剣に魂の灯を灯すのだ!!
スタルナとネイジーの合同ヘパーリン軍は、山を掛け下って行ったゼムビスト軍の跡を追った。鉈や斧などを投げ捨てて逃げた彼等は、前方でやっと馬に飛び乗ったところだった。ヘパーリン軍は快走しながら次々と矢を放つ。時折虚しい反撃のように矢が飛んで来るが、その数は圧倒的に少ない。近付くにつれて、痴話喧嘩のような諍いの声が聞こえてきた。
「誰だ!ヘパーリンは剣に慣れてないから、剣の方が有利だと言ったのは!!」
……あれは……セイントレア軍二軍の大将、ゼムビストではなかろうか……?
ヘパーリン軍大将のバイオルンは、目を凝らした。
……すらりとした体躯、真直ぐな黒髪、直情的な性質、間違いない……。
「何故弓矢を携えておかなかったんだ!」
「いえ、我々はそう申しましたよ!剣よりも弓矢の方が慣れているって!ですが中央軍が……!」
「俺等のせいにするって言うのか!!」
「違います!我々の進言を全く聞いてくれなかったと言っているのです!!おお、危ない!」
ゼムビストの傍らにいる兵士は、危なくもない矢をよけた。
バイオルンはほくそ笑んだ。
……あんな安全な場所にいて当たる訳がないだろう。この国のトップは心底腐っているな。大国だと崇められてきたが、安泰の上に胡坐をかき過ぎたか。それにしても一国の大将があんなのだとは、全くもって残念だ。
セイントレア軍の兵士達は、まるで不幸があったかのように静まり返っている。おかげで、ゼムビストとキューダン軍の幹部であろう者の会話は丸聞こえだった。
「……よかろう。我々に弓矢はないが、勇気はある。剣に魂の灯を灯すのだ!!」
ゼムビストはすらりと剣を抜いた。
「勇気をもって前へ進め!降り掛かる矢を払いのけ、接近戦に持ち込むのだ!!」
「ゼムビスト様、無謀です!!」
「何を言う!!お前のその弱気が運気を逃すのだ!勝利の女神は我らに微笑んでいる!!前進――――!!」
ゼムビストは芝居がかった動作で剣を天に向け、前方を指し示した。
ゼムビスト軍は一斉に前進する。その途端、矢が雨霰のように降り注いだ。
「退け、退けーい!!」
ゼムビストは瞬時に命令を撤回した。
「いや、攻撃だ!気持ちで勝て!!」
兵士達は困惑した様子で立ち尽くした。
「ゼムビスト様、ここは絶対に退却です!!気持ちで勝っても全滅したらどうするのです!?退却以外にあり得ません!!」
「全滅?何を言うておる?女神の加護のある我々に最も無縁な言葉だ。」
「そうです、そうです、その通りです!!お願いですから私の部下達をお助け下さい!それが出来るのはゼムビスト様、あなただけです!!」
「うーむ、致し方ない。お前がそこまで言うのなら取り敢えず退却だ。全員、退却――――!!」
ミゼッタ山の麓から幾らも離れていない場所にいるセイントレア兵士達は、一目散に逃げだした。
「追え――――!!」
バイオルンは追撃の号令を掛ける。
こんな連中落とすのは時間の問題だが、要塞に逃げ込まれたら少々面倒になる。何としてでも逃げ込まれる前に決着をつけねば。
バイオルンは続けざまに矢を放ちながら、セイントレア軍の跡を追った。




