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亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


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バイオルン

 ……何……だ?


 バイオルンは、事態を飲み込めなかった。

 人の呻き声と馬のいななく声が錯綜し、そこかしこに横たわっている。いや、それだけではない。人の頭ほどの岩が、緑の丘陵を灰色に埋め尽くしていた。

 最初は火山の噴火でも起こったのかと思った。ここに来て漸く、何度も鳴り響いた轟音の正体が掴めた。


 バイオルンははらわたが煮えくり返る思いだった。下手な芝居にまんまと引っ掛かり、おびき寄せられてしまった。しかし、激情に身を任せてはならない。自分に命があるのも紙一重の幸運だった。この混乱をまとめることが、自分に出来る唯一の任務だ。


 「退却だ!!全員ミゼッタ山まで退却しろ!」


 その声を待っていたかのように北からはゼムビスト軍が、南からはナッカル軍が取り囲むように追って来た。目標はミゼッタ山。山を越えられさえすれば、何とかスタルナ基地に辿り着き態勢を整えられるだろう。


 大分数は減らしてしまったが、難を逃れたヘパーリン兵は必死の思いでミゼッタ山を駆け上った。ゼムビスト軍が木を切り倒してくれたお陰で、足場も見通しもかなり良い。

 もう少しで山へ逃げ込める……。ヘパーリン兵が軽く安堵した時に、矢が雨のように降り注いだ。最前列にいた兵士達は、その場で地に倒れた。


 ……まだ敵がいるのか!?


 バイオルンは混乱した。自分達が山にいた時は、セイントレア軍の姿など全くなかった。この僅かな時間で山を占拠されたというのか?

 前へ出れば見えない場所から矢が飛んで来る。後ろへ下がればゼムビスト軍とナッカル軍が待ち受けている。いやもう既に、後方はみるみるうちに攻撃されていた。


 バイオルンには、もう手段がなかった。


 ミゼッタ山はセイントレア軍によって占拠されていた。山際で待機している彼等は騎乗しておらず、伏したような状態から矢を打ち下ろしている。そう、馬は必要ないだろう。見通しの良い斜面を登って来る兵士を狙えばよいだけのことだから。

 それは、リリックが集めた私兵集団とリアがゼムビストから借り受けた兵士の混合軍だった。山の北側で待機し、山にいたヘパーリン軍が出払ったのを確認したのち、リリック兵の案内によって迅速に配備された。移動は馬で、持ち場についた者から馬を木に括り付け、いつでも弓を引ける体勢をとる。


 山の中央から一人の兵士が出て来た。少年と言ってよい程小柄で騎乗している。皮の兜を被っている為表情は見えないが、眩むような金髪が目を惹いた。一斉に攻撃が止んだことから、何か伝えたいことがあるのだろう。


 「バイオルン、いるか?」


 よく通る澄んだ声が尋ねた。

 バイオルンは、持っていた弓を高く掲げた。


 「そこか。バイオルン、お前達は囲まれている。もう勝ち目はない。投降しろ。」


 バイオルンは弓を投げ捨てた。

 もうこれ以上戦っても犠牲者を出すだけだ。騙されたような気もするが、大国を相手にこちらの研究不足も否めない。潮時だ。


 「よろしい。潔さに敬意を表する。ふーん……お前の死は決定的だが、名誉は与えてやる。お前の死は、戦死ではなくて決闘だ。私はセイントレア国近衛隊長のリア。ここに、セイントレア軍二軍の大将ゼムビストと、キューダン軍司令のナッカルがいる。誰とやりたい?」


 「私が勝ったら?」


 「そうだな。今残った者を無傷でスタルナ基地に帰してやるっていうのは?それからまだ戦いを続けるのか投降するのか考えればいい。どうだ?」


 「いいだろう。お前の顔を見せろ。」


 リアは皮の兜を地面に放った。その途端どよめきが起こった。その顔はあまりにも美しく、まるで戦いの女神のように見えたからだ。


 「王女だな……。」


 「よく知ってるな。近衛隊長だけど王女でもある。」


 「貴様とだ。」


 「了解。」


 リアは山の斜面を掛け下った。


 「武器は何がいい?」


 「剣だ。」


 「分かった。騎乗してていい?」


 「ああ。」


 「うちは百歩ルールだけどそっちは?」


 「同じだ。」


 「これだけ証人がいるから介添え人とか付けないけど、それでいい?」


 「構わん。王女。」


 「何?」


 「決闘の機会をありがとうよ。その美しさを失うのは心から惜しいと思うが。」


 「どういたしまして。お前も負け戦に駆り出されて残念だったな。言うことはそれだけ?」


 「ああ。」


 「ん。じゃ、お前合図して。」


 リアは近くにいたヘパーリン兵士を指名した。


 「私が!?」


 「そう、公平でいいだろう?」


 若い兵士はよろよろと馬から降りた。彼が地面に立った瞬間、二人の決闘人は別方向に離れて行った。


 気が付けば、バイオルン将軍とリア王女はとっくに向き合って対峙している。その場にいる全ての人間が見守る中、彼は手を挙げた。


 その途端二人は、猛烈な勢いで駆け込んで来た。逃げ出したい気持ちを抑え、彼はその場に留まった。二人の人間が稲妻のような速さで交差する。何が何だか分からないうちに、投石器で投げられた岩が落ちて来た。

 

 身を伏せた彼の目の前に落ちて来たのは岩ではなく、バイオルン将軍の頭だった。








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