表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/85

気分転換

 扉を叩く音が聞こえてジェナットが目を遣ると、エレノアが悪戯っぽい笑みを浮かべて顔だけ出していた。


 「ジェナット、ちょっといいかしら?」


 ジェナットはイライラと首を振った。


 「悪いが取り込んでいる!後にしてくれないか?」


 しかし、エレノアは勝手に部屋に入って来た。後ろにはメイドが一人付き従っている。


 「駄目よ、最近のあなたはいつも難しい顔をしているわ。ここのところ、入り代わり立ち代わり訪れる兵士達と関連しているのかしら?」


 「関係ない。別にいつもと変わらない顔ぶれだ。」


 「そうお?」


 「で、何の用だ?」


 「妻ですもの、用がなくてもあなたのお顔を見たくなってはいけません?」


 心配そうな顔でまじまじと見詰められて、ジェナットは下を向いた。


 「……いや。ごめん。」


 「いいえ。」


 エレノアはにこやかに笑った。


 「少しは気分転換して頂こうかと。ずっとそんなお顔をしていたら疲れちゃいますわよ。」


 「そうか。」


 「ね、新しいメイドが入ったの。私のお部屋をお掃除してくれていたのだけど、この子物凄く面白いのよ。私付きの侍女にしようかと思って。」


 「へえ、身元は確かなのか?」


 「まだ聞いてないわ。あなたの気分転換も兼ねて一緒に聞こうかと思ったの。ほら、見て!」


 エレノアはメイドの手を取って、ジェナットの前に出した。


 「美しいでしょう!?私、こんなに美しい女の子って見たことがないわ!あ、最初に見た時はこうじゃなかったのよ。髪もぼさぼさで顔もよく見えなくって。でも何か勘が働いたのね、整えれば絶対に綺麗だって。どう?髪を上げて薄い化粧を施しただけでこの美しさよ!」


 「確かに……凄まじい美しさだな。」


 「でしょう!!さ、リア。自己紹介して。緊張しなくて大丈夫よ、さっきみたいな感じでお話してくれたら、あなたきっと陛下に気に入られるわ。」


 「リアっていうのか、それは愛称?君は本当に美しいな。」


 「ありがとう、ジェナット。」


 「――――!?」


 国王をいきなり呼び捨てたメイドに、二人は呆気に取られ顔を見合わせた。


 「エレノア、これはちょっと……面白過ぎるのではないか?」


 「そう……ですわね。どうしたの、リア。さっきまではまるで教科書に載せたいような言葉遣いだったのに。」


 「悪い、エレノア。私はあなたのことが本当に好きだよ。」


 リアはエレノアの手を掲げ、甲に軽く唇を当てた。

 予測不能なメイドの言動に、二人の高貴な者は声が出なかった。メイドは二人の視線を見返しながら淡々と口を開く。


 「恐らく、私ほど身元が確かな者はいないと思う。リアは愛称。名前が長いんでね。正式名は、アリアンルーシュキャロル・カーラ・ティディクラス・エク・セイントレア。」


 「――――――!!」


 「ジェナット、何故私がここにいるか分かるだろう?既に多くの報告が入っている筈だ。」


 「………………。」


 「あ、スタルナ兵に無理強いはさせていない。そっちに戻るのかこっちへ取り込まれるのかの選択は、自由だと言ってある。」


 「リア、何の話をしているの!?あなた、どういうことなのですか!!」


 「何も聞いてないの?」


 「ええ!」


 「ジェナット、こんなに大事なことを何故奥さんに言わない?お前の妻はお前なんかよりずっと賢い。それが分からないなんて本当に馬鹿だ。」


 「どういうことなの!?」


 「ジェナット王はキューダン基地を手に入れる為に、我が国に戦争を仕掛け惨敗した。境界が変わった。基地を含むスタルナ、アッカルード、マーニエッダは、セイントレアの国土となった。」


 「何ですって!?」


 「ああ、一応証拠は持って来た。エレノアは見ない方がいい。」


 リアは後に背負っていた袋を下ろし、ジェナットの前で口を開いた。


 「――――――!!」


 「可哀そうに、お前のせいで無駄死にだ。献身的に仕えて来たと聞いたぞ。あんまり可哀そうだから私が決闘した。バイオルンの死は負け戦の戦死ではなく、セイントレア王女との決闘だ。その方が箔がつくし処遇も変わってくるだろう。」


 ジェナットの顔が苦痛に歪んだ。


 「既に国境は変わっている。三領主の承諾も得ている。言っておくが、お前が自分のとこの領主を守ってやらないからこういうことになったんだ。で、私が何をしに来たかというと……。」


 リアは腰に括り付けた筒を外し、二枚の証書を取り出した。


 「今言ったことを書面に書いてある。サインだけくれ。そっちで一通、こっちで一通。」


 「………………。」


 「もう一度言うが、国境は既に変わっている。一応文書にしたいだけ。スタルナを奪回しようとしたら、速やかにセイントレアが攻撃するからな。」


 「………………。」


 ジェナットの手は、怒りでぶるぶると震えた。そんな中、


 「あなた!とっととそれにサインなさい!!」


 エレノアは声高々に叫び、ジェナットは驚きの表情で彼女を見た。


 「いや、しかし……。」


 「何を躊躇っているのです!?あなたは大国に戦争を仕掛け、負けたのです!領土を取られるのは当然でしょう?あなた……本当に分かってます?あなたは今、三領地どころか国を取られようとしているのですよ!?」


 「エレノア、あなたは本当に素晴らしいな。あなたが国王だったら良かったのに。」


 「まあ!恐れ多い!生憎、私は生まれる前から王妃が確定しておりましたの。ですが、この人に色々進言しているのに一向に聞いてくれなくて……。南東部は豊かな土地だから放っておいていいって言ったのよ。それよりも、北部の橋の多くが老朽化し崩れ落ちていて、そっちを最優先して下さいって。教育も遅れているから、渡るなって看板を出しておいても文盲が多いので意味がないの。潤った南東部から徴収する税で、北部の橋を治して教育を強化すれば良かったのに。もう……後の祭りですけど。」


 「これから頑張ってよ。あなたはこの国のかけがえのない宝だな。」


 「そう言って貰えると嬉しいわね。……こつこつ頑張りますわ。あなた、サインは書きました?」


 「その前に一つ聞きたい。」


 「何?」


 「……こいつは何だ!!」


 ジェナットは自身の机を荒々しく叩いた。その途端奥の部屋の扉が開き、三人の兵士が出て来た。兵士達は一人の男を拘束している。拘束された男はボロボロの泥だらけだった。足に怪我をしているようで、自分の力で立てないようだ。


 「本当にすみません!もう泥棒なんてしませんから!大人しく牢に入りますから!」


 「……どう見ても只の泥棒ではない。知り合いか?」


 「泥棒に知り合いなんかいる訳ないだろう!?煮るなり焼くなり好きにしてくれ!!」


 男はやけくそのように叫んだ。リアは小さく溜息をつく。


 「ジョン……城の外で待ってろって言ったろう?何で大人しく待ってなかったんだ!!」


 「あなたなんか知らない。」


 「それもう遅いから。何で待っていなかったんだ?」


 ジョンはぶつぶつと口籠りながら肩を落とした。


 「待ってろと言われて待ってる諜報なんていませんよ。あなたに何かあったらどうするんですか!」


 「あ、そう。いい格好だな、どうした?」


 「何ていうか、不幸に不幸が重なったというか。蔦を伝って忍び込もうとしたらうっかり蛇を掴んでしまって。落ちた先が鶏小屋でそれはそれは大騒ぎで。足さえくじかなければ何とかなったのですが、流石に逃げ切れませんでした。」


 「嘘みたいな展開だな。」


 「足を引っ張ってしまってすみません。私のことは無いものと思って気にしないで下さい。」


 「そう言われてもな。」


 「一つ、提案がある。」


 ジェナットは冷たく微笑んだ。


 「王女、そこにある白紙に、証書を二通書いてサインしろ。ヘパーリンはセイントレアに戦争を仕掛けたが、和解が成立した。国境は今までと変わらない。そして、三領地を速やかに解放しろ。こいつとお前の命だけは助けてやる。」


 「あなた!まだそんなことを言っているのですか!!」


 「キューダンをくれと言わないだけましだろう?さ、早く書け。」


 「リア様、私のことは放っておいて下さい!!」


 「………………。」


 「リア様!!」


 リアはゆっくりと机に近付いた。と思ったらそのまま疾風のように駆け抜け、その傍らには三人の兵士と、支えを失ったジョンが床に倒れていた。


 「貴様……!!」


 ジェナットは激しく机を叩いた。奥の部屋から十人ほどの兵士が飛び込んで来る。しかし、彼等には事態が呑み込めなかった。そこにいるのは王と王妃と倒れた兵士と、先程まで拘束していた蹲っている男。それから若いメイドが一人。誰を攻撃してよいのか分からぬ間に、リアは壁に掛かっている豪華絢爛な剣を取り、次々と当て身を喰らわせ五人を倒した。

 誰が敵かを理解した彼等は、一斉にリアに襲い掛かった。リアは目にも留まらぬ早さで剣を抜き、その途端血飛沫が舞う。気が付けばジェナットは背後を取られ、喉元には血の滴る剣が突きつけられていた。


 「ジェナット、奥さんの声を聞けと言ったろう?この剣を引きさえすれば、三領地どころかこの国は私のものだ。とっととサインしろ。」


 ジェナットは喉元の剣に蒼白になりながら、恐る恐る証書を引き寄せた。


 「そう、それでいい。……なあ、ジェナット、前国王がうちを訪れたことがあるのは知ってるか。」


 「………………。」


 「どうなんだ!!」


 「……知っている。」


 「知っていながら、何故こんなに阿呆なことをした!?前国王はお前も私も生まれる前、何かのあんまり意味の無い式典に出席する為、セインティアを訪れている。式典には大した意味はないが、お前の父親の行動には意味がある。ヘパーリンはセイントレアに敵意はないから、ヘパーリンも攻撃しないで下さいって言ってるんだ!」


 「………………。」


 「まだご存命だろ?その辺のとこ、ちゃんと習っておけ!!」


 「くっ…………!」


 「今回だって私が来る必要なんかなかったんだ。只、あんまり馬鹿みたいなことをされると鬱陶しいから、わざわざ来てやったんだよ。セイントレアを攻撃するなんて浅はかな妄想は二度とするなよ。この国を良くしたいなら、妻と親父の声を聞け。」


 「………………。」


 「返事は?」


 「………………。」


 「分かってないようだな。剣を引くか。」


 「は、はい!!」


 「よろしい。」


 リアはジェナットを突き放し、証書を一枚取って筒に収めた。


 「ふう、思ったより手間取ってしまった。さ、帰るか。ジェナット、悪いが服を借りるぞ。返り血を浴びてしまった。」


 リアは血塗れの剣を壁へ戻し、衣装扉を物色し始めた。メイド服を脱ぎ捨て、適当な、しかし品質の良いシャツに袖を通す。


 ぶかぶかなズボンの裾ををたくし上げている女を眺めながら、ジェナットはぼんやりと思った。

 この女は今、隙だらけで武器も携帯していないが、攻撃しても何の意味も無いのだろうな、と。


 「これはこれで怪しいが、血だらけのメイド服よりはましだよな。」


 リアは大きな鏡の前で頷き、振り返った。


 「エレノア。」


 「何?」


 「悪いけど玄関まで送ってくれないか?私一人だったらその辺の窓から帰るのだが、怪我人がいるもんで。」


 「分かったわ。人を寄こしましょうか?」


 「いや、それには及ばない。こっちのミスだから自分で何とかする。」


 リアは倒れているジョンの肩を背負い、立ち上がった。


 「リア、私の後ろに立ちなさい。攻撃するのが難しいでしょうから。」


 「ありがとう、エレノア。」


 エレノアは扉を開け、次々と廊下を渡った。戸惑い、問うような目をしている家人に、軽やかに声を掛けながら。


 「この者達は和平の使者です。決して手を出してはなりませんよ。それから、陛下のご命令です。今夜は兵士、従僕共に城外へ一歩も出てはなりません。この者達を追うと厳しく罰せられますよ。」







いつもお読み頂きありがとうございます!!

最近1話が長くなっていて、投稿が遅くてすみません。スローペースですが、今後もお読み頂けると嬉しいです。

今年も激烈に暑い夏ですね!!

信じられないようなことが次々と起こる昨今ですが、二度とない2022年の夏、皆様にとってなるべく楽しい夏であることを、心よりお祈りしています彡★彡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ