なんなんだ、こいつらは?
ミゼッタ山の麓を、ゼムビスト軍が取り巻いている。その数およそ六千。
ミゼッタ山に待機しているヘパーリン兵が二万近くいてもおかしくない状況だが、敵は山中に潜んでいるものだからその概要すら分からない。甚だ危うい状況の中、中央後方に位置するゼムビスト大将から号令が掛かり、ゼムビスト軍からは鬨の声が上がった。
「前進――!!」
ゼムビストの掛声と共に最前線にいる兵士達は、斧、鉈、鋸を振るい出した。大きな盾でしっかりと身を守り、そこいら中の木々を切り取っていく。
「な、なんなんだ、こいつらは?」
ヘパーリンの兵士ヤップは、隣にいる先輩兵士、レイドに尋ねた。
「さ、さあ。道を確保したいということなのかな。おい、どんどん前進してくるぞ!ヤップ、弓を番え!油断するな!」
ヤップが弓を番えた瞬間、弾かれたように彼は地面に倒れていた。
「ヤップ、どうした!?しっかりしろ!!」
レイドはヤップに駆け寄った。
「右足を……やられたような感じです。」
確かにヤップの右ももには矢が刺さり、大量の血が流れ出ていた。
「馬は……いますか?」
レイドは辺りを見渡したが、ヤップが乗っていた馬は逃げ出したようだ。
「いや。」
「そうですか。残念ですが、僕は軍に帰ります。レイド先輩は先を……!」
「しかし、その足では!」
「大丈夫です。僕は何とかなりますので先輩は戦ってください!」
「…………分かった。矢は抜かないからな、もっと酷くなる。」
ヤップは一つ頷き、這うようにミゼッタ山を登り始めた。ヤップを見送った後、レイドは馬を走らせながら弓を構えた。
……厄介だな……。
レイドは舌打ちした。
山の木々が邪魔をして命中率が悪い。おまけに、彼等は木々を切り倒すことに専念していて、鎧でしっかりと身を守っている。騎乗していれば馬を狙うことも出来るのだがそれも儘ならない。速度は遅いが、彼等は確実に山を切り開いていた。
レイドは先程までしていた、ヤップとの会話を逡巡した。
★★★
「レイド先輩、勝てますよね!?」
ヤップは期待と不安が入り混じったような目で、レイドに尋ねた。
「当り前だ!!と言いたいところだが……。」
「だが?」
「実は……よく分からない。」
「そうですよね……。」
ヤップは沈痛な面持ちで目を伏せた。
「境界三領主の協力が得られないと聞きました。」
「ああ。スタルナ、アッカルード、マーニエッダの三領主。うちの隊長は三領主の意義を熱く説いたと聞くが、ネイジー軍には余り響かなかったらしい。」
「そうですか……。今、戦いを起こす必要があるのでしょうか?」
「うーむ……。あ!お前はアッカルード出身か!」
「はい。今まで何事もなかったのに、急な戦いなので皆びっくりしてて。」
「と言うことは、現地からの斡旋は全くないのだな?」
「だと思いますよ。やっと出番かって思いもありますけど、何だか腑に落ちない気持ちです。」
「うん……。腑に落ちても落ちなくても、俺等が知るところではないのだろう。全力を尽くせ。」
「はい。」
★★★
「退けい、退けーい!!」
セイントレア軍の後方から、声が掛かった。途端に、山を切り開いていた兵士達は掛け下って行った。
……?我が軍は、善戦しているのか?
レイドが辺りを見渡しても、スタルナ軍が攻め込んでいるような印象がない。いや、木々が邪魔をして、軍の全容すら分からなかった。
……どこかで攻戦している場所があるのだろう。いずれにせよ、今行くべきだ。敵が折角下がってくれたのだから。
レイドは、斧などをその場に投げ捨てて逃走した、セイントレア軍の跡を追った。




