない関係だ。しかし、注目の二人は何やかやと引っ張り出され、いつの間にか顔見知りとなり、事ある毎に比較対象されていた。そして、お互いの陰にはリアの姿があることに気付いていた。


 リアは幼少期から、勉強で分からないことがあるとピズロに聞きに行っていた。ピズロは私の研究の跡を継ぎなさいと口を酸っぱくして言い続けてきたのに、年頃になると彼女はあっさりと留学してしまった。

 リアはどこにいても問題を起こし、暴力沙汰になり、家庭教師や侍女を泣かせる悩みの種だったが、二人はリアを可愛がり、幼くして現れた才能に注目していた。時には何故こんなことで争えるのだろうとガックリと首を垂れるようなことも多かったが、その後に小さい女の子がメイド服を着てあちこち掃除している姿は可愛かった。リアの成長と共に密かな想いを寄せる二人だが、その父親達は王家に忠実でありすぎるが故に、リアを息子の嫁に迎えるとか息子を婿に出すなどという考えは、思い付きもしなかった。


 今日はここ数日に比べて幾分風が強い。時折吹き抜ける疾風は、美しく配置されたアイーシャ邸の梢をさわさわと揺らしていた。


 「し、心配というか!君がウロウロしているから、リア様に手間をお掛けしてるんじゃないか!ほら、エスコートもなしで!」


 ピズロは強引にリアの手を取った。


 「考え事をなさってらしたから遠慮したんですよ!あなたこそ、私がいるのにそういうことするのは止めて頂きたい!」


 ジェマーソンは逆側の手を取った。


 「一体何なんだよ!!」


 リアは二人の手を振り切った。


 「ここはアイーシャの館だ。私はいいから、アイーシャとシャウルに気を遣ってくれ。」


 リアは代わる代わる二人を見た。


 「お前等、そんなに仲が悪かったっけ?あんまり気が合わないようなら、会議の面子変えるぞ。」


 リアの言葉に、二人は慌てて手を振った。


 「や、や、や、そんな訳ないじゃないですか!ジェマーソン君とは大の仲良しです!」


 「そうです、そうです!仲良しすぎて!」


 二人は笑いながらお互いの肩を叩き合った。


 「そう?だったらいいけど。急ぐぞ、結局我々が最後だ。」


 リアは二人を置いて、急ぎ足で正面へと向かった。






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