頭の中で声がする
……ここは……うち?
リアは、ぼんやりと目を開けた。
見慣れた自室の、高い天井が目に入る。
……あれ?何か変だ。……そう、私は出かけていたんだ、国境まで。……と、いう夢を見ていたのか?……いや、違う、ペイジまで視察に行っていた筈だ。
リアは天井を凝視しながら、自身の記憶を辿った。
……せめて、分隊を連れて行けと言われていたのだが、振り切って単独で出向いたんだ。ペイジでケールと合流して、彼に案内を頼んで……。そうだ!橋を渡っていたんだ、ランウェル橋を。それから……?
……「ランウェル橋だって!?」
……な、なんだ!?
……「なんだ、なんだ!?ここはどこだ!?」
…………まずいかも……頭の中で声がする。どこか打ったか?確かに後頭部がズキズキする……。
……「おい!答えろ!ここはどこなんだ!?」
「誰か……いるのか?」
リアがそう口に出した途端、侍女がベッドに駆け寄って来た。
★★★
「リア様!!お目覚めになられましたか!!」
「……クララか。私は……どうしたんだ?」
「落馬されたのですよ。それから三日も眠ってらしたのです。」
「落馬!?私が!?」
「左様でございます。リア様!起き上がってはなりません!今、侍医を呼んで参りますからね!」
クララが去ると共に、侍女がわっと押し寄せて来た。
リアは脈を取られ、薬湯を飲まされ、侍女の手で着替えさせられ、祈祷師に祈られ、今再びベッドに横たわっている。
「うーん、疲れた。」
「そうでございましょうね。しかし、大事なお身体ですから。」
「ったく、これだからちょっとの不調でも、おいそれと口に出せないんだよな。余計に疲れる。」
「わたくしには、言って下さいね。」
「うん。……父上は、何か言ってた?」
「はい。お父上はこちらへお見舞いしたいと切望されていたようですが、侍医に止められたそうです。」
「それは良かった。ここに立ち入る人間の数がずっと増える。明日にでもお伺いするよ。」
「完全にお元気になってからですよ。」
「分かってるって。ところで……私は何だったんだ?」
「と、申しますと?」
「ばたばたしているだけで、結局私がどうしたのかよく分からない。何だったんだ?」
「ああ。過労……だ、そうですよ。」
「過労っ!?……私が!?」
「ねえ……。」
「何だかそれが一番信じられないな。」
「本当ですわよね。これ以上ない程お元気なお方が。」
「…………。ケールはどうした?」
「ケール様が早駆けでいらして下さったのですよ。飲まず食わずの体で、衣服もどろどろで、私達は皆、戦場で亡くなった兵士の亡霊でも現れたのかと思いましたよ。」
「あいつ、自分の部隊を離れて……!」
「そんなことを言ってはなりません!ケール様の迅速なご判断で、リア様を最短でお連れすることが出来たのです。」
「ケールは今?」
「ペイジにお戻りになられました。」
「そうか……。」
「さ、長くお話になられてはなりません。お休みになって下さい。」
「うん……。お前、ここにいるの?」
「そうしたいのは山々なのですが、リア様、私がいると落ち着かないのでしょう?」
「悪いね。長く兵士の訓練も受けていたから、ちょっとの物音でも目が覚めてしまうんだ。大勢でがやがや寝るのは大丈夫なのにな。」
「何かありましたら、呼び鈴で呼んで下さいまし。」
「ありがとう、クララ。」
「おやすみなさいませ、リア様。」
クララは燭台の炎を消して、静かにドアを閉めた。
真暗な部屋の中、リアは見えない天井を見つめて大きく溜息を付いた。
★★★
……ちょっとの物音で目覚めてしまう私が?ペイジからここに来るまで?全く意識が無かったなんて。
……過労!?そんな訳ない。今だって剣術でも早駆けでも、何でも出来そうだ。まさか、大きな病でも持っているんじゃないだろうな……。
……あの時だって、そんな前兆は全くなかった。すこぶる元気で……寧ろ、穏やかな風が心地よくて……で?
……「で?」
……で?
……「で?ここはどこなんだ?」
……やばい……。頭の中で声がする……。本当に大病かもしれない。




