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亡霊に取り憑かれた王女  作者: 曉月 栞


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22/85

なんなんだ、こいつらは?

 ミゼッタ山の麓を、ゼムビスト軍が取り巻いている。その数およそ六千。

 ミゼッタ山に待機しているヘパーリン兵が二万近くいてもおかしくない状況だが、敵は山中に潜んでいるものだからその概要すら分からない。甚だ危うい状況の中、中央後方に位置するゼムビスト大将から号令が掛かり、ゼムビスト軍からは鬨の声が上がった。


 「前進――!!」


 ゼムビストの掛声と共に最前線にいる兵士達は、斧、鉈、鋸を振るい出した。大きな盾でしっかりと身を守り、そこいら中の木々を切り取っていく。


 「な、なんなんだ、こいつらは?」


 ヘパーリンの兵士ヤップは、隣にいる先輩兵士、レイドに尋ねた。


 「さ、さあ。道を確保したいということなのかな。おい、どんどん前進してくるぞ!ヤップ、弓を番え!油断するな!」


 ヤップが弓を番えた瞬間、弾かれたように彼は地面に倒れていた。


 「ヤップ、どうした!?しっかりしろ!!」


 レイドはヤップに駆け寄った。


 「右足を……やられたような感じです。」


 確かにヤップの右ももには矢が刺さり、大量の血が流れ出ていた。


 「馬は……いますか?」


 レイドは辺りを見渡したが、ヤップが乗っていた馬は逃げ出したようだ。


 「いや。」


 「そうですか。残念ですが、僕は軍に帰ります。レイド先輩は先を……!」


 「しかし、その足では!」


 「大丈夫です。僕は何とかなりますので先輩は戦ってください!」


 「…………分かった。矢は抜かないからな、もっと酷くなる。」


 ヤップは一つ頷き、這うようにミゼッタ山を登り始めた。ヤップを見送った後、レイドは馬を走らせながら弓を構えた。


 ……厄介だな……。


 レイドは舌打ちした。


 山の木々が邪魔をして命中率が悪い。おまけに、彼等は木々を切り倒すことに専念していて、鎧でしっかりと身を守っている。騎乗していれば馬を狙うことも出来るのだがそれも儘ならない。速度は遅いが、彼等は確実に山を切り開いていた。

 レイドは先程までしていた、ヤップとの会話を逡巡した。



     ★★★



 「レイド先輩、勝てますよね!?」


 ヤップは期待と不安が入り混じったような目で、レイドに尋ねた。


 「当り前だ!!と言いたいところだが……。」


 「だが?」


 「実は……よく分からない。」


 「そうですよね……。」


 ヤップは沈痛な面持ちで目を伏せた。


 「境界三領主の協力が得られないと聞きました。」


 「ああ。スタルナ、アッカルード、マーニエッダの三領主。うちの隊長は三領主の意義を熱く説いたと聞くが、ネイジー軍には余り響かなかったらしい。」


 「そうですか……。今、戦いを起こす必要があるのでしょうか?」


 「うーむ……。あ!お前はアッカルード出身か!」


 「はい。今まで何事もなかったのに、急な戦いなので皆びっくりしてて。」


 「と言うことは、現地からの斡旋は全くないのだな?」


 「だと思いますよ。やっと出番かって思いもありますけど、何だか腑に落ちない気持ちです。」


 「うん……。腑に落ちても落ちなくても、俺等が知るところではないのだろう。全力を尽くせ。」


 「はい。」




     ★★★




 「退けい、退けーい!!」


 セイントレア軍の後方から、声が掛かった。途端に、山を切り開いていた兵士達は掛け下って行った。



 ……?我が軍は、善戦しているのか?



 レイドが辺りを見渡しても、スタルナ軍が攻め込んでいるような印象がない。いや、木々が邪魔をして、軍の全容すら分からなかった。


 ……どこかで攻戦している場所があるのだろう。いずれにせよ、今行くべきだ。敵が折角下がってくれたのだから。


 レイドは、斧などをその場に投げ捨てて逃走した、セイントレア軍の跡を追った。







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